めぐみん、ダクネス、ウィズを連れて、いざ水と温泉の都へ赴かん!
やあみんな、俺だ!
昨日アクセルの街から出発して、4人馬車に揺られた道中。
ダクネスが硬いせいで走り鷹鳶の群れに襲撃されるというマッチポンプがあったが、洞窟に走り鷹鳶の群れを誘導し、爆裂魔法でそこを破壊し撃破。
それ以外は何事もなく、夜は何事もなくしっかりぐっすり熟睡さ。
そして今日、というか今、アルカンレティアに無事到着!
宿泊予定の宿屋を探そうとしていると……
見覚えのある赤い瞳がブツブツと何か詠唱のようなものを呟きつつ、俺たちの進行方向からやってきた。
「あれは……ゆんゆんさん?」
「ア、アアー、ソコニイルノハウィズさんじゃ……ッテ、ドウシテコンナトコロニめぐみんタチガー!」
「ゆんゆんじゃないか、旅行先にまさかこんな偶然あるんだな」
「馬鹿言わないでくださいよカズマ、そんな偶然あるわけないじゃないですか。あなたはゆんゆんの偽物、私のことをアクシズ教に入信させようと姑息な変装で這い寄ってきたのでしょう! 即刻立ち去るがいい、さすれば命の玉までは取るまい」
「ひ、ひどい、私は本物だから!」
「まあまあめぐみん、たまにはこのようなこともあるのだろう。エリス様の導きに違いない」
「変人宗教団体の総本山で何を言ってるんですかダクネスは!」
どうやらここの土地の宗派はエリス教ではないらしい。
アクシズ教……聞いたことはあるが詳しい実態は知らないその宗教に興味を持った俺は。
「なあ、アクシズ教ってどういう宗教なんだ?」
「ああ、カズマは田舎の祖父から詰め込まれた知恵ばかりで世間には疎いのだったな」
「駄目です! カズマ駄目なのです! この街でその名詞を呼んでは……!」
「どうしたんだよ急に。名前を呼んではいけないあの人でも来るのか? ヴォルデモ○ト卿?」
「よくわりませんがそんな生易しいものではありません! もっと、魔王軍ですら滅ぼせないという厄介な……」
「今、アクシズ教とおっしゃいましたか旅の人!」
「ほら見たことですか! これがアクシズ教徒です、さっさと逃げますよ! ほら、ダクネスも!」
急にめぐみんに手を引かれ始まった逃走中。
最初は何が何だかわからなかったが、俺は察してしまった。
ダクネスはだらしなく垂らしかけた涎をジュルリと、発情した獣の目。
対するアクシズ教徒は三日間何も食べてない飢えた獣のよう。
ああ、此奴らは関わっちゃいけない人種だ。
目には目を、歯には歯を、獣には獣を。
俺は「いけっダクネス! 君に決めたっ!」と悲しきドエムを繰り出した……のだが。
さらに別の刺客が。
「もしかしてアクシズ教を知りたいの? 入信? それとも入信? ああっ! それとも入信なのね!」
「ひぃやぁあああ! 何この人怖い! こ、こら、俺のポケットに何か入れようとするな!」
「いけっゆんゆん、貴女の出番ですよ!」
「い、行かないわよ! ここの人の変人っぷりを身をもって体感した仲なのに私一人になすりつける気!?」
「いいですか、私は目的地の宿屋はこの辺りなので、アクシズ教徒をまくために走ってるだけです! ゆんゆんもお帰りなさい!」
「私の宿屋もこのあたり……というか今さっき通り過ぎた場所よ!」
「……俺たちもそこなんだが」
「本当ノ本当ニナンタル偶然、私ト同ジ宿ダッタナンテー!」
何という偶然……というには流石に怪しすぎる。
挙動不審に目をキョロキョロさせてるし、言葉も微妙に台詞じみてるし。
と、そのときだった。
後ろの方でバタンと激しい音を立ててすっころんだアクシズ教徒。
これはしめたと三人の手をつなぐ。
潜伏スキルを使って姿をくらますには必要なことなだけで、断じてセクハラではない。
しばらくしてアクシズ教徒が諦めたので、俺たちはようやく宿泊地の扉を開けて。
「ヘイお帰りなさいませ! 風呂場で待機しておけばいいのに、歩いた方が詠唱暗記しやすいと言って宿屋と乗合馬車の間をうろちょろ往復すること数十回、そわそわしてたみたいだけど覚えられたか?」
「そ、そわそわしてません!」
「……何でお前いるんだよ、仮面の人」
「ゆんゆんと小旅行中だ。というかさっきの邪悪なアクシズ教徒の足下にフリーズしてやったのになんて言い草だ、火力調節のために初級魔法覚えた方が良さそうなハーレム野郎め」
「だ、だっだだ誰がハーレムだ、ハーレムじゃねーよ!」
よくよく考えれば俺が連れてきた3人は顔面偏差値の粒ぞろい。
何となく意識すると恥ずかしくなって、俺はそう返事しながらチェックインするのだった。
「で、アイツらなんなの?」
「女神アクアを信仰し、『欲望のままに』をモットーにしている逆エリス教ですね」
「なにそれ最高じゃん、アクシズ教徒に俺はなる」
「何をとち狂ったことを! この教会の最高司祭を見てないからそういうことが言えるんですよ! 悪魔とアンデッド以外はなんでも愛すとか……とにかく、本能をさらけ出しすぎていて大変なのです!」
「本能をさらけ出しすぎて大変、ねぇ……お前の上位互換じゃん」
「ええっ、私の話聞いてましたか!?」
愛の対象が爆裂魔法にのみ一極集中してしまっためぐみんだが、その最高司祭はその愛を、全てに等しく分け与えているってことじゃん。
ってことはめぐみんの上位互換と言っても差し支えない。
というか女神アクアと言えば俺を転生させてくれたあの女神さまじゃないか。
欲望のままに生きていいだなんてなんて素晴らしい……!
俺はポッケにねじ込まれた入信書を広げて「お試し入信」という欄を発見してそこに丸をつけようとして……
「ゆんゆん、ウィズ! しっかりこの男が凶行に走らないよう押さえつけるのです! カズマは考え直してください! 言ってしまえば詐欺集団ですよヤツらは! そんな集団に身を落とすと、そう言うのですか!」
「そ、そんなに言って、いくらカズマさんをアクシズ教徒にしないようにするためだとしても……リッチーでもそこまで神様をケチョンケチョンに言うのはどうかと思いますよ?」
「ケチョンケチョンって今日日聞かないですね……じゃなくて! いいんです! いいですか、この街ではアンケートの協力をしてしまったら最後、無料体験、キャンペーンなど甘い言葉を囁かれ、ずるずるとアクシズ教に入信させられます! 落としてしまったリンゴを親切心で拾うことなんてもってのほか! 喫茶店や営業所などに連行され、格好の餌といわんばかりに襲われますよ!」
「いやぁああああ! 現在進行形で襲われるぅッ! 俺の腕を羽交い締めにして酷いことする気だろ! 俺はダクネスじゃないぞ!」
「ち、違いますから! 入信書のここを見てください!」
※お試し入信の期間は1日です。その後は正式にアクシズ教徒としてお迎えします。
小さくそう書かれていた……
アクシズ教、よくよく考えてみたらおかしかったんだ。
獣のように信者じゃない俺たちを追ってくるし、目がイってて怖かったし。
どうしてこんなおかしな宗教に入ろうと思ったかって、アクア様を奉ってて、欲望のままにという精神が好きだっただけで、おかしな連中の一員になりたかったわけじゃない。
俺はスゥーと息を吸い込み、紙を破り捨てた。
「
「正気に戻ったみたいですね。この沼に嵌まってしまった被害者が増えなくてよかったです」
「まあこの罠を作ったのは他ならぬめぐみんなんだけどね……」
「詳しくk」
「ああっゆんゆん!! この後みんなでお風呂に入るのでしょう? 混浴の露天風呂は貸し切りみたいですよ!」
「オイ、何をやらかしたか詳しくk」
「何をもたもたしているのですか、早く温泉につかりましょう!」
けっ、逃げ足の速い魔女め。
……しかし混浴、ねぇ。
目の前に混浴と男湯があるとすれば大義名分の名の下に混浴に入る。
俺がそうするとわかっているだろうに。
それにも関わらずめぐみんは堂々と混浴に行く宣言をした。
……した、ということは、つまりそういうことだ。
「よーし、待ってろよエデンの園! 桃源郷が俺を待って」ガシッ
「どこへ行こうというのかね。お前はこれから大事な話がある」
俺の肩に仮面の人の手が置かれる。
ああそうだ、男には、叩かれるとわかっていても向かわなきゃ行けない場所がある。
いくら命の恩人でもこの行く先を阻むというのなら、容赦はしない。
「おお怖い怖い。いずれいい感じになるのにがっつく童貞のようだ」
「どどっどうていちゃうわ! というか仮面の人、離してくれ。それと厄介ごとの予感がするし話すな!」
「いいだろう話して離さないでやる。別に一人でお楽しみしようとしてるからそれを阻止しようとしてるわけじゃあない。ただ悲惨な運命を変えようとしている、それだけだ」
「イヤーー!! 聞こえなーいッ! 俺は何にも聞いてなーいッ!」
「耳を塞ぐな! お前にとっても悪い話じゃないはずだ。それにこのまま乱入したら照れ隠しのライトオブセイバーで八つ裂き爆発四散阿鼻叫喚だ! 落ち着け! マジで!」
何それ怖い!
俺の冒険は混浴に入ったというのが原因で終わるってか?
わ、笑えねぇ……ウィズかゆんゆんが反射的に上級魔法撃ってきて裸で死ぬなんて、リアリティありすぎてマジ笑えねぇよ!
俺は背筋がぞっとして体を震わせ、お風呂に入ることを断念しようとした。
のだが、仮面の人が。
「……そんなに落ち込むなよ。良いことあるって」
「気休めみたいな……そんな慰めいらない!」
「……ウィズ並の巨乳のお姉さんがこの後来るって言ったら? そのお姉さんとならお話ししながら平和に入れるぞ?」
俺は仮面の人とがっちり握手を交わした。
アクアに「プークスクス! 死因がのぞき見って……ぷー! トラックにひかれたと思ってショック死するより酷いんですけどー!」ってからかわれた幻想を見た人は挙手。
「乱入したら照れ隠しのライトオブセイバーで八つ裂き」って話はただ単にカズマをハンスたちに会わせるための適当な言い訳です。……前に実際に一緒にのぞき見して、魔法使い連中の魔法乱射で死にかけたわけじゃない!(By仮面の人)