俺は仮面の人の勧めで赤い髪の毛のお姉さんのお風呂にお邪魔した。
正直あのジャイアントキラーと心の底からわかりあえる日が来ようとは思ってもみなかった。
……なんて思った俺が馬鹿だった!
「お客さん、先ほどはお楽しみでしたね」
「たったた楽しんでねーよ! とんでもなくおっかない奴らと出合わせやがって!」
「あれ、どうしましたかカズマさん? 何か大声が聞こえましたけど……」
「な、なんでもないよー」
パタパタとスリッパをならしながらしっとり濡れ髪浴衣ウィズが俺の方に駆け寄ってきてきた。
目の前のニヤニヤ顔がウザいが、ウィズにばれたらそこで俺の平穏は終了!
俺はぐっと突っ込み衝動を抑えつけていたんだが、仮面の人が。
「あれれー、おかしいぞぉ? 何でもないって言って、どうしてそんなに顔が真っ赤なんだぁ?」
「そっそそそれはきれいなお姉さんのせいじゃなくて、お前が変な奴らに会わせて変に逆上させたせいだわ!」
「変な奴ら? その変な奴らとは一体どのような奴だったのか? ももも、もし、体をなめ回すように見てくる奴らだったら教えてくれ! 私が本当かどうか確かめて成敗しよう!」
一瞬堪えたが俺の本能に刻み込まれた突っ込み衝動は止められなかったよ……
おかげでダクネスまで寄ってきた。
成敗してくれようとか正義感全開だが、お前はただ欲求を満たしたいだけだろうが。
顔が近いし息が荒い。
俺は変態を落ち着かせるために、ダクネスの肩を押して距離をとる。
「別にそう言うアレじゃないから。あれだ、マッサージのサービス受けてたらついでに背中を洗ってくれるって言われてな。それでお願いしたらその人がアクシズ教徒だったんだよ。『この石けん、泡立ちいいでしょ? 天然の物しか使ってないから肌に優しいし、しかもこの石けん、食べれるの! 今なら入信するだけで温泉セットをプレゼント!』とか言ってきたんだよ」
嘘は言ってない。
というか俺は一応実体験を語ってるに過ぎない。
その前に2人ほどヤバそうな奴らに遭遇したが、このアクシズ教徒の方が身に危険を感じたぜ……
そのときのお姉さんは「もうここの温泉には入らない方がいいかもね」って言ってくれたけど、言われなくても入らないかもしれない。
そんな俺のリアリティー溢れる体験談を聞いて、みんな信じ切ってるし、このまま行けばなんとか厄介ごとに首を突っ込まなくてもいい展開になるんじゃ……
なんて思っているとゆんゆんが。
「そ、それは大変でしたね……。私たちは4人で一緒に入ったのでみんなで洗いっこできたんですけど、一人だと背中に届かなくてそういうサービスがあったら思わず頼っちゃいますよね!」
「やはりこの地は魔境。そうやってすべての人を惑わし、疑心暗鬼にさせるのだ」
「やっぱり背中を洗うには一緒にお風呂入らないと駄目なのか……! 俺にはそういうことしてくれそうな男友達はいないんだけど……あーあ、誰か俺の背中を流してくれる優しい友達はいないかなぁ」
「お、お友達……! え、えっと、その、私でよければ、そ、そのぉ……」
「ちょぉーっと待ったぁーっ! 一体何を馬鹿なことを口走ろうとしてるのですかゆんゆん! いいですか、男はケダモノ、ほいほいついて行ったら捕食されてジ・エンドですよ!」
「誰が捕食するってか! お前もゆんゆんもまだ13だろ! 俺はロリに興味ないわ!」
「な、なにおう! 私はもう14ですよ知ってますよね!?」
「……へっ。お前はまだ13だよ」
「オイ、私のどこを見て未成年と判断したのか言ってみるがいい」
「普通に体型が……ってちょ!? ヤメロ! 人がちゃんと答えようとしてるときに口を塞ぐな! ほんっとうにヤメ……死んじゃう助け……ッ!」
もう全員集まってきやがったがなんとか切り抜けられそうだ。
なんて思うもつかの間、めぐみんに絞められそうになって絶体絶命のピンチなんですが。
具体的にいうと口じゃなくて首を絞めにかかってるんですがこのロリっこ!
そんな命の危機に瀕しているのにも関わらず、あの仮面の人が。
「まああっちのプロレスしてる二人のことは放っておいてだ、もっとヤバいやつ……ハンスとかいうテロリストがいたって話なんだが」
「ええっ! テロリストですかぁ!?」
「いやぁ、まさかたまたま。そう、たまたまあのハンスがこの温泉に来るとは思ってなかった! そして偶然カズマと俺は聞いたんだ。『忌々しいこの教団もこれで終わりだ。秘湯での破壊工作が終わった。今のところ、ほかの温泉でも順調にいっている。全てが上手くいったなら、後はただ、待てばいい。長い寿命を持つ俺たちにとって、10年や20年待つのは何でもないことだからな』とか言ってたことを!」
何がたまたまだよ白々しい!
俺が何もできないとわかってあえて助けずに話し始めやがった仮面の人のことをそう思いながらも俺はしばらくめぐみんと格闘していた。
何故か年下魔法使いのくせに俺より力が強いロリっこは手強かったが、最終的に絞め落とされる前にめぐみんの魔力をドレインタッチで吸い取って脱出することに成功した。
「ああ……頭が……ぁ」と言って床を転げ回るめぐみんをほったらかして俺は。
「いや、何勝手に話を進めてるんだよ、俺を厄介ごとに巻き込むなくださいおねがいします!」
「カ、カズマ、そんなこと言ってももう聞いてしまったし、無関係でしたと言ってられない状況なのでは?」
「そんなこと言ったって! そもそもダクネスも思い出せ! このアルカンレティアに来た理由って湯治だから! ゆんゆんだってそうだろ、戦闘するためじゃなくて風呂に入りに来たんだよな!?」
「た、確かに私も友達と温泉旅行に行くたm……」
「いや、ゆんゆんには魔王軍幹部、デッドリーポイズンスライムのハンスさんを討伐に協力してもらうため一緒についてきてもらった」
「ええっ!? わ、私そんなこと聞いてな」
「ハンスには氷結魔法が効果的だからな、フリーズガストの詠唱の練習をしてただろ?」
……えっ?
もしかして俺以外みんな討伐に積極的ですか?
魔王軍幹部であるウィズは置いておいて、ダクネスもゆんゆんも討伐に行くって張り切ってる中、ぽつんと棒立ちしていた俺の背中にポンと手が置かれた。
「安心しろ、俺が手ぇ回しといたから今度こそうまくいくって!」
今度こそって何!?
もしかして昔、別の方法で討伐しようとして失敗してたりしません!?
親指を立てても何一つ安心できないんですが!?
という訳で。
なんか俺の意見はガン無視され、仲間の決定に流されるままに俺は魔王軍幹部討伐に参加させられたのだった。
まあ、スライムだし、大丈夫だろ……なんて思ってた自分を殴りたい。
「どこへ行こうというのだハンス!」
「ここは通さないわハンス!」
「そんな言い訳が通じると思っているのですかハンス!」
「さっき忌々しいこの教団もこれで終わりだとか言ってただろハンス!」
「悪あがきはやめて正体を現せよハンス!」
山の裏に位置するここは人一人としていない静かで、街からは見えない、源泉に通じる一本道。
そんな場所に浅黒い肌で茶髪の男がゆっくりと歩いてきた。
そう、俺たちは待ち伏せしていたのだ。
仮面の人は「大変だったんだぜ? 管理人も衛兵もいない時間があるってハンスに接触して信用してもらうの」とか言っていたが、本当に予定通りにくるとは。
嵌められたことを悟ったのか、ハンスは毒混じりのため息をはいてゆっくりと首を振り。
「はぁ……なんてこった。それなりの年月をかけて調査して、下準備にもかなりの月日がかかった。ようやく今日、これから決行だって時に…………。お前のせいなのか、ウィズ。お前がこいつらに俺のことをばらしたのか?」
「馬鹿だな、このポンコツ魔道具ばかりを集めてくる店主がそんな策士みたいなことできると思ってるのか? すべてはサトウカズマ率いる、魔王軍を2度も屠ってきたパーティーの仕業だ! さすがパーティーの頭脳!」
「オイィィイイッ!! 全責任を俺になすりつけようとすんじゃねぇ!」
「……ああ、なるほど。お前、見覚えあると思ったら風呂場にいた盛った獣のような目をした男か。ああ、なるほどなるほど、つまり俺の話を聞いてたってことか」
「大体あってるけど一つ訂正させてもらおう、盛った獣じゃあない! 俺はあのときお前に警戒されていることに気づいていた。だからあの巨乳のお姉さんをじっと見て、警戒を解かせようとしてたのさ!」
仮面の人の何言ってんだよおまえって視線が刺さってくるが、そういうことにしておいてください。
俺の言葉を聞いたハンスは警戒の色を濃くして眉間にしわが寄る。
そして、またしても、大きな毒が吐き出される。
「まったく、この俺を前にして一歩も引かないその態度。ただのはったりじゃあないみたいだ」
「大人しく降伏するんだな。お前の攻撃手段は聞いている。毒を飛ばすんだってな? だがそれも対策済み、紅魔族二人に加えて俺も氷魔法を使える。迫ってきた毒はすぐに無効化できる。はっきり言ってお前の状況は詰みだ」
「ふふっ、ははははははは! ……はぁ。どこまで俺の情報が筒抜けなのかは知らないが、ここにいる人間だけなんだろ、俺のしようとしてた事を知ってるのは」
「だとしたらどうする?」
「幸いにも、俺たち以外ここには誰もいない。なら、証人隠滅とでもいこうか」
先ほどまで人の形をしていた物質はドロリと溶け、形が崩れる。
化けの皮が剥がれたソレはドロドロと紫や黒が蠢く不定形。
おおよそ知性ある獣ですらなかった。
「ああっ! 聞いてはいたがなんと見事なスライムだ! 惜しい! 毒さえなければ持って帰りたかったのに! そしてペットにしたかったのに!」
「よーし! とりあえずあれに触れたら即死だ。気をつけろよー。ペットにするんならところてんスライムで我慢しとけー」
「即死っつたのにノリが軽い! 命かかってんだからもっと重く言ってくれよ、命が軽く見える!」
どうしてこの仮面もダクネスもいつも通りなんだ!
ダクネスはまだわかる、変態だもの。
でも仮面の人は俺と同類だと思って……いや、よく考えればバニルのときもデュラハンのときもふざけ倒してたなコイツ。
でもさすがに緊張感の一つもないのはいかがなものか!
「まずはダクネス! あのデカスケをデコイで引きつけてくれ! ついでにこの饅頭とか持って行くと効果倍増するぞー」
「おおっ! そうなのか、それはいいことを聞いた」
「何もいいことじゃねーよ、饅頭もらうな! 聞き逃したのかもしれないからいっておくが、即死だからな! いくら状態異常の耐性スキル取得してるからって楽しもうとするんじゃない!」
「そんなことは思ってないぞ! ただ、しっかり引きつけられるのは良いなと、そう思っただけだ!」
でも少しは思ってたよな?
若干顔赤くなってるし、身震いしてるし。
そんなダクネスは走り出した。
「そうしたら次はカズマ!」
「カズマです」
「予定通り頼んだぞ! 崖下に罠があるからな、できるのはお前だけだ!」
「……まったく、なんでこうなったんだかなぁ」
俺は愚痴を吐きつつも、上に走っていったダクネスの下に走り出す。
崖には大量の白いナニカ。
あれが罠らしいが、一体何だろうか……
そんなことを考えているうちに俺もダクネスも位置につく。
走っていたダクネスをものすごいスピードで追いかけているハンスを見て、いつ飲み込まれるかと冷や汗をかいていたが、なんとか来れたみたいだ。
そしてダクネスは……
何の躊躇もせずに崖から飛び降りた。
「カズマ! 頼んだ!」
「ったく、しょうがねーなぁ!! 『ウィンドブレス』ッッ!!」
俺は風の魔法をダクネスにぶつける。
俺の魔法のせいで「くぅ……っ」と苦しげな声が聞こえた気がするがそんなのはどうだっていい。
鎧を纏った状態で自由落下して死んでないかの方が心配だ。
吹き飛んだ方を見ると、別の
元気そうに手を振っているダクネスを見てほっと肩をなで下ろすも、まだ作戦の第一段階が成功しただけだ。
次のステップに進まなくちゃならない。
ダクネスを追っかけて崖に落ちたハンス。
その下にある
次の瞬間だった。
その固形物を体が受け付けなかったのか、大量の粘液とともに吐き出した。
そのせいで体積が大きく減ったように見える。
「いいぞ! そしたら!」
「ええ、言われなくとも! …………いきます! 『エクスプロージョン』ッッ!!」
爆裂魔法が解き放たれた。
強い魔法耐性が売りのヤツでもこれだけの魔法、かなりのダメージを与えられるはずだ。
ハンスの方を見ると、焼却され、大部分が消し飛んでいた。
しかし一部ははじけ飛び、源泉を汚染しようと地面に向かう。
「ゆんゆん! 大きいのを頼む!」
「りょ、了解です! 『フリーズガスト』ッッ!!」
「カズマは小さいのを中心に、零さないように頼む!」
「人使い荒いなまったくッ! 『フリーズ』『狙撃』ッッ!!」
俺はゆんゆんがうち漏らした分、凍らせ切れなかった分、細細としたハンスの欠片を的確に、素早く処理していく。
爆裂魔法の炎が終わったとき、俺とゆんゆんの仕事も終わり、飛散した分はすべて凍らせられたことにようやく気づく。
だが、まだ終わってない。
だから、最後だと言わんばかりに、トドメ役に指示が飛ぶ。
「ウィズ! 飛び散った毒の処理は此奴らに任せてトドメだ!」
「はい!! 『カースド・クリスタルプリズン』ッッ!! ――ハアアァアァアアアアッッッ!!」
ゆんゆんの上級魔法や俺のチート魔法ですら及ばない威力の氷結魔法が本体を凍らせた。
魔力限界まで使い果たしたのか、ウィズは力なくへたりと座り込む。
かくいう俺も緊張感が喪失して思わず腰を地面に。
こうして、俺たちは3人目の魔王軍幹部討伐を成し遂げたのだった。
ちょっとお知らせ。
ちょっとアニメに追いつきそうなので投稿ペース落とします……というのは建前で、実は私生活が忙しくなるので、週3くらいまで投稿頻度落ちるかもしれません。
完結はさせる予定ですが、投稿遅いなーって思ったらそう言うことなので、温かい目でお待ちください……m(_ _ )m