あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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8.流した涙~強いわけじゃない~

「魔王軍の幹部が潜伏している場所をいち早く見つけ出し、弱体化。アクセルの街へおびき寄せ、相手のペースを一切作らせず、お兄様と共にベルディアを討伐!」

「そうそう、俺と同じ時期に! 俺と同じ策略を思いつく狡猾さ。そんなやつと一緒にベルディアを討伐したんだ」

「さ、さすがお兄様! さらには機動要塞デストロイヤーの進行方向を誰よりも早く予測し、紅魔族をも凌ぐ魔力を放ち、お兄様がコロナタイトを転送したのですよね!」

「ああ。俺に言わせればデストロイヤーの中に入れば何とでもなった。だが、あの邪魔な結界を破壊してくれたのは他でもないあの仮面。あのときはどうなることかとひやひやしたが流石俺と同等の危険察知能力を持つ男、備えていたんだこのときのために」

「す、すごいです! じゃ、じゃあバニルを倒したときも……」

「そう、バニルは憑依という恐るべき能力を持っていたが、仮面の男はその能力を知っていた。仮面の男の作った一瞬の隙で何を言いたいか察した俺はバニルの体を構成する土や周囲の土をすべて凍結させ、やつの動きを封じたんだ」

「す、素晴らしいです! その仮面のお人は正義の味方なのですね!」

「正義、ねぇ……なあアイリス、一応言っておくがお兄様がすごいんだからな? 仮面の人も凄いが俺だって頑張ったんだからな?」

「はい、わかっておりますとも! それより早く話の続きを! 仮面のお人の正体を教えてくださいまし!」

 

 

……そんな先週のやりとりを夢で見てました。

絶賛妹レスで、心が泣いてるお兄様ことカズマです。

はぁ……昼間たっぷり寝たせいで夜眠れなくなっちゃったじゃないか。

夜食でも食うか、うん、そうしよう。

確か魔道冷蔵庫の中にはお昼の「ジャイアントモーモー焼き肉セット」の残りがあったはず。

金のキャベツと一緒に焼いて、焼き肉のタレを絡めてオンザライス。

……なんかご飯もののはずなのにシュワシュワもほしくなってきたな。

そうだ、今の俺は眠れないから夜食を求めて彷徨っている。

アルダープの屋敷での最後の晩だし、秘蔵の高級シュワシュワを睡眠導入のために飲み干してしまっても罰は当たらないだろう。

 

そんなことを考えつつ廊下を歩く。

そんな俺だけしか起きていないだろう人気のない夜の屋敷だったのに、ガタっと物音が聞こえた。

なんだなんだと思って物音がした方へ近づいてみると、そこには銀髪の少年らしき姿が。

 

「見張りもいないなんて……考えすぎだったかな。それにしても宝感知のスキルを使ってもお宝の気配はなし。もしかしてあの胡散臭さマックスの仮面が言ってたのは本当だったのかな?」

 

怪しい。

実に怪しい。

今までこの屋敷のメイドさんとは仲良く過ごさせてもらい、全員の顔を覚えているのに、その銀髪の少年君には覚えがない。

これは……まさか噂の義賊か!?

最後の日にジャックポット来たか!?

幸運の女神エリス様感謝します!

 

「うん? 今妙な気配が……」

「『潜伏』」

「……気のせいかな? なんか背筋がゾクゾクッと震えたんだけど。もしかしてこれからアタシに起こる悲惨な未来の予感? なーんて、信憑性のない言葉を信じちゃ情報屋失格d」

「かーくほぉおおおっ!!

 のああああああっ!?」

 

俺は相手を制圧するために思いっきり飛びかかった。

それはもう、押し倒して生殺与奪の権利を奪うように……

しかし、どういうことだろう、悲鳴を上げたのは俺の方だった。

 

「びびび、びっくりしたぁ! カズマ君じゃん……本当にいるなんて」

「イテテ! クリスじゃないか! ちょっと一回話そう、放してくれ! じゃないと腕が折れ……」

「アタシ、カズマ君に触れてないんだけど」

「くそっ、これがエリス教美徳司教謙虚担当クリスムネガペッタンコンティの権能! 見えざる手か……っ!!」

「誰がペッタンコだって! アタシも怒るときは怒るよ!」

「た、確かに言い過ぎた! でも俺が触ったのってクリスの胸部だろ? ……意外と大胸筋が発達してるんですね」

「……? アタシ、カズマくんに触れられてさえいないんだけど」

「え? じゃあこれは誰の……」

 

ここには俺とクリスしかいなかったはず。

もしかしてリアルホラー?

異世界だからこそ現実味のあるリアルガチな幽霊なのか!?

そう思って俺を掴んでいる腕を辿っていって見ると……

 

「クリスにセクハラできると思ったか? 残念、俺でした!」

 

良い肉付きをした男。

そう、毎度お馴染み仮面の人だ。

 

「一体どっからわいてきた仮面の人!」

「いつもニコニコあなたの隣に這いよる神出鬼没の仮面だ。昨日まではお楽しみだったみたいだな」

「うあああ! その言い方やめろ! 噂の義賊を捕まえるために張り込もうと思ったら、ただ自堕落な生活を満喫してただけだから! だからクリスさん? 俺のことをそんな性欲に支配された獣のような視線で見ないで! 本当に!」

「でもアタシの胸を揉もうとしたんだよね?」

「だってスレンダーなボディラインだったから男かと……ああっ、すみません言い訳しませんから! どうか怒りと悲しみを静めたまえ……」

「もー……今回だけ、今回だけ不問にしますから。というかアタシは神様じゃないんだからそんな仰々しい言い方はよしてよ。……その懐疑的な目はどうしたの仮面の人?」

 

どうやら俺の必死の謝罪が伝わったらしく、クリスの顔の赤みは収まった。

そのことにほっとしたが、一つ、忘れてはいけないことを放置していた。

思い出した俺は仮面の人とクリスに。

 

「ところでさ、二人は義賊か? ずいぶん仲よさそうだしもしかして同じ犯罪集団に属する仲間なのか?」

「違う違う! アタシとこの人はこの前お話ししただけの関係だよ!」

「クリス、俺のことを巻き込みたくないのはわかるが、俺たちは同志! 魔王軍におびえて夜も眠れぬ民や重税に苦しみ腹を空かせている子供の味方、だろ?」

「うっわ、胡散臭っ! 君は絶対そんなこと思わないキャラでしょ見た目的に!」

「見た目による偏見は…………いやわかった、言い直そう。俺は俺が敵だって認定したやつを全身全霊でぶん殴る男だ」

「流石鬼畜仮面、えげつねぇ」

 

クリスに胡散臭いって言われ、俺に鬼畜と罵られ、落ち込んだ様子の仮面の人。

いやだって元祖鬼畜って言ったらこの人を挙げずして誰がいよう。

床に手をつきズーンと沈んでいる仮面の人をおいて、俺はクリスに。

 

「それで、実際どうなんだよ、二人は義賊仲間なのか?」

「ぎ、義賊なのは認めるけど、そもそも聞いてないよアタシ! どうして仮面くんがこの屋敷に忍び込んだのか! 潜入するなんて一言も伝えてないんだけど!」

「だそうですけどストーカー仮面さんは何かあるか?」

「ストーカー仮面言うな。予知って忠告したのにも関わらず自ら罠に嵌りにいく愚かな義賊様を守るために先回りしただけだぞ俺は。カズマもクリスも、汝らの思考回路なんて筒抜けも筒抜け、お見通しである!」

「本当に君ってやつはほとんど初対面なのにどうして私のよき理解者ポジションに居座ってるの? ダクネス以上のポジションをどうしてちゃっかり獲得しちゃってるの?」

 

実際にこいつの底知れなさ具合は尋常じゃない。

気配を消す能力なんて、さっきも体感したがそれはもう忍者かよってくらい敵感知スキルに反応ない。

だからしれっと俺たちに混じっていても自然に会話に入ってくるし、それでいつの間にか仲間のようなポジション獲得しちゃってるんだから驚きだよな。

仮面の人だもの、そういうもんだって考えるほかない。

クリスの疑問に自分なりの答えを出していると仮面の人が。

 

「まあまあいいじゃないかそんなささいなこと、クリスが胸をもまれる未来を回避できたことに比べれば」

「確かにそうかも……? とりあえず礼は言っておくよ、ありがとう仮面の人!」

「俺が身代わりに胸もまれてやったんだからもっと褒めて褒めて甘やかしてくれてもいいんだぞ?」

「あははは、先輩じゃないんだから……」

「ふははは、そうだな、アクアじゃあるまいし」

「アハハハ……どこまで知ってたりしますか?」

「ご想像にお任せしますよエリ……クリス様、ふはははははは……!」

「笑ってごまかさないでぇぇええ!?」

「ふははは逃げろ逃げろ! 俺のそばに近寄るな! マジで!」

 

仲間じゃないって否定入れてるくせにどうしてこんなに仲がいいんだろうか。

もしかしなくても義賊のお仲間だろ。

……もしかしなくても、ここでこの二人を取り押さえたら……

報奨金をもらえウハウハ。

アイリスとの遊び相手も続行!

お城で優雅な生活を謳歌できるのでは!?

 

「おい、アイリスと一緒に遊ぶ生活に戻れるかもしれないって思って欲望ダダ漏れの転生者、ここで重大な予言をしておこう」

「……んだよ、どうせ逃げ切れるからここで侵入者だって叫んでも『賊を逃がした無能』のレッテルを貼られるってか?」

「それはその通りだが、そうじゃない。お前、アイリスを大事に思ってるなら協力してくれないか」

「……詳しく」

 

 

 

 

なんやかんやあったが翌日。

 

「一週間張り込んでみましたが、私が無能なばかりに、ただいたずらに時間を浪費し、奴らの正体を暴くことができませんでした……今回の調査で、我々は今回も、なんの成果も得られませんでした!!」

「なるほど、あれだけ自信ありげだったのに失敗したのですか」

「いえ、言ってみたかっただけです」

「カ、カズマ! すみません! うちのパーティーメンバーがすみませんんんっっ!!」

「貴様! 王前で何戯言を易々と吐いているのだ! ダスティネス殿の顔に免じて殺しはしないがわかっているんだろうな!」

「お、落ち、落ち着いてくださいクレア! 剣を直ちに鞘に収めてください!」

 

神器の話を聞いた俺は、妹の身に迫る危機を回避するために、わざわざ行きたくもない報告会に参加する羽目になった。

だからちょっとむしゃくしゃしておふざけに走ってみただけだ。

キ○ス・シャ○ディ○スごっこをしたかった訳では断じてない。

 

「冗談でこの場の空気を和ませたかっただけだよ。しっかり情報は仕入れてきたぞ」

「本当か? 日頃ぐーたら三昧のカズマが? ……にわかには信じがたいが」

「おいダクネス、味方のくせに何疑ってんの!?」

「いや、すまない。本当にぐーたらしてるだけだと……」

 

こんのアマ、俺の本性をしっかり理解してやがる!

そりゃそうだよ、働かなくてもいい食事、いい住居、いい衣類が揃ってるんだったら、ぐーたらしかしなくなるだろ。

見事にダクネスに見抜かれた俺は反論したいところだが、ぐっとこらえて報告を始める。

 

「……実は昨日、夜眠らず賊の襲撃に備えていたんだが、アルダープの屋敷に近寄る二つの怪しい影が」

「なんと、お城であれほど怠惰な生活をしていたお前が?」

「おい、ダクネスに続いてクレア、お前もか! そんなに疑うんだったらあの嘘つくとチンチンなる魔道具持ってきてもいいんだぞ!」

「し、失礼しました。そんなに自信満々に言うからには嘘ということはなさそうですが……どうして今までその話を隠していたのですか」

「あくまで未遂、だったので。怪しいだけで屋敷に侵入することもなく、現行犯で捕まえることができなかったのです」

 

「……ダクネス、お昼眠りすぎて夜中にお目々ぱっちりって話を襲撃に備えていたとか抜かしましたよこの男」

「というか怪しい影など私たちは聞いていないのだが……もしや見栄を張りたいが故の嘘か?」

「おいパーティーメンバー二人、お前らちょーっと黙ってろー」

 

俺は話を進められるように厄介メンバーに釘を刺す。

なんせここからが本番だ。

盗賊団の狙いは宝物庫だとちょっと嘘をついて、アイリスのネックレスをこっそりといただく。

誰も知らずに、誰にも褒められない闇の仕事。

なんかちょっとかっこよくないか?

なんて思ったとき、魔王軍襲撃警報が鳴り響いたのだった。

 

 

 

 

「いやぁ! さすがは魔王軍幹部を幾度となく葬ってきたパーティー! 存在感が別格でしたな! 特に私はめぐみんさんに感服しました! あの自分がピンチになるといつも逃げる大将を討ち取った爆裂魔法! 思わず見とれてしまいました!」

「その通り! しかしそれだけではない、リーダーのカズマさんも強力な魔法を休みなく連発するとは、紅魔族でも難しいのではないかね? しかもあのような爆発魔法並の威力がある強力な魔法を10発どころか何十発と」

「おい、ダスティネス卿を忘れるなよアホ面ども。縁の下の力持ちである彼女のおかげで私は命を落とさずにすんだと言っても過言ではない。なんと言っても敵がどれほど強力な攻撃を仕掛けてきても立ち怯むどころか前へ前進するあの精神力! 騎士の鑑だ!」

 

お察しの通り、結果は素晴らしいものだった。

なんせ女神アクア様が俺に与えてくれたチート。

アクセルの街じゃあほとんど使い道がなかった、というか使い勝手が悪く感じていたが、敵が大勢いる戦場、目の前に敵しかいない状態。

ここで俺は輝いた!

めぐみんの爆裂魔法に始まり、ダクネスの鉄壁の防御、俺の効率のよい高火力魔法運用は敵を一網打尽に。

もう、こんなにみんなにチヤホヤされるんだったら王都を拠点に頑張ろっかな……

そんなことを考えているとめぐみんが。

 

「カズマカズマ」

「カズマだよ」

「アクセルの街では今までこんなに私たちを持ち上げてくれることはなかったですよね?」

「ああ、そうだな」

「つまり、私が思うにこれは私たちの時代が来たということではないでしょうか。私の自伝へ新たな伝説を書き加えられそうです!」

 

自伝って、またまた中二病な……

でもそういう自分が活躍した証を残そうとする精神、嫌いじゃない!

むしろ好きだ!

後で俺のこともかっこよく記録してくれないかお願いしてみよっかな。

そ、考えていると今度はダクネスが。

 

「カズマカズマ」

「カズマです」

「私も少々気分が高まってしまって。アクセルの街ではやれ剣の当たらないポンコツクルセイダーだの、筋肉バッキバキのララティーナお嬢様だの……私たちのことを甘く見ている連中が多かったが、ここでならもしかして、私たちも活躍することができるのではないかと錯覚してしまう……。こ、これは駄目な考えなのだろうか!」

「安心しろ、俺もちょうどそう考えてた」

「あぁ、じゃあ駄目な考えなのか……」

「おい、俺と思考がかぶっただけで駄目だって判断したわけを聞こうじゃないか」

「あ、いや、普段は自堕落なお前と同じになってしまったら私まで自堕落になってしまったものかと、エリス教徒として自分を律さないとという気分になっただけだ」

 

よし、お前表出やがれ!

ごめんなさいカズマ様と言うまですんごいことしてやる!

 

……って違う!

本来の目的を思い出せサトウカズマ!

俺は妹を守るために義賊として立ち上がるんだ!




次回、銀髪盗賊団、襲来
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