「『狙撃』――ッ!!」
吹き飛ばされる体。
しかし胸に痛みはさほど感じない。
そんなことを思っている間に俺は腰から地面に着地し、その衝撃で現実の時間の流れに引き戻された。
「――ッ! な、何が……」
自分の胸を確認すると予想に反して無傷な素肌、貫通するどころかあばらの一本すら折れていない。
むしろさっき打ち付けた腰の方が痛むくらいだ。
なんとか殺されずに済んだことをようやく理解したが、回避スキルが発動した感じはない。
どうやら魔王の腕が俺の胸から外れて、体の横を通り過ぎた拳の風圧で吹き飛ばされたみたいだが、さっきまで確実に俺の胸に向かっていたはずなのにどうして……
魔王に何が起こったのか確認するために鳴り止まぬ鼓動を無視して見ると、
「はぐあッ!? あっづぅぅうう゛――ッッ!?!?」
苦しげに地面にうずくまる魔王。
その付近には先ほどまでなかった矢が一本。
ソレにはさっきも俺を守ってくれたお守りがくくりつけられていた。
状況的にその矢が魔王の腕をはじき、またしても俺のことを守ってくれたのだろう。
しかしこんなこと、偶然起きるはずもなく明らかに人為的で……
一体誰がやったのかと、視界にいない第三者を探すと、後ろの方から足音が近づいてきて――
「生きてるか?」
「……生きた心地はしなかった」
その足音の正体は、見た目的に誰よりも信用ならないのに誰よりも信用できる……
そんな、心強い正体不明の仮面を被った男だった。
ギリギリ間に合ってよかった……
俺がアクアたちと魔王討伐したときだってギリギリだったし、なんなら相打ちになったせいでこっちの世界で頑張らなきゃいけない羽目になったんだが、まさかこっちの世界でも道連れしなきゃいけない状況になるだなんて。
呼びかけに応じる俺を見て、ボロボロな状態でも思わずほっと胸をなで下ろす。
「もう少し早く来てくれてもよかったんじゃ? めっちゃギリギリだったんだが」
「まだ親衛隊をなんとかできていない状況なのに急いで来てやったんだぞ? ま、元気そうでよかったよ。何度目かの魔王討伐でまた相打ちになる展開だったらため息もんだからな」
「元気そうって、今の俺、満身創痍なんだが」
「『ドレインタッチ』っと。これのどこが満身創痍なんだ?」
「こんの鬼畜! 鬼! 悪魔! さっきまで俺が死にかけてたの見てたよな!?」
「さぁーってと、奴さんのお出ましだぞぉ。お喋りはここらで前に集中しろよ」
「ああもうッ! これが終わったら全部問い詰めてやるからな!」
やけくそ気味に立ち上がり前を見るこっちの世界の俺。
その視線の先には静かにこちらを睨んでいる魔王。
おおっと、これは怒ってますね。
魔王は焼け焦げた腕に顔をしかめながら、ゆっくりと俺の方を見て。
「俺に、破魔矢を打ち込んだのはお前だな? バニル……ではあるまい」
「そうだな。俺が弓を引いたのも、地獄の公爵ではないのも事実だ。もし悪魔なら女神の髪に触れたくもないだろ?」
「そうか、やはり貴様が!」
「おやぁ? もしかして、たかが狙撃で大ダメージ食らって大変お冠ですか?」
「ははっ、わははははははっ! 確かにあの矢を食らった時は忌々しい女神の魔力に焼かれ憎悪ではらわたが煮えくりかえっていたが…………今はむしろ感謝したいくらいだ」
……怒りのあまりとうとう狂ったか?
魔王の腕は俺が打った矢でひどく痛むだろうし、そうじゃなくても後もう少しで憎き宿敵にトドメを刺せたという時に邪魔されてはらわたが煮えくりかえってて……
だというのに出てきた言葉は感謝。
まさか、弱体化してないから前には見せなかった逆転技があるとかかじゃないだろうな……
得体の知れない魔王の思惑に眉を顰めているとこっちの世界の俺が、
「なんで感謝なんだよ。さっきまで俺とのタイマン勝負で有利だったのに、いきなり二対一の不利なんだぜ? 勝てる可能性が減ったのに何を感謝して……」
「勝てる可能性が減った、か。言い得て妙だ。確かに、俺はボロボロ、お前らは五体満足だ。このまま戦えば負ける確率が高いだろうな」
「そう思うんだったらどうして感謝なんだよ。負けることが嬉しいって? そんな訳――」
「知らなかったのか? 魔王に課せられた制約は、勇敢な冒険者と一騎打ちをして華々しく散ることだ」
魔王は不敵な笑みを浮かべる。
仮に倒されることが魔王の仕事だとして、まさか自分が倒されるって言う状況に喜びを感じてる訳じゃないだろうし、どうしてそんな強気な雰囲気で……
「……ああ、なるほど。タイマン勝負から逃げられないならば、タイマン勝負じゃないなら逃げられるって考えた訳だ」
「気づいたな。そう、今の状況は勇敢でも一騎打ちでもない。これで心置きなく転移魔法を使える。心より感謝しよう、このような状況を作り出してくれた仮面の男よ!」
……怒り狂ってたし、展開に流されて大人しく討伐されるかと思ってたのに、案外冷静じゃないか。
敵ながらやるじゃないかと感心していると、慌てた様子でこっちの俺が、
「お、お前! ここまで来て逃げるのか! 俺が不利な状況の時には戦って、自分が不利になったら撤退っスか! さすが魔王、やることなすことが姑息!」
「姑息とか言ってくれるな。親衛隊はまだ生きているのだろう? であれば俺が向こうに戻れば、俺は厄介なお前らと戦うこともないし、お前らの仲間を根絶やしにできる……そうは思わないか? 何、俺が城に転移するのだからお前たちも俺の後に続けば解決……ああ失敬、お前たちは魔王城をテレポート先に登録してないのだったな!」
「くっそ! わかってて言ってるクセに白々しい!」
「ワハハハ、腹が立ったか? イラッときただろう! 最後に貴様に一矢報いられたわ! 少しだけ溜飲が下がった!」
「ッ! ど、どうすんだよ仮面の人! このままじゃ魔王を足止めするどころか、魔王城に――」
全力で魔法を使えば魔王を倒せる可能性はある。
だがその場合、ダンジョンが崩落して自分たちも生き埋めになる。
だからと言って、ダンジョンが崩壊しないように手加減すれば魔王城へのテレポートを止めることはできない。
そう考えて焦るこっちの世界の俺。
どうすんだよ……か。
「撃つぞ! ダンジョンをぶっ壊す勢いで撃つから、仮面の人は早くテレポートを……!」
「無駄だ。お前の魔法は確かに痛いが、爆裂魔法ほどじゃあない。本気の一撃だろうとアレじゃ俺を倒せない。無駄な足掻きはやめるんだな」
「そんなこと言って、本当は俺の魔法が怖いだけだろ! はぁ、心底期待外れだよ、冒険者ごときに後れをとった魔王様? あと一歩のところで仕留めきれなかった、それだけなのに形勢逆転して撤退なんて、俺なんかと格が違いますわ!」
「な、何とでも言うがいい! お前の挑発には乗らん!」
魔王をなんとか引き留めようと口を動かすこっちの俺。
しかしその甲斐なく、魔王の転移魔法は組み上がっていき……
ついには完成した。
魔王はしてやったりと口をゆがめ、こっちの世界の俺は焦りで顔をゆがめる。
そんな状況だが俺は。
「はぁ…………」
「どうした、仮面の男よ。助けに入ろうとやってきたのに逆に状況を悪化させてしまった自分のふがいなさに打ちのめされたか?」
「……ちょっと違うな。俺はただ、お前さんの勘違いをどう正してやろうかなと思ってさ」
「――なに?」
「いやさ、二対一になったら魔王が逃げるなんて想定済みだし。なんならその程度のこと、俺の作戦に入っていないと思ったか? なあ、自分が不利になったからと尻尾を巻いて逃げる負け犬魔王様?」
「……一体何を言いたい」
「魔王はタイマン勝負から逃げられない……だったよな?」
「だからそれがどうしたというのだ!! 転移阻害の魔道具は持っていないだろう? 一対二の状況で俺が逃げられない通りは――!」
「いや、逃げられないぞ」
「戯言を……! 『テレポー――ッ!?!?」
魔王の転移魔法が完成し、魔王城へ飛ぼうとしたその瞬間。
魔法陣は砕け、魔法は中断された。
それは、あたかも魔王が自分の意思で魔法発動をキャンセルしたかのように見えるも、魔王当人からは困惑の声。
「どうなっている!? 俺は、今……どうして中断した!?」
「フハハハハッ! 世界に刻み込まれている規則に抗えぬ悲しき魔王よ」
――いつから一対二になったと錯覚していた?
端から見れば、魔王に挑んでいるのは二人の冒険者。
だが、ここにいるのは俺と、平行世界の俺。
異なる世界線だが、同一存在。
つまり――お前の相手は佐藤和真、ただ一人だけなんだぜ?
魔王は、勇敢な冒険者と戦って華々しく散るのも大切な仕事のうちだ。
仮に分身が来たからと言って、それで人数が増えたから逃げるというのは魔王とは言えない。
ただしそんな考えは理論上で、正直本当に通用するのかさっきまで若干不安だったが……
現に論より証拠だ。
追加で言うとすれば、本当は俺じゃなくてミツルギとかゆんゆんをここに転移させたかったんだ。
チートも有効な攻撃手段もない俺より、その方が安定した戦いができるだろうからな。
でも、アイツらをここに送ったらタイマン勝負じゃなくなって、魔王がダンジョンから逃げる可能性がある……だったら俺が行くっきゃないだろ。
そんなわけで、実際俺はここにテレポートしてきただけで何もしてないんだが、魔王はそんな俺を脅威に感じているのか、先ほどまでの余裕綽々な顔を歪ませ距離をとる。
「貴様、一体何をした!」
「いやほんと、何もしてないぞ」
「嘘をつくな! 俺がテレポートできないということは転移阻害の術式を魔道具か何かでしたということだろ! 一体いつ、どうやって俺の感知を免れた!」
「喧しいヤツだなぁ。俺は別に何もしてないってば。そんなに信用できないんだったらもう一回試してみろよ。仮にも魔王なんだ、そうすれば転移魔法を阻害してるわけじゃないってわかるだろ?」
「……本当に何もしてないのか?」
「しつこいな。大体、何かしてたところで敵に種明かしをするアホじゃないぞ俺は。そう言うの、俗に死亡フラグって言うんだぜ?」
いや、種明かしをするってことは俺の正体をばらすってことで、そんなことしたら俺が消滅するから死亡フラグどころの騒ぎじゃないんだが。
魔王は俺を警戒するそぶりを見せながらも、転移魔法が使えない原因を探知の魔法で探り始める。
無駄なのに……そう思っていると横から小声が。
「おい仮面の人、一体これはどうなってんだよ」
「詳しいことは省くが、ほんのすこーし魔王のルールの穴をついてやっただけだ」
「……つまり、魔王は俺たちから逃げられないってことか?」
「そういうこと」
魔王が逃走できないことを知ってほっと安堵の息を吐いている誰かさんだが、ここまではただの前座。
ここからが本番で、魔王を倒さないといけないわけだ、が……
マナタイトは1つ、チートはない、魔王の攻撃を食らえば基本即死、そんな俺が参戦したところでどれだけ手助けになるのか。
「……なあ仮面の人、何かいい案あったりしないか? このまま魔法を使っても魔王を倒す前にダンジョンが崩れそうだぞ」
「あったらとっくに指示を出してる。何せ最初に考えてた作戦がおじゃんになっちまったからな。ったく、弱体化されてないとこんなにも強くてしぶといのか、魔王ってやつは……」
目の前に広がっている苛烈な戦いの形跡――激しい魔法戦が行われていたのだろう、すでに一部崩壊しているダンジョン。
仮にダンジョンがなんとか潰れずに済んでも、途中で魔王か誰かの魔法に巻き込まれて死ぬ気がする。
加えて、魔王のタフネス。
その惨状に見合わない傷で……いや、かなりズタボロだけれども、上級魔法に匹敵するチート魔法を何発も使ってこれだ。
死んだら「最後」じゃなく「もう一度」。
このループから抜け出すには俺たちが死ぬことは計算から外さないといけないわけだが、一体どうやってダンジョンで魔王を倒せば……
「はぁ…………止めだ止め」
「止めって、まさか諦めたわけじゃないだろうな!?」
「いやな、最初はお前の魔法でチマチマ攻撃当ててって、俺がその支援をすればいいって思ってたわけだ」
「なるほど! 仮面の人お得意の卑怯かつ姑息、残酷かつ鬼畜な極悪非道作戦で魔王を追い詰めるわけだ! 俺が肉体を攻撃して、仮面の人は精神を……なんて悪辣非道! 陰湿極まりない! 仲間ながら恐ろしいぜ……」
「それ、ブーメランだからほんとやめてくれ」
思い当たることが直近でありすぎて、心の中のカズマさんが泣きそうだ。
しかも自分に言われるなんてあんまりじゃないか?
仮面を濡らしつつ、俺は言葉を続ける。
「ま、まあ、最初に考えてた作戦はそんな感じだったんだわ。オールラウンダーでこれと言って弱点もない魔王を倒すにはそうするのが妥当だって思ってたんだが……」
「いやさ、アイツめっっっっちゃ魔法効きにくいんだよ! それこそ天井がこんなんなっちまうくらいには……」
「だから少なくても正攻法での攻略は諦めた」
「それじゃあ正攻法じゃない案を。……あ、あれ? あるんだよな?」
あるにはある。
正攻法じゃないって言ったが、むしろ一番正攻法なんじゃないかって方法が。
それは、一番最初に魔王討伐をしたときと同じ――
「……爆裂魔法で魔王を倒す」
「は、はぁ!? お、おまっ!」
「落ち着け。俺なりに考えてみたんがだ、お前の初級魔法もどきより純粋な魔力爆発である爆裂魔法の方が効果あると思うんだ」
「いやそうじゃない! 俺とお前のどっちが魔王にとどめを刺すかで抗議したわけじゃなくて、そんな、どっちにしろダンジョンに生き埋めだろうが!」
「爆裂魔法を発動した直後にテレポートで脱出すれば問題ない。名案だろ?」
「問題しかない!」
何が問題か、言いたいことはわかる。
俺たちの手に握られたマナタイト、習得済みの魔法……可能と言ったら可能だが、あくまで理論上の話で、タイミングが厳しすぎる。
わずかでもタイミングが早いと死ぬし、遅くても死ぬ。
そもそも、爆裂魔法の準備できるまでの間魔王の猛攻を耐え抜かないといけない。
「百歩譲って、別に仮面の人が爆裂魔法の準備するのはいいんだよ。でもその間の俺、魔王の矛先を向かせながら、仮面の人に攻撃を当たらないように調節しながら、テレポートの詠唱だろ?」
「そうだな」
「……今から爆裂魔法習得するからさ、仮面の人がテレポートの準備してくれない? 俺、過労死したくないんだが」
別にそれでも構わないって言いたいところだが……
すでに俺の手には煌煌と輝く爆裂魔法の光が灯っている。
少しでも油断したら暴発しそうな、そんな莫大な魔力を制御することに汗を垂らしつつ、
「悪い、もう始まったもんは止められないんだわ」
「俺の思考先読みして詠唱始めてやがったなコイツ!」
「ほーら、魔王が俺を殺しに来るぞー、出合え出合えー」
「そんな間の抜けたふざけた感じで死地へ送り出そうとすんなよ! 無事帰還したら覚えとけ!」
無事帰還できたら、な。
声に出さずそんなことを思っていると、魔王がもの凄い形相で俺たちの方に駆けてくる。
爆裂魔法特有のビリビリと震える大気を感じたのか、先ほどまでテレポートができない原因を必死に探していたのに、それをやめて必死の形相で俺を仕留めようと迫り来――
「転移魔法が阻害されているが……まさか自爆する気じゃない――」
「『クリエイト・ウォーター』『フリーズ』『ウインドブレス』!」
「――だろうなぁあぁああああああっっ!?!?」
こっちの世界の俺は魔法を連続で放つ。
無詠唱かつ連続で放たれたソレを予知できるはずもなく、凍り付いた通路全域、そして吹き荒れる風に翻弄される魔王。
ついには耐えられず奥へ奥へと吹き飛ばされて――途中で地面を足で踏み抜き、止まった。
無詠唱かつ低燃費、なのに上級魔法と遜色ない転生特典の魔法。
風を少しでも減らそうと身を低くしながら忌々しげに顔を歪める魔王を見つつ、俺はにやりと笑う。
「流石、卑怯で姑息と言っただけあるな。魔王にダメージを与える必要がないと理解した瞬間にこれとは」
「べ、別にいいだろ! ちょっと氷の上でジタバタする魔王には同情しなくもないけど、こっちだってなりふり構ってる場合じゃないんだ!」
「いや、切り替えの早さを褒めてるだけで、別に貶してるわけじゃ……」
「卑怯とか姑息って褒め言葉じゃないんだぞ?」
「そのままそっくりお返しするわ。そもそも最初に――」
「『クリエイト・ウォーター』!!」
最初に言ってきたのはどこのどいつだったか――そう言おうとしていたが、魔法が遮る。
魔法が放たれた方向を見ると、魔王が腕を突き出して、黒い電気が走っていた。
「チッ、邪魔してくれたな!」
「ったく、また黒い雷かよ。もっと攻撃にバリエーションもたせないと当たるもんも当たりませんよ魔王様?」
「使えたら使ってるわ! お前の風魔法のせいで炎も氷も吹き飛ばされて俺の方に反射してくること知って言っているだろう!」
「もちろん。そうしたら真っ直ぐ飛ぶ魔法しか使えないだろ?」
「忌々しいヤツめ……!」
敵の攻撃手段を狭めて確実に対処する……俺も転生特典に魔法選べばよかったなあ。
そうしたら思う存分活躍してちやほやされてただろうに。
……いや、以外とそんなことなかったな。
今まで陰ながらこっちの世界の俺を見てたが、どうにも仲間からの好感度は変わらないし、俺のファンも現れず、ギルドで黄色い声援を聞くこともなく。
それに、アクアを連れてこなかった世界線がこんなにも大変なのだと身を以て実感したし……だってみんな死ぬんだぜ?
そんなのまっぴらごめんだ。
そう思っているうちに詠唱は終盤にさしかかる。
こっちの世界の俺を見るとすでにテレポートの詠唱は終わらせたみたいで、後はいつでも発動できる状態だ。
なんとか俺を殺そうと魔法を放つが魔王の攻撃は当たらない。
そんな状況に焦りを見せる魔王が。
「貴様ら、破滅願望でもあるのか!? 爆裂魔法を放った瞬間に転移魔法阻害を解除し、そのままテレポートで退散する作戦なのだろうが、一歩間違えたら死ぬぞ!」
「でもこのまま戦ってたらダンジョンが先に限界来るだろうし。それで俺は潰れて仕舞いだけど、お前はなんとかテレポートで魔王城に帰るくらいできるはずだ。なら、仮面の人の案に乗っかった方が、まだ生きて帰れる可能性があるだろ? ついでに魔王も倒せるし、成功したら最高だな」
「ま、待て、お前も俺も死にたくはないだろう? ならばここは引き分けとしないか」
「うーん…………どう思う仮面の人?」
「そうだなぁ、聞いたところ確かに悪くない提案に聞こえる」
「そ、そうだろ! こんなに時間が経ったんだ、そろそろ親衛隊も壊滅してる。俺の提案を呑めば、お前らは死のリスクを回避できるだろうし、崩落を恐れて魔法の威力を考えなきゃならない場所じゃない場所で再戦できる!」
「そこだけ聞けば、お前が言うとおり俺たちに有利な条件だな」
「で、では――」
「だが断る」
「なッ!?」
この取引、一見俺たちが有利に見えるが、魔王の企みが透けて見える。
魔王の死をきっかけに魔王軍の力は衰えるはずで、俺たちが魔王の提案を呑んでしまったら王都での戦いはどうなることか、想像に難くない。
そうすれば親衛隊がいなくなったとしても、魔王城には魔王の娘率いる魔王軍が帰ってくる。
つまり、この提案は魔王がその場しのぎで出したものじゃあない……自分が不利を覆すための一手だ。
「貴様……後悔しても知らんぞ」
「お前の策略には嵌まってやるもんか」
「……ならば、やむを得ん!」
提案を却下された魔王は顔を顰めながら天井と壁に向けて攻撃し始める。
一瞬自棄になったのかと思って最後の詠唱に力を入れようとしたが、素手による攻撃と上級魔法によってどんどんと破壊されていくダンジョンと、魔王の表情を読み取ると考えが変わる。
「お、お前! まさかダンジョンを意図的に崩すつもりか……っ!」
「だから言ったのだ、後悔するとな。お前たちはダンジョンが崩落すれば死ぬが、俺は生き残る。そうすれば後はテレポートを唱えればよいだけのこと。おおっと、卑怯と言ってくれるなよ、お前たちが選択した結果なのだからな!」
「急げ、仮面の人! 急いでくれ! 詠唱を早く……!」
急かされながら、されども慎重に爆裂魔法を制御していくが……終わりそうで終わらない。
どうしてめぐみんはあんなにポンポン無詠唱で連続して撃てるんだろうか、今更ながらに疑問に思う。
いくら爆裂魔法が好きだからって、毎日一発が限界の魔法……練習回数が限られているのにあんなにも上達するのはどうしても不思議だ。
「まだかまだかまだかまだか!」
「ああっもう、うっとうしいな! そんなに急かされたら出るもんも出ないわ!」
「だってもこのダンジョンげんかヒィィッ!? 今俺の近くにデカい瓦礫落ちてきたんですけど!!」
「幸運値高いんだから騒がずじっとしてろよな。あと、そんなに待てないんだったら先に行ってろよ」
「仲間をおいて先に行けるかボケェっ!! 少なくとも完全に崩れる一歩前までは待ってやるわ!」
なんていうか、罵倒にしては愛を感じる。
だけど別に俺としては本当に先に行ってもらっても構わない。
だって魔王を倒したら強制的に俺のいた世界の天界に行くことになるだろうし、この世界の俺がダンジョンに取り残されなきゃ問題ないわけだ。
ただ、別れの挨拶もなしに去ることになるから不義理な感じが跡を濁すがそれでも……
「おい、本当にまだか!? そろそろ俺の判断でテレポートするからな!」
「テレポートするのはいいけどさ、爆裂魔法撃つ前だったら俺のことは置いていってくれよな。一人だったらなんとかできるから」
「嘘こけお前! お前がダンジョンに一人取り残されたってこと、めぐみんたちが知れば俺が不名誉な二つ名を背負いながら生きることになるんだからほんと止めてくださいお願いします!」
我ながらなんて思いやりのかけらもない引き留め方なんだろうか。
そんで、そんな引き留め方なのにどうして拒否できないんだろうな。
「……わかったよ。もう爆裂魔法できるから、テレポートよろしくな。タイミングミスったらみんな土に還るんだからな、ほんと頼むぜ」
「嫌なプレッシャーかけてくるな……失敗して土じゃなくて成功してアクセルに帰るって言ってほしかった」
「そうだ、な。じゃ、お前が言うとおりダンジョンの底じゃなくてアクセルに――」
――今度こそ。
俺は爆裂魔法を放つため、手を前に突き出す。
テレポートのタイミングを間違えば至近距離で放たれる爆裂魔法に飲み込まれてしまうが、どうしてか、恐怖はない。
どっちの世界の俺も俺だと、自分自身のことを信用していて爆裂魔法とテレポートのタイミングを間違わないと確信しているからだろうか。
何度も何度も死んではを繰り返していたせいで死への恐怖が薄れてしまったせいだろうか。
そんな恐怖は自分のいるべき世界へ帰れる喜びに比べたら些細なことだからだろうか。
あのときはもう二度と皆と会えなくなることを覚悟してめちゃくちゃ辛かったが、今はもう一度皆と会えることを想像しているから、だろうか。
魔王が暴れているせいで崩れるダンジョン。
俺たちの周囲には頭に落ちていれば致命的な大きさの落石。
そんな中、少しこの世界との別れを考えて。
「『エクスプロージョン』――――ッッ!」
俺は魔法を解き放った――――――!