とある科学の無尽火炎《フレイム・ジン》   作:冬霞@ハーメルン

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第6話 『能力者、四人、レストラン』

 

 

 常盤台中学。

 

 学園都市には大小様々な学校が存在する。

 それは幼稚園や小学校は当然として、中学校や高校大学、のみならず専門学校や通常の学校という定義に当てはまらないような多種多様な学問を学ぶ施設をも内包していることを指す。

 何よりカリキュラム自体が特殊で、国の中にあるはずなのに文部科学省の定めた大学設置基準や義務教育で教える科目などすら軽く無視して遙かに高度な勉強をさせる学園都市。簡単に括れるわけがない。

 学生は自分の資質や望む将来に併せて、それこそ無数に存在するカリキュラムや進学先などから好きなものを選んで成長していくことが出来る。

 もちろん自分のレベルが釣り合えばの話ではあるが、こと学問をするということを念頭に置く限り、学園都市は最高の場所であることは間違いない。

 

 だが、やはり当然のように外の世界と同じような常識、体制だって存在する。

 ましてや学園都市で習得する技術の代表的なものといえば、世界でもここでしか実用レベルの研究に成功していない超能力(ESP)。そして能力には当然のように、序列があるのだ。

 明確にランク付けがされた序列が明らかになる学園都市では、当然のように厳しく序列によって様々なことが区別されていた。

 

 それが最も顕著に出るのは奨学金だろう。

 強度(レベル)や研究などに対する貢献度、あるいは成績などによって、額絵性に支給される奨学金は激しい差が生じる。

 例えば大能力者(レベル4)などは学生の身分では考えられないぐらい多額の支給を受けるが、逆に無能力者(レベル0)は最低限に色をつけた程度の額だ。

 もちろん生活必需品の類が相当に安価な学園都市では無能力者(レベル0)でもある程度の常識的な節制さえ心がければ十分に有意義な生活が出来る。

 とはいえやはり奨学金の差はダイレクトに生徒間の格差に影響され、向上心にも影響すれば、逆に嫉妬や劣等感を刺激することにも通じるのだ。

 

 だが他にも、違いはある。

 例えば学力によって入れる学校が違うように、能力の強度(レベル)によって入学できる学生を制限する学校だって、あった。

 その顕著なものが、常盤台女学園。

 学園都市が誇る様々な学校の中でも上位に位置する、正真正銘のお嬢様中学校。その学生はすべからく最低でも強能力者(レベル3)というエリート揃いであり、幻覚な教育と最高レベルの能力開発が受けられる。

 学園都市全体で行われる超大規模な運動会である大覇星祭では長点上機学園に後れを取ってはいるが、それでもエリートの集まりにして、最強のお嬢様学校の称号は変わらない。

 

 

「‥‥えーと、私の顔に何か付いてるのかしら?」

 

「‥‥‥‥」

 

「しょ、初対面でいきなり他人様の顔を睨み付けるのは、よくないと思うんだけど。いや、そりゃ楽しくお喋りしてるところを邪魔しちゃって悪かったとは思うけど‥‥」

 

「‥‥‥別にィ」

 

「ッ、何が言いたいのよ‥‥!」

 

 

 じっと睨みつけたままの目の前の白髪の少年に、常盤台中学の制服を着込んだ短髪の少女は、ぴくりと口の端と眉を歪め、語気を荒げた。

 確かに自分は、目の前の少年とは初対面。まさかここまで特徴的な少年を、忘れるなんてことはありえない。

 とはいえ白髪の少年は何故か自分に敵意を向けてくる。ここに、何も理由がないとも考えられない。極めて不可解、かつ同時に不愉快でもある。

 

 

一方通行(アクセラレータ)

 

「煩ェな、分かってンだよ、そンなことぐらいは。‥‥はいはい悪ゥございましたね、早く座れよそこのツインテ三下もよォ」

 

「三‥‥下‥‥?!」

 

 

 ピキリ、と今度は同じく常盤台の制服を着込んだツインテールの少女が顔をひくつかせる。

 三下‥‥とは随分な言い方ではないだろうか。自分たちは曲がりなりにも素性はさておき見るからに常盤台の学生であり、最低でも強能力者(レベル3)。間違いもしないエリートであるのだから。

 もちろん彼女も三下扱いされたことなど、生まれてこのかた一度たりともありはしない。

 いわば青天の霹靂とも言えるわけであるが、どういう言い方をしても失礼であることには違いが無いだろう。

 

 

「‥‥想像していたのとは随分と違いますのね。しかし確かに私たちはお茶をしに来たのでしたわ。遠慮無く、お邪魔させて頂きましょう、お姉様」

 

「ビリビリビリ‥‥ハッ、ありがとう黒子(ほくろ)、もう少しでコイツに十万ボルトお見舞いしちゃうところだったわ」

 

「名前が違いますのよ、お姉様っ?!」

 

 

 自らのチャームポイントであるツインテールを猫のしっぽのように逆立たせた年下の少女、白井黒子がわめき散らした。

 対してお姉様と呼ばれた方の少女は、大きく数回深呼吸をして漸く落ち着き。カガリの隣に座る。

 ちょうど一方通行(アクセラレータ)とカガリは隣り合わせに座っていたので、どうしても二人のどちらかと少女達がペアにならなければいけないのだ。

 

 

「あ、店員さん私にカフェオレを一つ」

 

「私にはホットティーをお願いいたしますの。お砂糖とミルクもお願いいたしますわ」

 

「か、かしこまりましたっ!」

 

 

 額の辺りからビリビリと、軽く強能力者(レベル3)を超える強度(レベル)の電撃を出し始めた“お姉様”にビビリながらも新人は注文を受ける。

 元々からこの席に着いていた、この店の地雷らしき常連客もそうだけど、新しく連れてきてしまった客もトンデモない連中だ。

 というか、どうして自分はこの濃すぎる組み合わせを相席にしてしまったんだろうか。尋常じゃないレベルで、悔やまれる。

 

 

「あ、それと俺にハラオウン抹茶一つ」

 

「‥‥は?」

 

「ハラオウン抹茶だよ、やってンだろ?」

 

「あ、はい、かしこまりました! すぐにお持ちいたしますぅぅぅぅ!!」

 

 

 ギロリと機嫌悪く睨まれ、可哀想に彼女は逃げるようにその場を立ち去った。

 下手すれば、今までの一連のやりとりで十分にトラウマに近いダメージを負ったことは間違いない。というか今夜の内に辞表を提出していてもおかしくないだろう。残念過ぎる。

 いや、もう残念というよりは不運を通り越して運命だったとしか言いようがない。運がなかったというよりは、そもそも運命という絶対の巡り合わせが悪かった。そう開き直ってくれるより他にない。

 

 

「‥‥ハラオウン抹茶って、何?」

 

「俺も知らねェよ。まァ飲んでみりゃ分かンだろ。丁度あんこで喉も渇いてたところだし、丁度良い」

 

「はぁ‥‥。なんていうか、独特の趣味持ってるわね、アンタ」

 

「煩ェな、人の趣味にグダグダ口出してンじゃねェ」

 

「別にそんなつもりは無いけど‥‥。ていうか口悪いわね、アンタ」

 

「煩ェな、他人の口にぐだぐだ文句言うンじゃねェ」

 

「それは理不尽だと思いますけれど?!」

 

「黙ってろ三下。早く座れ」

 

「三下ァ?!」

 

 

 再度三下呼ばわりされ、黒子は再度髪の毛を逆立たせて怒声を上げるが、当然のように一方通行(アクセラレータ)が気にすることはない。

 むしろテンプレ的なリアクションにさっきまでは何とか反応していた目から全く興味が消え失せ、追撃する気すら一緒に消え失せたようだ。

 

 

「‥‥キミは縄張り荒らされた犬かってことです」

 

「ンだよ、何か言いたいことでもあンのかよ」

 

「別に。けど、そこまで威嚇することもないと思うってことです」

 

 

 六人は何とか座れるだろうボックス席に、二人組が二組。しかも同じペア同士で対面しているのではなく、それぞれ斜めに分かれて座るというあまりにも空気の悪い状況。

 それというのも最初にかがりと一方通行(アクセラレータ)が対面で座っていたのが良くないのだが、この空気でわざわざ席替えを言い出す度胸があるかというと、それは強度(レベル)に関係なく誰もが同じ。

 もちろん傍若無人に見えて意外とチキンな一方通行(アクセラレータ)も、胃痛持ちでストレス性な黒子もそう。ついでに同じく超能力者(レベル5)だが常識的な感性を保持している短髪の少女も同じ。

 非常に気まずい空気の中、誰から口を開こうか、お互いに機を伺い合っていた。

 

 

「‥‥えーと、せっかくだし自己紹介ぐらいはしませんと、お姉様」

 

「ちょ、黒子アンタ‥‥!」

 

「え、えぇ、せっかく同じ席に居合わせたんですもの。これも何かの巡り合わせ、一時の間だけでも親睦を深めることにもちろんお姉様は異論ありませんわよね?」

 

 

 黒子(ほくろ)、裏切る。

 自分から敢えて口を開いたようにも見えるが、実のところ完全にキラーパスだ。一番やばい最初の自己紹介、および今の状況に対する責任を“お姉様”に擦り付けた。

 

 

「‥‥くっ、裏切ったわね黒子、あんなに一緒だったのに!」

 

「お、お姉様が私の想いに応えて下さった?!」

 

「んなわけないだろうがぁぁ! だから暑いのにひっつくなピカチュウゥ!」

 

「痺れるぅぅぁぁああ?!!」

 

 

 目を輝かせ、軽く飛びついた黒子にこれまた軽い電撃が襲う。

 他の客の迷惑にならないギリギリのラインの電撃と叫び声ではあるが、常連である二人が一緒だからか、まだ店員からの注意はない。

 どちらにしても公衆の面前で能力を頻発するのは非常によろしくないと言えるのであるが、まったくもって気にしてはいなかった。何せ、貞操の危機である。

 

 

「‥‥仕方がないわね。私の名前は御坂美琴。常盤台中学の二年生よ」

 

「私は白井黒子。お姉様の後輩で、風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部に所属しておりますの」

 

 

 渋々ながらもしっかりと自己紹介する二人に、特に美琴の自己紹介に、カガリと一方通行(アクセラレータ)は二人して互いに意味深な目配せを交わす。

 それを見た二人は怪訝な顔をするが、もちろん初対面の人間の目線の示す意味など、分かるはずもなかった。

 

 

「自己紹介してもらって黙ったままじゃ、ちょっと礼儀に外れるってことです。僕の名前は―――」

 

「存じておりますわ。‥‥学園都市序列第六位、『無尽火焔(フレイム・ジン)』こと、カガリさんですわね?」

 

「‥‥あれ、なんで僕のことを知ってるの?」

 

「初春から聞きましたの。ほら、先日貴方強盗を退治されたでしょう? その時に居合わせた風紀委員(ジャッジメント)ですわ」

 

 

 

 ‥‥確かに先日、路地裏で自分に絡んできた発電能力者(エレクトロハンド)を撃退した記憶がある。

 そういえばあの能力者の後をジャッジメントが追いかけてきて‥‥。うん、確かに、そいつが強盗で警備員(アンチスキル)との取り調べや事情聴取が云々という話もあった。

 結局あの時は一方通行(アクセラレータ)の機嫌が悪くなりそうだったし、事情聴取も面倒だったからその場の風紀委員(ジャッジメント)‥‥確か初春飾利サンにその場を託して逃げたんだったか。

 

 

「‥‥あのときの風紀委員(ジャッジメント)って、もしかしてキミの同僚だったりするのかい?」

 

「はい。あの後も初春は貴方にお礼を言えないものかと悩んでおりましたの。ですから書庫(バンク)で貴方のことを検索して‥‥」

 

「成る程ね、それで僕が超能力者(レベル5)だってことも知ってるってことか。納得いったってことです」

 

 

 風紀委員(ジャッジメント)の持っているセキュリティレベル、閲覧資格はランクC.

 図書館や公衆端末などのランクがDで、教師達がBであることを考えると、ある程度は十分に書庫(バンク)の検索が出来るのだろう。

 ‥‥もちろん超能力者(レベル5)のリストが見られる程だとは思えないのだが、そこは風紀委員(ジャッジメント)だ。何か特権とかの仕様があるのだろう。

  

 

「‥‥それじゃあコイツのことも?」

 

「えぇ、そのときに一緒に調べさせて頂きましたわ。‥‥学園都市序列第一位、『一方通行(アクセラレータ)』さん」

 

「へェ‥‥。まさか俺のデータまで調べられるなンて、そいつ随分な特技持ってンじゃねェか」

 

 

 ギロリ、と一方通行(アクセラレータ)の目が黒子を捉え、さしもの凄腕風紀委員(ジャッジメント)の黒子もビクリと震えた。

 もちろん仮に初春が違法行為を行っていることを一方通行(アクセラレータ)が知ったとしても、彼に初春をどうこうする権利も、する気もない。

 

 

「序列第一位に、第六位‥‥。アンタ達が?」

 

「間違いありませんわ、お姉様。一方通行(アクセラレータ)さんの方の真偽は証明出来ませんが、カガリさんの方は書庫(バンク)に顔写真がありましたの」

 

「‥‥へぇ、自分以外の超能力者(レベル5)か。随分と久しぶりに会ったわね。常盤台の心理操作(メンタルアウト)はいけ好かない女王様だったし」

 

 

 その情報が真実だと知って、美琴は不適にもニヤリと笑う。

 今まで自分が相手にしてきたのは武装無能力者集団(スキルアウト)の下っ端の下っ端や、そのあたりを転がっているエリート崩れの異能力者(レベル2)低能力者(レベル1)

 常盤台には大能力者(レベル4)なども結構な数、揃ってはいるが、誰も彼もおとなしくて力比べをするような性格ではない。

 

 

「そういうことなら改めて自己紹介させてもらうわね。

 私は常盤台中学の二年生、学園都市序列第三位『超電磁砲(レールガン)』の御坂美琴よ」

 

「‥‥『一方通行(アクセラレータ)』だ。ヨロシク」

 

「学園都市序列第六位、『無尽火焔(フレイム・ジン)』こと、カガリだ。こっちもよろしくってことです」

 

 

 テーブルを挟んで三人、奇妙な体勢ながら握手を交わす。

 考えるとこの場所には学園都市最強の七人の内、半分近くが集まっているということになる。

 超能力者(レベル5)が三人もいたら、国一つぐらいは簡単に滅ぼせる。1人で一国の軍隊を相手に出来る化け物が三人も揃っているのだ。学園最大戦力といっても過言ではない。

 

 

「お待たせしました、こちらカフェオレとホットティー、ハラオウン抹茶でございます。

 お客様、先ほどは新人がご迷惑をおかけしたようで、大変申し分かりません」

 

「あァいいンだよ別に、気にする程じゃ無ェ」

 

「ありがとうございます。今後とも、当店をどうぞご贔屓に。こちら割引券でございます、どうぞ次回ご来店の際にお使い下さいませ」

 

 

 カチャンカチャンと静かに音を立てて三つのコップがテーブルに置かれる。

 カフェオレとホットティーはごくごく標準的なこの店の人気メニューで、おやつ時や放課後のティータイムの時間帯にはガンガン売れていた。

 

 一方、あんこ入りパスタライスに満足できなかった一方通行(アクセラレータ)が頼んだのは、見た目はそれなりに普通の代物だった。

 冷房が効いている店内だから頼める代物は、分厚い茶碗に注がれており、熱々であることを示すかのように盛大に湯気を立ち上らせている。

 中の液体は緑色。いや、ここは素直に抹茶と言えばいいのではあるまいか。とにかくごくごく普通の抹茶であり、サービスでついている小さめの煎餅とセットで頂くのだろう。

 今までのメニューと違って、あの一方通行(アクセラレータ)が頼む品にしては随分と見た目が普通過ぎる。何か、トンデモない味か臭いかをしているに違いなかった。

 

 

「‥‥来た来た、一部で有名なハラオウン抹茶」

 

「あ、私これ自販機で見たことあるわ」

 

「へェ、こいつを知ってるなンて見所があるじゃねェか第三位。コイツは元々自販機オリジナルだったのを、この店でレストランで出せるレベルまでクオリティを追求したものらしいンだよ。

 椰子の実サイダーやらスープカレー缶やら、キングランブータンジュースやらと一緒の自販機傑作シリーズなンだ。

 もう実機の自販機の方じゃ幻の一品らしいンだが、さて、どンな味がすンのか拝見させてもらうぜェ‥‥」

 

 

 先ほどまでの緊張感は何だったのか、一方通行(アクセラレータ)は嬉々として、その細い両手で茶碗を捧げ持つ。

 自販機巡りが立ち読みと同じく趣味の一つである美琴は見たことがあるらしいが、それはうらやましいことだ。レストランなど外食の奇天烈メニューばかり追い求めている上に出不精の一方通行(アクセラレータ)は、未だかつてコイツに出会ったことがなかったのである。

 

 

「そンじゃま、早速。

 ズ、ズズ、ズズズズズ‥‥ズズズズズズズズズ‥‥‥‥‥」

 

「ドキドキ」

 

 

 いつも通りドキドキと興味深そうに注視しているカガリの前で、一方通行(アクセラレータ)はゆっくりと抹茶を啜る。

 一口、二口、三口。

 別にお茶の席ではないので、三口で飲みきらなければならないなんて作法はない。なのに一方通行(アクセラレータ)は何かに魅入られたかのように一息で、長い時間をかけて、抹茶を飲み干した。

 

 

「―――カ」

 

「か?」

 

「カ、カカ、カカカカカカカカカカ!!」

 

「え、えぇ?! えぇぇぇぇ?!!」

 

  

 抹茶を全て飲みきった一方通行(アクセラレータ)が、突然甲高い笑い声を上げ始め、いきなり狂人と化した白髪の少年に、常盤台のお嬢様二人は盛大にビビッて後ずさった。

 いつものことだといえばその通りではあるのだが、やはり突然このような態度を取られると恐い。特に、初対面の間柄ならば。

 

 

「あ、甘ェ! 地獄のように、天国のように甘ェ! てか純粋な砂糖よりシロップよりも甘ェ!! 甘すぎて頭がガンガンする、過糖過ぎて脳みそが自動《オート》で激しく回転すンぞこりゃあ! トンデモ無ェ甘さだァァァあああ!!!」

 

 

 そのあまりの悶えように、思わずメニューのカロリー表示をチェックした三人は絶句した。

 およそ飲み物に、否、1人分の食物として存在してはいけないような尋常ではないカロリー量。それはどんな運動、勉強、苦難を乗り越えればこのカロリーを消費できるのか想像もつかない糖分の暴力。

 味なんて想像できるもんじゃない。下手すれば化学的に合成したありとあらゆる人工甘味料を凌駕するだろう人工的な甘味。

 その暴力の前に晒された一方通行(アクセラレータ)に、あんな症状が発症したとしても頷けてしまう。

 

 

「‥‥ねぇちょっと、あれって本当に第一位? いつもあんなカンジなの?」

 

「信じられないかもしれないけど、正真正銘の真実ってことです。あんな調子で面白メニューを追い求めては失敗する毎日なんだよね」

 

「第一位ともなりますと、個性的ですわね‥‥。いえ、あんな様では個性的などという音便な言葉では片付けられない気も致しますが」

 

 

 それは言わない約束である。

 彼のことを知る者は大概が某かの手段で第一位の情報を知って、彼を殺そうと襲いかかって来た者であり、それらは須く返り討ちに遭っていた。

 よって彼が第一位であることを知る者は、ごく僅か。暗部の人間などは情報を渡されているかもしれないが、その情報と目の前のユニークな白髪の少年が一致することは一生涯無いだろう。

 

 

「それで、第一位と第六位ともあろうものが揃ってこんなところで何をしてんのよ? 長点上機学園の制服着てるみたいだけど、あそこってこの店からは随分と遠くない?」

 

「あぁ、僕も一方通行(アクセラレータ)も学校には通ってないってことです。あっちこっちの研究施設で実験に協力したり、あるいは自分自身に課せられる実験を消化したりの毎日さ」

 

「‥‥くそったれな実験を、な」

 

「あら、気がついたようですわね」

 

「イイ感じに狂ってやがったぜ、この飲み物。これさえあればどンだけ演算しても大丈夫なカロリーがあンな」

 

「そりゃあ恐ろしいってことです」

 

 

 あんまりにも甘かったらしく、気を利かせて、というか当然の未来を予想して店員が持ってきた、暖かい“普通のお茶”を煽る。

 確かに脳は人体で最もカロリーを消費する部分だ。特に能力者の演算は相当に脳を酷使するから、もしかしたら演算能力を拡大する実験などに効果があるかもしれない。

 

 

「今日は実験の途中でコイツに拉致されたから、実は何をするつもりなのか全然分かんないってことです」

 

「‥‥別に何か用事があったわけでも無ェンだよ。ただ、1人は暇だからな。‥‥そういうテメェらはどうしたンだよ。常盤台のお嬢様が、こンなところで油売ってちゃまずいンじゃねェのか?」

 

 

 イライラと質問する一方通行(アクセラレータ)に応えて、黒子が口を開く。

 上品に紅茶を啜っていた彼女は普段から初春の相手で疲れているからか、二人の超能力者(レベル5)の相手を早々に諦め、カオスな部分は全てお姉様に丸投げしていた。

 

 

「ああ、私たちは待ち合わせよ。黒子がどうしても友人に会って欲しいって言うもんだから‥‥」

 

「そう嫌そうな顔をなさらないで欲しいですの、お姉様。もちろん私とてお姉様が普段からファンの人たちの無神経な振る舞いにほとほと呆れているのは存じておりますわ。

 けれど初春は‥‥まぁ、その、優秀な風紀委員(ジャッジメント)ですの。なんといいますか、ちょっと色々と問題なところはありますが。

 それでも分別を弁えた大人であることは違いありませんわ。‥‥それに私、あの子にあの調子でお願い事されると断れませんの。胃が痛くなりますし」

 

「‥‥アンタも苦労してるのね」

 

 

 ゆっくりゆっくり、胃を労るかのようにゆっくり紅茶を啜る黒子に、普段向けているものとは違う同情した視線を美琴は送る。

 いつもなら自分のペースで美琴に変態行為を繰り返す黒子であるが、今の彼女は世間の、というよりは個人の荒波に揉まれて随分と疲れて見えた。

 

 

「‥‥おや、噂をすれば影ですのよ、お姉様」

 

「へ?」

 

 

 と、黒子がゲッと口元を歪め、まるで本当は会いたくないけど、それでもどうしても会わなきゃいけない嫌な上司にでも町中で遭遇してしまったかのような表情で、窓の外を見る。

 その表情はあまりに生々しく、美琴もいつものように軽く悪態の一つもついてやろうかという気分すら湧かず、黒子につられて外を見た。

 

 そこにあるのは綺麗に磨き上げられたガラス窓。

 大きめに設われ、外の光を十分に店内へと導くガラス窓からは、外からこちらを見つめる二人の女学生の姿を写していた。

 1人は背中の中程までのばしたストレートの黒髪と、強気な性格であることを感じさせる自己主張する眉毛が特徴的。

 もう1人はクセのあるショートカットの頭の上に、色も種類も鮮やかで様々な花冠を乗せ、片袖に盾の意匠をあしらった緑色の腕章を付けた少女。

 

 

 ここに登場人物達が出そろい、物語は始まりを告げる。

 なんてことのない巡り合わせか、それとも運命のいたずら、あるいは運命そのものか。

 その判断が彼らにつくのは、これから彼らが何てことのない日常を通り過ぎ、非日常に、それも突発的に始まって終わるものではなく、彼らの歩く道行きそのものを変えてしまうような、事件。

 そんな事件に、巻き込まれてからの話であった。

 

 

  

 

 

 

 

 

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