あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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狙撃スキルは習得したもののお手軽魔法があるので弓矢はほとんど使わないカズマ。
……そう、弓矢は。


4巻 ハンス
5.追い風の砂埃~止まってられない~


バニルを討伐して、借金も国家転覆罪もなくなって、しばらくたった日。

春もまだ初めで、寒さで外に誰も出たくない時期なのに、うちの屋敷の扉を誰かが叩いた。

俺は仕方なしにドアを開けた。

 

「どちらさまー?」

「お世話になっております、セナです。サトウカズマさん、いらっしゃってよかったです! 実は街の外が大変なことになっていて……」

「新聞と宗教はお断りです。じゃ」

「じゃ。じゃないです!! ああっ! ドアを閉めようとしないでください!」

 

閉めようとしたドアの隙間に腕をねじ込まれて施錠を阻止されてしまった。

また厄介ごとかと俺の眉間に皺が寄る。

正直なところ、もうここ最近の出来事でお腹いっぱいなんだが。

 

「急ぎじゃないなら今日は寒いし、改めて来てほしいんだが」

「そ、そんな悠長に構えてられないんですよ! リザードランナーの群れが、姫様ランナーを中心に形成されまして大変困った状況なんです! 『モンスターに怯える街の人を守る。これは、冒険者の義務ですから』ってサトウさんがおっしゃったので、こうして頼みに来たのですが……」

 

誰だ、そんなかっこいいこと言ったやつ。

俺か。言ったなそういえば。

自分の口が憎い!

なんて嘆いてみたが、言ったことはやるのが漢サトウカズマだ。

 

「行きます」

「えっ、い、依頼を引き受けていただけるのですか?」

「何で意外そうな顔してんだよ、漢に二言はない! そのリザード何ちゃらとか言う依頼、後でじっくり聞かせてもらうから、ギルドの方で待っててくれないか?」

「ありがとうございます! 流石魔王軍幹部2人に加え、あの大物賞金首を討伐した冒険者……お待ちしております!」

「うんむ」

 

なんだろう。

すごい気持ちがいい!

こんなに俺のことを真正面から褒めてくれる人がいなかったのが問題だ。

大体街の連中は鬼畜だの何だのと捻くれた褒め方をしてくるヤツらばかりだからな。

すっかり気分をよくした俺はセナを帰して、冷たい風がドアの隙間から室内に入っていくのと同時に中にいる二人に呼びかける。

 

「めぐみーん、ダクネース、仕事の時間だぞー」

「おいカズマ! 冷たい空気が入ってきたぞ! 早く閉めてくれ!」

「そーですよー、ちょむすけが寒がってます」

「……」

 

俺は無言のままの2人をじぃっと見る。

だらしなくぐでーっとこたつに入って寝転んでいるめぐみんがミカンを貪り。

ちゃんちゃんこを着て、顔赤く、汗ダラダラなダクネスはさらに鍋焼きうどんを上品にすすっていた。

 

俺は玄関のドアを開けっぱなしに、無言でこたつの方へ近づく。

そして、こたつ布団の端と端を掴んで冷たい空気を思いっきりこたつの中に入れるように思いっきりわっさわっさした。

 

「ああっ私の熱気が! 一体何をする!」

「うるさーい! 一人こたつで暑さ我慢大会開催するな! 脱水症になってもしらないからな!」

「ダクネスに注意喚起してるのはいいですが、私は寒くて寒くて今にも凍え死にそうですよ! 体の小さいちょむすけが凍死したらどうしてくれるんですか!」

「こたつの中にいたんかこの猫! 酸素不足で窒息する前に換気だ換気!」

 

死ぬほど暖まったこたつの中に住まう黒き原生生物を強風でこたつの外に追い出す。

ダクネスは完璧にぬくもりがなくなったこたつにしょんぼりしていたが、徐々に汗が冷えていき、今度は寒さ我慢大会の準備をするためか庭に走って行く。

ドMはたくましいな。

一方めぐみんとちょむすけはありもしないぬくもりを探して、最終的に一人と一匹が抱き合って寒さをしのいでいた。

 

「ダクネスを見習えよ。やる気満々だぞ」

「私をカズマのコレ無しじゃ耐えられない体にしておいて……」

「か、勝手にこたつの魅力に取り付かれて堕落したくせに! 妙な言い回しするんじゃねぇ駄めぐみん!」

「なにおう! 元はと言えば! カズマが『一生働かなくてもいい大金が!』ってニート三昧してるのをやめさせようとして……」

「止めさせようとして? なんだ? 最初は引っ張り出そうとしてたが、途中からまざってきたじゃないか」

「それは……押して駄目なら引いてみろということで」

「どういうことだよ!?」

「つまり、カズマも働かないのなら私たちも働かず、贅沢三昧することで働かないといけない状況を生み出そうとですね…………おい、その何か言いたげな顔は何か!」

 

こたつの布団にくるまって、説得力ないなーって。

ペットは飼い主に似るとか言うが、こいつの場合猫に似てきたんじゃなかろうか。

ツンデレは乙なものだが、気まぐれというのは戦闘に影響が出そうだしやめてほしい。

ジト目でこたつむりへ視線をやっていると。

 

「しょうがないのです! このこたつという魔性の魔道具がいけないのです! 『こっち来いよ』と抗いがたい誘惑を! 一度知ってしまった我は堕落の沼へと引きずり込まれ……」

「わーったから! とりあえず爆裂魔法撃ちにいくぞ、ヘイめぐみんスタンダップ!!」

「お構いなく」

「よしじゃあ先行って待ってる……って今なんて?」

「お構いなく」

 

顔はひきつり、声にならない。

一日一爆裂とかなんとか言ってた頃のマッドアークウィザードが懐かしい存在になってしまったのだろうか。

 

「ふっ、侮らないことですね」

「何が!?」

「まさか爆裂魔法を撃たないとでも? いいえ! 我が奥義、爆裂魔法は射程が最も長い魔法……つまーり、街の外まで行かずともいいのです! カズマが指示した方向に爆裂魔法を放てば!」

「辛うじて街の外なだけだから! 警察とか土木工事の親方に怒られるのは俺だぞ! というか処される! 強制肉体労働の刑に処されるんでやめろください!」

 

一瞬「堀を作るように外周に撃ってけばいいのでは?」なんて思った俺は馬鹿だ。

人に当たったらどう責任とれってんだよ!

 

「ふふっ、冗談ですよ? からかってみたかっただけですから、さて、冒険に行きましょうか」とか言って帽子をかぶるめぐみん。

めぐみんは将来男をたぶらかす悪女になるに違いない。

クスリといたずらっ子のような笑顔を見てそう思うのであった。

 

 

 

 

リザードランナー。

それは春先に繁殖期に入る二足歩行のエリマキトカゲ。

メスは姫様ランナーと呼ばれ、オスはスピードを競うことで姫様に求愛するらしい。

スピード勝負のすえ、勝者は王様ランナーとなり、姫様ランナーのつがいとなる。

……のだが、その規模が異常だそうだ。

 

「おー、あれがリザードランナーか」

「土煙が舞い上がり、壮観だろう? 私もあれに突っ込んで足蹴にされたい」

「『私も』って何だ! んなこと俺は考えてないし、足蹴にされたい変態はお前だけだわ!」

 

罵られて喜ぶ変態にドン引きしつつ、千里眼スキルを用いて砂煙の先頭を見る。

そこにはメス1匹とオス100匹が爆走していた。

ところ構わず爆走するソイツらは、馬車などの障害物を蹴り飛ばす厄介者。

しかもその蹴りが凄まじいらしく、当たり所が悪ければ骨折どころじゃすまない……つまり即死もあり得るとのこと。

 

「いいか、基本遠距離攻撃でいこう。まずは爆裂魔法をかますんだ」

「任せてください、全部まとめて消し飛ばして我が経験値の糧とさせてもらいますよ!」

「まあほどほどに頑張れよ? あの規模だ、散り散りになったら何十匹か残るだろうし、適当に肩の力抜いておけ。後は俺とダクネスが」

「ああ、私が足止めしている間にカズマが魔法と新しい武器で撃破するのだな」

「そういうことだ! 武器も新調したしな、俺の刀の錆にしてやる!」

 

慎重派な俺は何もただコタツでぬくってたわけじゃあなく、これからのことを考えて虎視眈々と懐の刃を磨いでいたのだ。

そう、今までのナマクラじゃない、鋭く尖った俺の相棒を腰に帯び、近接戦になろうとも問題ないように片手剣スキルを習得。

この頼もしい相棒がいる限り、魔法剣士カズマは無敵なのだ!

 

「ちゅんちゅん丸」

「違う」

 

……どうしてこんな変な名前になっちまったんだろう。

今の俺はガン萎えだ。

まあそんなこと言っても目の前には討伐対象がいるわけで、イマイチ気分は乗らないが、仕事だと割り切り指示を飛ばす。

 

「……とりあえず準備はいいな? めぐみん、派手にぶちかませー」

「もちろんです! 『エクスプロージョン』ッ!」

「よーし、ダクネスはめぐみんを安全な場所……そこの岩陰に運んでくれ!」

「任せろ。それが終わったら参戦してやるから、それまで馬鹿なことをしでかすんじゃないぞ」

 

めぐみんを背負って近くの岩に移動させるダクネスに「馬鹿なこと」って言われたんだが?

馬鹿なことって……一体どの口が。

自分の身を振り返れてない誰かさんには後で姿見をプレゼントしてやろう。

 

一瞬余計なことを考えてしまったが、今は戦闘中だ。

そっちに意識を戻すと、そこにはリザードランナーの中心に撃ち込まれた爆焔が砂埃を舞い上がらせていた。

そして、その砂煙の中から出てきたリザードランナーはおよそ30。

たったの一発で70が灰燼に帰したのだ。

 

「さすが爆裂魔法だな……。さて、次は俺の番だ、愛刀の錆にしてやるぜヒャッハー!」

「ちゅんちゅん丸」

「違ーう!!」

 

生き残りは爆風に当てられながらもピンピンした様子で、俺たちを敵と認識したのか、こちらめがけて突撃してきた。

ふっ、そのまま解散していればいいものを馬鹿な奴らめ。

俺の魔法は物質による圧倒的な質量攻撃だ。

 

「その場所で安らかに眠れ! 『クリエイト・アース』『クリエイト・アース』ッ!」

「あれ!? ちゅんちゅん丸は!?」

「まだまだ距離あるだろ。俺は避けられるリスクは避ける男だ。やっぱ魔法しか勝たん!」

「あれだけ刀カタナと言っていたのに!」

 

俺はリザードランナーたちに大量の土を二発。

永眠グッズに埋もれた20匹の息の根は止められたらしい。

 

残り10匹はふかふかの土に足を取られてスピードが落ちている。

さらにダクネスが戻ってきた、これで勝つる!

 

「『デコイ』ッ! ああっ、カズマカズマ!」

「カズマです」

「見ろ、あの獣たちの視線を! 辛抱たまりゃん!」

「前に出過ぎんなよ俺の魔法使えないだろうが! というかモンスターどもがダクネスめがけて加速して!?」

「さあこい! ちなみに私ごと撃ってくれても構わん!」

「構うわ! というか姫様ランナーをやっつけろよ! ソイツを倒せば勝手に解散するっつってセナさんもいってたろ!」

「私の剣が当たるとでも?」

「なんで自信満々なんだよ恥ずかしがれ! 周りの敵を倒して数減らすから『ティンダー』『狙撃』ッ!」

「お構いなく! というかその魔法を私にも! あふん♡」

「やらねぇよ! というか本当に当たんないなこの不器用! 『ティンダー』『狙撃』ッ!」

「何と、これがお預けプレイというやつか! 加えて仲間からの言葉責め……!」

 

蹴られて「あふん♡」とか……

もう本当に黙ってたら綺麗なんだから黙ってろよおまえ!

俺は狙撃スキルを併用して魔法を放つ。

俺の幸運値のおかげか、綺麗に当たって一石二鳥じゃなくて三鳥くらいやったぜ!

 

残るはダクネスを蹴っている4匹、うち1匹は姫様ランナー。

これなら混戦状態でも、蹴りを避けながら戦える!

一向に当たらないダクネスの剣に頼ってたら日が暮れても終わらなそうだし俺が決める!

潜伏スキルを使ってこっそり背後に忍び寄り……

 

「『ファイアボルト』ッ!!」

 

姫様ランナーに相棒を突き立て、体内にティンダーを流し込んだ。

『ファイアボルト』っつったのはその場のノリだ。

『イ゛ンセ゛ンディ゛ェア゛ア゛ア゛ーーッ!!!』と言う場合もあるかもしれない。

 

何でこんなことしたかって?

それは俺の筋力じゃワンチャン致命傷にならないかもしれないと思って、確殺をいれるためにだな……

だからダクネスさん?

いくら爆発四散してえげつない感じになった姫様ランナーを見て引かないで?

俺も正直こんなえげつないことになるだなんて思ってなくて!

 

「と、とりあえずこれで終わりだな。さて、帰るとしよう!」

「あ、あのぉダクネスさん? 戦いが終わったのに結構距離を感じるんですが……寂しいんですが!」

「い、いや、その焼けた血肉の匂いを漂わせてる状態で迫ってこないでくれ! 別にカズマの匂いとか汚れがアレなだけで……。さっきの私ですらドン引きな攻撃については気にしてないから!」

「絶対気にしてる!」

 

姫様ランナーがやられたのを見て、残る3匹は解散解散とすたこらさっさ。

俺たちも解散しようと思っていた。

というか、そういう流れだと思っていたのに……

 

俺は気づけなかった。

土の向こうで生き残っていたリザードランナーが一匹いたことに。

姫様ランナーが死んだことに気づかずに俺たちに向かってく影は、さながら仮面ライダーの必殺技ライダーキックだった。

必殺技……そう、相手は死ぬ。

 

俺が魔法で出した土をジャンプ台のように使って飛び上がり、俺の方に。

完全に油断してた俺は動けず。

ダクネスがかろうじて身を挺して俺を庇ってくれたが、ただでさえ当たり所が悪いと人を殺すという蹴り。

ずっしりと筋肉で重そうなリザードランナーの体に重力の加速が加わり、その勢いで蹴り飛ばされようものなら俺は……

 

そのとき、不思議なことが起こった!

 

「ン『狙撃』ッ……!!」

 

そんな声が聞こえたと同時に、空中でライダーキックのポーズをしていたリザードランナーの姿勢が崩れた。

そしてバランスが崩れた体がそのまま俺たちの方へ……

 

その後どうなったか。

一つ言えるのは「湯治に行くことになった」ということだろう。




カズマとダクネスは湯治に行けるレベルの怪我を負ったのだった。(プリーストによって怪我は完治済み)

「計画通り……っ!」と呟いている怪しい仮面がいたとかいなかったとか。
死を回避できただけじゃなく、勝手にアルカンレティアに行ってくれることにご満悦な仮面の人。
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