あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

26 / 103
アニメか小説、どちらかのみ見てる人へ。
一応この物語の進行は原作(文庫本)を元に進めています。

どういう意味かは……本編と後書き(多少ネタバレあり)を見て確認してください。


6.輝いた瞳~飛び込んだその時に~

魔王を討伐したときを思い出す。

ふわふわとおぼつかない感じだ。

しばらくして意識が明瞭になっていき、俺は目を開けた。

 

顔を上げるとそこはいつも見慣れた景色。

果てのなさそうな広い空間にぽつんと椅子が2つ。

そこに座る俺ともう一人。

そのもう一人に向かって俺は声をかけた。

 

「なあエリス様」

「……はい」

「前戦った時は、ダクネスがハンスを引きつけて源泉から遠ざけて、めぐみんがエクスプロージョンでハンスを消し飛ばして、それで燃やし尽くすことができずに飛び散った毒粘体をウィズがカースド・クリスタルプリズンで凍らせて、最後にアクアがそれを浄化する……って流れだったと思うんです。ですよね?」

「……ええ。まあ、はい……」

「でも今回はアクアの浄化頼れないじゃん? それと、温泉の管理人が食われるの知ってたんで、それを阻止しようと思いまして。だから源泉が汚染されたり、管理人が食われちまう前に動いたんです。……別に、間違った選択してませんよね?」

「それは、はい、とても立派だと……私も見てましたから」

 

エリス様は俺を肯定した、視線を下に向けながら。

正しい行動をしたはずなのに……俺の行動は功を奏さなかったのだ。

今回はゆんゆんを助っ人に呼んだのにも関わらず失敗した。

さっきのことは夢かなんかじゃないかと、受け入れがたい事実を否定したかったが、俯いて俺から視線をそらすエリス様を見れば、さっきのそれが事実だったことは一目瞭然だ。

 

「俺の知ってる展開と違うんですが。バタフライエフェクトとかそういうやつっすか」

「……」

「俺、前のハンスとの戦いで死にませんでしたよね?」

「そうですね……」

「俺、今回……」

 

 

死んだんですが。

 

 

そう続く言葉を暗い顔をしたエリス様の前で易々と吐けなかった。

俺が死んだことをどうしてそう重く受け止めるのか。

だって、今まで俺が何回やり直したと思って……

アクアがいた頃もそうだ。

両手で数えられるかわからないくらい死にまくって、その度に蘇生してもらって。

もう俺は死ぬことに慣れちゃって。

 

そもそも今回、死んだっていう表現をしたが、実際は死ぬ直前にリセットされたっていうのが正しい。

だから面倒くさいことになったと言えばそうだが、そんなつらいって訳でもない。

なのに、この女神様ときたら……

 

「どうしてそんな悲痛な顔してるんだよ、別に…………今更だろ? そんな顔すんなよ」

「いえ、その……カズマさんは決意ガン決まってるだけで、普通、あの絶望的状況でハンスを道連れにするなんて発想まず思いませんからね? 心配してるというか、恐怖してるというか……ま、まあ心配しただけです」

「恐怖しないでください!? そもそもあの相打ちはしょうがなかったんだよ!」

 

相打ちって、一体俺が何をしたかって?

ハンスをエクスプロージョンで吹き飛ばしただけだが?

俺ごと。

エリス様がビクッと、俺が突っ込みで椅子から立ち上がった瞬間に肩をビクつかせた。

 

「こわ、怖がんなよ!? すごーいショックなんだが!?」

「べべ、別に怖がってるわけじゃないです、女神に怖いものなんて……なんて……ほんのちょーっとしかないですから」

「おい、今そのほんのちょっとの怖いものの中に俺のことカテゴライズしただろ」

「し、してま……せんよ?」

「ああっ、目ぇそらしたこの女神様! いや、本当にしょうがなかったんですぅ!」

「な、泣かないでください、さっきのは、ええと、そう、冗談! 冗談ですから!」

「嘘だッ!! さっきの目のそらし方はアクアと同じやつだ!」

「せ、先輩と一緒にしないでくださ…………」

 

そこまで言って、エリスが何かに気づく。

視線の先は俺のニヤついている口元。

エリス様はそのジトっとした視線を俺の目に合わせて。

 

「……もしかして、からかいました?」

「いやぁ、だって空気が暗いんですもん。もっと明るくいきましょーよ、ね?」

「むー……女神をからかわないでくださいよ……」

「まあまあ、そのことは謝りますんで、どうすればいいか一緒に考えてくれません?」

「とか言いつつ、本当はもう勝つための算段は立っているのでしょう?」

「連れないこと言わないで! お願いだよドラえも○!」

「はぁ~あ、しょうがないなカズマくんは」

 

深いため息をつきつつも、何だかんだ言ってそう言ってくれるノリのいいエリス様。

秘密の道具はさすがに出てこないだろうが頼もしい。

 

「それじゃあ情報をすりあわせましょう。この神器でわかることも限りがありますし、実際の体験を聞かせてくれませんか?」

「ええっと、じゃあどこから話しましょう? ……俺、ハンスが管理人のおじいさんを食べる前に何とかしようと思って、バニルの部下のフリして近寄ったところはどうです? 問題なさそうですかね?」

「ええ。その後、ハンスの顔を知っていたウィズさんに鉢合わせたんですよね。魔王軍幹部だとダクネスたちにバレて、そのまま逃げるように源泉の方に……」

「そうだな。まあ、こうなるってことはわかってた」

 

できればウィズかゆんゆんに氷系の魔法でやっつけてほしかったんだが……

まあ、街中だったしな。

端から見ればハンスは人間だし、街中で上級魔法は被害が出るから撃てなかったんだろう。

 

「予想通りの行動をしてくれた方が対策立てやすいからな。源泉の方へ行く道で警備をしてる騎士さんたちは事前にダクネスからスっておいたダクネスの家の証を見せびらかして引いてもらって……」

「ああなるほどです。源泉を通行止めにするのではなく、むしろ逃げ道を用意して誘導したわけですね? 街中で戦闘になっては被害者が出そうですし」

「そう言うこと。それで、狙撃である程度の汚染は防げたと思うんですが、源泉のいくつかは駄目になって……」

 

本当はウィズの魔法で人間状態のハンスを倒したかった。

でも失念していた、ウィズは魔王軍と敵対しないのを条件に、魔王軍が民間人に手を出さないよう、そういう約束をしていたことを。

 

まあ、正直『ばれなきゃ犯罪じゃない!』とか『アイツは温泉に毒を入れて大量虐殺を目論んでる!』とか言って敵対させようと仕向けたんだが「流石に実害が出ていない以上敵対は……!」と言われてしまった。

そりゃそうか、万が一魔王との約束を違え、それが原因で民間人に攻撃を加えるような事態になったら……

弱い奴らを見捨てられず、人類は防戦一方で、緩やかに滅ぶだけになるかもしれない……考えただけで恐ろしい。

 

「まあ、他にあれだけ源泉が残っていれば温泉経営は大丈夫でしょう。飛び散った毒の浄化は、一欠片につき、腕のいいアークプリーストが大勢集まって浄化して、およそ数ヶ月ですが……」

「で。大事なのはここからですよエリス様。俺が死んだ原因」

「ええ、まあ……そうですよねぇ」

 

あの後、ハンスが第二形態――まあ、巨大スライムになった訳だが。

そのときはウィズが「アルカンレティアの内部でその姿になったら見境なく……! 民間人に被害をだすなら容赦しません!」と協力してくれたんだ。

アクアがいないせいで倒し方に一工夫必要だったが、なんとかなった。

 

めぐみんの爆裂魔法で半分位を消し炭にして、ウィズ、ゆんゆん、向こうの俺が氷結魔法で消しきれず飛び散った分を凍らせていった。

特によく頑張った俺!

狙撃とフリーズのおかげで地面に付着する前に凍らせられたのはお前のおかげだ、ナイスガッツ!

 

これで終わり! 第2期完!

……なーんて思ってたらまさかまさかの想定外。

 

 

「ハンスの第三形態なんて聞いてない」

 

 

 

 

そう、アイツはまだ生きていた。

ウィズ、めぐみん、ゆんゆん、チート持ちの俺は魔力切れ。

俺とダクネスは動けたが、正直、魔王軍幹部がいながらこの4人を背負って下山することは難しい。

前はこんな展開なかったはずなのに一体どういうことだよ……なんて思っていたらハンスの野郎、こう言いやがったんだ。

 

『ここまで俺を追い詰めるとは……。だがまだだ、すぐにお前らを食らって回復してやる!』

 

そう言って俺たちの方にやってくるハンス。

地面に塗られる毒の痕は草木が溶け消えなくなっていた。

 

ダクネスが全員を庇うようにして剣を構えるが、スライムに物理攻撃は効かない。

魔法が使えるのは俺だけだな状態でどうすればいいのか……

というかいくら弱体化していても初級魔法、中級魔法では、高い魔法耐性の前では無意味。

正直無理ゲーだろ。

 

なんて思いつつも俺は不思議とダクネスの前に足を出していた。

……正直、俺は熱血キャラというよりは頭脳派キャラだと思っていたが、何故かこのときだけは抑えられなかったんだ。

いわゆる「プッツンしちまった……」ってやつだ。

仲間を本気で殺すと宣言したことに「ヤバい!」って思うより「コノヤロウ!」と怒りが先に来たんだ。

バニル仮面をつけてるせいかもしれないが、だからどうした……

仲間が殺されるのを黙ってみてられるか!

 

『ダクネス、お前はコイツら連れて逃げろ』

『なっ、お前はどうすると……!』

『ふははは、心配ご無用! 爆裂魔法を使うのでな、さっさと離れるが吉だ』

『なぁっ!?』

『それとお前の首飾り、今度はしっかり盗られないように管理するんだぞ?』

『……!?』

 

俺はダクネスにダスティネス家の紋章入りのペンダントを投げる。

ペンダントを盗んだ犯人が俺だとわかったダクネスからわずかに漏れた怒気を利用して逃走スキルを発動。

俺は逃走スキルを使って、ダクネスから逃げるように……

ハンスに迫るように走った。

 

『ほら、こっちこいスライム! このままザコの代名詞たる種族になめられっぱなしじゃ面白くないのでな、俺が決着をつけてやる!』

『なんだ嘘つき仮面、俺に向かってくるのか?』

『近づかないとテメェとぶちのめせないんでな……と見せかけて!』

 

続けて俺はハンスに対して逃走スキルを使う。

ハンスが何か喚いて追っかけてきたが、俺はただ走りまくる。

意外にも俺より足が速いスライム。

メタル系に進化して経験値になってほしい。

勢いを落とさず、途中で木々を吸収しながら、徐々に徐々に体積を増やしていく。

それでも俺は走る。

この位置だとアイツらを巻き込む。

 

『いい加減、追いかけっこの時間は仕舞いだ。あの人間達の中で一番経験値の匂いがするからわざわざ追いかけてきたんだが、年貢の納め時だろ』

『ふははははは! 冒険者に税金はかからないと知らないのか……おっと、スライムだから考える脳みそがないんだったな! これは失敬失敬!』

『変異種であるこの俺をただのスライム呼ばわりするな!! 殺す……ッッ!!』

『本当に、本能のまま動くのが大得意であるな!』

 

俺はいつの間にか崖っぷちに立たされていた。文字通り。

……本当に、スライムが足速いの何なの?

死ぬ気なかったのに、これじゃあ逃げ切れないじゃん。

「俺の爆裂魔法一撃でハンスを消し去れればいいんだが、めぐみんですら全てを消し飛ばせなかったのに、下位互換な俺じゃ、いくら体積があれだけでも焼き尽くせるか。だからそういうことがあっても被害が最小限に抑えられる場所まで走る。」そう考えてたのになぁ。

 

まあだとしても仲間のことを殺そうとしたこいつに一矢報いたい気持ちは止まらない。

激しく鼓動を刻む心臓とともに俺は崖から飛び降りた。

もちろんこのままだと俺はただ自殺することになるだろうが、ハンスは追いかけてくる。

その確信があったからこそ魔法の詠唱はすでに終わらせていた。

 

俺の魔力を見て狙いに気づいてももう遅い。

だって空中では身動きできないだろ?

 

『き、貴様ッッ!!』

『エクスプロージョン』――ッッ!!

 

その魔法を放ったとき、塑性を脆性へと葬り去る赤が俺の瞳を輝かせた。

 

 

 

 

これがここに来る前の最後の記憶。

 

「俺の知ってる展開と違うんですよ、エリス様は何か聞いてます?」

「私だって聞いてませんよ……。というか何ですかあのドラクエにいそうな形状のクラゲスライム。可愛らしい見た目して気持ち悪い動きして……」

「ドラクエ知ってるんですねエリス様」

「ええ、まあ、嗜み程度には……。まあ、それはおいといて、どうしてあのスライム、温泉の水を吸って巨大化したんですか……色は薄くなってましたけど」

「そうだよ! なんで魔法使いメンバーが魔力すっからかんになったそのときに出てくるんだよもう! なんか俺が前に体験したハンスより強化入ってません?」

「気のせいじゃなければ強化されてますよね、カズマさん的にはどう思います?」

「正直、そこがわかれば対処できそうな気もするんだが……。エリス様は?」

「んー、そうですねぇ……………………あっ」

 

俺もエリス様もうんうん唸って、なかなか原因がわからない。

そんなときだった。

エリス様が「あっ」と声を出したのだ。

正直どんな考えでもいい、何か手がかりがほしいんだ。

 

「何かありましたか?」

「あー、えっと、そのー……。一つだけ思いついたのですが、源泉が汚染されなかったのが原因の一つじゃないでしょうか?」

「というと?」

「えっと、本来であれば、源泉の汚染にハンスの体を千切っては投げ入れを本人が繰り返していた訳じゃないですか。今回はそれがなかったために、体積が結構に余っていたのではと……」

 

なるほど。

確かにそう言われれば、ハンスの体積は前よりデカかった気がする。

つまり第三形態になったのは、本来なら温泉を汚染するはずだった分のスライム片ってことか。

それがめぐみんの爆裂魔法にも、みんなの氷魔法にも引っかからず、あの形態を形成したと。

それに気がついたエリス様ははっきり言って、

 

「E・M・T!」

「今なんと?」

「エリス様マジ天才! の略です」

「そ、そんなに褒められても……何も出ませんよ……?」

 

ほんのりピンク色に染まった頬をかいて……おっと、これは予想外の反応だ。

呆れられたり、クスッと笑われると思ってたのに、まさかまさかの普通に照れられるとは。

でもエリス様のおかげで攻略方法はつかめたも同然だ。

 

「何か得られたみたいですね?」

「ああ、エリス様のおかげですわ!」

「お力になれたのならよかったです。……というは、もう行かれるのですか?」

「おう、もういっちょ行ってくるわ!」

「そうですか。……ではサトウカズマさん、貴方に幸あらんことを……」

 

俺はまたあの世界へ足を踏み出した。




作者の解釈
アニメ版だと片腕を凍り付かせたあとすぐに巨大化。
→自我を保てるだけの塊が残る。
→アクアによって即討伐。

小説版ではその後、カズマの狙撃によって体積を減らしてから巨大化。
→自我は残らず、一部細胞のみ。
→アクアが小さすぎて細胞を見逃す。
→後々記憶を失いつつもチャッピーとして復活。


ターニングポイントのおさらい
1「女神の降臨」アクアが堕天しなかった結果めぐみん、ゆんゆん死亡。
2「悪魔の襲来」ホーストが街を破壊し、めぐみん含む多数死亡。
3「首無の呪詛」ベルディアの死の宣告を解呪できなかった結果冒険者が死亡。
4「灼熱の中核」コロナタイトの転送先の違いで未来でアイリス死亡。他
5「彷徨う亡骸」キールが成仏しなかった結果、アクセルに魔王軍侵攻。

3以外は全て人類滅亡ルート。
そして、今回。

ターニングポイント6「源泉の汚染」
 カズマが止めなかったらパーティー全滅&しなくても猛毒を周囲に散布。
→アクシズ教の財源が消滅。(=アクシズ教の弱体化)
→アクシズ教に割いてた魔王軍の戦力が王都などに進行。
→王都陥落。
→人類滅亡ルート。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。