新島さん家に居候することになりました。 作:2周目
――"終わり"はまた"始まり"でもある。"始まり"と"終わり"は、表裏一体。物語が終わる時は、また新たな物語の始まりでもある。
今まで通ってきた道は、無駄にはならない。これから新しく始まるであろう物語ならば尚更無駄にはならない。
さあ、心せよ――――"素敵な大人になる為に"。
> はい
いいえ
◇
「奴の手口は"不明"――会って話すだけでも安全とは言えない」
年配の刑事は、そう口にする。この頃世間を騒がせている"怪盗団"との関係を強く疑っている者だからこそ尚更。
「……分かりました」
その言葉に、彼女は短い返事を返す。
「まぁ――
続いて投げかけられる刑事の言葉に、彼女は言葉を返すことはせず……静かに会釈をするのみ。
そして何人かの刑事の間を通り、取り調べ室のドアノブに手をかけ。
ドアを開ける――……そこには、慣れ親しんだ彼の姿があった。
僅かに震える手を、グッと強く握るとともに席に着いて彼と対面する。
……仕事の関係上己の感情と理論を分ける必要があるとはいえ、慣れ親しんだ人が容疑者として拘束されているという状況は流石にこたえるものがあった。
彼女の胸に在る感情は、複雑なそれ。なぜ彼が。いったいどうしてそんな事を。何が目的でこのようなことをしたのか。
……これは私の仕事だ。仕事を持つ上最後まで取り組む責任が生まれる。
「他人の心をどうやって盗んだのか。一体どんな目的があってこのようなことをしたのか……聞きたいことは、たくさんあるわ」
無理にでも切り替えることにし、毅然とした態度を心掛けて改めてそう質問をする。
しかし、彼は強い何かが宿ったような目をしてただ静かに彼女を見つめるまま。彼女がここに来ても尚、身じろぎもせずただそこにいるだけかのよう。
「……答えて」
その言葉は、目の前にいる彼自身にしか聞こえないであろう小さな声だった。
◇
そろそろ暖かくなってくるであろう4月の9日、土曜日午後に差し掛かる所――これからお世話になるであろう人との待ち合わせ場所である、駅に向かって電車に乗っている。
ある事情で、1年間だけ"新島さん"という人の所でお世話になることになった。その"新島さん"と待ち合わせる予定の場所に往く所である。
「ま~た、事故だよ……最近多くね?」
「確か、人が突然おかしくなるってアレか。本当なのかね」
運が良く電車の中にある席に座れたというのもあり、周囲の声がより鮮明に聞こえてくる。どうやらこの辺で不審な事故が多くなっているらしい。
人が突然おかしくなる……か。
「ついさっきまで普通だった奴が、突然おかしくなるんだぜ。 しかも最後には廃人も同然になるとか……本当だったらマジで怖いわ」
「うっわ、どんなホラー映画なんだよ。いくらなんでも突然おかしくなるってあるか?」
ブツブツ、とそんな控えめな会話を交わっている声が聞こえる。
…………待ち合わせ場所に着いたようだ、降りよう。
混んでいる人々の中、電車から降りる。今日が休日というのもあり駅のホームは人々で溢れかえっており気を抜いたら流れていきそうである。
何とか駅のホームを降り、待ち合わせる予定である場所まで移動する。
案の定、待ち合わせ場所にも人で溢れかえっており"新島さん"という人を探すのは困難を極めそうだと思った。
「――雨宮くん?」
すると突如自分の名前を呼ばれた。突然の事に驚きながらも呼ばれた方向に顔を向けると、そこには灰色のした長い髪をした女性。少し暗い色のコートを着ており、その下には特徴的な黒スーツ。
そしてキリッとした目――どことなく思わず背筋を正さなければ、と思うぐらいに鋭さがあった。何と言うか、凛々しい人だという印象を受ける。
……確認を取る意味でも、新島さんですか?とそう質問をする。
「ええ――雨宮 蓮くん、でいいのよね?」
「はい。改めまして 雨宮 蓮 といいます」
そう言って、こちらを伺う彼女に同意することにした。
「新島 冴よ、よろしくね」
その名を聞いたと同時に――ピリッ、と頭に電流が流れたような感覚がした。
―――"素敵な大人になりなさい"
そう言って、こちらに顔を向ける彼女。
―――"楽しみに待ってるわね"
自分に微笑みを見せる彼女。
刹那的にといっても差し替えないほどに、一瞬だけこのような事があったという、自分でも知らない記憶があった。
……彼女とは、どこかで……?
いきなり何処からか出てきたとも言い替えることができる見知らぬ記憶。
それに一瞬戸惑いを覚えながらも、何とか落ち着きを取り戻した。
◇
駅から出て、近くの駐車場にある新島さんの車に乗り移動することになった。
「――ここに来るのは初めて?」
赤信号で止まっている中、新島さんから話を切り出される。
「そうですね、初めて来たんですけど……美味しそうな店が多くていい所だと思います」
ここまで来る間、いくつものの美味しそうな店が目に入ったというのもありそう口にする。
「ふふっ、美味しいだけじゃなく量も多くて安い店もあるわ。そういった意味では学生さんのお財布に優しくて美味しい店がたくさんある、という事になるわね」
そう言って軽く微笑む新島さん。なるほど、量が多くて安くて美味しい店がたくさんあるのか。どうやら持ち前の度胸が試される時はそう遠くはないようであった。
もっともな話……新島さんの家にお世話になる事自体とてつもない度胸が要求されているのでは、と思うのはここまでの話であった。
「そうだわ、真……のことは覚えているかしら?」
「真さんというと?」
「私の妹よ。貴方が小さい頃、何度か遊んでいたけど……」
真というのは、新島さんの妹に当たる人らしい。どうやら小さい頃に一緒に遊んでいたと彼女は言う。
「ううん……」
遊んでいたやら遊んでいないやら……朧気な記憶しか覚えていない。それに思わず唸り声を上げてしまう。
朧気な記憶を鮮明にする為に脳をフル稼働する。タンスの奥にしまい込んでいる記憶さえも取り出す勢いで。
「――そうだ」
彼女がいつも持っていたもの――パンダのようなグッズ。あれが妙に印象に残っていたのかなんとか思い出せた。
「ブチまる君。それが好きだということは覚えてます」
「……やけにピンポイントね? 確かに好きみたいだけど」
彼女の言葉からすると、どうやら合っていたようだ――脳をフル稼働したかいがあったというもの。にしてもどうして新島さんの妹の話になったかというと……新島さんと共に暮らしているとの事。つまり、これからお世話になるであろう家に、真さんもいるということになる。
……1年間、1つ屋根の下に暮らすことになる、か。
「心配はないと思いたいけれど……一応言っておくわ」
一人でに納得していると、何故か妙な音色のした声を出す新島さん。
「変な気を起こしたら――分かるわね?」
表情こそ変わりないが、声自体はドスの効いたようなソレだった。
……それに思わず背筋を伸ばして「分かりました」と宣言するかのような言葉を出したのは、言うまでもない。