突如現れた見知らぬ仮面の男と魔王軍幹部と思しきデュラハン。
見知らぬ男の方はめぐみんを一度助けてくれたヤツらしいが、そんな聖人みたいな男がどうして魔王軍幹部の城にいたずらを仕掛けてたのか。
俺は自分たちが爆裂魔法を撃ち込んでいたことを棚に上げ、事の成り行きを見守っていた。
しばらく怒りに満ちていたデュラハンが勝手に喋りまくっていたが、大層疲弊した様子で「見逃してやるからもういたずらするなよ!」みたいなことを言い出した。
「いたずらするのはやめろ、今回は許すから、本当にもうやめろ、本当に本当にやめろよな!」
「そうかそうか…………三回もやめろって言われたぞ。こりゃフリだろ。どうするんだ? ……めぐみん」
「えっ!? わ、わたしですか? わわわ私には一体何のことやら……。あはは……」
突如、仮面の男が俺たちの方を見て、そう名指ししてきた。
俺はめぐみんだけが名指しされたので、会話の邪魔にならないようにスッと身を一歩引いて目立たないようにダクネスの陰に隠れた。
「な、何か弱そうな女子を盾にして隠れてるんですかこの男!」
「し、しょうがないだろ怖いんだよ! というかコイツはか弱い訳ないだろ」
「わ、私だってか弱い乙女扱いされてみたいのだぞ! それなのにどうしてお前というやつは!」
「そんな無駄話をしてる場合ではないのですよダクネス! 実力者さんが私を名指ししてきましたよ! どどど、どうしましょうカズマ!」
「カ、カズマです! ととりあえず餅付け! まずは素数を数えるんだ! 1、2、3……」
「餅つきなんてしませんよ貴方が一番落ち着いてください! それに1は素数じゃないですし、それだとただ数字数えてるだけじゃないですか!」
もちろんさっきの間違いは冗談だ。
焦ってる場合、もっと焦ってるやつを見ると逆に落ち着く的なアレをしようと思って…………嘘ですごめんなさい。
いやでも言い訳じゃないんだが、何で冒険の序盤から魔王軍幹部とかいう準ラスボス級の敵と対峙しなきゃならないんだよ!
本当にくそゲー過ぎるわこの世界!
ゲームだったら運営に「パワーバランスおかしすぎるだろ!」って言ってるところだ。
そんな戸惑ってる俺たちだったが、それを見た仮面の男が不敵に笑う。
「とぼけるのは自由だが、それにしても不思議なものだ。俺は爆裂魔法など使っていないのに、一体誰がそんな魔法を、
「ぎ、ぎくり」
「魔王軍幹部の攻略策を見いだした奴がまさか俺以外にもいるとはな。しかも俺よりも早くに行動を開始するなんて……流石は紅魔族随一の天才を名乗るヤツだ」
魔王軍幹部の攻略策?
知らない話ですね。
というかあの人は魔王軍に対抗するために何か行動してたってのか……
頭がおかしいヤツと同列に見てごめんなさい仮面の人!
そして頭のおかしいヤツ、お前は目を赤く輝かせて「ふっふっふ……」とかにやけ笑いするな!
俺は一応パーティーの一員な訳で、お前がやらかしたら俺まで巻き込まれるはめに…………近所迷惑に加えてさらに身内に迷惑かけるのはやめてくださいお願いします!
しかし、そんな俺の願いは爆裂狂の笑いによって儚く散った。
「はーっはっはっは! 我々の作戦に誘き出されてのこのこと一人でやって来くるとは。我らが謀略の前に魔王軍幹部の運命も決まったというものです」
いや、何言ってんだこいつ。
本当に何言ってんだコイツ!
俺らが魔王軍幹部討伐する流れ作ってんじゃねぇよ!
それにさっきまで「えっ、わわわ私ですか?」みたいなこと言ってただろ、作戦も何もないのに気取ってんな!
「しかし、我と同じ考えを持つ知恵者がいるとは何たる偶然……いえ、それが上位悪魔を弄ぶほどの実力者である貴方ならば運命という名の必然でしょう」
「普段頭がおかしいとか言われてるくせに、久しぶりに自分のことを天才とか言われて気ぃ狂いだしたのか?」
「おいカズマ言ってやるな。今めぐみんも作戦を実行した魔王軍幹部討伐の功労者になりたいお年頃なんだ。そっとしておこう」
「うわっ、また変なのが増えた!?」
「うるさいですよ我が下僕たち! それと変なのと言うのはやめてもらおうか魔王軍幹部のデュラハン! 我が名はめぐみん! その名を世界の理に背き汚れた身に刻むがいい!」
「……めぐみんってなんだ。やっぱオマエ変なヤツだろ」
「ちがわい!」
紅魔族の血が騒ぎ出したのか久しぶりの名乗りをするめぐみん。
しかし誰しもが思うことを言ったデュラハンさん。
激昂しためぐみんが杖を構え、突き立てるようにデュラハンに向ける。
「我が名を馬鹿にした愚かな不死者よ、その命を以て償ってもらおうではないか」
「お、おいめぐみん落ち着くんだ。余計なことを言うんじゃない、まだなんとか引き返せなくもないかもしれな」
「…………あの爆裂魔法も仮面が撃ったんだろと思ってたが、まさか協力者がいたとは。今謝るのであれば許してやろう、どうする」
「いいかめぐみん、ここはしっかり謝罪をするんだ、余計なこと言わず一緒に謝ってやるか」
「ふっふっふ、紅魔族たるもの、下げる頭は持ち合わせていません。それに作戦は機能していたのです! 我が爆裂魔法でもあの守りに特化した城は崩落しないのを見るに、何かあの城自体に細工をしていることは明白。そんな罠が張り巡らされてるであろう場所に、敵の思惑通り赴くなど愚の骨頂。ならば敵の方からこちらに出向いてもらえば……我が究極魔法を直接撃ち込めるというものですッ!!」
「お、おま、オマエもォォオオォォオ! オマエも俺に嫌がらせしてくるクソどもかァァアアアァァァァアアッッ!!」
余計なこと言うなっつったのに!
ホレ見ろいわんこっちゃないデュラハンさんの矛先が!
それにめぐみんが本能のままに撃ち込んでいた爆裂魔法がいつの間にか魔王軍幹部を討伐する作戦の一部に組み込まれちまったじゃねぇか!
しかもちゃっかり自分が考えた作戦ですみたいな顔して敵に終わった作戦の説明をする強者みたいなムーブしてんな!
しかもその即席で当てはめた作戦なのにちゃんと作戦として成立してるのがすごい……
ああ、終わった……俺の平穏な冒険者生活が。
「俺の城に爆裂魔法を打ち込むとか、少しは近所の迷惑を考えろ!!」
「近所迷惑? 私はご近所迷惑を考えて爆裂魔法を放つスポットを貴方の丁度いい大きくて堅いものに決めただけです。最近の私は決して迷惑はかけていませんよ、ええ」
「俺が、迷惑、してるんだッ!! ねえホント屁理屈言わないで謝罪しろ! 今ならまだそれで許すと言ったのだぞ! それともあれか、俺のこと弄くってそんなに楽しいか!?」
ベルディアが怒りを再び爆発させていると、それに対して仮面の男がため息を吐きながら。
「楽しいかって? そりゃ楽しいに決まってるだろう。ここ連日お前のせいで冒険者家業があがったりだったんだ、憂さ晴らしに狙撃するのは最高だったわ。……それと、楽しいといったら……フフ……フハハハハハハっ!! 思い通りになっている今が一番愉快だ!」
「どこぞの仮面の悪魔並みに性根腐れが!!」
「オイあそこまで腐ってないぞ流石に……。自分の思い通りに行かない世の中に憤りを感じるのは仕方ないが、お前の目的が頓挫しかけてるからと俺たちに当たるなよ、なぁめぐみん」
「え? ぇええ、そうですとも! 目的が達成されなかったとしても私たちに当たるのはお門違いです!」
さっきまで完全に自分は関係ないですって顔してたアホが、何とか話を合わせようととっさの言葉をひねり出そうとする。
というか格好つけようと思わなくていいからさ、さっさとごめんなさいしようぜ?
今ならまだ助かる、マダタスカル、マダガスカル……
「俺の、目的? そこまでわかってるというのか……?」
「ああ、もちろんだ。言ってやれめぐみん!」
「ええっ!? ええっと、ええとそうですね。どうして魔王軍幹部みたいな大物がわざわざ駆け出しの街に来たのか、その目的は……目的は!?」
ここに来てめぐみんの顔色がサァーッと青く染まる。
きっと何も思い浮かばずにどうしようと思ってるんだろ、うん、そうに違いない。
ならもう俺たちは実はただ意味もなく爆裂してた一般冒険者なんですって言おうぜ?
それで俺たちはちょっとだけ恥ずかしい思いをするかもしれないが、冒険者は命あってこそだろ?
そんな思念を伝達できないかと、目をかっぴらいてめぐみんの方をじっと見ていると。
「アクセルの街を滅ぼすこと……」
「うん、何言ってるんだめぐみん」
「……ここが『駆け出し冒険者の街』だから。始まりの街だから、襲いに来た……」
「め、めぐみん? カズマの言う通りお前は一体何を言って…………脅威のない場所を滅ぼしたところで意味は……」
「……誰もがここで初めてのクエストで。この世界で最も弱いモンスターが生息する地にわざわざ作られた、初心者冒険者修行の街。この駆け出し冒険者の街が無くなったら……無くなってしまったら駆け出し冒険者は何処で戦えば……」
駆け出し冒険者の街が無くなってしまったら駆け出し冒険者は……戦えなくなる。
新人冒険者はレベルを上げることができなくなる。
そうすれば人類側が新たな戦力を補充することができなくなる。
魔王軍は変わらずの戦力を維持するのに……
めぐみんの呟きは隣にいる俺たちにしか聞こえないほどの小さい。
……だから俺とダクネスは聞こえてしまった。
人類滅亡。
その言葉が頭に浮かび顔を青くする。
い、いやまて、まだそうだって決まったわけじゃない。
あくまでめぐみんの頭が導き出した答えの一つであって、目の前にいるデュラハンがそのためにやってきたわけじゃない可能性だって……
丁度そのとき。
「今回は違うはずなんだが……はぁ、なんでそんないい線までいくんだよ……」
そうため息を漏らしたのは仮面の男。
俺たちの会話は聞こえない距離のはずなんだが、何かブツブツと聞こえた台詞。
今回は違う?
いい線までいった……?
意味深な台詞に生唾を思わず飲み込み、俺の心音はバクバクと嫌に大きく聞こえてくる。
そんな俺たちの不安を打ち消すように仮面の男がデュラハンに向かって。
「今回の目的はあれだろ、神聖なパワーでも感じて、それで戦闘員が派遣されたんだろ」
「ああ、そうだ。俺がこんな辺鄙な場所に派遣された理由は、うちの占い師が騒いでいてな、それの調査だ。何でもこの街周辺に強い光が落ちたと……」
「ああ、それ俺だわ」
……はい?
今この男何つった?
デュラハンも要領を得ない様子で首をかしげる。
まあ首ないんですけどね!
アフロ頭の骸骨が放つアンデッドジョークみたいな何かが脳裏をよぎる。
だが、自ら手に持った首を傾ける様子はそう表現するしかなかった。
そんな俺たちの様子に仮面の男は。
「だから、エクスプロージョンを撃ったときに俺の中にあった神聖な魔力が漏れ出たんだよ。それが光の原因。わかったか?」
「……つまり何だ。お前が派遣されたのも、俺のことを誘き出したのも、全部オマエの仕業とでも言いたいのか」
「お前が派遣されたのは単純に女モンスターへのセクハラのせいだと思うが、大体あってる」
「……おい貴様今聞き捨てならないことをいった気がするのだが!?」
「言ってない」
「言っただろ! セクハラとかセクハラとかセクハラとか……」
いや、もっと大事なこと言ってたろ。
「神聖な魔力が漏れ出た」とか「それが光の原因だ」とか。
なんで第一優先がセクハラに対する抗議なんだよ。
そんなセクハラの人が、その身長と同じくらいの、黒々と太くて固くて勇ましい剣を鞘から勢いよく抜く。
「お、俺がその気になれば、冒険者どもを一人残らず斬り捨て、街の住人を皆殺しにする事だって出来るのだ! いつまでも見逃して……」
「いや、別に俺ここの街の住人じゃないし、見逃すもなにもないと思うんだが」
「ひ、人の心くらい無いのかキサマ! 悪魔でももう少し心があるぞ!」
「て、照れるじゃないか……そんなに褒めても水魔法しか出ないぞこんにゃろぅ!」
「褒めてないわ! それと俺の弱点属性で攻撃するな! あっ、ちょっとやめっ!」
脅しが効かず、逆に狼狽えてるようにも見えるデュラハンが大げさに水を避ける。
今こいつ、自分の弱点属性が水だって言ったよな……
ふと、今自分がおかれている状況を思い出す。
この仮面の人がいなくなったらこのデュラハンは俺たちのことを許さずに攻撃を仕掛けてくる。
それを回避する策だったDO・GE・ZAはもう通用しないだろう。
他に回避する方法があるとするなら……
水属性といったなら、俺の出番じゃないか!!
「ったく! どうしてジャイアントトードくらいしか討伐クエスト受けてない俺がいきなり魔王軍幹部を相手にしなきゃならないんだよ! しょうがないから加勢してやる! 『クリエイト・ウォーター』――ッッ!!」
「はん、ジャイアントトードしか討伐したことがない? 初級魔法程度しか扱えない弱者は大人しくすっこんでろおぼぼぼおぼぼぼろっっ!?!?」
初級魔法かと思ったか?
残念、転生特典にさらに魔力を上乗せした上級魔法級の威力を誇る魔法だ。
不意打ちの弱点狙い撃ち高火力魔法は痛かろう。
大量の水を飲まされ、息を荒らげ苦しそうな様子のデュラハンはそれでも膝をつくことなく、地に突き刺した剣を片手にそこにいた。
「くそっ、俺の魔法でもそこまでの効果はなしか……」
「いや、凄く効いてるように見えたぞ? 呼吸を必要としないのにおぼぼぼと言っていたし。……も、もしそんなに効果が不安であればぜぜ是非私に試して」
「いや、もう一回アイツに撃ち込んで反応を見ればわかることだし断る」
そう言ってデュラハンの方にもう一撃加えるべく手を広げて魔法発動の準備をしようとして……
そんな俺を狙う様子もないデュラハン。
本当に俺の魔法じゃ効果がないんじゃないかと不安に駆られていたが、一つ、めぐみんが俺の緑のマントを引っ張り「あれを」と指さした。
その方に視線をやると。
「…………あ、あの。俺って結構高レベルなはずで、いくら弱体化してるからって窃盗スキルで盗られる訳…………すみません、頭返してくださ」
「ほぉら、そんなシワシワで水分が足りてないアンデッドさんはこれがほしいんだろ? 『クリエイト・ウォーター』」
「ちょ、やめろおぼぼぼおぼぼぼぉっっ!?!?」
「おかわりいるだろ? 『クリエイト・ウォーター』『クリエイト・ウォーター』まさか俺が注いだ水が飲めないわけないよなぁ? 『クリエイト・ウォーター』『クリエイト・ウォーター』」
「も、もうお腹いっぱおぼぼぼおぼぼぼぉ……」
「う、うわー…………」
誰が言ったのか……俺たちの心を代弁したうわー。
いつの間にベルディアの首を奪ったのかはわからないが、片手にその首を持ち、もう片方の手からは絶え間なく流水が注ぎ込まれて……
え、えげつねぇ……
あんなのデュラハンじゃなくても拷問だろ。
デュラハンにさえ人の心がない認定された仮面の男は。
「そこの魔法使った冒険者ナイスだったぜ! まさか初級魔法と見せかけての上級魔法はいい手口だった。俺も今度参考にするわ」
「いやちょっと待て! その言い方だと俺がお前以上の鬼畜野郎に聞こえるだろうが! ……ちょ、めぐみん! ドン引きすんなよ! ダクネスは羨ましそうな顔してんじゃねぇ!」
「取り込み中悪いんだが、氷結魔法であのデュラハンの地面を凍りづけにできないか? 万が一あの体だけが独立して動き出したら困るし、そろそろ頭を返して爆裂魔法を叩き込もう思うんだが」
「お、おう。じゃあ『フリーズ』……」
俺は仮面の人の指示通りに地面を凍らせた。
一応魔王軍幹部を討伐するための計画を立てた頭脳を持つコイツのことだ、俺たちが不利になるようなことは言わないはずだ。
そう思っていたのだが……
地面はスケートリンクと化し、ベルディアの体はツルンとバランスを崩し始め、ついには汚いながらもタップダンスでも踊ってるんじゃないかというほど足を盛んに動かし体を倒さないようにして、こけた。
「う、うわぁー……足を凍りづけして動けなくすればよかったのに、まさか転倒ダメージを追加するとは……やるな!」
「ち、ちがー! 俺はお前の指示に従っただけで……め、めぐみんさん? どうして俺からちょっと距離を置いてるんですか? ダクネスは近すぎッ!」
この男!
まさか俺を罠にはめるなんて……見ろ、冒険者たちの視線を!
ベルディアの体と頭に哀れみの視線を向けてるのに対して、俺には皆さんのドン引き視線が痛いほど刺さってるじゃないか!
ガラスのハートだったら俺は粉々になっていたに違いない。
そんな俺に目もくれず淡々と。
「ここまで弱れば爆裂魔法1発でも討伐できるだろ。後は任せたぜ」
「任すな!」
「任されました!」
「任されるな!」
俺の言葉を無視して、仮面の男の台詞にめぐみんが杖を構えて紅い瞳を輝かせた。
「魔王の幹部ベルディアよ、我が力見るがいい! 『エクスプロージョン』――ッッ!!」
こうして、いつの間にか、俺の思い描く強大な敵との戦いは幕を閉じた。
世界最大の敵のうちの一人と対峙したのに奇跡的に死者どころか負傷者も出なかった。
これで誰もが願った素晴らしい明日を迎えられるのだろうが……
なんか思ってたのと違う!!
3億エリスを手に入れてウハウハ……にはならない。
どういう訳か、あの爆裂魔法を撃ち込みまくった城の修繕費に回される。
ナニダープのせいであるが、それを知るのは先のことである。