あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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エピローグ
  ~ただいま~  


爆裂魔法を詠唱し、魔法を解き放ったその瞬間、俺の周りは白一色に。

爆裂魔法の太陽のようにまばゆい光に目がくらんだのだろうか、徐々に視力が回復していく。

完全に回復した目で目の前を見ると、そこは俺にとってはいつもの通りの見慣れた白い部屋で……

 

「あれ!?」

 

だだっ広い割になにもないこの空間に俺の声が反響する。

おかしい、爆裂魔法を撃った瞬間、確かに平行世界の俺のテレポートは俺をダンジョンの外へと誘ったはずなのに……

何度目をこすっても目の前の景色は天界のまま、テレポート先のアクセルには変わらないなんて。

 

まさかこれ……死んだ?

もしかしなくても最後の最後にテレポートのタイミングミスりやがって、それで俺はこんがり上手に焼けましたってか!?

い、いやいやいやいや、それはない、うん、ないはずだ。

だって爆裂魔法は発動したしテレポートのタイミングも成功して、俺たちはダンジョンから脱出できたはずだし、特にこれと言って失敗はしてな……

 

「まさか、魔王討伐し損ねた、のか……!? 確かに最後、魔王を倒す瞬間なんて見えなかったけどそんなまさか……」

 

第二……形態…………ッ!?

大体アニメや漫画では死ぬ間際で力に覚醒したり、今までのはお遊びでここからが本番だと出し惜しみしてた力を解放したり、死ぬ間際に力が暴走して別の生物になったり――

魔王ならなおさらそういう展開がテンプレなのに何でそこまで想定しなかったんだ俺!

 

えっ、まさかまさかのまたやり直し?

あそこまで来てまたやり直しなのか!?

今更動いたところでどうしようもない、そんな無力感を覚えていた時だった。

後ろから近づいてくる足音が一つ、それから清らかな声が聞こえてくる。

 

「落ち着いてください、佐藤和真さん。……ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神、エリス――。あなたはダンジョンの最下層において亡くなりました」

 

思わず顔を上げると俺の横を通り過ぎていく銀の髪。

その言葉を聞くと俺は死んでしまったのかと気分が沈……

あれ? 俺って死んだの? リセットされたわけじゃなくて?

いや、死んだもリセットされたも似たような意味だが、なんかニュアンスに違和感が……

それにエリス様の声、というかしゃべり方にも違和感があるっていうか、まるで初対面みたいに親しみがないような……

しかし目の前にいるのは確かにエリス様で、いつも通り非の打ち所のない女神然とした所作で目の前の椅子に座り、言葉を続けた。

 

「そして、先ほどおっしゃっていた魔王討伐についてですが……心配なさらないでください。あなたは最弱職ながらに魔王を一人で討伐したのです」

「そっか、倒したの…………か? ならなんでこんなとこに……?」

「それは…………佐藤和真さん。壮絶な戦いで、あなたの人生は終わっ……………………」

 

これはつまり……魔王を討伐して、あっちの世界の奴らにお別れを言う間もなく、元の世界の天界に強制送還されたってことか?

そんなことを考えていると、俺の疑問に答えようとしたエリス様は一瞬言いよどみ、俺のことを気遣って言葉を続けようとして……

 

そのままエリス様はいきなりお固まりあそばされた。

いや、まん丸の目だけはどんどん大きくなっていくが……もしかして台詞でも吹っ飛んでしまったのか?

それとも茶目っ気たっぷりにドッキリでもしようとして――

 

「なっ、なななななっなんで仮面の人がこここにっ!?!?」

「え、今俺のこと仮面の人って?」

 

 

 

このすば

 

 

 

「つまり佐藤和真と俺とを間違えて、さらに生きてるのに死んだと勘違いしたと。それで俺を肉体ごとここに呼び寄せたのか」

「本当にすみません、まさか天界側がこんな不手際をしてしまうなんて……」

 

エリス様が頭を下げる。

…………ああ、なるほど把握したわ。

ここは俺がいつもリセットされるたびにお世話になってる天界じゃなくて、アクアが転生特典として選ばれなかった世界線の天界か。

道理でいつも知ってる親しみやすいエリス様と違うわけだ。

一瞬リセットされたのかと思って、ダルすぎてふて寝してやろうかと思ったが、そう言うわけじゃなくて良かった……

 

「魔王討伐できたって聞けて安心できたし、むしろ俺はエリス様とお話しできて嬉しいですよ? というわけで別に気にしてないんで頭を上げてくれません?」

「その、本当に気にしてませんか?」

「もちろん」

「それならその……先に頭を上げていただけませんか?」

「お構いなく」

「構うよ! じゃなくて構いますよ! 思わずクリスの喋り方になっちゃったじゃないですか!」

 

別に、やましいことがあるわけじゃあない。

ただ神様より低い位置に頭がある方が自然かなって思っただけで、腰を深々と折るエリス様に対して、俺は仏教において仏に最大の敬意を込めて行う礼拝の作法である五体投地で迎え撃っていた。

――別名、土下寝とも言う。

断じて、スカートの中をのぞき見れるポジショニングを維持しようだとか、戸惑ってるエリス様かわいいなとか思ってるわけじゃない。

 

「ほんと、自分が望んでやってることなんで丁重にお断り申し上げます」

「何で断るんですか!? 私より頭を低くしているのに私が上げられるわけ……本当は怒ってますよね、でもどうか目を合わせてもらえませんか!」

「いや、ほんと、ごめんなさい」

「鋼の意志!? そ、そんなに怒っているのですか? わ、私にできることなら何でもしま――」

「今、なんでもって?」

「ヒッ!? その、な、なんでもとは言いましたけどできればお手柔らかな形で、できる範囲でお願いしたいのですが……」

 

思わずエリス様の不用意な発言にぴくりと反応すると、悲鳴を上げられてしまった。

鬼畜仮面の悪名がアクセルの街だけでなく王国中に蔓延ってしまったせいか、エリス様は涙目である。

 

……確かに少しだけ不純な心が漏れ出たのは認めるが、危ない発言をしたエリス様が悪いと思うんだ。

だからエリス様、だからそんな怯えないでくれません?

俺、顔を地面に埋めてるのにはっきり怯えられてるのわかるんですよ?

俺も俺で涙ちょちょぎらせますよいいんですか!?

そう思っていると、何か近くで衣擦れの音がする。

少し気になって顔を上げてみると…………エリス様が膝をついていた。

 

「かくなる上は、誠心誠意、謝罪の意を伝えるために、わ、私も……!」

「すみません! 本当にすみませんエリス様やめてください! 俺には、そう、頭を下げずにはいられない黒より黒く闇より暗き漆黒のように深い理由があってですね……だから女神としての威厳と鬼畜の魔の手を天秤にかけて魔の手に屈しないでください!」

「どうしてあなたが謝るんですか……非があるのは私の方で、あなたにはないじゃないですか! どうか頭を上げてください、そして私の謝罪を受け入れてくださいお願いします!」

 

こ、心が痛い……

エリス様は俺が怒ってるせいでこんなことをしていると勘違いしてるようだが、本当に怒っていない――っていうか、むしろエリス様に謝らなければならない理由がある。

それはどうして天界が俺のことをサトウカズマだと認識したのか、どうして俺が死んでしまったと誤認してしまったのかに繋がるのだが――

 

だって俺、サトウカズマその人だもん、元の世界ではしっかり死んでたもん。

そんなこの世界の存在すること自体がありえないバグり散らかしているのが俺だ、死ぬべき場所で死なず、リセットもされなかったら『その時不思議な事が起こった』みたいな奇跡そりゃ起きちゃうだろ!

 

だけど言えない!

だって言った瞬間体が消滅しちゃう……か……ら…………?

 

「いや、大丈夫じゃん」

「あ、立ち上がりました! もしかして私のことを許してくれ――」

「いやそうじゃなくて、許すも何も…………いや、見てもらった方が早いか」

「えっ? 見せるって一体何を……」

 

ここは天界。

同じ世界に同じ存在が複数存在することがバレた場合、整合性を保つために片方が消滅することになるが、地上と天界は別の世界だ。

前にこのことを利用して、ちょむすけに存在ごと吸収されそうになっていたウォルバクさんを助けたこともあった。

そして現在、この天界にサトウカズマという存在はただ一人。

つまり、消滅の心配はしなくてもいいってことだ。

 

 

「え、えっ? カズ、で、でも、仮面、え、これ、えええぇぇぇぇええええぇぇぇええええぇえっっ!?!?」

「さすがに取り乱しすぎじゃないですかねエリス様? お頭として盗賊団やってたときもかなりいいリアクションしてくれてましたけど過去一番じゃないですか?」

「で、でも、ええっ!? 本当にどういうことでっ!? 頭が混乱しすぎてわけが……仮面の下はカズマさんそっくりで、でもカズマさんは今地上にいて……!?!? あ、あなたは本当に仮面の人ですよね!?」

「ふははははは! 確かに仮面の人とは俺のこと。そして今までに仮面の下に隠されたその素顔、俺の正体を見破ったものはいない……さっきまでだけどな」

 

ちょっと誇張しすぎたが、例の魔道具がチンチンと喧しく鳴り響かず一安心。

でもエリス様は混乱したままで目を回して頭から湯気が出始める。

珍しいエリス様の様子をこのまましばらく楽しみたい気持ちもあるが、放置しっぱなしだとショートして倒れそうだし、仕方ないか。

 

「そう言えば自己紹介がまだだったな。我が名は佐藤和真、平行世界の未来からの来訪者にして魔王を二度討伐せし者。皆からは仮面の人とか呼ばれている者」

「中々に信じがたいことをさらりと言ってのけましたね!? 嘘をついてるような感じはありませんが、まさか本当に……! あ、頭が痛いです……」

「フリーズはいります?」

「こ、コップにお願いします……」

 

落ち着きを取り戻そうとエリス様は冷えた水を飲み干し、その空いたガラスを頬に当てて顔の熱を冷ます。

いや、そういう反応になるのは当たり前か。

だっていきなり平行世界とか未来って言われても受け入れられないだろうし、その前に佐藤和真という存在が界を隔てど二人存在している事実に目を回さない方がおかしいんだ。

むしろ俺だったらそんなこと言い出すヤツは頭が狂ったヤツだと叩いて直してやろうってなる。

しばらくして、コップがぬるくなったのか、エリス様は顔からガラスを離して。

 

「えっと、つまりあなたは仮面の人なんですよね?」

「そうです」

「かつカズマさんなんですよね?」

「はい、カズマです」

「……カズマさんが二人存在してる理由は、自分はパラレルワールドからやってきたカズマさんだからだと」

「さすがお頭、盗賊団を率いてるだけあって飲み込みが早いですね!」

「ちゃ、茶化さないでください! そもそも盗賊団と言っても私と助手君しか……と、とにかく、小規模なんですから団と言っていいのか……」

 

二人組なのか三人組なのか、どっちをいうのが正しいのかと考えたのか、言いよどんだエリス様。

正直どっちでもいいと思う。

そう思っているとエリス様が咳払いをして、今度は真剣な表情で。

 

「こほん。……話を戻しますね」

「お、おう。質問があれば何でもどうぞ?」

「目的は、なんですか」

「目的って……そう言えば言ってなかったか。俺は魔王討伐するまでアイツらを手助けするために遙々来たんだ。まあ魔王軍幹部を討伐したり、魔王討伐を成し遂げた勇者だからな、その手腕を買われて人類が滅ぶ運命の世界を救うために――」

「そんな怪しげな仮面を被っているのに世界を救うため!? す、すいません、確かに平行世界の存在は私たちも把握していますし、あり得ない話ではないんですがなかなか特殊な状況で……えっと、でも魔王討伐を成し遂げてくれた功労者ですし疑っては、い、いないんですよ?」

「なんか正体明かした瞬間急に失礼だなこの女神様、怪しいのは重々承知だわ! なんか急に怖い雰囲気出してどうしたんだって思ってたらもしかしなくても俺のこと警戒してたのか!?」

 

どう見ても俺のことを疑っていたらしい女神様。

アクアみたいな扱いをしたいわけじゃないがやむを得ないか……?

流石に助走をつけてラリアットするのは過激だし、他ならぬ清楚とメインヒロインを司るエリス様だから勘弁してやろうと思う。

やるとしたら俺の必殺技で制裁を……

そう思って片手を突き出し、女性と機械には必殺技として作用する例の技の構えをとる。

その瞬間、俺のしようとしていることを機敏に感じ取ったエリス様が。

 

「その動き……や、やめっ! わ、わかりました! あなたは正真正銘カズマさんです! 盗賊団のメンバーとして信用してますので、だからその厭らしいスティールだけは……!」

「おい、今何を以て俺を俺と判断したのか聞いてもいいんだぞ?」

「謝るのでどうかお許しください……」

 

俺のことをスティール前のルーティンで判断したとは口が裂けても言えまい。

もし謝らなかったら「流石はパンツ脱がせ魔の師匠ですね!」と言って涙目にさせてやるところだった。

深々と、先ほどの謝罪以上に腰を折るエリス様に俺はため息をつきながら、

 

「……次はないですからね。まあ、正体不明に自分の正体を見破られて警戒しない方がおかしいと思いますけど」

「誰が言わせたと思ってるんですか!? そもそも私が地上にいるとき、女神であると見破られたときは心臓が破裂しそうなほどドキドキしてたんですよ?」

「その節はすみませんでした。でも見破られた理由はわかっただろ」

「前の世界での知識や経験……ですね? はぁ……何と言いますか正体がわかった今拍子抜けといいますか、今までの警戒心を返してほしいくらいです」

 

困ったような、それでいてどこか安心したような笑みを見せるエリス様。

まあ、招いてもいない正体不明の男が自分のテリトリーに侵入してきたらそりゃ緊張するわ。

緊張と緩和の落差で錯覚しただけで、やっぱりエリス様は礼儀正しい。

そんな女神様は頬の傷を掻きながら俺に、

 

「そもそもですが、その警戒させるような立ち振る舞いと言い仮面と言い……どうにかならなかったんですか? 言ってくれれば私も惜しまず協力したのに」

「ああ、すいません、でもしょうがなかったんですよ。事情が事情で……」

「事情? それは今話してもらっても……」

「実は地上で正体がバレると消滅するっていう制約があっ……」

「なぜ消滅!? 怖い! い、今はお体に変化は!? だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫ですよ。だいじょ、だいじょぶですから! ちょ、顔近っ!? 心配は嬉しいですけどあんまりペタペタ体触らないでくださいなんか恥ずかしいから!」

「ご、ごめんなさい……! …………あの、本当に」

 

自分がしていることを理解して顔を慌てて離れるエリス様の顔は、銀色の髪のせいで赤が際立っていた。

俺の心臓の鼓動が早いしきっと俺の顔も赤くなっているだろうけど、エリス様ほどじゃない。

けどなんか気まずい……………………

 

「ちなみにそれは俺の体の心配ですか? それとも男の体を無断でまさぐった事に関して?」

「どど、どちらでもいいじゃないですかっ!! 大丈夫なんですね!?」

「どちらにせよ大丈夫ですけどはぐらかさないでください! 大体、俺は元いた世界の方のエリス様に求婚したし、弄られるのはやぶさかじゃないんですが、エリス様はどうなんですか!」

「えええぇぇぇっ!? まさか貴方の方の世界では私たちけけけけっこんして!?」

「いや、俺はめぐみん一筋なんでお断りしたんですけど、ダクネスにファーストキス奪われたり夜這いされたりいろいろありまして……」

「どういうこと!? もしかしてカズマさんってハーレム系主人公だったんですか!? というか私のこと振ったんですか!?」

「ちなみに誰ともキス以上のことはしてないんでハーレムじゃな…………あっ、クリスさんには一番最初にキス以上のことしちゃってた……」

「今なんて言いました!? 何があったんですか!?」

「ふっ、言わせんなよ恥ずかしい」

「なんですかその反応は!? 本当に何が……!? カズマさんが大人で私が子供だからわからないだけで――」

「ぷふっ……」

「………………あの、今笑いましたよね?」

「笑ってない」

「笑いましたよね! もしかしなくてもからかってますよね!」

「いや……嘘は言ってませんよ?」

 

だって公衆の面前でパンツを剥がさせてもらうのはキス以上だろ?

いや正直さっきの気恥ずかしい雰囲気に耐えられなくてやってしまったのだが。

反省はしてる……でも、エリス様のいろいろ新鮮な反応を見られて満足しているので後悔はしてない!

 

「もう……あまり女神をからかうと天罰を与えますよ?」

「俺は、いいリアクションをしてくれる可愛らしい女神なエリス様が悪いと思うんです」

「まったく。調子のいいことを……」

 

少しふてくされてそっぽを向くエリス様。

やっぱり癒やしだなぁと、魔王討伐で荒んだ心に潤いが戻っていくのを感じる。

なんだかこのままこの世界にいてもいい気がしてきたが……

 

「エリス様」

「……なんですか?」

「そろそろ帰ろうかなって」

「そう、ですか。面白おかしい時間というのはあっという間ですね」

「ほんとですよ」

 

あんまりこの場所にいても居心地がよくていつまでたっても帰れなくなりそうだ。

それに、何ももう二度と会えないというわけでもない。

ウォルバクさんをこっちの世界に返さないといけないからな。

俺は、ダンジョンが崩れたせいで使うことがなくなったテレポート地点を塗り替える。

 

「取りあえず、俺が帰ったらアイツらに言っておいてください。勝手に魔王と心中したことにすんなって」

「ええ、わかりました」

「エリス様みたいにリアクションを見れないのがちょっと残念だけど、まあ、元気でやってくれってな。あと、一応アクアにもよろしく言っておいてください。何かよくわかんないけど転生者が来なくなったせいで大変だったんだぞって」

「あぁ……ええと、アクア先輩は謹慎……は終わってるので、ええっと日本担当から左遷……じゃなくて異動……でもなくて、ええっと、そう、新人の育成に励んでるんです!」

「今謹慎とか左遷って言ったか」

「言ってません」

 

何やったんだよあの駄女神!?

セレナの時に判明して以来、世界の強制力か何かが働いてそうなったんじゃないかと思ってたけどまさかまさかの謹慎!?

からの左遷!?

あり得ない……わけじゃない。

むしろアイツなら十分あり得る。

 

「ちなみに一体何をやらかしたんだ?」

「どうも、カズマさんが魔王軍幹部討伐という偉業を何度も達成し、それを称えられて賞を取ったんですけど…………先輩に嫉妬した方が『ズルをしたに違いない』と告発しまして」

「告発って……別に何も悪いこと、は…………あぁ、転生者に説明するやつか」

「そうですが……何か心当たりが?」

「まあ、はい」

 

してたわ。

がっつり転生者相手に詐欺働いてたわアイツ!

異世界語をインストールして運が悪いと頭がパーになるだとか、モンスターが強すぎて死者が後を絶たないだとか、必要な説明怠慢してたわ!

怠慢というか意図的だからより悪い。

これは仕方がないな、ちょっと俺たちが活躍しすぎたってのも理由らしいが俺たちは悪くない!

 

「ちなみに今のが謹慎の理由ですが、そんな謹慎中、豊穣祭で降臨してしまって……それが原因で左遷されてしまったそうです」

「え゛……ッ!?」

「どうかしましたか? いきなり変な声を……」

「い、いや、なんでもない、続けてどうぞ」

「そうですか? ええと、それで当の本人は『私やってないのに!』の一点張りだったのですが、私がしっかり降臨の様子を見ていたので言い逃れはできず、反省していないとお叱りを受け、左遷されて……」

 

一部訂正。

俺は悪くない。

そして悪いのはアクアだが、こっちの世界のアクアも俺んところのアクアも両方やらかしてた。

正直転生の説明については知らんが、それ以上にうちの駄女神がエリス祭りの時に遊び半分でこっちに来てしまった件に関しては謝罪申し上げます……

すいません、本当にうちの仲間がすいませんっ!

 

「まあその後、先輩はエリート職から降格されて左遷されましたが、トイレの清掃員として働き始め、その舐めても大丈夫そうなほど綺麗な便器に仕上げるという働きぶりから努力を認めてもらえまして、なんやかんやあった末に今現在はお茶請け係してます」

「……案外元気そうで安心したけどお茶請け係って。アイツにとっては最悪なんじゃ?」

「ま、まあ、本人は『ああっいっけなーい』と言いつつ楽しそうなので……」

 

どの世界に行ってもアクアはアクアらしい。

きっとわざとお茶を浄化して、それでドジっ子メイドになりきって働いているのだろう。

なんだかんだいって一番心配なやつがなんとかやってけてるんだ。

他のアイツらも大丈夫だろう。

 

「よし、それじゃあ」

「ええ、いってらっしゃい、勇者サトウカズマさん。またこの世界に帰ってくるそのときまで。…………祝福を(ブレッシング)

 

俺はエリス様に背中を向ける。

別にすぐ会えるはずだし悲しんでるわけじゃないけど、なんか面と向かっていると別れるのがちょっと惜しくて。

テレポートの呪文を唱え――

 

「……すみません、最後にこんなことを言うのも何ですけど、最後に一つ、いいですか?」

「はい、何でしょう」

「………………魔力をわけてください」

 

 

恥ずかしいッ!

そうだよ、何かっこつけて颯爽と立ち去ろうとしてるんだよ!

俺、ただの冒険者!

魔力量なんて中級魔法一発撃ったらすぐ枯渇するレベル!

紅魔族ですら連発しないテレポートを俺一人の魔力で発動できるわけなかったのだ!

 

ほら見てみろエリス様の目を!

きょとんとしてるよ!

もう穴があったら入ってさらに穴を掘りたい……

そんな赤面した俺を見て、エリス様が柔らかく笑う。

 

「最後までかっこつきませんね、カズマさん?」

「ほんと恥ずかしいですごめんなさい……」

「そうですね、私は寛容なので水に流してあげましょう。それとせっかくですし、私が転移の魔法陣を描いてあげますね」

「何から何まですいません、ありがとうございます……」

 

もう俺は下を向くことしかできない。

そんな俯いてる俺に見えるよう、エリス様はとあるものを差し出す。

それは下界を見るための魔道具。

並行世界というだけあって、同じ道具はあるらしい。

そしてそこに写っていたのは――

 

「ここが、カズマさんが元々いた世界……で合ってますか?」

「そう、ですね。ここです」

 

そこには、ウォルバクを見て泣いているめぐみんとゆんゆん。

俺の帰りを心配しているのかエリス様に詰め寄っているダクネス。

音は聞こえないのに何故か貫通して聞こえてくる「なんとかしてよカズマさーん!」と言う泣きべその声。

 

「まったく、しょうがねえなあ」

 

アクセルの街で宴会の準備しておけって言ったのに、どうしてまだお前ら魔王城にいるんだよ。

俺の言うことを全く聞かないトラブルメーカーな仲間を見て思わず言葉が漏れるが、どうも悪い気分じゃない。

 

「嬉しそうですね」

「そうか? これから散々迷惑かけられる生活に戻るっていうのに嬉しそうに見えますかね?」

「ええ、とっても」

 

まあ念願の帰宅だ。

今までサキュバスのお姉さんたちが営むサービスを利用できなかったし、寝泊まりする場所は決まって宿屋。

自分の家の寝床とは違って安心感がちょっとばかし足りない。

まあ大体アクアの鳴き声だとかめぐみんの爆裂魔法で目が覚めるんだが。

 

「さて、転移の魔法陣は準備できました。場所はダクネスたちの近くでよかったですよね?」

「もちろん、ありがとうございますエリス様。俺のテレポートじゃ魔王城に行けませんでしたよ」

「皆に会いたそうな顔をしていたので、よかったです」

 

エリス様の嬉しそうで、少し寂しそうな顔を見ながら俺は転移の魔法陣の中心に足を入れる。

そして体が収まった瞬間、魔法陣が淡く光り始める。

 

「それでは改めましてカズマさん、またお会いしましょう」

「はい、エリス様、また後で」

 

今度こそ帰るためにエリス様と挨拶を交わす。

終わるんだ、ただあの三人に「ただいま」って言うためだけの冒険が。

俺は息を吸い込み魔法を唱えた、あの素晴らしい世界に帰るため――

 

 

「『テレポート(ただいま)』」

 

 




それは魔王討伐が完了して、丁度30分後のことだった。

というわけでこの度は、『あの素晴らしい世界に帰るため』の最終話までお付き合いいただきありがとうございます。
今作品は「もしアクアがいなかった場合、原作とどう乖離するか」というIF作品で、「コメディの裏に隠れていたシリアスを引っ張り出す」をモットーにシリアス味強めでお送りしましたがいかがでしたか?
途中好きなキャラが死んだりバニマさんがいろいろな意味でえげつなかったりして、精神が引っ張られた私は体調を崩しましたが皆さんは大丈夫でしたか?
と、皆さんの体調を心配してみましたがとにもかくにも完結です。
ここまで長らくお付き合いいただきありがとうございました!
感想や評価していただいた皆さんに心から、深く感謝を!
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