ああ、女神エリス様。
この様な素晴らしい仲間と巡り合わせてくださり、感謝申し上げます。
パーティー募集の張り紙が、まさかカエルの粘液に塗れた2人組の元へ導いてくれるとは。
そんな思いもよらない幸運に感謝の祈りを捧げた日のことを、私は生涯忘れはしないだろう。
嬉しさのあまり親友であるクリスに「いつも仏頂面なのに今日はすごく機嫌良さそうだね! 道端で変なものでも食べてお腹でも壊した?」と言われてしまうくらいには。
もちろんその後、私のことを道端にある得体の知れない物を食べるはしたないヤツだと思ってたクリスには仕置きをしておいた。
……お腹を下して機嫌が良くなる点についても問いただしたかったのだが、普段の自分を顧みて口を噤んだ。
そしてその翌日。
初パーティーでのクエストを受けるため、ギルドにいる2人の元へ行こうとしていたのだが、何故かクリスが一緒についてくる。
「今回は3人でのクエストだ。共には連れていけないぞ?」
「ツレないこと言わないの。昨日ダクネスがあんなに顔を見て綻ばせてるんだよ? 気になるじゃん! それからその子たちの顔見て私のダクネスをどうぞよろしくお願いしますってしっかり挨拶しないと」
「気になるって……別に私が言った通りだぞ? 髪色が同じで兄妹みたいに仲良さそうな粘液まみれの二人組だ」
「いや初耳だよ!? 粘液塗れの男女が……とか気になるを通り越してむしろ心配なんだけど!?」
対面もしてないのに心配とは失礼なことを。
あの二人は悪そうな輩ではなかった。
……その、私はクズな男でも良かったのだが。
むしろクズ男を望むところだ。
と言うわけで、残念なことにクリスが言う心配はあまりなさそうだ。
「ダクネスの友達付き合いをこの親友がしっかり見定めてあげないと駄目なのかもしれない……!」
「み、見定める!? それにさっき挨拶をとか言ってたな!? わ、私の親みたいな事をするなっ! 自分の仲間くらい自分で決めさせて……」
「いやダメだね! 私が知ってる親友は純粋無垢なのが取り柄で、すごーく騙されやすくて、ぶきっちょなことが可愛い子なんだよ! やっぱり親友の私の人を見る目が必要なんじゃ……」
「よし、そこに直るといい。私の可愛らしさとやらを体験させてやろうではないか」
「ん? どうして手をワキワキさせて近づいて来るの……? もしかして私の頭を無骨に撫でてくれるのかな? 顔を赤くして照れちゃって。まったく、ダクネスってば愛情表現が不器用なんだからああぁぁああぁッ!?!?」
何かしら騙していたクリスに、免罪符代わりの
そんなこんなでギルドに着く。
あたりをキョロキョロと見渡すと、カズマが手を振って場所を示してくれたのでそちらの方にクリスを伴って行く。
今日は何のクエストを受けるのかとわくわくしていたが、その前に新しいスキルを取得したいとカズマが。
それを聞いためぐみんが爆裂魔法についての愛を「爆裂魔法以外に覚えるべき魔法スキルなどありましょうかいいえありませんとも! さあ私とともに爆裂道を歩もうではありませんか!」と溢れさせていた。
しかし「スキルポイント的に無理だ」とあっさり断られてシュンとなっていた。
そんなめぐみんを慰めつつ私は物理・魔法・状態異常の耐性を推して説明したのだが「基本魔法で戦うからパスで」と言われシュンとなる。
私とめぐみんが撃沈している中、クリスが「罠の解除に敵感知、潜伏に窃盗。取得コスパよし・使い勝手よしの盗賊のスキルなんてどうかな?」と。
カズマのお眼鏡にかなったのか盗賊のスキルを教えて貰う流れになり、敵感知・潜伏・窃盗スキルを取得した。
その際にスティールの実践をしたのだが……何があったかはクリスとめぐみんの名誉のために言わないでおこう。
ただ、そうすると私だけカズマの技を体験していないことになる。
不平等はいけない。
仲間であるならばそういう機会は平等にあるべきものだ。
と言うわけで是非私にも公衆の面前で辱めを!
まあ、そんな個人的な話は置いておいて。
あの後はキャベツ収穫クエストをこなしたり、
カエルの討伐依頼を受けようとしたら二人に断固拒否の態度をとられ、代わりに森の奥のムササビや一撃ウサギの依頼を受け、カズマの心に新たなトラウマが植え付けられたり、
しばらくカズマが復活するまでの間、めぐみんが日課にしているという一日一爆裂に付き添ったり、
……そんな騒がしくも楽しい毎日が続いた。
私が憧れていた、身分の垣根を越えた関係なるものを感じられる素晴らしい日々だった。
だったのだが……
「汝に死の宣告を……」
デュラハンが放った非情な言葉が残酷に日常を終わらせた。
私の隣ではめぐみんが青い顔でわなわなと震え、杖を固く握りしめ、そのまま一人で街の外へ出て行こうとする。
「お、おいめぐみん、何所へ行くつもりだ」
「……すみません、私のせいでこんなことになってしまって。私の責任です」
「何を言うか、私だって毎日一緒に……」
「だから! だからこそなのです! 私がこのようなことを言い出さなければダクネスがこんなことになることもなかったのです! ……ちょっと城まで行って、あのデュラハンに直接爆裂魔法をぶち込んで、ダクネスの呪いを解かせてきます」
連日あの城に爆裂魔法を撃ち込みに行っていためぐみんならわかるはずだ。
そして一人でそんなことをすれば、爆裂魔法を放ち終わった後の無防備なめぐみんをモンスターどもが襲いに来る。
馬鹿と天才は紙一重だとは言うが、自暴自棄なめぐみんはきっと馬鹿の部類に入るのだろう。
一人責任を感じて、一人で抱え込もうとして……
本当に、馬鹿だ。
「……昨日まで、私は爆裂魔法を放つことを止めもしなければ、毎日付き添っては背負い続けてきた。そして今日もいつも通り、私がめぐみんのことを背負えばいい」
「えっ……何を言っ……それは、つまり」
「ああ。あの城にもう一度、盛大に一発ぶち込んでやれ。それであの引きこもりデュラハンを倒せばいい、違わないか?」
あのデュラハンはこう言ったのだ。
これに懲りたら俺の城に爆裂魔法を撃ち込むな、と。
クルセイダーの呪いを解いて欲しくば、俺の城に来るがいい。辿り着くことができたならその呪いを解いてやろう、と。
あの城の中にはアンデッドナイトが犇めいている、と。
ならば私たちがすべきは簡単なことだ。
私でもわかる。
ただ、視野が狭くなってるめぐみんだけがわかってない。
すると、はあ……と、ため息をついたカズマが。
「何二人で盛り上がってんだよ、俺も行くに決まってるだろうが。それに俺はお前たちより役立つ自信があるぞ」
「なっ、言ってくれるではないか最弱職の冒険者が」
「ヘッポコクルセイダーが何言ってんだよ」
「……ッッ///」
呪いにむしばまれている私に容赦のない罵倒……だと!?
もっと……ではなくて、流石パーティーのリーダーは頼りになる。
カズマのおかげで自分の中で燻っていた思いが強くなるのを感じる。
出会ってまだ数週間も経っていない私たちだが、私はこのメンバーでこれからももっと冒険をしたい……だからこそこのパーティーで最後まで戦いたい。
そんな思いが強く胸を焦がす。
「めぐみんが倒れても、俺らがいる。仲間を頼ってくれよ。……それとも俺みたいな最弱職じゃ頼りにならないか?」
「……いいえ」
「カズマの言う通りだ。それにキャベツの収穫の際に、めぐみんも私の鉄壁の守を見ただろう? あの防御を見てもなお、私の防御を魔王軍幹部はあっさりと貫けると思っているのか?」
「…………いいえ」
「鋭刃の矛となり、来たる敵の悉くを貫くと豪語してたの最強の魔法使いは嘘付きなのか?」
「いいえ…………いいえですとも!」
「なら……死地を共にしてくれる仲間として、これから行く冒険に付き合ってくれるか?」
「……ええ! もちろんですとも! 我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして邪魔する壁全てを破壊する者なり! さあカズマ、私たち矛と盾のことを存分に使ってください!」
めぐみんの赤い瞳が輝きを取り戻す。
そうだ、それでいい。
自暴自棄さのかけらもないやる気を取り戻した瞳を見たカズマが作戦を口に出す。
「そうだな……例えばだが、俺の敵感知スキルで城内のモンスターを索敵しながらとかどうだ? 潜伏スキルで隠れつつこそこそいこう。それで、毎日城に通って一階から順番に爆裂魔法で敵を倒すんだ。毎日地道に敵を削っていけば……」
「ぷっ……」
「……おい今笑ったろ」
「す、すまない……すごい姑息な手を使うなと……」
「姑息とか言うなよ、ちょっと傷ついたぞ。誰にも思いつかない現実的打開策だとか、神算鬼謀な策略だとか……言い方考えろよな」
「すまないすまない……ただ、私が頭に思い描いていた魔王討伐とは大分違かったものでな」
こうしていつも通りの私たちは、私の呪いを解くために城に向かうことになった。
エリス神様。
一週間後の私は笑っていますでしょうか。
女騎士としての役割を全うしましたでしょうか。
それとも仲間を置き去りにした酷い私を罰してくださるのでしょうか。
たとしたら、願わくば、貴女様と見えるのはもう少し後の楽しみに取っておきたかったのですが……
ああ、女神エリス様。
この様な素晴らしい仲間と巡り合わせてくださり、感謝申し上げます。
本当に……ありがとう。