新島さん家に居候することになりました。 作:2周目
新島さんに連れてもらう形で、彼女の家――もといマンション前に着く。
そこには、そびえ立つマンション……それも立派であった為思わず見上げてしまう。
……これから一年このマンション内で生活するのだと考えると、何となく緊張めいた感じになる。ともあれ、新島さんについていく形でマンション内に入り、エレベーターに乗る。
エレベーターに乗り、上階に上っていく際にエレベーターのドアにある小さな窓から見える"上から下へと流れていく景色"をどことなく眺める。
そして、新島さんの住む階に着いたのかドアが開かれ……そのまま彼女について行ってやがてひとつの玄関前と思わしきドアの前に着く。
「ここよ」
新島さんが短くそう一言を口に出す。チラリと表札を見ると確かに"新島"と書かれていたことからここがこれから世話になる所のようだ。
新島さんが鍵を取り出し、鍵穴に差し、回してドアを開ける。
小さく「失礼します」と声に出して中に入る。
「おかえりなさい」
入ってすぐ奥まで続く廊下。その廊下の奥からそう言葉が聞こえるとともに姿を現した。
髪は首元に届くかどうかというショートカット。黒色のしたレディースベストに、スカート。スカートから覗かせる足のスパッツ。
彼女を見ていると、あやふやだった昔の記憶が少しずつ鮮明になっていくような感覚に陥る。
車の中で新島さんに彼女のことを言われ、何とか思い出したのだが……実際に彼女を見てみると何故か一気に昔一緒に遊んだ記憶が蘇ってきた。不思議なことに、だ。
そして、彼女の目がこちらに向かってき……それに合わせて軽く頭を下げて。
「雨宮 蓮と言います」
「ええ、久しぶり……と言っていいのかしら」
そう軽く彼女に自己紹介をすることにしたのだが、彼女は知っているようだった――それもそうか。
「これからしばらくは一緒に暮らすもの、そう固くならなくていいのよ」
そう言って、真さん……は微笑む。
「それじゃあ改めて――新島 真よ。よろしくね」
その名を聞いたと同時に――ピリッ、と
―――"今日は、知識のない勉強を――貴方としたいな、って……"
そう言いながらも、顔を逸らす彼女。逸らしたことで見えた耳は赤に染まっていた。
―――"……一緒に、いたい"
頬を赤に染めながら、恥ずかしげにそう言う彼女。
……また、だ。また自分の知らない記憶が流れ込んできた。
新島さんも、真さんとも小さい頃に会った覚えはある。恥ずかしながら会って初めて自覚したと言っていいのか。
だが、先程の記憶は……小さい頃ではなく、今の自分に近い時間軸での記憶だったように感じた。
新島さんの見知らぬ記憶もそうだ、明らかに小さい頃の記憶ではないと言い切れるぐらいに。
……ともあれ、黙っていては不審に思われる。何とか取り繕って彼女に返事しようとして。
「分かった。よろしく――ブチまこと」
「ええ、よろしくね――……ちょっと待って?」
はて、何か気にかかることでもあったのだろうか。
「ブチまことって、何?」
「ブチまる君が好きだから"ブチまこと"」
「あ、それ覚えてたんだ――ってちがっ、せめて他にしてくれないかしら……」
ふむ、それならばどんな名前がいいだろうか?
「……そんな真面目に考えなくても。普通に真、と呼んで欲しい」
真摯に悩み始めた蓮を見かねての事か、真はそう口にした。
普通にそれでいいのであれば、と思い直すことにして。
「改めて。よろしく、真」
そう口にすると同時に手を差し出す。
「よろしくね。蓮」
それに応える形で、手を差し出してきてそのまま握手をする。
「……仲がいいわね、二人とも」
これなら心配はなさそうね、と新島さんがそんなことを口にする。
――よく考えてみると、真と新島さんとではどちらがどちらなのか分かりにくい気がする。ならば彼女は何と呼ぼうか?
う~ん……そうだ、この呼び方はどうだ?
「――さえっちゃん」
「やめて頂戴。そう呼ばれたの、初めてよ」
流石、場を踏んできたもようで華麗に拒否された。ううむ、持ち前の度胸で言ってみたはいいがこれではダメか。
「……ふふっ!」
すると、真から笑いが零れる。訝しそうに彼女の方に目を向ける冴さんに弁解するように。
「だって、お姉ちゃんが揶揄われるなんてあまり見ないもの」
真の言葉に合点がいったのか何とも言えない様子で、彼女は頭を軽くかいた。
――結局のところ、彼女の事は"冴さん"で呼ぶこととなったのだった。
◇
それから、冴さんに軽く部屋中を案内してもらい、最後にこれから1年間お世話になるであろう部屋に着く。
部屋のドアを冴さんが開け、それに続いて部屋に入る。
「おお……」
部屋の中を一目見て、思わず声を上げてしまう。
ベッドに、布団……机や椅子、小さなクローゼットなんかがあって、男一人が暮らすには充分困らない部屋であることは確かだった。
充分過ぎるぐらいな部屋で逆に本当にここ使っていいのだろうか、と申し訳ない気持ちが出てくるぐらいにいい部屋であった。
「それと……」
そして、冴さんから"日記帳"のようなものを手渡される。
「君も話に聞いているのでしょうけど……日頃の記録を付けて頂戴ね」
予め話を聞いていたのもあり、すぐ合点がいき了解の返事をして受け取る。自分という身を預かる上は、定期的に報告を上げる必要があるのだろう。
その後は軽く話をしてから冴さんがこの部屋から出て行った後、自分が持ってきた小さな鞄を床に置いて、ひとつ背伸びをする。
これから、しばらくここで暮らすのか……と感慨に浸る。
そう言えば、この部屋に置かれている重ねたいくつかの段ボール。どうやら実家から送ったものが届いたようだ。改めて受け取ってくれたようで感謝である。
ひとつの段ボールを開け、そこに入っていたいくつかの物を整理する。
・フィジカル軟膏×5
・宝玉輪×5
・ソーマ×5
・ソウルフード×5
・ホムンクルス×5
・¥100,000
を入手した!
「……」
……まだ時間はありそうだ。ならば、残りの段ボールを開けて、自分の荷物を整理しておくか。
これは、ここに置いて。
これはあそこら辺に置いて。
服はクローゼットにしまって。
近い内に読もうと思っていた『キックボクシング~入門編~』等といった本を机の上に出しておいて。
最後に、
後は……そうだ、スマホの充電も済ませるか。部屋に常備してあるコンセントに充電器を差し込み、スマホを充電する。
そんな時、ドアをノックする音が聞こえた。言わずとも、冴さんが様子を見に来てくれたようで冴さんに返事をして。
「いい感じの部屋になったわね」
ドアが開かれ部屋に入ってきた冴さんは、ぐるりと部屋をひとまわり見てそんな言葉をくれた。
「――あら、これは……?」
すると、先ほど机の上に出しておいた本に興味を持ったのか冴さんはそちらに顔を向けた。
「ああ、最近運動不足気味で。ものは試しにと思って買ったんですよそれ」
「そうなの……奇遇ね、私もこれやってるわ。といっても最近はなかなか時間が取れないのだけど」
「えっ?」
冴さん、キックボクシングやってたのか。――あれ、これもしかなくても何かやらかしたらマジで危険なのでは。冴さんのキックとか食らった日には……
「……何かしら?」
訝しそうにこちらを見ていた冴さんに慌てて弁解することにして。
「いや、えっと……お手柔らかにお願いします?」
「ふふ、そういう訳なら今度時間がある時にやりましょうか」
何とも背筋が寒くなる微笑みを浮かべる冴さん……あっ、言葉選びミスったかコレは。
「ごほん。明日、君が転校する予定の所に挨拶しに行く事になっているのだけど……」
ひとつ咳払いをして、話を切り替えた冴さんから話を切り出される。
――秀尽学園高校。数々ある進学校の一つで、明後日から通うことになる高校の名前だ。
「確か……蒼山っていう所でしたよね」
「ええ、その場所で合っているわ」
蒼山一丁目の所にあって、バレーボール部が有名であるとかネットで調べた限りであった。
「――そういう訳だから、今日はゆっくり休みなさいな」
要件だけを伝えた冴さんは、そう伝えてそのまま部屋から出ていった。
スマホで時刻を確認すると、もうそろそろ寝てもおかしくはない時刻だ。……部屋の片づけをしていたら、いつの間にか夜になっていたもよう。
部屋の電気を消し、用意してくれたベッドで横になって見慣れない天井を眺めながら今日一日振り返る。
……落ち着いて考えられるようになった今こそ、
初めて……いや、正確には初めてではないが、"初めて"会ったとして。そこで、急に見知らぬ記憶が流れ込んできたあの感覚。白昼夢、にしてはやけにリアルだったのもあってどうも気に掛かる。
冴さんと会った時も、真と会った時もあの妙な現象が起こった。
流れ込んできたと思われる記憶は、途切れ途切れだったが……読み取れる内容から考えるに。
……深い関係に、ある?
いや、まさか。と思ってても読み取れる内容からすると、そうとしか考えられない。
……これ以上考えてもどうにもならなさそうだ。ともあれあの不思議な現象については、余裕がある時に改めて考えることにしよう。
そう思うと同時に、丁度よかったのかどことなく眠気がやってきた。
その眠気に身を委ねるままに目を閉じ、意識を沈ませるのだった。