とある科学の無尽火炎《フレイム・ジン》 作:冬霞@ハーメルン
「
「なンだよ」
「僕はキミに一つ、言いたいことがあるってことです」
宇宙空間に打ち上げられた衛星に搭載されたスパコン、『
そんな学園都市で、わざわざ雨の日を選んで出歩く奴は居ない。故に今日もたくさんの人で賑わう第七学区の大通りは、相変わらず暴力的な日差しが降り注ぐ快晴であった。
「キミに呼び出されるのは別に構わないってことです。もう慣れてるし、僕としてもキミと遊ぶのは楽しいと思ってる。
けどね‥‥」
「おゥ」
「―――研究室で実験協力している最中に、無理矢理呼び出すのはどうかと思うってことです。このままじゃ間に合わないって、研究員の人たち泣いてたんだぞ?」
「知るか」
日々技術が進化し続ける学園都市。
最も一日、または短期間での進歩や成長がめざましい少年少女達が住む巨大都市とはいえ、季節の変化を除いては毎日の景色がそう変わることはない。
それは例のごとく二人そろうと尋常じゃなく目立つ学園都市序列第一位と第六位にしても同じだった。
ブラブラと歩く白髪の少年は毎度のごとく気怠げだが、今日は紫外線や日差し、熱を反射しているので体調が悪いわけではなかった。
ただ光は反射し切れてないのか、まぶしそうに目を細めている。
「いいだろォが、あンなくっだらねェ実験。実験のシュミレーション段階で検証が足りねェから、まだまだテメェが出て協力するレベルじゃ無ェよ」
「‥‥そこまで分かってるんなら、言ってあげればいいってことです」
「面倒臭ェ。つゥか俺のこのスパコン並の超絶頭脳を貸してやるレベルの実験じゃ無ェよ、連中は」
もう1人の青年も、同じくいつも通りだ。
初夏とはいえこの気温。だというのに長い白衣を着込み、汗の一つもかいていない。
ただし昨夜が遅かったからか、心なしかユラリユラリと左右に揺れている気がする。あと若干フワフワ歩いている。非常に分かり易い、寝不足の症状だった。
「随分と自信満々だね。まぁ納得出来てしまうのがキミがキミたる所以なのかもしれないってことです」
「
「確かに。僕自身の演算能力なんてキミの足下にも及ばないだろうね。まぁ僕の本質はそういうところじゃないってことです」
「ありゃ演算してるワケじゃ無ぇのか」
「
時間は午後。ちょうど今日はどの学校の授業が早めに終わっているらしく、まだ早い時間なのに大通りには学生の姿も多い。
もちろん二人に関して言うと、どちらも学校なんてものには通っていないから放課後も授業中も関係ない。好きな時間に起きて、好きな時間に歩き回るだけだ。
たまに学生がいてはいけない時間帯に出歩いてしまったりして警備ロボット、通称ドラム缶から注意を受けることもあるが、大概は片手間に
基本的に
特に二人は、
「―――で、キミにとってはどうでもよくても、実験の途中で呼び出されたんだ。まさか何も考えてないってことは、ないはずだよな?」
「‥‥おゥ」
「ないはずだよな?」
「お、おゥ。そりゃ、そォだ。‥‥まァなンだ、とりあえずメシでも食うか」
「‥‥やれやれ、振り回されるのには慣れてるってことです」
目指す場所は、いつものファミリーレストランだ。
最近どうやら一見して普通じゃない客の来店が―――二人除く―――増えてきたおかげで店員も肝が据わったらしく、以前一回強盗事件に遭った時も全く慌てず冷静に対処出来たらしいと噂であった。
おかげで繁盛しているらしいが、逆に濃いメンツばかりが集まっていると密かに店長が冷や汗を流しているのは客には決して見せない裏事情である。
「いらっしゃいませ、こんにちわ。いつもの席が空いていますが、そちらでよろしいですか?」
「おゥ」
「‥‥随分と慣れたのは僕だけじゃないみたいってことです」
よく見る店員に案内されて、これまたよく座る席へと移動する。
実はあからさまに怪しい二人組がよくこの席に座っていることを常連の客なら大体が知っていて、意識して座らないようにしているのだが、そんなことは誰も知らない。
この時間帯にファミレスなどに来る奴は大概がお喋りに夢中で、長居する。だというのにその席はしっかりと空席であった。
「さァて、何か面白メニューは無ェかなァっと」
「‥‥あぁ、コイツはいつも通り放っておいてもいいってことです。僕はコーラを」
「はい、かしこまりました」
真っ先にメニューの端から端まで食い入るように眺め始めた白髪の少年を完全に
しっかりと食事をとる
たまに新人の店員がしどろもどろに応答してしまうことはあっても、やはり常連としてはこの店の居心地が良いことには変わりなかった。
「杏仁麻婆で懲りなかったのかってことです」
「そンなことで挫けてたら、第一位の名が泣くってもンだろ。おォい店員さン、あんこ入りパスタライス下さァい」
「かしこまりました。こちらはご注文のコーラでございます」
「ありがとうってことです」
もはや
昨日は確かに存在していた杏仁麻婆はメニューから消去されていた。あれの危険性をチェーン店全てに知らしめるには、一日だけで十分だったようである。
ちなみにメニューはタッチパネル方式の近未来型。リアルタイムで料金や商品が表示される上に、会員などは自動的に価格が修正されるので、セールだの何だのと悩む必要が無い優れものだ。
もっとも様々な実験の恩恵で文字通り、腐るほどの金が通帳に残ってしまっている
むしろ白髪の少年にとってしてみれば、面白メニューを口頭で照会してくれる馴染みの店員の方が何割かありがたかったりするのが寂しいところだ。
最後に頼りになるのはやはり人と人との関わりだというのは、真理の一つなのだろう。
「お待たせいたしました、こちら『あんこ入りパスタライス』でございます。ミルクの方はサービスですので、ごゆっくりおくつろぎ下さいませ」
「来た来た来た来たァ、今日も期待してるぜェ!」
「‥‥これまた随分なゲテモノってことです。ていうかそろそろデザートとメインディッシュの組み合わせは止めて欲しいってことです」
にこやかに笑う店員が持ってきたのは、大皿に盛られたパスタ。
かなり分量がある。例の如く小皿が二つ付いているのは、もはや形式美となった同席者への配慮以外にも本来は二人分という理由があるのかもしれない。
‥‥いや、むしろ量としては十分に一人分であったとしても、このキワモノを一人で全て食べようとする客がいないからだろうか。
「‥‥あんこは冷てェのか。冷てェもンと熱いもンの組み合わせって、どォしてドイツもコイツも好きなンだろォな?」
「あぁ、気になるのはそこなんだ」
「ンだよ、なンか言いたいことでもあンのか?」
「いや別に。ただ、味には言及しないんだなって呆れちゃったってことです」
期待の通り、あるいは危惧した通り、次のメニューもこれまた見た目に厳しい料理だった。
『あんこ入りパスタライス』。これほど分かり易いメニューも無いだろう。とにかく見てそのまま、という代物なのだ。
おそらくは抹茶が練り込んであるのだろうパスタは平べったい麺を使っていて、熱々。その上に白いクリームがかけられていて、白いゲレンデには真っ黒なあんこが敷かれている。
だが危ぶむ無かれ、パスタの下にはまだボスが潜んでいる。何故かピンク色に着色された得体の知れない、米。それは単体で十分に異色を放つ存在だろうに、さらにおかしなことになっているのだ。
ああ、なんということだろうか。それ自体は冷たいはずなのに、ほかほかと湯気を上げる生クリームとあんこ。この表現は何度となく使ったが、悪夢以外の何モノでもない。
「それじゃ、いただきまァす!」
「ドキドキ‥‥」
ぱくん、もぐ、もぐもぐもぐ。
あんこと生クリームを抹茶パスタに絡めて一口食べた
呆れながらも、最近は若干この挑戦と友人の反応を見るのが楽しみになりつつあるカガリであった。
「‥‥‥‥」
「どうだい?」
「‥‥普通に美味ェ。なンか表紙抜けだな」
「―――はぁ、なんだ良かったじゃないか。クソ不味いのに当たるよりはマシってことです」
普段と違い、ぽかんと目を見開いてパスタを飲み込む友人に、こちらもきょとんとしたカガリは当然の反応を返してみせる。
どうやら今回は麺の方が小細工をしていたらしく、普段の『メインディッシュ+デザート』というイカレた組み合わせではなかったようだ。
米も決してゲテモノではなく、しっかりと味を計算していちごを使って炊いた餅米は、普通の米よりもこのメニューのバランスを安定させる。
どうやら見たところ麺の味が、上に乗っかっているクリームやらあんこやらと調和しているらしい。それならば確かに、まぁ、今までの料理に比べればマシだろう。
「‥‥つまンねェ」
「はぁ?」
「こんなフツーの味を求めてたわけじゃ無ェンだ、俺は。そンなモンじゃ俺の好奇心は満たされ無ェンだよ」
「散々痛い目に遭ったのに、まだ懲りないのかってことです」
「痛い目に遭うのも、俺の好奇心を刺激すンだ。満たしてるっつっても過言じゃ無ェ」
「‥‥‥‥はぁ」
とは言っても味は気に入ったらしい。ぶつくさ言いながらも白髪の少年は黙々とパスタを口へ運んでいく。
「―――お客様」
「ん‥‥?」
黙々とパスタを処理していく
ぐるんと、微妙に人間離れした柔軟加減で首を曲げた彼の目に飛び込んだのは、これまた見慣れない店員の姿。短めに髪の毛を整えた若い女性で、若干不気味なカガリを丸くした目で驚いた、というか怯えたように見つめている。
「も、申し訳ございませんお客様! 店内が少々混み合って参りまして、もしよろしければ、相席をお願いしてもよろしいですか‥‥?」
びくり、と哀れなぐらい震えた店員が涙声にも近い声が漏れる。
それを聞いた周りの席の客―――大概が常連であった―――から信じられない物を見るような目が集まった。
この迷惑こそかけないが扱いづらい常連は触れずにそっとしておくのが最良というのが店側と客側、共通しての認識である。
‥‥どうやらこの若い店員、新人のようである。もしかしたら大学生のバイトなのかもしれないが、どちらにしても触れてはいけないものに自ら触れに行くあたり、ただ者ではない。
もっとも、すでに後悔し始めているようなのではあるが。
「‥‥相席ィ?」
「は、はい! 出来ましたらでよろしいんですが、はい、本当に、出来ましたらで‥‥!」
「おィ、相席だってよ。どォすンよ?」
もはやがくがくと震えつつある店員としては、おそらく無駄に威圧感のある
いくら相手が怒っていない、というか期限を悪くしていない段階にいるとはいえ、正直な話をすれば正体までは知らないだろうとはいえ、この
「‥‥僕としては新鮮で、それもまた良いんじゃないかと思うってことです。キミはどうだい?」
「俺もまァ、たまには悪くねェな。‥‥いいぜ、連れて来いよ、その不幸な奴をよォ」
「は、はい! かしこまりましたぁ!」
ギラリと目を光らせた
何とか外見が中学生程度の体躯と身長だからマシだが、顔だけ見ると犯罪者を通り越してテロリストである。某巨大大国コメリカ当たりから悪の枢軸扱いされても否定出来ない。
「‥‥まァ子どもに泣かれンのも慣れた」
「子どもがいるところ出歩いたが最後、何もしてないのに
「あいつら、1人見かけたら10人はいやがるからなァ」
ざわりざわりと密かに浮ついていた店内が、今度は怯えるかのように静かになり始める。
新入り店員の目論見は見事に失敗し、もはや半泣きに近い有様で彼女は『相席でも良いから。風情あるし』と綺麗な笑顔で言ってのけた迷惑な客を迎えに行った。
店内の客、全てが彼女に向ける視線はこれ以上ない同情を含んでいるが、同時に他人は他人だ。
出来ることなら一生でも、あんな立場に立たされたくない。皆が皆、そう思っていることだけは間違いないのだろう。
「お客様、こちらでございます。ご迷惑をおかけしておりますが、どうぞごゆっくり‥‥」
「あぁ、ありがとう。ほら黒子アンタも礼言いなさい―――つぅか、ひっついてないで座れっつぅのっ!」
「あぁぁお姉様の愛が痺れるぅぁぅぁぅぁあぅあぁぁあ?!!」
もはや死んだ目をしていた店員が連れてきたのは、連れだった二人の女学生。
着込んでいるのは清楚なブラウスと上品なサマーセーター。そしてやけに丈の短いスカート。
密かに学園都市の男子学生の間でも人気の名門女子中学校の制服。厳しい学則故にほぼ百パーセント外部に出回ることがないというそれは、そもそも外を出歩く学生すら少ないことから神秘的な雰囲気すら纏っている。
「ごめんなさいね、ご歓談中に邪魔しちゃって」
「待ち人が来たらすぐに退出させて頂きますの。少しの間だけ、失礼いたしますわ」
1人は茶色の真っ直ぐな髪の毛を、肩にかかるぐらいの短さに切りそろえた少女。活発で勝ち気そうながらも、誰はばかることなく美少女と称するだろう中学生ぐらいの少女。
いや、来ている制服が中学生のものなのだから当然に中学生なのだが、おそらく連れよりは先輩なのだろう。
あくまで自然体ながらも、何より印象的なのは瞳。自分自身の道をしっかり真っ直ぐ歩いているのだと伺わせる真っ直ぐな光を宿らせている。
きっと今まで一度たりとも、自分が歩いてきた道を、これから自分が歩いていく道を疑ったことなどないのだろう。そう思わせる強い力を秘めた瞳であった。
もう片方の少女は、おそらくは後輩。
ツインテール……が、枝分かれしてDNAの螺旋構造のようになった特徴的な髪型をしている。
こちらも美少女。しかし色香……とはまた違う、具体的なんだか抽象的なんだか分からないが、だいたい斜め四十七°ぐらい違う雰囲気を辺りにまき散らしており、実に不可思議というか、違和感を感じる。
まぁ見たところ間違いなく年下の少女であることには違いない。
これが三十°や四十五°や六十°などでない辺りが、微妙な理由を端的に表しているだろう。とにかく絶妙な違和感があるのだ。
もっとも袖に付けている緑色の腕章は
「テメェは―――ッ?!」
「……はい?」
その片方、髪の毛が短い方の少女を見た
信じられないものでも見たかのような、驚愕に満ちた瞳。いや、驚愕とも違う、まるで宿敵と正対したかのような、神経の張り詰めた目であった。
決してそこに怯えはない。学園都市最強の超能力者、
だからあるのは、怯えや同様ではなく、緊張。
それも閃光のように、電撃のように疾るわけではなく、彼らしく静かに、氷のように、冷たくピリピリと敵意が走る。
小柄で華奢な少年ながらも、
尋常じゃないレベルで目つきの悪い、犯罪者どころかテロリスト一歩手前の白髪の少年に睨まれた短髪の少女は、びくりと震えて一歩後ずさった。
「……へぇ、こんな巡り合わせもあるのかってことです」
「―――あら、貴方はもしや……?!」
「うん?」
ツインテールの
他人事のように
学園都市序列第一位『
学園都市序列第三位『
学園都市序列第六位『
学園都市に五十八人しかいない『
それこそ濃いも薄いも様々なキャラクターを持った学生達が集まる学園都市の中でも、特に濃い主人公達。
本来ならこうして出会うはずのなかった彼ら、彼女らがどうしてここで集まったのか。
そしてその出会いが、どのようにこれからの物語に関わっていくことになるのか。
当然ながら当事者であるところの彼らにそんなことは分からず、また同じように、未来もさっぱり分からない。
何せ未来なんてものは、能力開発よりもチンプンカンプンなのだ。
いったい誰の言葉だったか、しかしそれは、真実でもあった。