あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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5.幻想か地獄か~世界を切り開け~

「サトウカズマ! サトウカズマはいるか! キールダンジョンで謎のモンスターが大量に湧き出してる!」

「いや待てよ! 俺たちは関係ないぞ……ってかキールダンジョンってどこだよ!」

「知らないとは言わせないぞ。街の直ぐそばにあるダンジョンを冒険者が知らないというのは流石に無理が……」

 

すみません、知りません。

って言いたかったが捲し立てるように俺に言及を続けるセナ。

言葉を滑り込ませる隙もなく、俺は助けを求めるためにめぐみんとダクネスの方を見やると。

 

「そう言えばカズマはダンジョンには行ったことがないのだったな」

「そうでしたね。というか私が一切役に立てないので気を遣ってくれてたのでしょう?」

「ソ、ソダヨー……。三人揃ッテ一人前ダカラナー」

 

言えない。

幽霊屋敷の掃除した時に幽霊に驚かされて、それで負ったトラウマが消えてなくて、暗くて狭い場所を一人で行くのが心細いだけなんて。

仲間思いで優しいカズマさんを見ている純粋な二人の前では言えない。

俺とセナの間に割って入って擁護してくれた二人が。

 

「それに1年もしないうちに街のすべてを覚えられるわけもないでしょう。ねぇダクネス」

「ああ……そういうわけだ。私たちはその件に関係してないのでお引き取りを」

「いえ待ってくださいダスティネス殿! そうは言ってもあなた方に無関係であるはずがないのです!」

「というと?」

「はい。実はその謎のモンスターというのが、例の仮面にそっくりでして……」

 

仲間でも何でもない仮面の人クリソツなモンスター。

内心「俺たちは関係なくね?」なんて思ったが、俺がピンチになったら助けてくれるので完全に無関係ではない。

それにどうせならモンスター討伐に貢献して身の潔白を晴らせたらいいなぁなんて思って、それを聞いて俺たち三人は渋々ダンジョンに行くことに。

 

 

そして着いた。

ダンジョンで使い物にならないめぐみんはお留守番。

俺とダクネスで攻略することになったんだが……

ダクネスが「私の剣が当たる! 当たるぞ!」って大はしゃぎしてるのを横目に、俺は「どうせなら金目のものとかないかなー」なんて思って宝探知、敵感知、潜伏のスキルを駆使しているといつの間にかダンジョンの奥の奥。

最深部に到達し、そこには……

 

 

「よもやここまで辿り着くとは。我がダンジョンへようこそ冒険者よ! 我が輩こそがこの騒動の諸悪の根源にして元凶! 魔王軍の幹部にして、悪魔達を率いる地獄の公爵! この世の全てを見通す大悪魔…………バニルである!」

 

とんでもない大物がいた。

 

 

暗いダンジョンの中、色違いの仮面の目が赤く光る。

ダクネスは目が利かない。

かく言う俺も、輪郭がぼやっと見えるだけで、はっきりと見ることまではできない。

火を灯せば酸素が燃え、自滅する。

 

そんな中でもできることをしようと考えを巡らせていたら、俺は勝敗を分ける攻撃の手段がないことに気づいた。

ダクネスがバニルに向かって油断なく剣を構えるが、当たらない剣は有効打にかける。

かといって緊張で制御がままならない俺の魔法をダンジョンで使えば崩落の危機だ。

バニルの驕りにつけ込んで、一瞬だけ足止めすることができればダクネスの剣で……

いや、足止めできたら逃げるに限るな。

一発で仕留められるわけないだろうし。

 

……はあ、まさか俺たち二人で、圧倒的不利な状況で魔王軍幹部に出会うとか。

俺もダクネスも緊張で汗がたらりと流れる。

まずはダンジョンの外に出ることを優先した方がいいのだろうか。

それで逃げ切ったらめぐみんの魔法でダンジョンを埋めて仕留めるべきか。

 

「ダクネス! これは俺たち二人じゃどうにもならん! なんとかしてここから逃げるぞ!」

「馬鹿を言うな! 女神エリスに仕えるものが魔王軍幹部、それも悪魔を目の前にして引き下がれるか!」

「お前こそ馬鹿言うなよ! 状況わかってんのか! 火力不足もいいとこだ!」

「……お前の言いたいことはわかる。めぐみんに殺らせるのだろう?」

「わ、わかってんじゃねーか! なら……!」

「それでも、コイツが私たちについてきて地上に出たら……誰が戦いに巻き込まれるかわからん。刺し違えてもコイツを倒す!」

「この頑固者!」

 

でも確かにダクネスの言うとおり、このバニルとかいう幹部が本気で追っかけてきたら逃げ切れない。

何か策はないものかと考えているとバニルが面白そうに口を歪め。

 

「この我が輩を倒す? 魔王より強いかもしれないバニルさんと評判の我が輩を、倒すとな? そう言ったのか、己の腹筋がバキバキであることをそこの冒険仲間にバラされた哀れな娘よ」

「ふふ、腹き……! お、おいカズマ! バラしたのか! というか私の腹筋が割れていることをどこで知った!」

「ば、ばっばバラしてねーよ! 今知った!」

「なぁ!?」

「ふはははははっは! 墓穴を掘ったポンコツクルセイダーの悪感情、美味である! 今どういう気持ちであるか? 憎き悪魔の言葉に惑わされてしまった……おっとっと。精神攻撃の途中に攻撃を仕掛けるとは、野蛮な腹筋め。この男が腹筋割れていると言い回っていたのは本当で……」

「わーーっ! わ、わーーーっっ!!」

 

なんちゅうやっちゃ!

こいつから逃げようと思ったが気が変わった!

こいつは公衆の面前に出しちゃいけない、今すぐここで!

俺は剣を抜いて潜伏スキルを発動。

すでに斬りかかっているダクネスが作った隙を狙って殺ってやる!

俺はさっきまでの慎重かつ弱気な考えを吹き飛ばし、息を潜める。

 

「ふむ、あの小僧の姿が消えたか。脳筋クルセイダーよ、仲間に逃げられたと思っているようだが今はどのような気持ちだ?」

「……私は構わない。むしろ私の堅い考えのせいで仲間を巻き込まずにすんで良かったか」

「少し寂しそうに虚勢を張るくらいなら追いかければよかろうに」

「さ、寂しくない! 先ほどからデタラメなことばかりを! ぶっ殺してやる!」

 

ダクネスをおちょくるたびに悪魔の口が歪む。

悪感情が美味とか言ってたし、もしかして悪魔は人の感情を食べる種族なのだろうか。

 

「一応言っておくが、我が輩、この街と事を構えるために派遣されたわけではない。そもそも結界の管理だけ行い、後は好き放題魔王軍をおちょくって悪感情を頂いてる我が輩であるぞ?」

「先ほどから嘘ばかりを吐く悪魔の言葉に耳を貸すと?」

「我が輩は実に紳士的な悪魔である。何せ我が輩の言葉には嘘偽りなしであるからして」

「いいや、嘘だな。先ほどの仲間に逃げられたなどという言葉、あれは嘘だろう? あの男は小心者でヘタレで困ったやつだが、仲間を見捨てるクズではない」

「……まったく、我が輩はキサマの気持ちを代弁しただけで、真実だとは言っておらんのに。勘違い甚だしい面倒な女め。これだから嫁のもらい手が」

「わ、私はめめ面倒くさい女ではない! そ、そもそも私はまだ結婚したくないからお見合いを断っているだけでこれでも結構モテモテなのだぞ!」

 

ダクネスが真っ赤になった。

怒っているのか、恥ずかしいのか、攻撃はより苛烈になる。

まあ、当の悪魔は胡座をかいたり寝そべったり、人を小馬鹿にしないと死んでしまう性分なのか、いちいち癪に障る避け方を実践していた。

が、その慢心致命的だ。

俺はバックアタックを仕掛け、短剣を心臓に突き立てる。

悪魔にとってそれが想定外のタイミングだったのか。

 

「ぐおっ!? き、キサマ、いつの間に……、し、しまっ……!?」

 

バニルはそのまま前方によろめくと、一旦は逃れたダクネスの剣の軌道へと戻る。

不器用ながらも威力だけは高いダクネスの袈裟斬りはあっさりと肩から腰にかけてを斜めに切り裂き、二つの影に別れた。

どう見てもこれは致命傷だ。

 

「ま、まさかこの我が輩が……おのれ、油断したわ……! この駆け出しの街に、お前たちのような使い手が眠っていたとは……! くっ……ここで滅ぶことになると……は……」

 

倒れた体が物言わなくなったとき、俺は勝ちを確信した。

まさか防御力が低い幹部だったとは。

ダクネスの荒い息づかいだけがダンジョンに聞こえ、ダクネスもようやく事が終わったのかと、唾を飲み込み。

 

「や、やったか……!」

「い、いらんフラグ立てんなぁぁああッッ!!」

「ふはははははは! 我が輩は滅びぬ! 何度でも蘇るさ!」

「ほぉれ見たことか! お前のせいで!」

「ええっ!? わ、私のせいなのかこれは!?」

 

あの悪魔の高笑いが聞こえてきた。

俺もダクネスも戦いは終わっていないことを悟り、どこからか聞こえる声に緊張で激しく鳴り響く心臓を押さえつけ、背中合わせで剣を構える。

俺は千里眼スキルで目を凝らすと、先ほどバニルが倒れていた方。

仮面の下からダンジョンの土を吸い上げるようにしてニョキニョキと体が……

 

 

「もしや討ち取ったとでも思ったか? ざn――」

「間に合った! 『クリエイト・ウォーター』ッッ!!」

「ぼぼぼぼぼぼっっ!?!? き、キサマ! すべてを見通す悪魔を欺いて一体いつからそこ――いてっ。剣をバット代わりにする馬鹿に教えておくが、魔竜の骨でできた固い仮面で」

「『狙撃』ッ!」

「いてっ。き、聞いておったか? 我が輩は固い。そのようなちんけな武器では……」

「別に時間稼ぎだしいいんだよ! 『フリーズ』アンド『ウィンドブレス』ッッ!!」

 

……体が生えてきたんだが、未だ頭だけ。

そんな中いつの間にかあの仮面の人が現れて、頭部に初級水魔法と剣をお見舞いして、仮面を舞い上がらせた。

そして何故か体を完全に氷付けに。

俺は何が何だか、どの仮面がどの仮面だかわからず混乱していると。

 

 

「おい! 氷結魔法だっ!! ン『狙撃』ッ コイツの本体は仮面だ! ン『狙撃』ッ」

「ヤメロ! 我が輩の頭をスコンスコン撃t」

「体を創る地面の土を ン『狙撃』ッ 凍らせろッ!!」

「お、おうッ!! 『フリーズ』ッッ!!」

 

仮面を連続で狙撃して決して地面に着かせない仮面の人の曲芸じみた技を目の当たりにしながら俺の全力フリーズは部屋全体を瞬く間に凍らせる。

俺のフリーズが部屋全体に行き渡るのを確認した仮面の人が狙撃をやめ、カランと仮面が氷に落ちる音が響く。

も、もしかしてこれでこの悪魔を無力化できた……のか?

そんな中、悪魔が苦しげに。

 

 

「あ、あの……そのだな……。人間と悪魔、言葉を司る種族同士なのだ。暴力に訴えかけるというのは野蛮な獣の所業。ここは話し合いの場を設け……っ!?」

「青ざめたな……? 未来を見てテメェが望んでいた破滅の仕方じゃあない恐ろしい結末になるのを気づいたみたいだなぁ?」

「き、キサマ! なんてことを思いついて……っ!」

「ふっふっふ……………………。おーい! カズマー! フリスビーって知ってるかー!」

 

仮面の人が急にそんなことを言い出す。

悪魔が何か人の言葉を使って俺たちを欺こうと苦労してたが、そんなことは無視。

俺と仮面の人と通じ合った。

つまり、さっきまで散々人のことを何だかんだ辱めていた悪魔に反撃開始ってことだ。

野郎! なんてことを思いついたんだ!(褒め言葉)

まったく、口角が上がって上がって仕方ないな!

 

 

「もちろん知ってるよー仮面の人ー! ダクネスは……お嬢様だから知らないよなー!」

「あ、ああ、そのフリスビーというのは初めて聞いたが……」

「教えてやれよカズマー! 俺は爆裂魔法の準備をするように言いに行ってくるからー!」

「おーう! よろー!」

「は、話をしよう! 汝ら、もし我が輩のことを見逃してくれるなら口に出せないような性癖やらを秘密を暴露しないようにィィッッ!?!?」

 

俺は地面に落ちている仮面を拾い上げ、その仮面に死ぬほど全力で回転をかけてダクネスの方に投げ飛ばした。

 

 

「フリスビーってのはー! 円盤に回転をかけて投げて、それを落とさないようにキャッチする遊びだよー!」

「おっとっと」

「ナイスキャッチ!」

「ナイスキャッチ! じゃないわたわけ! 人が嫌がることを進んでしたがる汝は悪魔かぁああぁああっっ!?!?」

「こ、こんな感じだろうか?」

「おおっ! ナイス回転!」

「はあ……はあ……さ、流石に遊び疲れて目が回ったのではないか? そろそろ休憩しようではぁああぁ!?!?」

 

「汝らがこれを止めないというのなら、我が輩にも考えがある! 我が輩には体がなくとも放てるバニル式殺人光線があぁあ……」

 

「人間は殺さないことを信条としているがやむを得ん! 本当に撃つぞ! この技を回避した人間は一人としていなあぁあ……」

 

 

俺たちはひたすら遊んだ。

バニルが変に脅すもんだから、技の発動の機会を奪うためにも本気も本気で遊び倒した。

明かりはいつの間にか仮面の人が魔道具をおいてってくれたから仮面を変なところにやるなんてへまはしなかった。

 

 

まあ、その後のことだったんだが。

仮面の人が準備できたって言ったから俺はダンジョンから脱出した。

めぐみんが悪魔の仮面をかぶりかけそうになったとか、一悶着あったが……

 

 

「狂え狂え狂え、破滅を望む叛逆者。唯只管に驚喜で嗤うべし。踊れ踊れ踊れ、我が紅き狂気を甘受し、そして舞散るがいい! 穿て! 『エクスプロージョン!』――ッッ!!」

 

 

破滅願望を抱いていた大悪魔は、見事その幻想を現実へと変え、地獄へ落ちていった。

俺たちの手によって、世界は明るい方へと進み出したのだった。まる。




お・ま・け
1.弱い人間相手に本気を出せなかったバニルさん。
「もっといい感じに倒されたかった」以上のことは思っていない。

2.「バニルの土塊は魔力が豊富なので魔法攻撃による影響は受けにくそう」という考えで、カズマは不意打ちの「水魔法→風+氷魔法コンボ」で急冷させて、バニル頭部を凍りづけにさせました。

3.見通す悪魔バニルに接近しすぎると「スカーフの効果+レベル差が縮まった」見通しにくい仮面カズマでもバレれてリセットです。
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