あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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3.輝く緋色の光~約束を果たすから~

俺の身勝手で死んで……すみません、エリス様。

でも決めたんです。

せっかくだし最高のハッピーエンドを目指してみよって。

……その時にちょっとばかし無茶するかもしれませんが、その時は、またいつもみたいによろしくお願いします。

 

 

そんな似合わない言葉を天界に置いて、転移した先はホーストを倒した直後。

この後、この世界の俺が魔法で1日もかからず埋め立てる場所なのだが、まだ激しい爆発の痕が地面に深々と存在しているのを見て時間が巻き戻されたことを実感し、肩にのしかかるずっしりとした重さを感じる。

暗く重い気持ちをため息とともに吐き出しきり、これからすべき事を脳裏に浮かべ息を吸い込む。

 

……これを決めたのは俺なんだ。

しっかりしろ俺。

アクアならまだしも、エリス様にあんな顔させておいて、途中で放りだせるものか。

それに、最後まで貫き通す方がカッコつくに違いない。

 

吸い込んだ空気が血に乗って脳へ届き、やるべきことが明確になっていく。

 

 

どのタイミングでベルディアと戦って倒すのか選べるとしたら。

一回目の襲撃で倒しきるか、それとも城を攻略するか。

どっちが手間が少なくて簡単かなんてわかりきっている。

 

一度目の襲撃だとベルディアが一人で来る。

アンデッドナイトはいない。

戦闘になれば頭を空へ投げて、それを狙撃で撃ち落とすこともできる。

街の冒険者に被害が出かねないのが欠点だが、今やってるヘイト稼ぎで他の冒険者が戦闘中に狙われるリスクは下がるだろう。

 

城で決着をつけようとするならアンデッドナイトが待ち受けているし、そいつらに対しては俺の潜伏スキルも意味がない。

ようやく最上階にたどり着いた頃には死の呪いの期限が間近。

街の人を巻き込まないって利点はあるが、俺が前の世界で体験してない状況故のイレギュラーが怖い。

手間と時間、そして不確定要素的に一回目の襲撃で何とかした方がいい気がする。

 

そして、万が一、二度目の襲撃で事を構えるとしたら。

まずは死の宣告を奇跡的に回避する必要がある……うん、却下だな。

それに厄介なアンデッドナイトがいる。

前はアクアが勝手に女神オーラをまき散らして部下のアンデッドナイトの囮を務めてくれたが、アイツがいない今、アンデッドナイトを嗾けられたら街へ侵入し一般人を巻き込む。

 

俺らの知り合いをゾンビに変え、増殖する敵戦力。

知り合いの亡骸を相手に躊躇し、精神とともに削られる冒険者。

街が滅びかねない。

 

城の攻略とか二度目はなしだ。

この一回で仕留めきる。

それでみんなが欠けずに、馬鹿みたいな笑い声を上げて過ごせるようにしなくちゃならない。

 

 

 

 

決意を新たに俺は体を動かす。

一先ずは前回と同じ行動だ。

 

俺のパーティー募集の張り紙に落書きをしにギルドへ遊びに行き、冒険に出た2人を追いかけて、カエルに消化される前にジャイアントトードの脳天に狙撃ッする。

そして口の中に入ったまま2人を放置だ。

……これは俺が考えた巧妙な作戦で、ジャイアントトードの死骸と言う巨大シェルターに少しばかり留まってもらうことで、他のカエルが散り散りになるまで生暖かさを味わって貰うことで安全に過ごせるって算段だ。

加えて素顔を見られるリスク回避できる優秀な作戦であって決して面倒臭いとかそういう理由じゃない。

 

そして次の行動に移る。

ここから別の行動をしてかないとならない。

でないと同じ筋道を通って、同じ結果になる。

俺はそれが嫌で、俺のわがままで別の結果を望んだんだ。

 

一度目の襲撃で誰も命を落とさず、かつ討伐しきるために俺はどうすべきか。

エリス様がこんなことを言っていたのを思い出す。

この後俺が何をしてもベルディアがアクセルの街に来るのは変わらないらしい、と。

つまり、俺がわざわざ爆裂散歩を止める意味はない。

むしろ爆裂魔法で精神的に疲弊していたし、弱体化を狙うなら止める意味がない。

 

あの時の俺はベルディアとの戦闘を回避することばかり考えていたが、よくよく考えれば、俺の最終目標は魔王の討伐だ。

魔王城を囲む結界を破壊するには、結界を管理している魔王軍幹部の討伐が必須。

もし、今回ベルディアの討伐を後回しにできたとしても、いずれ討伐しなくてはいけないし、討伐を後回しにすればするほど俺の知ってる世界から離れて予測つかなくなるだろう。

俺がすることは簡単だった。

 

 

「はぁ…………っし、やってやらぁ!」

 

今更だがなんて無茶ぶりを買って出てしまったんだろうか、と厄介な選択を選んでしまった自分にため息をつくも、その瞳に後悔は無い。

気合いと決意のかけ声とともに自分の頬を叩き表情を引き締める。

 

現在はダクネスが呪われるまで残すところ1週間……つまり爆裂散歩が始まるその日。

 

この世界に降り立たなかった駄女神のことを思い浮かべつつ、俺はベルディアの住まう廃城前で1人、緊張でため息をつく。

そのため息は爆裂散歩に来ていた爆裂魔法使いの音でかき消された。

 

どこからか莫大な借金をこさえてくるし、アンデッドを引き寄せるし、お茶をすぐ浄化するし、俺の恥ずかしい秘密を簡単に暴露しようとするし、俺の相談なしに宴会芸スキルとか言う役に立たないスキル取得するし、むかつくほど強力な補助魔法使うし、褒めるだけで勝手にどんな傷でも癒やすし、誰かが死んでも簡単に蘇生するし……

 

なんというか、アクアがここまで役に立たなかったり役に立ってたりしたヤツだなんて思いもしなかった。

まあ、居ないやつに縋ろうとしてもしょうがない。

何とか自分の力だけでやってやると、爆発の振動に背中を押され、準備を開始する。

めぐみんを背負ってアクセルの街に帰る俺を見ることもなく黙々と武器を組み立てる。

 

 

一応言っておくが俺一人でベルディアを倒そうだなんて思っちゃいない。

てか、この世界の俺らが倒さないと、俺が今まで体験した通りの筋道にならなくて、いつかどこかで綻びが生まれる。

レベル的な意味でも、討伐報酬的な意味でも、名声的な意味でも、この世界の俺が率いるパーティーで討伐しないと意味なさそうだしな。

 

戦闘に関して俺ができるのはあいつらが討伐するためのお膳立てをするだけだ。

じゃあ具体的に俺は何をするかって言うと……

 

矢に()()()()をくくりつけ、弓を引き。

「『狙撃』ッ」

最上階の窓を狙い澄まして射た。

 

あるものとは、

ある食後の昼下がりのときは、美人女幹部にセクハラしてる魔王軍幹部のデュラハンがいるって話をアクシズ教徒に伝えたという旨をしたためた文を。

また氷雨の降るあるときは、魔王の娘がセクハラを魔王に訴えていたと、職場の上司に不都合なことがばれたという恐ろしさを疑似体験してもらえるデマカセを。

ベニヤの板を窓に張り付けて手紙の受け取り拒否をされたとあるときは、ギャンブルで儲けた金を全投資し、えげつない値引き交渉術で格安で購入した爆発するポーションシリーズを。

俺は毎日爆裂散歩の尾行のついでに矢にくくりつけ一日一回は最低でも送りつけた。

 

弓矢にくくりつけるバリエーションのネタが尽きた頃にはウィズが売ってた携帯トイレ――水を流せばそこら中に水をまき散らかし、ウォシュレットを使えば肉体を貫通する水圧のオプション付き――を差出人不明で送りつけてやった。

そんで「魔王軍幹部のバニルからの贈り物である! ありがたーく受け取るといい」とか言って、アンデッドナイトの制止を聞かずにベルディアが座す最上階に無断で設置やったりした。

今頃どこかのデュラハンが座って、ケツに弱点属性をぶち込まれ悲鳴を上げている頃だろう。

そんでスプリンクラーと化したトイレが部屋中に穴を開けつつ水をまき散らし……まあ、つまり何をしたかと言えば全身全霊で嫌がらせだ。

いい感じに弱体化したところで街に来て、エクスプロージョンって算段だ。

 

 

 

 

そんなこんなで一週間の爆裂散歩が終わった。

ぼちぼちベルディアが来る頃合いだろうと思っていると『緊急! 緊急! 冒険者の皆さんは直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!』というお馴染みのアナウンスが響き渡る。

いよいよ始まったか……と俺の心に緊張が走る。

周囲に聞こえそうなほど激しく鼓動を刻む心臓を押さえつけ、正門へ。

 

 

駆けつけるとそこには水浸しのベルディアの影。

心なしか前回よりも凄まじい威圧感を放っていた。

 

「まままままっ、毎日毎日毎日毎日っっ!! おお、俺の頭に、スコンスコンスコンスコン狙いやがってェェエェエッッ!! 俺の城に弓矢にくくりつけてェ変なモンばっかりを撃ち込む大馬鹿者は誰だァァアアッッ!!」

 

自己紹介を忘れて開口一番に怒りの叫びを轟かせるくらいに威圧感ましましだ。

よほど魔王軍の幹部は、爆裂魔法より俺の嫌がらせの方が堪えたらしい。

そんな理不尽な怒りをぶつけられた街の冒険者は誰も彼もそんなことを誰はやったかを知ってるわけもなく、一体何が起こっているのか理解が追いついていない様子でざわめいていた。

 

「弓矢?」

「弓矢を使えるやつなんてこの街にごまんといるぞ……」

「一体誰なんだよ……早く名乗り出ろよ……」

 

冒険者たちはデュラハンの怒気を恐ろしく思ってか口々にそんなことを言い出す。

しかし、俺はベルディアの情緒不安定な様子、それから尻をさするような動作を見て、嫌がらせが功を奏してヤツが弱っていることを悟った。

計画通り……っと口角を上げながら俺は前へ出る。

冒険者たちは知らないヤツが前に出たことを訝しんで眉を顰めていたが、めぐみんは見覚えのある仮面を見てすごく興奮して。

 

「あ、あれは仮面の下に素顔を隠した謎多き実力者さんじゃないですか!」

「何だ何だ、今回やらかしたのはただでさえ頭がおかしいだの何だのと言われてるお前の知り合いかよ……」

「類は友を呼ぶというが、あの後ろ姿……誰かに似ている気がしなくも」

「オイ、頭がおかしいとか、類は友を呼ぶとか……何を言いたいのかしっかり聞かせてもらおうじゃないか」

 

何か言ってるが、そんなやりとりをしてる三人のことは放置して目の前に集中する。

ベルディアはわなわなと震え、ついにはこう叫び散らかした。

 

「お前が……! お前が、毎日毎日俺に弓矢的中させてくる大馬鹿アーチャーか!」

「アーチャーではないです」

「黙れ、そんな屁理屈は聞きたくないッ! 俺が魔王軍幹部だと知っていて喧嘩を売ってるなら堂々と城に攻めてくるがいい! その気がないのなら街で震えているがいい! ねえ、なんでこんな陰湿な嫌がらせするの!? この街には低レベルの冒険者ばっかりがいるって聞いたから放置しておいたが、ここぞとばかりにポンポンポンポン撃ち込みおって! そもそも何だあの爆裂魔法は!」

 

めぐみんたちが爆裂魔法という言葉にピクリと反応する。

俺はベルディアとやりとりをしながら耳を三人の方に傾けると。

 

「あ、あの人は実力者なのできっと爆裂魔法をも使えるのですよ」

「ああ、そうだな。実力者ならそう違いない」

「カズマにめぐみんも、何か知っているのか? 私だけが蚊帳の外なのか?」

「あれは以前、邪神の眷属を名乗るホーストとかいう上位悪魔との戦いのことでした。私が絶体絶命の瞬間、あの仮面の男は私を……」

「つまりどういうことなのだ?」

「つまり、私たちがとある廃城に爆裂魔法を放つ爆裂散歩を日課にしていたとしてもそれはきっとあのデュラハンの城ではないでしょう、ええ」

「そ、それは話が飛躍しすぎていた何もわからなかったのだが!? あと爆裂魔法といえばお前が放つ魔法以外聞こえてこない……もしかして、爆裂魔法を打ち込んだっていうのは……」

「黙ってろダクネス。何だかめぐみんの爆裂魔法だってのを有耶無耶にできそうだ」

「んっ……くっ/// 黙っていろと強い口調で言われると言いなりになってしまう……喜んでいる自分が悔しいが、このぞんざいに扱われてる感じ、嫌いじゃない」

 

とか言って自分たちがしてきたことを俺に責任転嫁しようとさせていた。

いや、俺に戦わそうとすな!

お前ら主体で戦うんだよ!

心の中の叫びは聞こえるはずもなかった。

 

「本当に毎日毎日何なの!? 手紙のお届けですってか! ピンポンか何かのつもりか!」

「でもあの城にドアベルないし。……ない方が悪い」

「アクシズ教並の暴論やめろ巫山戯た仮面の男! そもそも魔王軍幹部の城にそんなもんあってたまるか! それから部下から聞いたぞ! バニルの色違いが俺の玉座の代わりにトイレを設置して、笑いながら走り去っていったと! キッキキキッキキサマのことだろォォオォッ!」

「そのご様子だとウィズ魔道具店の商品をお気に召さなかったようで。後で商品代と設置費用、撤去料をまとめた請求書を送らせていただきます。 まいど!」

「あんな欠陥商品送りつけて無断で設置したあげく金も取るのかよ! 巫山戯るなッ!! 俺はあれに座ったせいでハゥワっ!?? って超絶ダメージ受けたんだ! 慰謝料を請求させてもらう!!」

「超絶ダメージを受けたって、まさかお前、あそこのトイレ使ったのか……」

 

いや、あんなトイレを王座の代わりにおいた俺も何だが、あれにズボンを下げて腰を下ろす魔王軍幹部様も大概だろ。

部下たちに見られて興奮する変態上級者ですかって。

ダクネスで強制的にそっち方面の耐性がある俺でもドン引きなんだが。

 

「まさか部下に見られながら便座で踏ん張って……美人リッチーのスカートの中身を見たいがために頭を投げ転がして覗く真性の変態は格が違うな……」

「「「うわぁ……」」」

「ちょ!? 見通す力は同格の相手には通じないはずじゃ……ってち、違う!! 冒険者ども、このふざけた仮面の男の話を信じるな!! 俺は別に部下の前で大をする趣味はない!」

 

あのアンデッド墓穴掘りやがった。

冒険者……特に女性冒険者から放たれる冷ややかな空気。

ベルディアが必死に弁明しようとすればするほど言い訳っぽくなって、視線という名の氷の柱が突き刺さる。

特に水浸しになったその体には堪えるだろう。

社会的に抹殺されかけてるベルディアがびくつきながら。

 

「ほ、本当に違うんで……い、石投げないでください! 私は騎士として女性の皆さんを守る誠実な……」

「うそこけ、女湯の風呂椅子に頭隠して息潜めながら荒げてたろ」

「ああ、間違いない。あのデュラハンはやり手だ。目をギラギラさせながら私たちの四肢を舐め回すように見る様が目に浮かぶ……!」

「ふ、風評被害やめてください! 俺はこれでも生前は誠実な騎士だった! キサマらは人を陥れようとするその精神を恥だとは思わないのか!!」

 

訴えたら勝てるレベルの犯罪行為を繰り返す人外にそんなこと言われてもちっとも。

……おい、俺が潜伏スキルで消すからって覗き見すると思ったろ。

残念だったな、その辺はサキュバスさんの夢で事足りてるわ!

そんなことを思っていると、今の今まで散々怒鳴り散らかしていたベルディアが叫び疲れたのか酷いため息をついて。

 

「とにかく、俺にいたずらするのはやめろ、今回は許すから、本当にもうやめろ、本当に本当にやめろよな!」

「それは、爆裂魔法のことも言っているのか?」

「爆裂魔法くらいなら……いや、他の被害が精神的にきすぎて爆裂魔法を家にぶち込まれるのがまだましだと思っている自分がいる!? 怖っ!! それも俺の感覚が麻痺する前に即刻中止しろ!」

「そうかそうか…………三回もやめろって言われたぞ。こりゃフリだろ。どうするんだ?」

 

 

めぐみん。

 

 

俺はこの世界で初めてその名を呼んだ。

 

魔王軍幹部が倒されずにいた理不尽な世界に堕ちる駄女神(希望の光)の代わり。

人類が滅亡しかけてた世界を照らす爆裂魔法使い(輝く緋色の光)の名を。

 

照らされた世界は、今、約束された道の果てへ進み始めた。

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