あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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※カズマのマナタイト所持数は3つ。仮面の人に分配したため原作より少ない設定。
 (結局仮面の人はカズマさんなので総量は変わらないんですけどね)


17.終局特異点~限られた生をもって~

「『テレポート』――ッ!」

 

その瞬間、ゆんゆんから離れたことでかけてもらっていた屈折魔法が解除される。

薄暗いこの場所は、ゲームのラスボスの部屋のように、仰々しくも禍々しい装飾が施された扉の前。

テレポートで転移した先は例のダンジョンの最下層。

この階層にはモンスターの気配はない。

以前、ウィズとバニルに手伝ってもらいここまで来たときもそうだった。

魔王の相手をして、時間を稼ぐにはもってこいの場所だ。

 

「なっ!? ここは――」

「『ティンダー』『ウインドブレス』ッ!」

「ぐ……っ!!」

 

驚いた様子の魔王に、間髪入れず魔法をお見舞いし――

爆発の轟音がダンジョンを揺るがした。

攻撃と同時に魔法を撃ち出したの反作用で魔王から飛び退き……地面に背中から落ちる。

 

「いっつ……ッ! 『ヒール』『ヒール』ッ!」

 

直撃してないものの痛みを感じる爛れた皮膚に魔法を唱える。

俺が使う魔法はめぐみんほど威力はないとは言え、上級魔法と同じくらいの威力。

しかも炎と風という組み合わせ、炸裂魔法やら爆発魔法くらいの威力はあったはずだ……見たことないから知らんけど。

 

痛みが治まるとダンジョンの天井からパラパラと落ちた土を背に感じる。

あと少し火力調節を間違えていたらダンジョンに生き埋めになってたかもしれない現状に背筋が凍る思いだが、同時にそんな魔法に直撃したら魔王もただじゃすまないはずだとニヤリと口角を上げた。

なのに……

 

「ぐううう、姑息な真似をしてくれおって……この濃い魔力からして、どこかのダンジョンだな? しかし崩落を誘発するような魔法を放つか……バニルのような破滅願望でもあったか?」

「まさか。……まあただ、自分の死を計画に入れるバカはアイツだけで十分だろ?」

「それもそうか。……となればお前の目的は時間稼ぎか。その間にお前らの仲間が親衛隊を倒す算段か?」

「概ね時間稼ぎって認識で間違いないが――」

 

別に、お前を倒してしまっても構わんのだろう?

 

そんな勇敢なアーチャーの台詞を吐くには至らなかった。

それは単純に死亡フラグとして扱われている台詞だからってのもあったが……

思わず暗闇の中を見て冷や汗を流す。

声の位置を確認すると最初は熱を纏った煙がその姿を隠していて、敵の輪郭がわからない状況だったが、その煙の中からゆっくりと姿を現し……

 

「どうして直撃してそんなピンピンしてんだよ……」

「いいや、今のはかなり痛かったぞ」

「いやいやおかしい、おかしすぎるだろ! ダメージは左腕だけで他がほとんど無傷なんて……!」

「自己紹介してなかったか? こんな老いぼれだが、現役の魔王だ。あの頭のおかしい紅魔族の娘が俺の城に放ってきた爆裂魔法でも一発なら耐えてみせる」

「知ってるよ! いや、爆裂魔法耐えられるのは知らなかったけど、だとしても仲間を顎で使うのがお前の戦い方なんだろ!? もう少し苦痛で動けなくなる程度になってほしかったんだが!!」

「顎で使うなどと人聞きの悪いことを言うな!」

 

その体は健在で、あまりダメージが入っていない。

いや、瞬時に体を庇っただろう左腕は焼け焦げ、原形をとどめていなかったが、それでも痛みを感じていないかのようで……

次の攻撃はどうすべきかを考えている間にも魔王は俺の言葉にかみつく。

 

「そもそも顎で使える程度の幹部であったら俺はこんなに苦労してない! 特に幹部ども! 風呂場に頭を置き忘れるヤツとか食料の備蓄を喰らい尽くすヤツとか金を溶かすヤツとか悪感情貪るヤツとか合体したいやつとか宗教活動し出すヤツとか!」

「お、おう……お前も大変なんだな?」

「この苦労、わかってくれるか? ……いやすまない、愚痴ばかりだな……」

 

……どうやら魔王は苦労人らしい。

魔王もアイツらに苦労させられてきたんだな……敵なのに思わず同情してしまった。

今まで俺たちが倒してきた相手――めぐみんとかダクネスみたいに癖がすごい味方の厄介さは身をもって知ってるせいで……

って、そんなん考えてる場合じゃ――ッ!

 

「さて、仕切り直しとしようか。俺を足止めして、その間に親衛隊をお前らの仲間が倒す算段なのだろう? であれば俺としては時間が惜しい」

「げぇ!?」

「先の礼だ。『カースド・ライトニング』!」

「……ッ!」

 

バチバチと爆ぜる黒い稲妻を見ると、このダンジョンでウィズが使っていたアレと同じ魔法であるとわかる。

俺のクリエイト・アースで防御しても貫通するとか考える暇もなく、ヤバい魔法が飛んでくるのを直感で理解し――

 

「……躱しただとッ!?」

「ふう、危ねえ危ねえ……。まったく、魔王ともあろうお方が初級魔法で火傷して、そのことに腹立てて仕返しっスか」

「あれが初級魔法な訳あるか! 貴様のオリジナル魔法だろ! 敵の油断を誘おうと魔法名を初級魔法と同じものにするとは……なんたる鬼畜!」

「鬼畜じゃない! まあ、俺くらいになると初級魔法を上級魔法レベルに引き上げるのも訳ないんですわ! もう老いぼれ魔王の攻撃なんて反射神経で余裕っスわ!」

「雷を反射神経で避けられるか!」

 

ま、マジで死ぬかと思った……

なんとか回避スキルが発動して避けてくれたみたいだが、魔法が通過したのはちょうどさっきまで俺の胸があった位置。

魔法を使おうとする間もなく通り過ぎていった黒い雷を見て汗がしたたり落ちる。

幸運でよかった俺! 生きててよかった俺!

そう、生を実感して喜びをかみしめていると。

 

「あれは回避スキルか? ……幸運が高ければ高いほど発動しやすくなるとは聞くがまさかこの土壇場で発動させるとは相当幸運値が高いと見える。その運だけでここまで来たか?」

「う、運だけとか言うなよ! 確かに冒険者登録したときにギルドの職員さんから『冒険者より商人をやった方が……』って言われるくらいには幸運値が高いけど! 知力とか高いって言われたから!」

「それも冒険者向けのステータスじゃ……」

「うるさい! 俺らの策略に嵌まってベルディアとかハンスとかその他大勢の幹部はやられたんだ! あんまりカズマさんのこと舐めんなよ!?」

「そうか、お前が幹部を……」

 

俺を睨み付けてくる魔王は伊達に年食ってるわけじゃないらしい、老獪なヤツだ。

加えて上級魔法以上の威力を受けても平然と立ち上がってくるし、さっきの2つの魔法をもう一度使ったとしても……

それに、もし使ったとしてもダンジョンがどこまで耐えられるか。

 

まさに理不尽の権化と言ってもいい。

上級魔法何発撃てば魔王に勝てるのかわからない。

対して俺は一撃でも直撃すればゲームオーバー。

頼みの綱の回避スキルは次発動してくれるかわからない。

こんなヤツ、俺一人で魔王をどうやって倒せと。

 

(一先ず距離をとらなきゃ話にならないなこりゃ……。)

 

どう足掻いても魔法使いにさえ負ける俺が殴り合いなんてできるわけない。

……というか懐まで入られたら回避スキル以外為す術がないので、遠距離で戦うしかない。

だから魔王に背を向けて足を動かそうとしたのだが、その瞬間、魔王が不敵な笑みを浮かべる。

 

「幹部を倒したと豪語しながら俺に背を向けるとは……逃げたければ逃げればいい。だが生憎、鬼ごっこに付き合う暇はない。俺は城に帰らせてもらうぞ」

「あ? なぁに勝手に勝ち誇って逃げようとしてんだ魔王様? ただ距離をとった冒険者を見てここぞとばかりに逃げた判定して、なに日和ってるんの? もしかして俺にビビってんの? それとも最弱職な俺が使った魔法が予想以上に効いてビビってんの?」

「そんな煽りは聞かないぞ。大体最弱職? あの威力の魔法を見せて、もう少しましな嘘をつけ。あんなのただの冒険者には出せ――」

「出せちゃうんだな、これが。見えるかこれ、俺の冒険者カード。わかる? お前は最弱職から逃げようとしてんだぜ? まさか、天下の魔王様ともあろう方が? 勇敢な冒険者に一騎打ち挑まれて逃げる? ……訳ないですよねぇ?」

「その言い草……貴様、魔王がどういう存在か、その制約を知っているらしいな」

 

魔王はテレポートが使える。

だが、魔王はタイマンを望む勇敢な冒険者との戦いから逃げられない。

本当は俺なんて勇敢でも何でもないが、少なくとも、魔王城にいる皆がセレナを取り戻すまでは、親衛隊を倒すまでは粘ってやらないと。

むしろそこまで粘れれば、あとは仮面の人がいつもみたいに……

 

「だが、最弱職と知ったらなおさら相手にする必要はないな。勇敢と無謀は違うぞ?」

「ああっ! 魔王が最弱職相手にビビって尻尾巻いて逃げようとし――」

「『クリスタルプリズン』」

「うぉっ!? 『ティンダー』ッ!!」

 

氷結魔法の冷気をとっさに魔法で和らげる。

本当は挑発に乗ってきたことにニヤニヤしたいところだが、心臓がうるさすぎてそれどころじゃない。

というか魔王がガチの不意打ちしてきたんだが!?

 

「なんだいなんだい魔王様が年甲斐もなく若者相手に本気出して大人げねえ! 魔王なら魔王らしく堂々と攻撃してくるべきだろ! それとも人の話は最後まで聞けって教えてもらわなかったのか!」

「最初に不意打ちしてきた貴様に言われたくないわ!」

「俺は弱いからいいの! 中級魔法でもズタボロになるくらい弱いから俺はいいの! でもお前はそうじゃないだろ!? 格上のくせに姑息な技使ってくんな!」

「散々煽っておいて、まだ余裕があるらしいな! その口、いい加減閉ざしてやる! 『カースド・ライトニ――」

 

またあのヤバい魔法だ。

そんな魔法が今まさに襲いかかろうとしてるというのに俺は焦らない。

なぜかと言えば――

 

「『クリエイト・ウォーター』」

「――ング』ぼぼぼぼぼッ!!? ……き、さま…………ッ!」

「びしょびしょになってオコですか魔王様? そう何回も同じ詠唱見せられたら対策だって立てられるんですわ!」

 

正確に言えばウィズが使ってるところを何十回も見たんだが。

……俺と魔王を比べて何が強みだって言ったら、詠唱時間の有無だ。

簡単な話、詠唱が何の魔法のものかわかれば後出しじゃんけんができる。

そして俺が出した手は水魔法。

魔法で作り出された水は混じりけのない純水。

つまり、純粋な水は電気を伝えない、魔王の魔法は俺には届かない。

 

「一体どれだけ俺をおちょくれば気が済むんだ……! これだけ実力があってどうして真っ当に戦えないこのひねくれ者が!」

「いやいや、俺は弱いよ? 仮に今俺がお前に真正面から立ち向かってもギリ相打ちだし……本当だったら戦略的撤退したいし」

「魔王相手にギリとは、言うではないか小僧……。そう言いたいところだが本当にギリギリの戦いになるのだろうな。現に大したダメージは食らっていない。しかしお前は攻撃手段に乏しいのだろう? 俺はお前に攻撃を直撃させればいいだけだが……まったく厄介な」

 

互いに魔力をかなり消費している現状。

それ以上に問題は、このダンジョンがその魔法に耐えられるかどうか。

魔王は多種多様な上級魔法を覚えているからダンジョンに配慮できるが、俺が使える魔法は……転生特典の魔法以外にもあるがあいつらは魔力を食う。

マナタイトがあればよかったが、テレポートと最初の一撃で合計2つ消費して手元には残り1つ。

帰宅用のテレポートに使う予定だったが、もし使うならやっぱり転生特典の魔法か。

 

ティンダー、クリエイト・ウォーター、ウインドブレス、クリエイト・アース、フリーズ。

水や土のような質量を扱う魔法はこの狭い空間じゃ十分な火力を出せないし、風自体に殺傷能力はない。

氷結魔法で氷の中に閉じ込めても魔王の怪力と魔法なら簡単に破られる……てか、窒息ダメージって魔王に入るのか?

残るはティンダーだが……

 

崩れかけているダンジョンを見て眉を顰める。

最初に撃った、加減したとは言え、ウインドブレスで火力強化したティンダーでもダメージは片腕だけ。

手加減なしで全力だとしても一撃で倒すことは難しいだろうし、生き埋めにしたとしても魔王は残りの魔力でテレポートして生き延びる。

 

……やっぱり条件厳しいって。

せめてマナタイトもっと持ってるとか、魔法の影響がない屋外だとかだったら割と今より簡単に倒したり、時間稼ぎだったりできてたはず。

 

「厄介なのはどっちだよ……てか、そもそもなんでそんな堅いんだよ!」

「俺は魔族の王だからな。魔を司るものとし――」

「『フリーズ』!」

「……『インフェルノ』。こんな方法で足止めしようとしたのか? 面白いことを考えたものだがこの不意打ちは無駄だったな」

「ですよねー、試しにやってみたけど流石に魔王は凍てつかないよなぁ……」

 

さっき魔王に浴びせた水を凍り付かせ、ベルディアの時のように動きを封じようとしたが、その氷は瞬時に溶かされる。

もう少し俺が距離とるまで面白いステップ踏んでほしかったなぁ……

そんな俺の願いは叶わず、魔王は距離を詰めてくる。

本当は逃走スキルとかウインドブレスを使って遠くまで距離を離したいが、距離を空けすぎると魔王が俺が逃げたと判断して城に帰る。

ちょうどいい距離を保たなければいけないわけだが……

 

「『パワード』! からのン『狙撃』ッ!」

「魔王に魔力が乗っていない攻撃は効かないのだぞ?」

「くそっ、『ウインドブレ――」

「残念だがもう終わりだ」

 

魔王にダメージを与えられないとわかった弓矢を捨て、風魔法で距離を離そうとした瞬間だった。

それを許すまいと魔王は俺に急接近し、胸ぐらを掴み、俺の動きを封じた。

 

「待っ……!」

「認めよう、お前は冒険者の身でありながら魔王軍の脅威になり得る存在だ。だからこそここで終わらせてやる。お前の仲間にはよろしく言っておいてや……ろ…………?」

 

俺の魔法は発動することなく、こんなところで終わるのかと思わず目を瞑る。

……が、痛みも、終わりの瞬間も訪れない。

何なのだろうと思い目を開けると、胸ぐらを掴んでいた魔王の手のひらから焼けるような音とともに煙が立った。

 

「……っっあぢゃああああああああああ!」

 

俺の胸ぐらをつかんでいた魔王は慌ててその手を放し、右手を懐に抱いて転がる。

その間に大きく離れた俺は、胸元から何かがなくなっていることに気づいた。

俺が首から大事に下げていたお守りが、地面に落ちていた。

 

「なんだコレは! ぐううう、姑息な真似を……!」

「おいコラ! それは俺の大事なものなんだよ、粗末にすんな!」

「俺の右手が燃え焦げたぞ! 一体中に何が……」

「アクア様とエリス様の髪の毛がたっぷり詰まったお守りだよ」

「なっ、とんでもないものを触らせおって!」

 

まさかお守りが本当に守ってくれるなんて……お守りを作ってくれためぐみんや女神様たちから髪の毛を徴収してくれた仮面の人には感謝だな。

魔王を見ると、その右手は中途半端に回復したせいで指と指が癒着し、細かい作業をする機能は損なわれていた。

両手を封じられた魔王だが、それでも脅威なことに変わりない。

怒りに身を委せた魔王から魔法が飛んでくる。

 

「お前も俺と同じ痛みを味わえ! 『インフェルノ』!」

「く、『クリエイト・ウォーター』! ――ッ!?」

 

まだ数えるほどしか見てない詠唱のせいで判断が遅れる。

荒れ狂う炎を見た瞬間、とっさに放った大量の水。

そりゃ消火には水だ、打ち消そうと思い放った魔法は炎とぶつかり――

高温で水は急激に膨張し、爆ぜた。

 

 

 

 

……クソいってぇッ

爆風に吹き飛ばされ、背中を壁にぶつけて鈍い痛みを感じ、そう言ったはずの自分の声が聞こえない。

水蒸気の爆風を目の前に出してた水がある程度相殺してくれたおかげで致命的なけがはないが、鼓膜が爆発の圧でやられたらしい。

 

ひどい目眩の中、耳に集中してヒールを唱えると徐々に音が戻ってくる。

しかし周囲は水蒸気が冷えたせいで視界が悪いばかりか音も聞こえにくい。

周囲の状況がわからない状況だが、それは魔王も同じなはず。

打撲が完全に治りきっていない体に鞭を打ち、次の攻撃に備えて潜伏スキルで身を隠そうとして……突風が霧を晴らす。

 

「『トルネード』。まさかテレポートで別の場所に転移するつもりじゃないな? 俺の溜飲が下がるまで付き合ってもらうぞ。逃げてくれるなよ、サトウカズマ……!」

「……! 『ティンダー』ッ!」

「これしきで止められるかッ! 『カースド・ライトニング』ッ!」

「――ッッ!! っぶねぇ!」

「どこまでも悪運が強い奴めッ! 『インフェルノ』ッ!」

 

青筋を浮かべた魔王は炎の壁を躊躇せずに生身で突き破り、そのまま俺の命を奪おうと雷撃を放つ……が、それはダストがくれた剣が身代わりとなり生き延びる。

まさか左腕を消し飛ばした魔法の恐怖より怒りの方が勝ってるのか!?

怒り狂ったその様子に少したじろぐも、迫り来る炎を何とかしようと俺も魔法を放つ。

 

「く、『クリエイト・アース』!」

「ぐっ、あづッ!? ああっ、ハンカチが……貴様、キサマッ!」

 

土壁に阻まれて炎が反射したのだろう、魔王はさらに怒り狂う。

もはや理性が残っているのか定かではないほどの声に恐怖して、身を隠すための時間稼ぎのつもりでさらに土魔法で通路を埋めようとして――

 

「『ボトムレス・スワンプ』ッ!」

 

生み出された土は泥沼に沈み、それどころか俺の足下まで泥沼は広がり足の自由を奪う。

ウインドブレスで脱出しようにもかなり腰の辺りまで沈み込んだ状態で、うまく抜け出せない。

必死に藻掻く間にも魔王は俺との距離を詰め、脱出できた頃にはすでに――

 

「『ウインド――」

「今度こそ終わりだ」

 

間に合わない。

すでに魔王は焦げた右腕を振り下ろそうとしている。

どうすればいい。

魔法もスキルも発動するには無詠唱でも少し時間がかかるし……

回避スキルが発動することに賭けてこのままウインドブレスで逃げる準備しておくか?

いや、もうそろそろ魔王城での戦いも終わってるんじゃないか?

だとしたらテレポートの方が……

 

そう思考を巡らせてる間にも魔王の拳は俺の胸を貫こうと迫ってくる。

死を予感した脳が体感時間を引き延ばすが、それは覚悟を決めるために与えられた猶予なのだろうか。

 

……

 

マナタイトを握りしめる。

何にせよ俺にできるのは魔法を準備することだけだ。

 

まだ回避スキルは発動しない。

目前に迫る死だが、もし、このまま回避スキルが発動しなかったとして、このまま終わるのも癪だ。

そう思い、ウインドブレスとは別の、一つの魔法を始める。

マナタイトの魔力を吸い取り、体に巡らせたその瞬間、躊躇は消えた。

 

目の前が黒色一面の絶望に覆われても体は動かない。

それでも魔法は止まらない。

死んでも止まらないように、大切な仲間たちに誇れるように。

 

 

――そんな思いは打ち砕かれた。

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