少年が腕を組み頷いた━━気がする
『だいたい分かったな。なにも分からないってことが』
「ええ…」
「『…………』」
異常な邂逅を果たした後、一つの体に二人きりという奇妙で気まずい私達は沈黙が流れる
『俺の体どっかで見なかった?』
「少なくとも私が見た人の体にはみんな人?意識?が入ってたけど…」
『警察に遺失物届出したら親切な人が届けてないかなぁ』
現実逃避気味なことを言い出し始める声
『それで君は━━そういえば名前を聞いてなかったね』
「名前?私に名前はないよ」
「なんだって?」
「呼んでくれる人もいなくなっちゃったから忘れちゃった」
押し黙る少年の声に首を傾げる少女
「…あの医者?博士?は君のこと何て呼んでるんだ?」
「え、おとうさんに?うーん…呼ばれたことないかも」
「そんな…」
「名前がないと何か困るの?」
「そりゃそうだろう…!」
焦燥した様子の声に困惑する少女
「じゃああなたの名前はなに?」
「忘れた」
「ええ…やっぱり大事なものじゃないんじゃない?」
「いやそんなことは絶対無いんだけど…説得力がない!!」
声は暫く考えた様子だったが再び話しかけてきた
「じゃあ君の名前を考えよう!」
「いる?」
「絶対いる!!」
勢いに押し切られた気がしないでもないが一緒に考えることにした
『クリストファー・コロンブスとかどう?』
「…真面目に考えてない気がするんだけど?」
『ソンナコトナイヨー』
「そんなことありそうだなぁ」
『じゃあ真面目に考えるか』
やっぱり真面目に考えてなかったじゃん、もし本当に私がその…クリなんとかって名前にしたらどうするつもりだったのか
それにしても私の名前かあ…うーん、全然思いつかない
その後思いついた名前をお互い発表するもどれもしっくりこず最終的に名前については今後の宿題として棚上げされることになった
「おはよう実験体くん…たち!よく眠れたかい?」
「おはようおとうさん」
「うんうん今日も生きるのに支障はなさそうでなによりだよ…そんなことより今は君だけなのかい?」
「…どういうこと?」
「彼はこの話を聞いてるのか?ってこと」
「…教えない」
「はははははは!可愛いねぇ〜反抗期か?どうやら聞いてるみたいだなぁ」
「…!」
「残念だけど今日はそっちの方に用事があるんだよなぁ〜じゃあ行こうか」
男は少女の手を取り部屋から連れ出す
向かう先を少女は知っている。男に連れ出された時は決まって実験を受ける時に他ならないからだ
「はやく終わらせてほしい。」
「親子のコミュニケーションをないがしろにされるなんて悲しいねえ。涙が出ちゃうよ」
少女の訴えを軽く聞き流し男は少女の体を実験用と思しき椅子に固定し準備を進める
「また能力開発?」
「そのとーり!楽しい楽しい能力開発の時間だよぉ?」
男は笑いながらあっさり認める
実験の準備が終わったのか一息つくと少女に向きなおるといびつな笑みを浮かべ続けた
「けどお前への実験じゃないんだよなぁ、今回は」
「どういう…っガああアァああああっアァア!!!!」
唐突な激痛に理性が吹き飛ぶ感覚に襲われる
自分の喉から聞いたことのないほどの絶叫が響く
「今回行うのは彼への能力開発だ。邪魔な人格には暫く引っ込んでいて貰おうか」
何食わぬ顔で計器の針を観察し続ける男
「『ガアあああァッァああアアあァアアア!!!』」
「おっこのブレは…おはよう!!元気かい!?」
機械を一時停止させたのか痛みが収まっていく
俺は男を睨みつける
「なんのつもりだ…!!」
「あぁ?聞いてなかったの?お前への能力開発だよ。お前に出てきて貰わねえとお前の自分だけの現実が測れないだろうが」
唖然とする俺をよそに木原重心は嬉々として続ける
「よし!じゃあ荒療治といこうか!せいぜい壊れてくれるなよ?貴重なサンプルくん」
「自分だけの現実…能力開発…木原…」
重心の話す単語に思い当たる節がある
「もしかしてここって、禁書」
「はいドーン!!!おじさんこれでも優秀だからねえ!静脈の位置なんて一発で分かっちゃうんだなあ!」
「ぐゥ゙!??」
何かを血管に注入されてすぐに異常な発汗を覚える。視界が歪み頭の中でパーティーが開かれているかのように騒がしい
「なにを、しテ…………!」
「とりあえず手っ取り早くキメキメになってパッパラパーな自分だけの現実とやらを謗「縺励※縺阪※縺ュ縲懶シにしてもこの手法って科学的ってより縺九?荳?譏泌燕縺ョ繝峨Λ繝?げ邉サ繧ェ繧ォ繝ォ繝医▲縺ヲ諢溘§縺ァ螂ス縺阪§繧?↑縺??縺」
あいつが何を言っているのか分からない
時間間隔と視界が真っ赤に染まったりクリアに見えたりした気がする。わからない、今はだれだ?
気がつけば血を吐きながら叫んでいた
体から得体の知れない何かがせり上がってくる気がする
血を吐きながら叫ぶ
「ヤめろ!!」
少年、といっても体は少女───が髪を振り乱して叫んでいる。
男は──木原重心はそれをまるで聞こえていないかのように平然と無視して計器の針を眺めていたがふと顔を上げる
目の前にぶら下がっていた蛍光灯が音をたててきしんでいる
常に最新の設備に更新されるこの施設でそんな音を立てて軋むほど老朽化した蛍光灯が放置されるはずがない
強まる違和感に計器に走り針を凝視する
「まさか…!」
ついに耐えかねた蛍光灯が壊れ────上に落ちる
「おいおい!まじぃなこれは!」
半笑いで退避する木原重心の横で今度は椅子が天井に墜落する。
少女の絶叫に呼応するように壁がきしみ機材が宙を舞う。
瞬間全ての機材が床に落ちる。
ベッドに拘束されたままの少女の身体は限界に達し意識を失っていた
程なくして武装した集団が突入した頃には全ての異常が収まり実験場は静寂に包まれていた
意識を失い静かに眠る少女のバイタルを確認しつつ木原重心は一人ごちる
「一体お前は何なんだ…?『原石』クン」
検体記録
検体ナンバー:███-beta
推定能力レベル:4
能力名仮称:空想重力(グラヴィティーノ)
備考:『原石』と推測される。███-alphaが発現した能力との不自然な共通点については現時点で原因不明。