「……マジか」
右手にありますは『さっきウィズ魔道具店から盗み出したバニル仮面』
どうして盗んだかといえば、これからしばらくして銀髪盗賊団が結成されるからである。
俺と同じ格好で俺と俺が出会ってしまったら確実に消える。
……そう、左手にあった『俺がずっとつけていたバニル仮面』のように。
左手にあった感触は、ない。
みるみる透明になっていき、最終的には消失してしまったのだ。
「これが、消えるってことか……マジやばくね? いや、激やばじゃんどうすんだよ! 怖すぎだろオイ!」
これが俺にも起こるってことだ、考えただけで恐ろしい。
消える前にリセットされると思いたいが、もし本当に存在がなくなってしまったらリセットも何もない。
エリス様からの忠告をもらっていたから危険なことはしないでいたが、こう現実でどうなるかを見せられたらとんでもなく恐ろしい。
それに、問題はあのマイディアシスターアイリスだ。
あの子の勘というか人を見るセンスはずば抜けている。
万が一鉢合わせでもしたら一瞬でお兄様とばれる可能性だって……
そこ、シスコンとか言うな!
本当にウチの妹は冗談抜きでヤバいんだって!
もういっそのこと、今回は関わんない方がいいのか?
だってそうだろ、アクアがいないせいで俺が困るのはコボルトに袋叩きにされて死ぬことになったときに生き返れないってのと、こっちの俺が小回りのきく初級魔法をほとんど使えないから王城で戦闘になった際に不安だが、今回の俺は転生特典しっかりあるし……
今頃アクセルの街ではマイエンジェルシスターアイリスがお食事会をしているところだろう。
「仮面をつけているお仲間はどうしたのか。と、仰せだ」とかクレアが言っているだろうが俺は知らん。
だってお仲間じゃないですもん。
そもそも仮面の下の素顔を見せてくださいとか言われたら俺、国家反逆罪に問われようが逃げるしかないからな!
というわけで律儀にお食事会に出る必要などはなく、そもそも誘われる前に王都へやってきた。
……ああそうだよ、やっぱり心配だから根回しにやってきたわ!
だって俺だもん、我が身がかわいいんだ悪いか!
ついでに絶対調子乗って痛い目見るのがいつものパターンだ。
絶対俺がついてなきゃだめな気がする。
それに加えて、もし俺が参加せずに正規ルート通りにこっちの世界の俺がバニル仮面をつけて王城に潜入したら、俺と俺が二人同時に存在することに気づかれて死ぬ可能性がある。
加えて俺が参加したらアイリスに正体を見破られて消滅の可能性もある。
参加してもしなくても、俺が消滅するリスクがあるのが怖すぎる……
そもそもばれなくても今後、俺とこっちの世界の俺が同一人物だって勘ぐられやすくなるだろう。
何よりバニル仮面で指名手配されたら俺は行く先々で肩身が狭い思いをするはめになるじゃないか!
というわけでだ。
「さぁて、夜な夜な酒場で怪しい聞き込みをして貴族の屋敷に潜入しようと企ててる輩! 是非俺と話をしないか? でなくば怪しいやつがここにいると騒ぎ立ててもいいんだぞ?」
「ねえ、もしかして君自分の姿見たことない? アタシだってヨソ者だし怪しいかもだけど、それ以上に自分が怪しい見た目だってこと理解してるかな? 鬼畜仮面くん」
「誰が鬼畜仮面だ」
後の銀髪盗賊団のお頭であらせられるクリスに接触していた。
鬼畜だのと言われご立腹だが、俺の様子を見て「あはは、冗談冗談!」と笑い飛ばす元気っ子。
正直毎日毎日潜伏スキルを使ってるし怪しい自覚はあるが、これからも鬼畜であることは断固として否定させてもらう。
そんなこと思っていると。
「冗談はさておいて…………こっちについておいで、ここじゃ話せないからね」
席を立ち、店を出て、手招きをして誘導するクリス。
心優しきエリス教徒が殺人などしないだろうが、仮面の下を見られたら困る。
俺は罠がないか確認しながらクリスの方へ歩いて、裏路地へ。
「こんな裏路地へ連れ込んで、一体俺にどんな乱暴するつもりだ?」
「それは……君はどこまで知ってるのかによるよ、正体不明くん。答えによっては今ここで君を始末しなきゃなんだけど……」
「おお、こわいこわい。そんなことできないし、したこともないだろうに、言ってみたくなったのか?」
「……ねえ、わかってるんなら乗ってくれてもいいじゃない。私、ノリの悪い人よりいい人の方が好きだよ?」
「じゃあこう言えばいいのか? 俺は過去現在未来の何もかも、津々浦々の一切合切……全部を知っている」
「あははは、全部、全部ね! 本当に君ってば面白い人だね! 赤い眼光出してるし、もしかして紅魔の里出身なのかい?」
「ふっ、俺の出生は誰も知らない。謎多き冒険者とでも言っておこう義賊様」
俺のバニル仮面から漏れる赤い光を見て紅魔族だと勘違いしたのだろう。
俺の言う台詞がただの中二病だと思ってかほっとしたように笑い飛ばしていたが、俺の最後の台詞でその場の空気が凍り付いた。
呼吸をするのを忘れて目を点にするクリス。
しばらくしてようやく現実に戻ってきたのか、目をキョロキョロ挙動不審に動かしながら。
「そ、それは私のことを言っているのかなぁ、義賊だなんて、あはは……流石にそんな危険なことしないよ……?」
「しらを切るつもりか? 神器と呼ばれる強力な魔道具を収集し、悪の手に渡らないように封印を施すついでに悪徳貴族の豚どもの金庫から搾取された税金のいくらかを民へ返す……ついでにちょっとだけくすねる手癖の悪い盗賊さん?」
「げ、げぇ……っ!」
「おい、まだしら切れただろ。げぇとか言って簡単に諦めるんじゃねぇ」
「いや、どうしてそんなに的確に、しかも確証を持ってるのかな!? もしかして犯行の一部始終を見てたりする? そうとしか思えない話しぶりなんだけど」
犯行の一部始終を見てるっていうか、一緒に貴族の屋敷の中に潜入して、王城でハチャメチャした仲じゃないですかお頭!
なんては言えないし、なんと説明したものか。
俺は顎に手を当て、頭から言葉を絞り出す。
「……まあ、防犯カメラ、的な?」
「なんでそんなにあやふやな答えが返ってくるんだい!? 自分のことでしょ、自分が一番よくわかってるでしょ! なに、もしかしてやましいことでもあるのかな?」
「やましいことがあるのはお前の方だろ。『他者と体を入れ替える』神器とか『ランダムにモンスターを召喚する』神器を回収するためにアルダープの別荘へ突撃してカズマに胸をもまれる未来が待ってる残念娘」
「ええっなにその限定的な状況!? い、いや、別に私はそんな何とかクセイみたいな名前の悪徳領主のお屋敷に突入しようだなんてこれっぽっちも思ってないけど」
「じゃあこの『他者と体を入れ替える』神器を回収するために後王城に忍び込むことになるだろうが、その際に警備を強化しておくように守衛さんに伝えておくよ」
「だからなんでアタシの行動を見通すかのような発言をしてくるの怖いよ怖すぎるよ!? そもそも神器の場所わかるのもいろいろとおかしいよ! というかまだそこまでの予定は立ててないんだけど!」
「ほお、まだ、予定は、立ててない、ねぇ?」
さっきまで激しく突っ込みまくっていたクリスだったが、俺の耳はお前の失言をしっかり聞いちまったぜ?
まだ予定は立ててないってことは、つまりこれから予定を立てるってことだろ。
「さぁてエリス様の前で。己の罪をさっさとげろっちまいな」
「ううっ……アタシは夜な夜な悪徳領主と名高い貴族の屋敷へ忍び込み盗みを働く義賊ですぅ。……ね、ねえ後生だからさ、アタシのこと見逃してくれない?」
「いいぞ」
「本当にお願い! もしお巡りさんに捕まっちゃったらダクネスにどんな酷い叱咤されるか! 親友に迷惑をかけたくな…………今なんて?」
「見逃してやるって言ったんだよ、別にバラしたところで俺にとっちゃ何のメリットもないし、そもそも捕まえたいんだったらこんな回りくどいことしないわ」
「ほ、本当に?」
「ああ……だけどわかるよな? わざわざ俺がこんな面倒くさいことした理由」
「……取引しようってことかな。私の秘密を引き換えに、一体何を要求するつもりなのかな? あんまりな要求はエリス様に天罰下してもらうことになるけど」
おおっと、なんとおっかないことを言いなさるんだこの盗賊。
あの女神様の天罰ほど怖いものはないからな……
もともと変な要求するつもりはないが、邪なこと考えないようにしておこっと。
「要求というのは簡単だ、その義賊の活動、間接的になるかもだが俺にも担がせてくれないか? 協力者がほしかったんだろ?」
「えっ? どういうこと? いや、確かに協力者がほしいのは事実だし、君が言ってることはわかるけど……どうしてそうなったか経緯を聞いてもいいかい? 流石に神器を悪用するような人なら仲間には入れられないからね。それで、私に協力してくれるから接触したってことなんだろうけど、その理由はなんだい?」
「えーっと……何というか、その……かっこいいから?」
我ながら何ともおかしな理由だ。
余計な詮索されたくないからそう言ってみたが、流石に頭がおかしい紅魔族ばりに気の狂った理由だぞ。
ほらクリスを見てみろよ。
めちゃくちゃ笑いをこらえて、いよいよもって吹き出したぞ。
「ふふっ、あはははは! やっぱり君、紅魔族かその血を継いでる類いの人でしょ?」
「笑うな笑うな! 俺だって変な理由言ったってわかってらぁ! しょうがないだろ思いつかなかったんだから! 本当の理由言っても理解されないだろうしほっとけ!」
「わかった、わかったよ。魔王軍幹部のベルディアをボッコボコにしたって聞いてるし、今の話を聞いてわかったよ。君は得体が知れないけど、神器を手に入れて悪用するようなヤツじゃないってね」
「おい、信用してくれたのはありがたいがベルディアの件が決め手だろ?」
「違いないね。火がないところに煙は立たないっていうし、アンデッドと悪魔と敵対してるなら、それは敵の敵は味方だよね!」
「……一応、上位悪魔のアーネスとかいうやつとホーストってやつも討伐に貢献したって言っとく」
「よろしく相棒!」
もう、調子がいいんだからこの人は……
まあ協力してくれるってなら問題ないか、俺の作戦のキーパーソンをゲットできたんだからな。
ただ一先ずの問題は――コボルトに殺されないように、俺のことを見守ること。
「じゃあよろしくなお頭さん」
「お頭……アタシがお頭ねぇ……! いいね! 改めてよろしく!」
「よろしく。……もし連絡がある場合は」
「ああ、じゃあアタシの宿の部屋番号教えておくからさ、そこに手紙でも送ってよ」
「了解っす。ちなみにですが、これからの目標は決まってます? やっぱアルダープだよな?」
「そうだね、さっきはしらを切ったけど、数日後にでも……」
数日後……
たぶん決行時期はダクネスたちが宿泊する時と重なるだろう。
そうすると、やっぱり……
「なあ、あそこには行かない方がいいぞ? さっきも言ったと思うが、捕まりはしないものの侵入したことがばれて胸をもまれる」
「さっきも言ってたけど本当にどういうことなの!? 私はどんな展開でそういうエッチな目に遭わされるの!?」
「簡単に言うと、クリスはアルダープの別荘に遊びに行って、無駄に広い屋敷の怪しげな部屋を発見した。部屋の中を見るのに夢中になっていたクリスは、背後から近づいてきたカズマに気付かなかった。クリスはその男に胸をもまれ、目が覚めたら……お嫁に行けなくなってしまっていた」
「どうしてそこにカズマ君がいるの!? というかどうしてそこにカズマ君がいることを君は知ってるの!? お嫁に行けなくなるくらい酷いことされるのアタシ!?」
「そんなことより! これを回避するためにも、まずはあのアルダープの別荘には近づかない方がいい! あそこには神器はないし、行くんだったらアルダープの屋敷の地下を探してみるんだな…………まあ、別荘を確認しに行くつもりなら俺は止めないが」
「そんなことじゃないよ最優先事項だよ! ねえ、なんで私より情報通なの!? もしかしてその道のプロなの?」
俺は黙秘権を使い、そのまま流れるように逃走スキルを使用した。