4.素晴らしい明日~待っている~
俺の名は佐藤和真。
魔王と戦う宿命を背負った元高校生。
運命の女神へと導かれ異世界への転生を果たした。
破壊と混沌が渦巻く見知らぬ世界。
強い絆で結ばれた仲間たち。
最強の魔法使い、気高い騎士。
そして窮地になると俺たちを助力する正体が謎に包まれた仮面の男。
運命の歯車は加速する。
この素晴らしい世界の明日を救うため、俺たちの冒険がまた待って……いなかった。
「私は王国検察官のセナ。冒険者サトウカズマ。貴様には現在国家転覆罪の容疑がかかっている。貴様の指示で転送されたコロナタイトが領主様のお屋敷を破壊した。幸いにも死人は出なかったものの。貴様はテロリスト、もしくは魔王軍の手先ではないかと疑われている」
「え?」
「ちょっとまってください! デストロイヤー戦においてカズマの機転がなければもっと被害が出ていたかもしれません! せいぜいカズマはセクハラとか小さい犯罪をやらかすくらいです」
「え?」
「そうだ検察官、何かの間違いだ。この男にそんなことをする度胸はない。屋敷で薄着の私をあんな獣のような目で見ているが、夜這いの一つもかけられないヘタレだ」
「え?」
「一応言っておきますが、国家転覆の罪は主犯以外にも適応されます。サトウカズマと牢獄に行きたいものは止めはしませんが?」
「え?」
「も、もし! もし私があの場にいたらコロナタイトのテレポートを阻止することができたでしょうに!」
「え?」
「わ、私は一緒にいながら止めることができなかったので一緒に牢獄プレじゃなくて主犯格として牢に閉じ込めてもらってm」「お黙りなさいダクネス! 被害者が一人で済むのであればそれに越したことはないではありませんか! それに私たちが捕まってしまったらカズマの味方がいなくなります! ここは我慢です、辛くても我慢すべきところなのですよ!」
「え?」
「これより被告人サトウカズマの裁判を執り行う! 検察官」
「領主という地位のある人間の命を脅かしたことは国家を揺るがしかねない事件です。よって被告人サトウカズマに国家転覆罪の適用を求めます」
「もう一度言おう…………え?」
どうしてこうなった。
今は公開裁判。嘘を感知する魔道具が設置され、検察官のセナ、そして裁判長が被告人である俺を見る。
そして、弁護人の席にはめぐみんとダクネス、被害者の席にはでっぷりとしたおっさんが。
俺はただウィズにテレポートをお願いしただけなのに……
というか、俺なんかよりもっと怪しいやつがいただろ。
よりによってどうして俺なんだ!
「では国家転覆罪の適応を求める上での根拠を提示します。根拠その1、魔王軍幹部と交友があると魔道具が検知した。その2、爆裂魔法を放ち生態系を破壊することで対処困難なスタンピードを引き起こそうとしている可能性。その3、魔王軍幹部の大悪魔バニルと思わしき者と接触しているとの目撃情報」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 異議あり異議あり! まず俺は魔王軍幹部の手先じゃないわ!」
俺の渾身の言葉に嘘を検知する魔道具は反応を示さない。
かわりに裁判長や聴衆がザワザワと「こんな証拠でも何でもないことで捕まっちまうのか?」とか「目立ちすぎた冒険者に腹が立って、ここぞとばかりに権力で……」と言う声が湧く。
俺はニィと口角を上げて訴える。
「……鳴りませんか」
「ほぅれ見たことか! 俺は最初から何もやっていないって言ってるのに何ですか! 冤罪だったんですか! 冤罪で死刑を求刑っすか! 怪しきは罰せざるでしょうが! 人権を尊重しろーっ!」
「……ですが交友関係はあるのでしょう?」
「……必殺、黙秘権!」
「耳を塞いでもなかったことにはなりませんよ?」
負けた……
俺の得意技の一つである屁理屈が負けた……!?
ヤバいヤバい……ッ!
マジでこのままじゃ負ける!
いや、一応裁判長とかはまだどっちの言葉が真実か判断しかねてるみたいだしまだなんとか巻き返せるはずだ……
「他に異議はありますか?」
「じゃ、じゃあスタンピードってなんだよ! 確かにウチのパーティーの爆裂娘は生態系を破壊したかもしれないが、それとスタンピードは関係ないだろ!」
「関係ない? 本気で言っているのですか? 生態系が崩れるとヒエラルキーの均衡が崩壊します。一部種族が爆発的に繁殖し、魔力溜まりが変異種の発生を助け、全て食い尽くした後は、どこへ食料を求め襲撃をするかは……おわかりですね?」
「……ハイ。うちの魔法使いがすみません……」
弁護人の席に座っているめぐみんが帽子を深くかぶり視線を隠し、申し訳なさそうに俯く。
いや、正直俺にも同じような心当たりがなくもない。
ピンチになると絶対魔力を多く消費して一撃必殺になってしまう。
それは本能で相手を一撃で殺さないと次はないと思っているのか、力の調節が下手なのか。
とにかく、一撃ウサギの群れを討伐したときとかに結構環境破壊しまくった記憶があった。
それでも俺はまだ無罪を諦めきれず言葉を絞り出す。
「じゃ、じゃじゃあ! そもそも大悪魔バニルって誰だよ! 俺は知らないぞそんなやつ!」
「仮面の悪魔。地獄の公爵。七大悪魔の第一席。見通す悪魔……知らないとは言わせない」
知らないです!
でもきっと仮面の悪魔っていうからにはあの仮面の男のことを言ってるんだろう。
「交友がある魔王軍幹部とは、もしかしなくともバニルのことですか?」
「そ、それは違う! そもそもアイツは勝手に現れては勝手にいなくなる奇妙なやつで仲間とかでは断じてないんだ! アイツがバニルとかいうヤツだとして、俺はアイツを何も知らないんだ!」
「なるほど……つまり、魔王軍幹部の二名と何らかの関係がある、かもしれないということですか」
ヤバい、本当にヤバい、反論が出てこない。
もし……もしもだ。
誰もがアイツの言うことを信用してたが、実際は計算高く信用を得るために動いたとしたら……
それによって魔王軍幹部とバレずに街に溶け込んで、諜報活動をしていたとしたら……
魔王を倒しうる存在を、情報を錯綜させ、権力を裏から動かし、社会的に抹殺しようと動いていたとしたら……
安全な位置から確実に、俺を陥れるために。
そんな仕組まれた裁判に勝とうなんて……
俺の顔は見る見る青ざめる。
あっ、終わったかもしれ……
そこまで思いかけていたその時だった。
「呼んだか?」
「き、キサマは!」
「仮面の悪魔バニルです」チーン
仮面の男が嘘発見器を鳴らしながら登場した。
その音を聞いた記録の人が慌てた様子で書き留める。
きっと仮面の男がバニルでないということを記録に残してくれたんだろう。
「……裁判の飛び込み参加や虚偽の情報を出すのはご遠慮頂きたいのですが」
「いや、ずっと傍聴席にいたからな? それと俺のことを魔王軍幹部呼ばわりしたから、流石に否定しないとって思って」
「そ、そうでしたか、すみません影が薄くて気づくのが遅れたようで……。それと魔王軍幹部だと疑いをかけたことも」
「あー、うん。わかってくれればいいわ。じゃ、俺は帰るか」
「帰るなよ!! お前が一番怪しいんだから!!」
思わず突っ込んでしまった。
確かに俺の嫌疑は一つ晴れたが、俺の指示でコロナタイトを転送する羽目になったのってほとんどこいつのせいだろ!
だってコイツが俺に「なあ、何か案はないか?」とか言ってくるから俺がウィズにテレポート頼んだんだ!
それになんかわからんが変な石を置いて部屋出て行ったし。
何なら仮面の男があっというまにゴーレムを手玉にとって無力化して、最短ルートでそのコロナタイトの場所に着いたし!
「あ怪しくねねえし!」
「十分不審者な怪しさだわ! それと何か知らないけどめぐみんに魔力譲渡してたよな? どうしてそんなことする必要があったんだ! いや、それ以前に、どうしてデュラハンとかデストロイヤーがアクセルの街に来るって事前にわかってるような行動ができるんだよ!」
「おまっ! きたねーぞ! 自分を助けようとしてるヤツを売って自分が助かろうとか思ってるだろ!」
「冒険者、命あってなんぼのもんですわ!」
「ジャイアントトードに食われてたくせに生意気だ!」
「ちょっとなんでそれを知ってるんですかね!? まさか俺のストーカー」
「じゃないわ! たまたま、そう、たまたま偶然夜に街の外から大きな魔力の気配がしたから見に行ったらカエルの口から足が出てたから助けたんだわ!」
「そうなのか!? その節はありがとうございました!」
まさかの事実発覚。
コイツ俺の命の恩人だった件。
というか、今現在まさに命の恩人として助けようとしてたところを俺が仇で返してた件。
マジすんません!
「……聞き捨てならない話がありましたね。事前に大物賞金首が来ることを予測し、それで対処法まで持ってきた……まるで魔王軍幹部バニルの能力ではないですか」
「…………だから?」
「だから、とは?」
「だからどうしたって言うんだ。俺はバニルじゃない。魔王軍幹部の顔はほぼ全員知っている。魔王軍幹部と交友がある。魔王軍幹部を倒す手助けをした。魔王軍幹部を倒した。魔王を倒した」
「……!? ど、どういうことだ!? 魔道具が鳴らない!? どうやっても嘘なのに……」
「おっとおっと、ポンコツ魔道具は壊れてしまったか? 俺の嘘も誠も見破れず一切反応しないじゃないか。この瞬間、裁判の根拠が根拠ではなくなった。被告人はテロリストでも魔王の手先でもなかった、はい、無罪、閉廷、解散」
す、すげー!
あんな不利な状況だったのに魔道具が壊れて裁判が終わっちまった!
まさかこれもこいつが仕組んだことなのか!?
それとも嘘を感知する魔道具を阻害する魔道具でもあるのか!?
何が何だかわからんがとにかく、俺の判決は証拠不十分で無罪になりそうだ。
思わずホッとして腰が砕けるその直前、ダクネスに支えられて辛うじて立つ。
めぐみんも俺の無罪を確信して溜飲が下がったのか俺の方にヨレヨレと歩いて、俺のことを抱きしめた。
胸のあたりが妙に湿っぽかったのは気のせいだろう。
そんな俺たちの様子に不届きなつばが飛んできた。
領主アルダープだ。
「ま、待てぃッ!! コイツらはワシの屋敷を吹っ飛ばしたんだぞッ!! 無罪であっていいわけないッ!! そうだろ裁判長ッ!! 下賤な冒険者など死刑だ死刑ッ!! 極刑に処すんだッ!!」
「お、おっさん、俺のせいで屋敷がなくなったのは悪かったって。でも死者がいなくて、俺がテロリストじゃないって言うんだったら……」
「静粛に、これより被告人の処分について言い渡す」
裁判長がガベルを叩き会場に静寂をもたらす。
俺は無罪を確信している。
だが、なんだろう、この胸騒ぎは……
どうしてこの領主のおっさんはニタニタと笑って……
「判決。被告人は死刑とする」
「えっ?」
あり得ない判決に、耳を疑ったが、死刑をくだされてしまった。
俺に、素晴らしい明日なんて待ってはいなかった……
……ダクネスの凜とした声が響き渡るまでは。
結局、領主の屋敷を弁償することになり、また、国家転覆の容疑は解かれずに監視対象となってしまった。
ダクネスが貴族のお嬢様で、俺を守るために貴族の肩書きを使ってくれなかったら本当に死刑になってたし、ダクネスには感謝だけ伝えることにする。
というわけで、何とか原作通りですね