「た、たのもー! 今日こそは勝負してもらうわよめぐみん! これはほんの気持ち、皆さんで食べて!」
「あっ、これはご丁寧にどうも」
「いえいえ、いつもお世話になっているお礼ですよ……」
誰もいない屋敷に見覚えのあるぼっちが一人。
豚の丸焼きを手土産にチョイスしてやってきたコミュ障ことゆんゆんだ。
こんな大層なものを友達の家に遊びに行くたびに持参するとは、ゆんゆんのお財布事情は潤ってるらしい。
流石紅魔族、稼ぎが違う。
そしてそのことを覚えていた俺、マジ天才!
あの三人がアルカンレティアに一足先に旅立たったときには慌てふためいたが、やっぱりここでゆんゆんを待っててよかった。
「……ってあなた誰!? も、もしかして空き巣!?」
「いや、この屋敷の人の関係者だが? ストーカーにとやかく言われるいわれはないぞ」
「ああ、す、すみません、怪しい仮面だったので、そういう後ろめたいことをするために素性を隠しているのかなと…………って今私のことストーカー呼ばわりしませんでしたか!?」
「そんなどうでもいいことはおいといてだ」
「どうでもよくないです! そもそも私はストーカーじゃなくてめぐみんの友d……ライバルで!」
ウィズの店で毎日「めぐみん来ないかなぁ」って待ち伏せしているヤツはストーカーじゃなくてもその道に片足突っ込んでるだろ。
まあこの時期、ゆんゆんにはアクセルの街の友達がめぐみんしかいないしな。
初めましての人に話しかけることすらぼっちにはハードルが高いだろうし、めぐみんのことをライバルと称して追っかけ回す理由もわからんでもない。
まあ、そんなめぐみんたちは……
「アイツら、アルカンレティアに行ったぞ?」
「えっ? あの魔境にどうして……」
「湯治だろ。リザードランナーの件が終わってからまだ1日しか経ってないのに……予定より少し早い気が……」
「よ、予定? もしかして貴方はめぐみんたちの予定を知ってるの? だとしたらやっぱりストーカー……」
「じゃないから! 一応言っておくが、俺はあの三人のアレだ……その、保護者みたいなもんだ。アイツらのミスを俺が尻拭いしてる」
「めぐみんがいつもお世話になっております」
「いやいや、こちらこそ……」
俺がホーストの時に手助けしたのは覚えていないらしい。
まあそれも仕方がない。
なんせゆんゆんはあのとき気絶していたんだ。
そんなことを考えていると、ゆんゆんが「はぁ……」とため息をついて。
「じゃあしばらく帰ってこないんですかね……」
「1週間くらいの旅行だろうな。……何だよ、『私も行きたかったなぁ……誘ってほしかったなぁ』とか『でもパーティーメンバーだけだし、私はお邪魔だよね』とか言いたげな顔して」
「そ、そんな顔してないです!」
「言っておくけどな、成り行きでウィズさんも一緒に加わって旅行してるからな?」
「ええっ!?」
本心を言い当てられたのが恥ずかしかったのか、赤面して、腕を激しく振るゆんゆんだったが、俺の言葉を聞いた瞬間その元気はどこへやら、シュンとしょぼくれた。
友達なのに誘われなかったのがショックだったんだろう。
「なあ、しょぼくれてるところ悪いが、一つ提案がある」
「しょ、しょぼくれてません! ……って提案? 何ですか? 私、お父さんに『ひょいひょい知らない人について行っては駄目だぞ』って言われてるので……」
「なーに言ってんだ。俺たち、もう知り合いだろ? それに、友情や恋愛に時間は関係ない……そうだろ?」
「そそそ、そうですよね! 友達になるのに時間は関係ないですよね!」
チョロい。
実にチョロいぞゆんゆん、お兄さん心配になってきたんだが。
まあおかげでこっちとしてはスムーズに事が運ぶから助かるんだが……
なんかゆんゆんの純朴さにつけこんで唆す俺がめちゃくちゃゲスに思えて、罪悪感がつらい。
「そう、それでだ。俺からの頼み、聞いてくれるか?」
「もっちろん! 私にできることなら何でもどーんと! あっ、お金は100万エリスまでしか出せないので……そこだけはちょっと」
「よぉし簡単に詐欺に引っかかりそうなゆんゆん! ちょぉーっとお兄さんと約束しようか! 『知り合ったばかりの人のことは信用しない』リピータフタミィ!」
「し、『知り合ったばかりの人のことは信用しない』……?」
「オーケー、ベリーグー! それはそれとして提案なんだが、一緒にアルカンレティア行かないか?」
「行きます」
……この子は末期かもしれない。
もう一生悪いヤツに引っかかる業を背負ってこの星の下に生まれたとしか思えない。
俺の言いつけを早速破るゆんゆんの顔は「初めてのお友達と旅行……!」みたいな感じでにへらと幸福そうだ。
守りたい、この笑顔。
守るために最も手っ取り早いのはアルカンレティアに連れてかないことなんだろうが……
すまない!
俺には他にも守らなきゃいけないものがあるんだ!
「ううっ、何か困ったことがあったら俺を頼るんだよ?」
「な、なんでそんな辛そうに!? 一体何があったですか! も、もしかして私なんかと旅行に行くのは……そうですよね、嫌なんですよね……」
「ち、ちが! そうじゃないんだ、ゆんゆんみたいな強い魔法使いが一緒なのはすごい心強い!」
「へ、へぇ~、そそそんなことないと思いますけどぉ……そーですかぁ? へ、えへへ、へ……」
本当に! 本当にごめんよゆんゆん!
あんな詐欺集団の総本山とかいう大魔境に置き去りにするのは心苦しいが、それでも……おれでも俺には、向かわなきゃいけない理由があるんだ!
罪悪感に打ちひしがれているとゆんゆんが。
「あ…………。す、すみません、せっかく誘ってもらったところ申し訳ないんですが、そのぉ……」
「ん? 急にどした、話聞こか?」
「ううっ、そ、その、めぐみんに『何ですか、とうとうストーカーにジョブチェンジしたんですか!』とか言われたらって思うと……。もしも嫌われたら私、紅魔の里に引きこもる自信しかないんです!」
確かにアルカンレティアに旅行に行ってるのを知って、それで後を追いかけたらそう言われること必至だ。
めぐみんは冗談半分で言うに違いないが、人間関係を割り切れてないコミュニケーション初心者は真に受けて本当に引きこもってしまいかねない。
すると紅魔の里でのシルビアと戦いに支障が……
それは避けねばと、そう思い、俺は涙目の彼女に囁く。
「確かに後からついて行ったらそう勘ぐられるかもしれない……」
「や、やっぱり!? ああ、犯罪者の疑惑を背負って余生を過ごさないとならないんだったらやっぱり旅行には……」
「ふっ、案ずるなかれだ、紅魔の族長の娘」
「ほえ? と言うと?」
「テレポート屋を使うんだ。今頃アイツらは馬車に揺られてる、そうすれば先に着く。あとは……言わなくてもわかるだろう?」
「な、なるほど! 先に目的地にいることでさも偶然を装って現地合流できるって訳ですね!」
「実は三人が泊まるであろう宿も把握済みだ。そこに先に行って温泉の中で待機すれば……」
「す、すごいです! めぐみんとだけじゃなくてダクネスさんやウィズさんとも流しっこ……それ即ち友達!」
「そこまでは言ってないが、そういうことだ」
「先生とお呼びしてもッ!!」
「断る」
「じゃあお名前だけでも! お友達ならお互いの名前を知ってるものじゃないかなって……」
「……いいかい、自己紹介が恥ずかしい人だっているんだ。わかるね?」
「わかります!」
目を赤く輝かせながら激しく頷き同意の意を示すまともな感性を持って生まれてしまった紅魔族。
アクアの代わりと言っちゃ何だが、アルカンレティアに頼もしい仲間を連れて行けることは喜ばしい。
俺は早めに到着してハンスの動向を調査すべく、このアクセルの土を離れアルカンレティアに渡ったのだった。
「ここが私たちのお泊まり会場……! 夜は枕投げして温泉巡りと露店を回って……」
「楽しみに心を弾ませてるところ悪いんだが、氷属性の魔法は使えたりするか? フリーズガストとか」
「い、一応上級魔法は習得はしてますよ? ただ、詠唱がたどたどしいといいますか……」
「宿屋に着いたら練習しておいてくれ。近い日に必要になる」
「ま、まあいいですけど……アレ、私たちって観光に行くんですよね?」
「…………」
「あのぉーもしもーし?」
私たちの
と言いたげなゆんゆんだったが、あえて言おう。
俺たちの
ハンス戦のメンバー紹介
巨盾万壁 ダクネス
狡兎三窟 カズマ×2
環境破壊 めぐみん
雷陳膠漆 ゆんゆん
八寒地獄 ウィズ
なお、ダクネス以外は上級魔法以上の火力持ち。
勝ったな、ガハハ……とならない魔王軍幹部のヤバさ。