とある科学の無尽火炎《フレイム・ジン》   作:冬霞@ハーメルン

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第7話 『常盤台、長点上機、柵川中学』

 

 

 第七学区は、航空宇宙産業に関する研究を一手に引き受ける第二三学区に匹敵する広さを誇る、学園都市最大級の学区である。

 航空宇宙、という非常に大規模な研究をする第二三学区が広大な敷地面積を実験に使用するためのスペースとして確保しているのならば、この第七学区はまさしく学園都市という名前の指し示す通り、学生のために存在しているような学区だ。

 その敷地の中は常盤台中学を代表とするお嬢様学校によって作られた閉鎖的空間である『学舎の園』や、他にも各種様々な学校が犇めく。

 学生の数が増えれば、当然のように学生のための施設も増える。第七学区は巨大なデパートや各種喫茶店、ゲームセンターなどの娯楽施設を多数抱える、学生の為の街であった。

 

 そんな第七学区の中央通り。

 先日、かなり大規模な強盗事件があったファーストフード店も程近い。他にも学生が学校の帰りに寄るのに都合の良さそうな喫茶店やら屋台やらが立ち並び、中央の道は多数の緑が植えられ、ベンチや、腰掛けることを想定された頑強で座りやすい造りの花壇が並ぶ。

 この暑い盛りだというのに、あちらこちらで学生達はクレープやハンバーガーや飲み物を片手に談笑していた。

 結局のところ彼らとしては、そこに腰を落ち着ける場所と馬鹿話が出来る友人達が居れば何も問題ないらしい。いかにも学生らしいと言えようが。

 

 

「‥‥まさか、ここまで大所帯になるとは思いませんでしたの」

 

「つゥか何で俺達まで連れ出されてンだよ? 暑ィ、怠ィ、涼しいとこに行きてェ、むしろ涼しいとこで行きてェ」

 

「自堕落にも程があるってことです。まぁ、あのままだと結局のところ居づらいことには変わらなかったから、どっちにしろ出なきゃいけないことになってたとは思うけどね」

 

 よく使用する慣れ親しんだファミリーレストランから追い出された一行は、第七学区の中央通りの一角、通行人の迷惑にならない都合の良い場所で車座になって対面していた。

 

  放課後ということもあって、人通りはかなり多い。流石に多数の学校を抱える第七学区は巨大であるが、それでも全ての地域に均等に様々な施設が存在しているわけではない。

  だからこそ彼ら学生は学園都市にも数少ない娯楽施設が集中している中央エリアに好んで集まり、完全下校時刻までの僅かな時間を有意義に過ごそうとしていた。

 

 

「あ、あの、その節はありがとうございましたっ! 改めまして、私は風紀委員(ジャッジメント)第一

七七支部所属の、初春飾利と申します!」

 

 

  真っ先に興奮した様子で口を開いたのは、頭の上に花飾りを乗せた少女。

  柵川中学校の極めて一般的かつスタンダートなセーラー服を着ており、右の袖には立て続けをあしらった特徴的な緑色の腕章をつけている。

 

  

「あぁ、あの時は後のこと全部任せて逃げちゃって、悪かったってことです。もしかして何か迷惑かけちゃったかな?」

 

「いえ、それは顔見知りの警備員(アンチスキル)の人が適当に書類を弄ってくれたんて大丈夫だったんですけど‥‥。

  そんなことより、十分なお礼も出来なくて、申し訳ありませんでした」

 

「いやいや、それは別にどうでもいいってことです。大したことも、してないしね」

 

 

  綺麗な長い黒髪と語尾が特徴的な顔見知りの警備員(アンチスキル)は、かなり話が分かる人で、しどろもどろに先ほどまでは確かにいた協力者のことを説明する初春に「気にするな」と笑ってみせた。

  基本的に法律を遵守する存在である外の世界の警察官とは異なり、こちらは転じて基本的にボランティアである警備員(アンチスキル)は、そのあたり随分と融通が利く。

 

 

「それより初春、隣の方は‥‥同じ中学の方とお見受けしますけど、どなたですの?」

 

 

  カガリと初春に対して三角形の位置に、美琴と並んで立っていた黒子が、半ば置いてけぼりの状況に耐えかねたように口を開いた。

  その言葉に釣られるようにして、全員の視線が初春の隣で飄々と笑っていた少女が目をぱちくりさせる。

 

  初春と同じ柵川中学のシンプルなセーラー服を纏い、ツヤのある黒髪を背中の中ほどまで流している。

  側頭部のやや上、アクセントになる位置には白い花弁をあしらった髪飾りが清楚なイメージを添えていた。

 

  何より、美琴とは違う、意志というよりは意思の強さを表す真っ直ぐな瞳。

  超能力者(レベル5)であり、絶対的な実力以外でも本人の資質、あるいは人柄などから滲み出るカリスマのようなものを持った美琴。

  黒髪の彼女の視線に感じるものは美琴のそれとは違い、等身大の人間として共感を覚える類のものだ。

 

 

「あ、自己紹介遅れてすいません。私、初春の同級生の佐天涙子っていいます!」

 

「佐天さん、ね。初めまして、私は初春の同僚で、風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部に所属しております、白井黒子と申しますの。

  こちらは私のお姉さまで‥‥」

 

「御坂美琴よ。常盤台中学の二年生。まぁ一応は黒子(へんたい)の先輩ってことになるわね。でも年上とかは気にしないでくれると嬉しいわ。どうぞよろしくね」

 

「‥‥御坂、美琴? もしかして常盤台の超電磁砲(レールガン)?」

 

  

  驚いた、というよりは“やっぱり”と言いたげな吐息を漏らし、目を見開いて美琴を見た。

  そこに何か嫌な感情を与えられる響きはないが、だからこそ美琴は困惑する。

  自分がそうなりたかったか、そういう扱いを望んでいるか、そういうことには彼女は紛れもない学園都市序列第三位なのだ。

  娯楽の少ない学園都市の中で、巷に情報が公開されている超能力者(レベル5)は、例えば一一一(ひとついはじめ)などの外の世界のアイドル達と同等以上の人気を誇る。

  もっとも超能力者(レベル5)の殆どは書庫(バンク)にも顔写真はおろか本名すら載っていないという体たらくだから、実際に巷に名前が知られている超能力者(レベル5)は美琴ぐらいなのだが。

 

 

「いやー、まさか本当に超能力者《レベル5》に会えるなんて、流石は初春!」

 

「だから私、本当だって言ったじゃないですかッ! それなのに佐天さんが『じゃあこの目で見て確かめるお!』なんて言うから‥‥」

 

 

  泣きべそのような声を上げながら、初春が佐天の胸をポカポカと叩く。

  元々この場は常々黒子がお姉様お姉様と慕う人物が常盤台の超電磁砲《レールガン》だと知った初春が、若干の黒い圧力(プレッシャー)を与えながら黒子に頼んだのであるが。

  あまりの嬉しさに舞い上がって、下校の途中、佐天に話してしまったのが運の尽き。

  基本的に暇をしているので初春に構うか、ネットサーフィンに勤しむしかない佐天が、そんな好機を見逃すはずがない。

 

「学園都市最強の発電能力者(エレクトロマスター)、どんな人かと思ったけど‥‥意外と普通?」

 

「普通‥‥?」

 

「あ、いや、悪い意味じゃないんですよ? ただちょっとホラ、なんか如何にもってカンジの超能力者(レベル5)を想像しちゃってたから、なんか拍子抜けっていいますか。むしろ安心したっていいますか‥‥。ねぇ初春?

 

「あ、は、はいそうですね! 私も白井さんのお話を聞いていたときの印象とは、ちょっと、その、違う様な‥‥。完全無欠のお嬢様を想像してたのは、まぁ、事実なんですけど。

  でも佐天さんの言うとおりです! 別にだからどうこうってわけじゃなくて、むしろ親しみが湧くぐらいです!」

 

 

  超能力者(レベル5)強度(レベル)によって厳格な序列がつけられてしまう学園都市において、5と4、5と3、5と2、あるいは5と1か0。その比較のどれにも違いなどない。

  大能力者(レベル4)であろうと無能力者(レベル0)であろうと、圧倒的な能力を保持する超能力者(レベル5)の前では一様に等しい存在だ。即ち、無力。

  だからこそ、彼らは憧れと畏れを一身に集める。まるでアイドルのように、あるいは独裁者のように。

 

  そしてアイドルのようにと形容されるからには、当然のようにファン達による偶像化という宿命がついてまわるものだ。

  まさか超能力者(レベル5)はトイレに行かないなんて考えている者はいないだろうが、それにしても神格化に近い畏怖を向けられる存在であることには違いない。

  例えば常盤台中学における御坂美琴が、近寄りがたい完全無欠のお嬢様として遠巻きに憧れ、結果として親しく喋る知人が全く存在しない、などという半ばイジメにも近い状況に陥っているように。

 

  

「‥‥はぁ、やっぱり私ってそう思われてたわけね。なんていうか、周りの認識と自分自身の認識との間に随分と齟齬があるんじゃないかとは思ってたけど」

 

「常盤台中学ではお姉様に話しかけることはおろか、近づくことすらファンクラブの間で牽制し合っておりますもの。抜け駆けは村八分ですわ。

  もっとも最近は会員ナンバー001である“この”私が、お姉様にご迷惑をおかけすることがないように、しっかりと統制しておりますのでご心配無ーーーごぁッ?!」

 

「な、ん、で、一年生のアンタが会員ナンバー001なんてものになれんのよッ!!」

ゴインッ、と鐘を叩くような鈍い音がして、失言をかました黒子が頭を抑えて蹲る。今しがた制裁を加えた拳から煙が上がっているのを見れば分かる通り、お姉様の拳骨は尋常ではなく効く。

 

  

「‥‥おィ花瓶」

 

「だから花瓶じゃありません―――って、

貴方は確か‥‥」

 

一方通行(アクセラレータ)だ。あのツインテのペースでうっかり着いて来ちまったが、俺達は何時になったらご無沙汰出来ンですかァ?

  楽しく冷房の効いた快適なファミレスでランチを楽しんでたってのによォ、追い出されちまって不機嫌MAXなンですけど? 責任とってくれませン?」

 

 

  見事な拳骨を喰らって悶絶する黒子を呆然と眺めていた初春は、横あいから聞こえてきた極めて不機嫌そうな声にビクリと身を震わせた。

  小動物のように怯えても仕方がないくらいの迫力がそのドスの効いた、だというのに自分と同年代の程度の声には込められていたのである。

 

 

「つゥかよォ、マジで迷惑なんですけど? 別にテメエらのお仲間でもなンでも無ェのに同類扱いで一緒に会計済まされちまってよォ。俺は冷房に当たり足ンなかったってのに‥‥」

 

「まぁまぁ一方通行(アクセラレータ)、そこまでイライラすることでもないってことです。

  どうせこれからのプラスなんて何も考えて無かったんだろう? 旅は道連れ世は情けってことです。こういうのも一興じゃないか」

 

「またテメェは少しでも楽しそうなもンがあるとホイホイ着いて行きやがって‥‥。

  いいか、いつも散々俺に振り回されてるなンて言ってやがるけどよォ、実際振り回してンのはテメェの方なンだからなァ?!」

 

   

  ダラダラした白衣の胸ぐらを掴み、ブンブンと前後に力の限り振ってみせる。

  ベクトル操作などしてはいないから、これは純粋にモヤシレベルの力のしか持たない自分のスペック。だというのに超能力者(レベル5)の第六位である友人は驚く程に軽く、そんじょそこらの小学生にも例えられるこの腕力でも簡単に揺さぶられていた。

 

 

「そうは言っても、最初に僕の予定も聞かないで無理矢理連れ出すのは君の方ってことです」

 

「俺ァいいンだよ、どうせ大概ヒマしてンだろォが」

 

「その珍しくヒマして無い時が今日だったわけだが。というかその理屈は理不尽極まりないってことです」

 

 

 若干の諦め、というよりはむしろ嬉しそうな響きすら伴ったカガリの言葉が勘に障ったのか、一方通行(アクセラレータ)は友人を揺さぶる手に力を込めた。

 アハハハハと一本調子で笑い続けるカガリの方が、若干、いやかなり身長が高いから、その様は片方が凶悪の権化である一方通行(アクセラレータ)だったとしても、実に滑稽な構図である。

 

 

「‥‥どっちかっていうと、むしろコッチの方が学園都市第一位か、と若干の失望は抱きましたけど」

 

「正直、それは否定出来ないわね。なんていうか、超能力者(レベル5)っぽくないというか、ホントに第一位なの? コイツ」

 

 

 無言で断っていれば年齢不相応の迫力がある少年も、普通に年上の友人とケンカしている姿を見れば、背伸びして粋がっている子どものようにも見える。

 もちろん超能力者(レベル5)という称号、そして学園都市序列第一位という格付けは伊達ではない。

 その能力は書庫(バンク)にも載っておらず、運良く対峙して生き残れた者にも、正体がつかめない。だというのに、間違いなく最強。

 第三位である超電磁砲(レールガン)、御坂美琴に対して、一位と二位は別格と言われている。その理由は不明だが、どちらにしても圧倒的な実力を備えているであろうことは想像に難くない。

 

 

「あン? 疑ってンなら今ここで気持ちよくブッ殺してやろォかァ?」

 

「‥‥ふぅん、良いわね、そういう流れ嫌いじゃないわよ。私も一度、自分以外の超能力者(レベル5)と戦ってみたいと思ってところだし」

 

「ちょ、ちょっと御坂さんも一方通行(アクセラレータ)さんも落ち着いて下さいよっ?! こんな往来で能力使ったりしちゃだめですって!」

 

 

 眼光鋭く睨み合った二人を見て、初春が慌てて間に割ってはいる。

 超能力者(レベル5)が具体的にどんなことを出来るのか、というのは知らないが、どちらにしてもこんな往来で学園都市序列第一位と第三位が一触即発の状態で睨み合っていいわけがない。

 

 

「じゃあ僕が立会人を‥‥」

 

「カガリさんも余計に煽らないで下さい! ‥‥もう、せっかく御坂さんと遊ぼうと思って白井さんにお願いしたのに、これじゃ台無しですよぅっ!」

 

  

 学園都市二百三十万人の中で七人しかいない超能力者(レベル5)

 その中でも特に有名で特に人気の高い、同姓かつ先輩という魅力的なポジションにいる超電磁砲(レールガン)こと御坂美琴はミーハー気味の有為春にとってみれば最高の憧れだった。

 

 

「‥‥しかしなぁ初春飾利サン、いったい遊ぶって言っても何する気なのか分からないってことです。結局こうしてファミレスからは追い出されてきちゃったわけだけど、何かプランでもあるのかい?」

 

 

 ぱちくりと目を瞬かせた初春が黒子の方を向き、それにつられて1人を除く全員の視線が一カ所に集中した。

 確かに、黒子に頼んだのは初春でも、この場をセッティングしたのは黒子の方。もちろん美琴は今日の段取りについて何も聞いていないし、無理矢理連れ出されたカガリと一方通行(アクセラレータ)も同じ。

 

 

「も、もちろんプランは出来ておりますのよ! ちょっと予定とは違いましたが、まずはデパートにでも行きまして、ショッピングを‥‥」

 

「―――ちょっと黒子、このメモ」

 

「って、お姉様?!」

 

 

 おそらくは今日の予定を書き出したメモと思われるものを取り出した黒子の背後に回った美琴が、それを電光石火の速さで取り上げる。

 ザッと素早く目を通せば、女の子らしい丸文字で、とても女子中学生とは思えない欲望丸出しの計画が書き込んであった。

 曰く、初春をダシにしてお姉様とのスーパーいちゃいちゃタイムとか何とか‥‥。媚薬などという言葉を用いている段階で、もはや警察にブチ込んだ方が良いのではないかと思わせるだけの変態っぷりである。

 

  

「‥‥却下。却下却下却下ぁ! 黒子(ほくろ)ぉ! このアンタの欲望丸出しの計画なんかに協力できるわけないでしょうがぁっ!!」

 

「名前が違いますのよお姉さ―――ぴかちゅうっ?!」

 

 

 手加減抜き、とはいえ人体を殺傷しない程度の本気電撃が黒子を襲う。

 天候すら操作できる超能力者(レベル5)だが、絶妙に調整された電撃は執拗に、強烈に、しかし明確な怒りを持った制裁である。

 

 

「‥‥初春さん、佐天さん、こんな奴のことなんて気にしないで、ゲーセンでも行かない? そこの二人も、良いわよね?」

 

「つゥか俺達ァ同行することになってンのか‥‥」

 

「まぁ気にする程じゃないってことです。どうせヒマだったし、やること思いつかないなら一緒に遊ぶのもまた一興」

 

 

 鮮やかな笑顔を浮かべて同意を求めてくる美琴に、一方通行(アクセラレータ)とカガリは顔を見合わせる。

 確かに予定は無かったし、自分たち自身が腐ってしまいそうなぐらいにヒマはしている。カガリにしても、今日はもう実験なんて気分でもなかった。

 それに別に他人と一緒にいるのがことさら嫌いというわけでもない。一方通行(アクセラレータ)は一期一会の馬鹿騒ぎはそれなりに好きな方だし、カガリは人との交流を好む。

 

 

「‥‥まァ色々と複雑な事情はあっけどよォ」

 

「は?」

 

「いや、別にテメェに話すようなことじゃねェ。気にすンな、第三位」

 

 

 ただ、目の前で首を傾げる不思議そうな顔を見ていると、若干のしこりを胸に感じるのもまた事実。

 まさかこの少女は、自分たちのことを知らないのだろうか? あの凄惨な毎夜の出来事を、血煙香る実験を。

 この太陽のような少女は、知らないのだろうか。学園都市に息づく闇を、自分たちが塗れている闇を。同じ超能力者(レベル5)という位階にいながら。

 

 

「‥‥いいぜ、別に、ヒマだし付き合ってやンよ」

 

「あら、本当に良いの? 別に無理してまで来て貰おうとは思ってなかったけど」

 

「ちょうどゲーセンでも行こうと思ってたところなンだ。結局のところ同じ場所に行くことになンだろォが。だったら別に、一緒でも問題無ェ」

 

 

 ‥‥見極める必要がある。

 ここで出会ったのが仮に偶然であったとしても、その出会いが導く結果すらも偶然とは思えない。そこには某かの必然があっても不思議じゃないだろう。

 となると自分たちに出来ることは、ここでの出会いが何を生むのか、それを考えることだ。それを考えなければ、致命的な不幸を、悲劇を生みかねない。

 

 ならば、見極める必要があるのだ。彼女の人柄を、彼女の能力を、彼女の実力を。

 見ているだけでイライラする顔も。感情をめまぐるしく変えるが故に、押し込めていた感情を刺激するその顔も。

 何を思っているのかを、見極める必要があるのだ。

 

 

「おィ、花瓶に没個性」

 

「また花瓶って言ったぁ?!」

 

「ぼ、没個性‥‥!」

 

 

 ギロリと柵川中学の二人に睨み付けるような視線を送った一方通行(アクセラレータ)が口を開く。

 相も変わらず他人につける渾名が酷い。当然二人もいきなりの暴言に、むしろ呆然と目を見開いた。

 

 

「はじめまして、学園都市序列第一位『一方通行(アクセラレータ)』だ。‥‥よろしくゥ」

 

「‥‥は、はぁ、初春飾利です、どうぞよろしく?」

 

「佐天涙子よ。ていうか没個性って何ですか没個性って!」

 

 

 日だまりの中ですら、暗がりを探して息を潜める。

 そんな悪党(アウトロー)な生き方をする必要もないぐらい強すぎる、学園都市の超能力者(レベル5)

 

 しかしそれは、能力での話。

 その精神は、心は、未だに成長途中の少年のものだ。いくら彼が強くても、無敵でも、それは 変わらない。

 そしてそれは学園都市の全ての学生についても、言えること。彼らは全てが不完全であり、成長途上なのだ。

 

 結局のところ、だから、学園都市で起こることは全て、学生達の物語。

 すなわち不完全で成長途上な心と心のぶつかり合い。だからこそ彼らはもがき、あがき続ける。

 

 

 もちろんこれから楽しくゲーセン巡りに洒落込もうとしている彼女たちにそんな自覚はなかろうが。

 その彼女たちを一歩、二歩、下がって見守る超能力者(レベル5)の第六位。

 彼の瞳が妙に優しげに笑っていたのを見ることが出来たのならば、もしかしたら、自分たちの立ち位置というものにも勘づくことが出来たかもしれない。

 しかしそれも当然、仮定の話であるのだ。

 

 

 

 




黒子→胃痛持ち
美琴→無自覚ドS
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