「XXX、いい子だからママが帰ってくるまでここで待っているのよ?」
それが母親…推定母親と喋った最後の記憶だった
公園のベンチで日が暮れてアンチスキルに保護されるまで待っていたいい子な私は親に捨てられた━━━置き去りにされたことを理解するのに2日もかかってしまった。
「ようこそ私の研究所へ、今日からここが君の家だ。」
素晴らしいことに学園都市への入学金を残してくれていた顔ももはや覚えていない母親の愛情によって私はつつがなく学園都市の学生として能力開発を受けて、衣食住を保障されることになった
「私のことは新しい父親と思ってくれていいよ。これからよろしくね、愛しい検体ちゃん?」
まあ、つまり要約すると━━━名前も失くした私の人生の真のスタートはモルモットとして始まったってことだ。
第10学区、複合能力研究所にて少女を一人迎え入れた男は自室のデスクで資料に目を通していた
「なるほど、なるほど、内部進化(アイデアル)ねぇ…素晴らしい人材を抱えていて羨ましい限りだよ」
目にしていたのは協力関係を築いている研究所の一つ、才人工房の資料だった
「しかし研究の要が不安定で替えの利かない能力者というのは僕の趣味には合わないな」
「失礼します重心先生。先日行われた実験に参加した被検体4名の術後の経過ですが━━━」
「ああ、いい、いい。どうせまた死んじゃったんだろ?」
「は、はい」
「死因とか諸々の報告書は後で出しといてくれ、じゃ下がっていいよ」
「失礼しました」
背もたれに深くもたれかかり息を吐く
「うーんどうにも上手くいかないな…もう少し刺激を抑えるか?いやどちらかというと検体の『自分だけの現実』を育てた後に施術する方がかえっていいのか?」
一人ごちながら木原重心は名簿、生きている検体リストから四人を削除した後リスト全体を眺める
「せめて一人くらいは父さんの為に成果を残して死んでくれよ、愛しい検体ちゃんたち?」
俺は取り立てて特別なことのない人生を送ってきた
それなりに恵まれた家庭に生まれてそれなりに勉強を頑張りそれ
なりに趣味を楽しんでいた
ただそんな平凡な人間でも少しは特別でない所があるものだ
ただ俺にとってのそれは、17歳にして死ぬことだったらしい
道を歩いていたら後ろから車に撥ね飛ばされた俺は吹き飛ばされ
上下不覚な景色をみてそんなことを考えていた
そしてそのまま俺は嫌な音をたてながら地面へと━━━━━!?
「ぐ、ぎゃあああああああああああ!?」
余りの衝撃に甲高い声が勝手に漏れる
まるで自分の声じゃないみたいだなんてことを考える間もなく猛
烈な頭痛が襲いかかる
真っ昼間に車に撥ねられたはずの俺が意識を失う最後に見た景色
は何故か暗い実験室のように見えた
「失礼します重心先生!先刻の実験で施術した被検体✕✕ですが━」
「ああ!ああ!皆まで言うな、成功したんだろう!?」
「ええ!施術中意識不明に陥りましたが生命活動には問題なく、
AIM拡散力場を観測したところ既存の力場と重なる形で新たなAIM
拡散力場が確認できたとのことです!」
「素晴らしい!それで被検体の意識は!?」
研究員はあまりのはしゃぎようにたじろぎながら報告を続ける
「は、はい。被検体は現在意識を回復させています。しかしメデ
ィカルスタッフによると━━━ってどこ行くんですか!?」
「何ってヒーローインタビューに決まってんだろ!」
『れ?』
声が聞こえる
『あ…たは…れ?』
女の子だろうか、こちらに声をかけているのか?
『あなたはだれ?』
バッと飛び起きる
「グウッ!!」
そして猛烈な頭痛にたまらずベッドに引き戻される
そして感じる違和感
「声が…高い?」
喉の調子が悪いのかといぶかしむが違和感は感じない
「一体何…が…」
言葉が止まる、白い髪の毛と細い腕、明らかに女性的な肉体が目
に入る
「なんだよ、これ…!」
混乱が頂点に達する。自分の体を動かしているはずなのに異物感
が止まらずクラクラする。何故こうなっている?この体は何だ?
頭痛は頭を怪我しているからなのか?大体ここはどこなんだ、ど
こかの大病院なのか?疑問に頭が埋め尽くされる中
「おはよーーう!!気分はどうかな?」
ドアを力強く開けて見知らぬ男が入ってきた
「…どなたでしょうか?」
「おーおー!ベタな反応…を…」
顎を強く掴まれ無理やり視線を合わされる
とても痛い…
「なんでもうお前が出てこれる?おかしいだろ」
「何の話を」
「まだ人格は生まれたばかりで未成熟なはずだ。人格が表に出るのは早くても2ヶ月後のはずだった。なのになぜ?お前は何だ?どこから来た?…いやいい」
こちらの問いかけを無視して一人で捲し立てる男に怒りを我慢できず未だ違和感の残る透き通る声を張り上げて言い返す
「あの、ここはどこですか!?なんで体が変わってるんですか!あなたがこんなことを…?一体どうなってるんだ!!」
「はあ?お前何を言って……おい、名前を教えてくれよ」
「名前?僕の名前は…」
思考が止まる
「僕の名前は…なんだ?確か…そんな馬鹿な…!!」
「え、何その反応?名前があった気がするなんてあり得ないだろ…端から名前なんて無い訳じゃなく?ふーん…」
男は暫く思案すると膝を打って立ち上がった
「よし!とりあえず君に教えられることは僕たちもなんで君が存在してるのかわからないってことだ。以上、終了、じゃあね〜」
「ま、待ってください!それだけ言われても━━」
「じゃ、お休み!」
部屋から出た男がリモコンを押すと扉が閉まるとともに換気口からプシューと音が発生する。まもなく俺の意識が遠のいていく
「く、そ…」
「う…」
眼を開けると同時に頭痛を感じて起きる
「私は…?」
実験を受けたところまでは覚えているがそこから先の記憶はない。
見回すといつもの部屋で寝かされていたようだ
『…どうなってる?』
「わっ!?」
どこからか響いた声にびっくりして変な声がでてしまった
「い、いまどこから…?」
見回すが人はおろかスピーカーらしきものも見当たらない
何より声は自分の中から…脳に直接響くように観じた
「あなたは…誰?」
「君は…誰だ?」
こうして最も近くて遠い距離で、名も無い少年少女は一つに出会った