あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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17.綺麗な月~運命の流れに~

(ここが正念場だ――)

 

玉座へと階段を上り、魔王にゆっくりと、さながら平和な街の中を歩くかのように自然体で。

悟られないよう、あらかじめ鞘から抜いていた短剣を袖の中に入れたまま魔王の腹へと導く。

しかしそれは防がれ、魔王があたしを突き飛ばそうと拳を……

 

(これでいい……)

 

妙にゆっくりに見える大ぶりの攻撃。

脳が死を予感してゆっくりに見えてるだけで、実際はとてつもない速度……

避けることなどできるはずもなく、あたしは目を瞑る。

 

(よかった…………成功だ)

 

眼前に迫る拳を見て、死を予感して目をつむる。

……と、次の瞬間、激しい衝撃。

魔王の拳ではない。

それは、いつもいつも爆裂散歩と称して付き合わされていた――

 

「『エクスプロージョン』ッ!!」

「くっ……! 何だ今の揺れは!? まさかこんな時に限って敵襲か!」

「……バニルのやろう、間に合わせやがって」

 

決めていた合図ではない。

だが、こんな馬鹿な魔法を躊躇いなく使うやつはこの世であの頭のおかしい紅魔族しか考えられない。

アイツらがあたしを追いかけて、追いつきやがっ――

 

「『エクスプロージョン』ッ!!」

「はぁっ? に、2回? この短期間で……いや、期間とか関係なく爆裂魔法を2回も連続で撃てる人類なんていてたまるか! まさかあの堕天使の爆裂まほ――」

「『エクスプロージョン』ッ!! 『エクスプロージョン』ッ!! 『エクスプロージョン』ッ!! 『エクスプロージョン』ッ!!」

 

うん、爆裂魔法を使えるやつはこの世界でほんの一握りなのにこの連続での爆裂魔法……。

たぶん……いや、間違いなく、こんな連続で爆裂魔法を使えるやつなんて爆裂バカ以外いねえな!

本当にアイツら……馬鹿だな。

……だってあたし、魔王城にいるんだが。

それを知ってこんな……

 

「ぴぎゃあああああ! ま、魔王様たすっ、助けてください!」

「親衛隊が情けないことを言うな! 瓦礫に頭を潰されないように自分で守れ!」

「そそそそんなことを言われましても! ああっ! ランサーが死んだ!」

「コノ人デナシッ!」

「勝手に殺すな! やつは四天王の中でも最弱だが、流石にまだ死んでないだろ! 回復魔法をかけてやれ! ドレインタッチでもいい! 急げ!」

 

普段から爆裂魔法に慣れている私は一人で情けない親衛隊の様子を傍観――

 

「ま、魔王! いえ、魔王様、たしゅけ、助けてください!」

「ええい俺は自分を守るので手一杯だ、寄るな逆賊め! さっき俺のことを殺そうとしたのに助けろなどとおこがましいぞ!」

 

できるほど余裕じゃなかった。

立っていられないほどの揺れに、私の体は宙に放り出され、壁に叩きつけられる。

もう、さっきまで魔王を道連れにして死んでやるだなんて意気込んでいたのに、こんな爆裂魔法の余波で死ぬだなんて馬鹿な死に方、あたしにはできなかった。

 

「そんなこと言わないでくださいよ! それにさっきのはちょっと間違えたといいますか……」

「お前、アレを間違えたで済ませるなら警察も閻魔もいらないぞ!」

「私たちは仲間でしょう? どうせ、逝くときは一緒です!」

「そんないい風な言葉で騙されるか! 道連れにするな!死ぬときは一人で勝手にくたばれ! 助けた瞬間に攻撃してくるに決まってるだろ!」

「そんなことしなっ……! な、なら、私のことをグルグル巻きにして、カズマたちに人質として見せつけてやってくださいよ! そうすればきっとこの魔王城に何の恨みがあるんだってくらいド派手な爆裂魔法連打はやめてくれるはずです!」

 

それはもう、必死だった。

文字通り、窮地に立たされると人の本性ってのは見えてくるもんだな。

なりふり構ってられないあたしは「自分を人質にとってもいいから助けろやゴルァ!」と懇願してるのにもかかわらず一切取り合ってくれない魔王にしびれを切らし。

 

「ああっ! もう埒があかねえ! いいか、ここであたしが死んだら親衛隊まで死ぬんだぞ! それでもいいのか!」

「いいよ!」

「「「よくないよ!!」」」

「俺は生き抜く! お前には大切な娘がいるし、だからお前らは先に逝ってくれ!」

「魔王様がご乱心だ! セレスディナを守るんだテメェら!」

 

親衛隊の絶叫が響き渡る魔王城。

爆裂魔法の嵐はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

俺とめぐみんの魔法で魔王城の結界を破壊し、木っ端の魔法軍だけでなく世界最強の魔法使いを打ち倒し、魔王城へと入る。

この巨城は強固な造りをしているのか、結界が砕けた後に何発爆裂魔法を食らおうと原形をとどめていた。

いや、むしろとどめてもらってないとセレナが生き埋めになってるってことで、そうならず胸をなで下ろす。

 

そんな魔王城に足を踏み入れ、混乱で荒れ狂うモンスターをばっさばっさとなぎ倒し、なぜか仮面の人の案内でいかにも罠なスイッチで魔王がいるという最上階まで爆速で到達。

正直どうしてこんなルートを知っているのかだとか問い詰めたいところだがぐっと押さえ込み、俺たちに攻撃を仕掛けてくるモンスターに対処しながら走り……

 

「よし、着いた。たぶんセレスディナはこの奥、魔王の所にいるはずだ」

「……あの、それはつまり玉座ですよね? 私たちが城に入ってからまだ数分しか経ってないと思うんですけど……」

「ゆんゆん、一ついいことを教えてあげましょう。仮面の人に常識を求めちゃいけないのです」

「さ、さすがにそれは言い過ぎじゃ……」

「いいやゆんゆん。狂ってる度合いでいうと紅魔族よりアクシズ教、アクシズ教より仮面の人だ。どうせ聞いてもはぐらかされるしな、聞くだけ無駄というやつだ」

「アッハイ」

「あっはいじゃないですよ!? 紅魔族が狂ってる判定されるのは誠に遺憾なのですが! 自分だって紅魔族の一員なのにどうして認めるのですか!」

 

そりゃゆんゆんが紅魔族らしからぬ常識的な感性を持った特殊な人材だからだと思うよ?

そんな突っ込みを心の内にしまい込み、眼前に迫る最後の扉をぶち破る準備をする。

マナタイトを持ち、爆裂魔法よりは威力を抑え、されど通常の上級魔法よりも高火力の魔法を最後の扉に向けて――

激しい轟音が扉をこじ開けた。

 

 

「大丈夫かセレナ!」

「大丈夫なわけあるかっ!!」

「よかった、無事だったみたいだな」

「あれ、もしかして言葉通じてない!?」

 

煙が舞い上がる中、俺が叫ぶと聞きなじみのある声が返ってくる。

姿は確認できないが叫び返してくれるくらい元気なことを確認でき、思わず胸をなで下ろす。

ウインドブレスであたりの煙を吹き飛ばすと視界が晴れてゆき、徐々にセレナの姿が見えてくる。

同時に、セレナが一体どういう状況なのかも。

 

「せ、セレナ!? くそっ、卑劣な!」

 

先頭のダクネスが怒りをあらわにする。

セレナは魔王の親衛隊の中心に捕らわれているようで、俺も思わず顔をしかめる。

そんな俺たちを見て魔王が。

 

「な、何か勘違いしてないか? 俺は別にコイツを引き剥がしたいと思ってただけで――」

「まさか人質にとるなんて! なんたる非道、清々しいほどの姑息っぷり、さすがは魔王ですね!」

「ち、ちがー! 誰が自分を殺そうとしてるやつを近くに寄らすか! 俺はコイツを人質にとろうだなんて思ってな――」

「ずるい! ずるいぞセレナ! そこは私の、女騎士のポジションなのだ!」

「だから違――今ずるいって聞こえてんだが?」

「言ってない。ただ一言言わせてもらうとすると、確かに聖女や姫も魔王に酷いことをされがちなポジションだが、当家の調査結果では女騎士の方が統計上魔王に捕らわれがちなのだ!」

「なんだその統計は! というか俺もその前の代でも魔王はそんな騎士を殺せど卑猥な行いは……」

「だというのに……! 今からでもいい、代われ! 代わってくださいお願いします!」

「本当に貴様は何を口走っておるのだ!?」

 

謂われのない誹謗中傷で項垂れる魔王。

思いのほかダクネスの口撃が効いてるみたいだ。

ダクネスの怒濤の性癖開示にたじたじになっている魔王には心から同情するが、このままダクネスがヘイト稼ぎしてくれれば俺かゆんゆんがこっそり姿を隠してセレナを魔王から引き剥がせる。

ゆんゆんに目配せをしてライト・オブ・リフレクションの準備を促し、自分も潜伏スキルを使ってセレナの方へ近づこうとしたその時、魔王は。

 

「ああっもう人質でいい! だから寄るんじゃない! お前らが魔法を使って、それが万が一でもコイツに当たったらどうなるか! わかったら大人しく武器を捨てて投降して――」

「そうだ、投降しろ! さもないとあたしが死ぬぞ!」

「せ、セレスディナ? 一体何を言って――」

「カズマ、めぐみん、ダクネス。ごめんな。さっきの爆裂魔法がトラウマになって……あたしはまだ爆死したくない!」

「セレスディナ、ややこしくなるからちょっと黙ってろ!?」

 

な、なんてこった…………セレナが魔王に洗脳されて魔王軍幹部に戻ってる、だと!?

口調が荒いし、まさか闇落ちしたってことか!?

い、いや落ち着けサトウカズマ!

セレナはそんな催眠にすぐかかるようなやつじゃないはずだ……

 

となればこれは魔王の仲間だというふりをして、俺たちを撤退させたあとに自害するつもりなんじゃないか!?

セレナが残してくれた手紙には魔王軍幹部に戻る的な話が書いてあったし、つまり、今のセレナは魔王軍幹部という、謂わば都市迷彩をまとっている状況。

自分が魔王側にいてもおかしくない状況で、魔王の寝首をかこうとしていたときに俺たちが突入してきたってところだろう。

 

仲間が来たっていうのにわざわざ俺たちを引き離すような言動……

俺たちを退場させたそのときにでも最後の作戦を実行するに違いない!

 

「セレナ! 馬鹿な考えはやめろ! 俺たちがすぐに助けに行く!」

「い、いや、本当にそういうのいいんで早く投降しろよ」

「わかってる、魔王軍に入った理由が魔王を暗殺するためで、お前が魔王のことを殺したいほど憎んでるってことは」

「そうだったのか!?」「違う! 魔王が敵の話を鵜呑みにすんな!」

 

魔王に驚くほど素早く反応を返すセレナ。

だが、お前の魂胆はお見通しだ。

ここで全部台無しにしてやる!

 

「セレナ! 俺たちがいるせいで魔王を殺せない……そう思ってるんだろ!」

「思ってな……!」

「お前が魔王軍幹部のふりして、復讐の能力で魔王を道連れしようとしてるのはわかってるんだ! お前こそ、大人しく俺たちの方に投降しろよ! でないと後から追加でヒンヒン言わせてやることになる!」

「本当にやめてくだ……やめろよ! あたしは」

「どうせお前に復讐の能力があるかぎり、魔王もお前に手出しできない! 俺らが迎えに行ってやるから、そこで待ってろ!」

「……」

 

顔を覆い何も言えないでいるセレナ。

俺たちを巻き込んだことを悔やんでいるのか、どう思っているのか、その表情も何も読み取れない……が、そんなこと俺には関係ない。

ただ、魔王を倒して仲間に説教するだけだ。

 

「覚悟しろよ、セレナ!」

「覚悟するのはあたしじゃなくて魔王の方だろ!?」

「矮小な人間め、覚悟するのはどちらか思い知らせてくれる!」

「ちちち違うんです魔王様! あたしは魔王様に敵対したわけじゃなくてカズマに突っ込んだだけで! だからあたしの方に睨みきかさないで!」

 

 

 

 


 

 

 

 

ミツルギをメインにおき、ミツルギの仲間がそれに続く。

ゆんゆんと俺、仮面の人は攻撃やら支援やら回復の魔法でそのサポート。

ダクネスは防御力が低い俺たちを守って……

 

そんな完璧に近い陣形にも関わらず、戦いは熾烈を極めた。

魔王によって親衛隊は強化されてるから、魔王をなんとか倒せばあとはこっちのペースになるはずだと考えて攻め込んでいるのに、その距離が遠い。

近づこうにも親衛隊が邪魔をしてくるので魔王に到達できないんだ。

高齢になった魔王は全盛期より弱体化してるらしいし、近寄れればなんとかなりそうなのに……

 

「ああっ全然近づけねえ!! 仮面の人なんとかならないのかよ! ほら、ベルディアとかバニルをおちょくってたみたいにさ!」

「無茶言うな! 魔王軍幹部並の強さの敵、一体や二体ならできなくもないかもしれないが、流石にこの数は無理だろ!」

「一体や二体なら何とかなるんかい!」

「いや、それも言い過ぎだけど! というかお前はチームの作戦立案係なんだからさっさと悪知恵働かせて何とかしやがれ!」

「お、お前が言う!?」

 

魔王が難しいから最初に親衛隊を一人一人相手にしてから魔王を……という余裕はない。

俺たちの行く手を阻む親衛隊はセレナを人質に取っており、その上一人一人が上級魔法を操る魔王軍幹部級の兵士。

いくら親衛隊はセレナを殺すことができないと言っても、セレナに魔法攻撃が当たってしまわないかという問題だけでなく味方が捕らわれているという精神的負担が魔法を撃つ手を鈍らせる。

もし、セレナを奪取できれば俺やゆんゆんの攻撃を激しくできるのに……

そのことを親衛隊も理解しているのだろう、激しい攻撃ができない俺たちに対して絶対セレナを渡すまいと苛烈な魔法を連続で放つ。

 

「うぐ……ッ」

「だ、ダクネス!」

「大丈夫だカズマ! まだ楽しめるだけの余力はある!」

「今楽しんでるっつったか」

「言ってない。ただ、このままでは私も長くは保たなそうだぞ……何か良い策はないのか」

 

そんな軽口を叩いているが冷や汗と傷が増えるばかりで……

ダクネスへ支援魔法と回復魔法を俺と仮面の人がかけ続けているが、いくら支援の効果が重複しているとは言え、余裕がないただの強がりだと、士気を落とさないために吐いた嘘だと、不安で俺の心臓の音が早まる。

 

ゆんゆんが懸命にその攻撃を撃ち落とすも、数の差は顕著で、次々に押し寄せてくる魔法を受け止めているその背中。

魔法はどれもダンジョン攻略の際にウィズが使っていたドラゴンの腹に致命的な風穴を開けた恐るべきソレと同程度の威力で、どれもが致死級の一撃。

けれど俺たちの壁になり続ける。

 

(どうする……どうすりゃこの状況を乗り越えられる……)

 

セレナを奪還したらめぐみんの爆裂魔法の出番だ。

城ごと吹き飛ばすその瞬間に、俺と仮面の人、それからゆんゆんが習得しているテレポートで城から抜け出せばいい。

そうすれば魔王も親衛隊もただじゃすまないはずだ。

うまくいけば爆裂魔法のダメージだけじゃなく、瓦礫の下敷きになってそのまま倒せるかもしれない。

 

だが、その状況に届かない。

セレナに俺の手が届かない。

 

爆裂魔法を撃つまで何もできず、杖を悔しそうに握りしめるめぐみん。

作戦を伝えたときにもそうだった。

普段なら爆裂魔法を信じて高らかに笑っているのに、いざというときに何もできない自分のことが……

爆裂魔法以外を覚えていたら自分も何かしらできたのに、と。

そんな顔を見て、なんとなく、いつもだらけてばっかだが、今日くらいは頑張ってもいいかなと、そう思って――

 

「はぁ……お前がいなきゃ魔王城に入れなかったんだ。そんな顔すんな」

「ぇ……?」

「今からなんとかしてやるから、お前は爆裂魔法の準備して待っておけ」

「で、ですがどうやって……」

 

俺はめぐみんが被ってる帽子を押さえつける。

別に目に滴が溜まってたとか、泣きそうな顔をしていたとか、そういう理由で顔を隠してやったわけじゃない。

ただ、いつも強気なロリっ娘が弱気だと、こっちも調子狂うだろ?

 

「……本当は、みんなで魔王討伐する予定だったんだがなぁ」

「か、カズマ、一体何をしようとして……」

「いや別に。ただこれから魔王のこと、テレポートでダンジョン送りにしようかと」

「え……ええ!?」

「俺一人だけで魔王倒せば一人だけちやほやハーレム! 夢が広がるぞヒャッホイ!」

「な、何を馬鹿なことを! 茶化すようなことを言ったって騙されませんよ!」

「まあさすがに冗談だ。ただ、テレポートで魔王の足止めしておくから、その間に親衛隊を倒してくれよ。そのタイミング見計らって俺はダンジョンから脱出するからさ」

「討伐するしないという問題ではないのですよ! 魔王ですよ! そんな大物を、何一人で抱え込もうと……」

 

そんなこと言われたって……

ほかの作戦、思いつかなかったんだ。

それに別に、危なくなったらテレポートで逃げるし。

まあ、状況によっては死んでも止めるかもしれないが、たぶんそんなことにはならないはずだ。

瞳を見て何を感じ取ったのか、めぐみんは顔を俯かせ。

 

「大体、そんな無茶……魔王の魔法抵抗力の前では――」

「俺の幸運値のステータス忘れたのか? 大丈夫。それに、不意打ちやら奇襲やらに定評がある俺だ。作戦もある。……きっとうまくいく」

「それはなんともカズマらしい定評ですが危険すぎ――」

「ああっもう! いいから見てろ! なんだかんだで長い付き合いになるんだから、こんな時くらい俺を信じろよ」

「長い付き合いだから信じられないんですが」

 

コイツ、引っぱたいてやろうかな。

せっかくのかっこいい台詞に舐めた返事をするめぐみんに。

 

「いい、から! お前は爆裂魔法のことだけ考えてろ! この爆裂バカ!」

「ば、バカとは何ですか! わかりました、ええ、わかりましたとも! 信じてもいいのですね!? ならば私もやってやりましょう! 魔王やその側近程度、我が爆裂魔法の前ではいかに無力であるか思い知らせてやりますよ!」

「ちょっとまってめぐみん!? まさかここで爆裂魔法を使う気じゃないわよね!? 私たちまで生き埋めになっちゃうから! セレナさんを助ける前に死んじゃうから!」

「ゆんゆん、私たちは仲間じゃないですか。……逝くときは一緒です」ニコ

「……へ?」

 

ゆんゆんが目を丸くした瞬間、めぐみんを中心にぶわりと魔力が放出され渦を巻く。

ビリビリと大気を振動させる魔力のうねり。

……この空気もこれで最後かと思うとなんだか感慨深いものがある。

そんな俺の達観した心情とは別に、魔王やその親衛隊、そして味方でさえも、その空気に触れた瞬間、緊張が走り汗が吹き出る。

 

「いぃぃぃいいやぁぁああああっ!! カズマさんなんてことを! 本当に何唆したんですか! めぐみんになんて発破かけちゃったんですか! もうあの子止まらないですよ!?」

「……俺も今になって後悔してる」

「ま、まさか作戦もなしでこんな恐ろしい状況を……!?」

「いや、さすがに作戦ならあるが……」

「めぐみんを新たな魔王にするとかじゃないですよね? 仲間を見捨てて一人ぼっちになっためぐみんが新たな魔王として君臨するとかじゃないですよね!?」

「違う、違うから肩を揺らすな! あと騒ぐんじゃない!」

 

今にも暴走しためぐみんを止めるためにドロップキックをぶちかましそうなゆんゆんを手で制止させる。

この作戦は魔王にテレポートを仕掛けるだけで、口で言うだけなら簡単なもんだが、魔王の魔法抵抗力を貫通させないといけない。

それには身構えられてもらっちゃ困る。

 

「いいか、めぐみんには爆裂魔法で注意を引きつけてもらってる。あれは本気の演技だ」

「ほ、本当ですか? あのめぐみんを見てるとふりじゃなくて本当に撃っちゃいそうな気がするんですけど……」

「ウン、スゴイ演技力ダネ」

 

流石めぐみんのライバルを自称する親友、勘が鋭すぎる。

俺は別に弱気になってるめぐみんをいつもの爆裂狂いに戻しただけだからめぐみんのあれは演技じゃなく……マジである。

まあ、それは知らぬが仏ということで、これは優しい嘘ということで。

 

「とにかく、俺は魔王に気づかれないように近づいてテレポートして足止めするから、そうすれば親衛隊は弱体化するし、お前らだけでも倒せるレベルになるだろ?」

「で、でも、それはカズマさんが一人で魔王と戦うってことで……」

「勇敢だろ? 魔王ってのは勇敢な冒険者との一騎打ちからは逃げられないそうだ」

「……その子鹿みたいな膝の震えがなければ勇敢に見えますけど」

「震えてない。とにかく、俺がテレポートで魔王を足止めするからお前たちはその間にセレナを頼んだ。いいな!」

「いいなって、そんな無茶な要望……ああっ、カズマさん! せめてこれだけでも! 『ライト・オブ・リフレクション』」

 

不可視化の魔法だ、潜伏スキルと併せていけば限りなく気づかれないだろう。

あとはこの状態でテレポートできるかどうか……

テレポートできれば親衛隊の強化がなくなって、ゆんゆんとミツルギだけでもセレナに当たらないように手加減しながらも親衛隊を崩せるはずだ。

 

本当は人数的にも精神的にも状況的にも有利な時に戦いをしたかったが、持久戦はかえって状況を悪化させる……短期決戦じゃないといけない。

逃げられるなら逃げ帰りたいがそうもできない。

もう、この方法しか思いつかない。

 

そして、その作戦通り、親衛隊もほかの奴らもめぐみんに釘付けになった状況。

そうなればあとは最後の仕上げだ。

 

「ダクネス」

「か、カズマ!? 何かいい考えを思いついたのか……!」

「ああ。姿を隠して、背後から魔王を奇襲してやるから……だから、その……」

「ああ、回復と支援がなくなるのか」

「……耐えられるか」

「ああ、耐えてみせよう。むしろ望むところだ!」

「頼んだ。……セレナとめぐみんのこと、任せたぜ!」

「あ、ああ。任された! いくぞ、『デコイ』――ッッッッ!!」

 

ちょっと別れの挨拶っぽくなったが、ああ言っておけば何かあってもダクネスがなんとかしてくれるはずだ。

傷だらけのダクネスがスキルを唱え、真正面から突っ込んでいった。

囮スキルのおかげでめぐみんに加えてダクネスの方にも注意が集中する。

 

ダクネスが親衛隊に殴りかかっている間に、俺は魔王の背後に回ることに成功した。

まったく気づかれていない。

こ、このまま魔王の心臓を一突きすれば倒せるんじゃ……

そんな欲が湧いてくるが、仮面の人が魔王に即死スキルは効かないって言っていたじゃないかと余計な考えを振り払う。

 

 

――ああくそ、やっぱり怖い。

魔王は無防備に背を向けている、チャンスは目の前にある。

あとは飛び出すだけなのだ。

キッカケが、何か、勇気が出るキッカケが欲しい……!

――と、潜伏中にも拘わらず、めぐみんとダクネスと目が合った気がした。

いや、実際目が合ったのだろう。

そしてセレナも……

 

何かを察したのか、セレナが俺の方にかけよろうとして、その結果、親衛隊の陣形が崩れていく。

目を大きく見開き、声を出そうとしたみたいだが――

 

「『テレポート』――ッ!」

 

その声で何を伝えようとしていたのか、俺には届かなかった。




原作ではエリス様とアクアのダブル支援魔法を受けたカズマがテレポートしようとするも、その転移の時に魔王はカズマの存在に気づく。弱体化の影響で魔法抵抗力も低下している魔王はカズマの魔法に抵抗できずダンジョンへ。
今作では支援魔法はそこそこに、魔王は弱体化してなくて、しかしカズマの機転で気づかれることなく魔王をダンジョンへ転移させることに成功した。
――いや、成功してしまった、と言うべきでしょうか。
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