あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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7巻 マクスウェル
8.一歩一歩~一足飛びじゃない~


「はぁ…………」

 

物憂げに窓から外を見る美少女の面をかぶった変態。

ここ最近、ずっとこんな感じでぼーっとしてて、ダクネスの様子がおかしい。

ダクネスが仮面の大悪魔から破滅の予言を言い渡されたせいか?

ダクネスの実家、ダクネスの親父さんに不幸が訪れ、短絡的なダクネスが自分の身を犠牲にしてどうにかしようとするらしい……

「悪魔の助言など話半分に聞いておくべきだろう?」と心配を吹き飛ばすような発言をしていたが……

 

「おいダクネス、あんまり考え込みすぎr……」

「ああ、破滅、破滅かぁ……。私は地下深くに監禁され、毎日質素な食べ物とも言えないような食い物を渡され、それを這いつくばりながら……! 最初の頃は反抗していたが、次第に生きるために仕方なく下卑た笑いを浮かべるゲスにご主人様と媚びを売り…………ああ、カズマか、何のようだ?」

「何でもない」

 

顔を赤くして、自分がどのように辱められて破滅するのかを考えるのに忙しい変態に背を向ける。

俺の心配を返せと叫びたいが、ダクネスがおかしくなった気がするのはそれより前。

思えばアルダープの別邸で1週間過ごしたときから。

あのときは仮面の人やらクリスやらで気にする暇もなかったが、よくよく思い出せば、あのときからダクネスは少しおかしかった……気がする。

 

 

「アルダープ殿、うちのパーティーメンバーがすみませんっ!」

「い、いえいえ、ダスティネス様! どうぞ、どうぞごゆっくり……」

「そ、そうですか……それでは申し訳ありませんが、もうしばらくご厚意に感謝し滞在させていただきたく……」

 

下心が見え透いた手でダクネスの手を握るアルダープ。

ダクネスはアルダープのことを、何故だかわからないが好意的な目でみていた……気がする。

俺からしたら……何というかモヤモヤしかない。

 

 

「ダスティネス様、皆に秘密で購入したいい酒が手元にあるのですが……是非今晩、私のところに来られませんかな? 貴族同士でお話しでも……」

「すまないアルダープ殿……これでも私は清い身。よくない噂を立てられてはお互い困りましょう」

「……確かにそうですな。であれば仕方がない、秘蔵の高級シュワシュワはまたの機会に」

「そうしましょう。お誘いの件、とても嬉しかったので次回があれば」

 

やっぱり見間違えじゃない。

困ったような顔でアルダープの誘いを断ってはいたが、不器用なダクネスらしからぬ演技力だった。

とても嬉しかったという言葉も、自然な微笑みが相まって、社交辞令には見えなかった。

何より俺の方を見ながら「よくない噂を立てられたら」と言ってきたこと。

あのときは「もしかしてフリなのか?」とか「もしかして俺のこと好きなの? 俺に妬いてほしいの?」とか思っていたが、周りのメイドさんたちにお酌してもらってたからすぐに忘れて口にお酒を運んで……

 

 

 

 

「って訳なんだが、めぐみんはどう思う?」

 

ダクネスが執事服を着た無愛想なアルダープの使いとともに、「少し出かけてくる。私の帰りが遅ければ玄関の鍵は閉めておいてくれ」と言葉を残しアルダープの屋敷に向かった。

ダクネスがいないこの好機にめぐみんに相談してみたんだが……

 

「はぁぁああ…………」

「おい、何だよそのどでかいため息。まさかお前までおかしくなんないよな?」

「今のため息はカズマに対してなので心配しないでください」

「そっかなら安心d……なわけないだろ! えっ、またオレ何かやっちゃいました? ……冗談、冗談だからそんな目で見んなって!」

 

めぐみんにダクネスについて相談した結果、盛大にため息を吐かれた。

その空気を何とかしようと冗談で場の空気を温めようとした結果、悪化した件。

だが俺は負けない!

たとえめぐみんの極寒の視線にさらされようとも俺は立ち上がる!

 

「それで? 結局浮気性なカズマは私に恋愛相談しようとしたのはどういうつもりなのですか? 言い訳があるなら聞きたいところです」

「れ、恋愛相談じゃねーよ! どこをどう解釈したらそうなんだよ!」

「いや、ダクネスがアルダープとイチャついてるのを見てモヤモヤしてるのでしょう? そんな相談をされて一体何をどう解釈しなくても恋愛相談でしょうに!」

 

い、言われてみれば……って納得するなカズマ!

あいつは顔とか体は好みだが中身が駄目だ!

そう、アイツに対して俺は恋愛感情なんて……

 

「いいか、俺が言ってるのは俺のことを裁判で殺そうとした領主様に好意的な対応してるダクネスはおかしいって話だ!」

「まあ、わかってましたけどね」

「わかってたんかい! こいつ!!」

「ふふっ、私の前で恋愛相談のような話をするカズマのことをちょっとからかってみたかっただけですから、そうかっかしないでください」

 

ニコリと俺に笑みを向け宥めてくるめぐみんは魔性だと思う。

というかやっぱり俺のこと好きなのか?

ダクネスの話をして妬いてるってことでいいんだよな?

そういう期待に似た気持ちとともにめぐみんを見ると。

 

「しかし……話を聞いてる限りいつものダクネスじゃ? 『顔良し、内面良し、じゃあ却下で』とアルダープの息子を蹴ったあのダクネスです」

「確かにそうだけどさ……アイツ、あれでも民を導くのが貴族の務めとか言って、アルダープのことを嫌いで……。クズと悪、公と私の分別はあるはずなんだ。あんな野郎のことが好きだなんて……」

「……確かにダクネスのゲス、クズ、ゴミ好きには困ったものですがカズマの言うとおり、今回はおかしいと思います。まあ世の情勢と人の気持ちは移ろいやすいとは言いますし、そっちの線は……」

「……あの頑固すぎる脳筋クルセイダーに限って善悪の基準がおかしくなるとも思えない」

「…………自分から言い出してなんですが、ありえませんね。忘れてください」

 

俺とめぐみんのダクネスに対する解釈が一致した。

そもそもあいつは損得勘定で悪徳貴族に接近する腹黒さも演技で誰かを利用するなんて器用なまねもできっこない。

本心と義務感、責任感で以外動かない。

だとしたら本気で……本気でアルダープのことが好きなのかもしれない。

厄介払いができて清々した……なんて思ってみても、そうじゃない本心はモヤモヤがたまっていく。

 

「それで、カズマはどうしたいんだ?」

「どうしたいって……新しいメンバーを迎え入れるのもメンドーだしなぁって思うだけだ」

「……ツンデレですね」

「誰がツンデレだって!」

「お前だよ。男のツンデレって需要ないと思うんだ……見ててキチィ。というか恥ずい」

「……毎度思うんだがぬるっと俺たちの会話に入らないでくれよ、心臓に悪い」

「悪い、クセになってんだ気配消すの」

 

めぐみんと二人で話していたと思ってたら、いつの間にか仮面の人が参加していた。

何を言ってるかry。

本当に自然な流れで参加しやがって……

ジト目で見ていると、仮面の下にあるニヤリと悪魔的に口をゆがむ。

 

「さて、俺がここに来たってことはお察しの通り、今日も世界平和のために協力しに来たぞ……おい、顔に胡散臭いって書いてるぞ」

「だってお前が来るときいっつも厄介ごと持ってくるだろ。そろそろ文句のいくつか言いたい。王都での話とか」

「ちょうどその王都の話も絡んでくる。わざわざ俺が王都で暗躍してた理由も話してやるから……」

 

またはぐらかされるかと思っていたが今回は話してくれるらしい。

まあどこまで話してくれるかわからない時点であんまり信用ならないが。

そんなとき、目を赤く輝かせためぐみんが仮面の人に近寄って。

 

「ま、まさか! あの盗賊団に関与していることですか! ですよね!」ズイッ

「あ、ああ。それは……」

「嗚呼、皆まで言わずとも私は理解していますとも! あの仮面、黒装束、無関係である方がおかしなこと!」ズイズイッ

「……」

「やはり、やはりですか! 無言は肯定を表す……それ即ち我が紅の瞳は真実を見ていた!」ズイッッッ

「近い、近いぞーめぐみん! もう俺が黒幕って設定でいいからちょっと黙ってようか!」

「ラジャー!」ビシッ

 

すごい、自分の世界観にとらわれてしまった中二病を一瞬にして沈静化した!

というか王都で暗躍してたんだ仮面の人。

俺とクリスが城に潜入してる頃に一体何をしてたっていうんだ?

そんな俺の顔を見た仮面の人が咳払いをして。

 

「それで何だったか……ああ、俺が王都で何をしてたかって話だが、なんだかんだ手を尽くしたおかげで王都は混乱中。本来アクセルの街に来るはずの騎士団も足止めしてきた」

「騎士団? 一体そんな連中が始まりの街に何のようだ? そんでどうしてそいつらを足止めして?」

「そうだなぁ……めぐみん、この街の近くに大きな湖があっただろ?」

「湖…………もしやクーロンズヒュドラですか」

「その通り」

「クーロンズ……なんだって?」

 

この街の冒険者をしてきてそこそこの年月がたったってのに聞きなじみのない言葉だ。

俺の耳が腐ってないならヒュドラって聞こえたんだが?

ヒュドラって神話の怪物だろ?

どうしてそんな聞くからに物騒な名前がアクセルの街の近くにある湖ってキーワードから導き出されるんだ!?

そう思っていると仮面の人が一枚の紙をテーブルに置き、俺に見せつけ。

 

「クーロンズヒュドラ……アクセルの近くの山に住み、普段は深い眠りについている大物賞金首モンスターだ」

「体内に蓄積した魔力を使い果たすと湖の底で眠りにつき、周辺の大地から魔力を吸い上げ、10年ほどで目覚めます。そしてちょうど今がその10年の節目になるのです。ですよね仮面の人!」

「ソダヨー」

「へー、今年が……。で、それが一体何だっていうんだ? 俺たちが討伐か封印のクエストに参加しなきゃならないかもしれないのはわかるが、王都で暗躍してた話との全く関わりが見えてこないんだが」

「ああ、その王都で銀髪盗賊団がやらかしてただろう?」

「かっこよかったです!」

「ソウダナー」

 

仮面の人がもう一枚紙をテーブルに、今度はめぐみんにも見やすい位置に置いた。

『賞金首 銀髪盗賊団

  ――懸賞金 2億エリス』

……………………はい?

 

「おー! ついに懸賞金のポスターが! これは早々にファンクラブ樹立とファンクラブ第1号の名誉を手にしなければ! 仮面の人、私が開いたファンクラブが公式でいいですよね!?」

「イイヨー」

「ありがとーございまーすっ!!」

「……んで、なんだったか。……そうそう、俺がこの二人の危険性を知っている専門家としてめちゃくちゃ力説してだな。そのモンスターを王都の騎士団が封印しに来てくれる予定だったんだが、来れないようにしてやった☆」

「…………え? 何してくれてんの?」

 

話が急展開過ぎて追いつけないんだが?

えっ?

何やってんのこの仮面?(放心)

……何やってんのこの仮面!?(激怒)

めぐみんの前だから何も言えないのがもどかしい!

必ず、かの邪智暴虐の仮面を除かなければならぬと決意していると。

 

「そんで、そいつを明日くらいに叩き起こそうと思うんだが、討伐頼んだぜ!」

「ストップ」

「ダクネスも多分同じ提案してくるから説得の必要はいらないと思うからまた明日……」

「ストーーップ!! 明日クーロンズヒュドラを叩き起こすっつったか!?」

「そうそう。それで俺とお前らで討伐して、賞金を独り占めって算段なんだが……」

「ストップっつってんだろ!? 俺たちだけで討伐!? 何で!? そもそも騎士団が来ないって何してくれてんだお前!」

「文句を聞いてやってもいいが時間が惜しい。とりあえず話を進めると、コイツを討伐しなければ、ダクネスがアルダープと政略結婚することになるんだが……」

「うぉおい! ちょっと待てちょっと待て! 政略結婚って何!?」

「ええっと、せい……せいりゃ……あった。政略結婚。当事者の意向によらず、親や一族が自分の利益のために取り決めた結婚。多くは、政治や経済の観点から、有益な人間と姻戚関係を結ぶための結婚をさす。ってやつだ」

「誰が辞書の内容読めって言ったよ! というかどこに忍ばせてたその分厚いの!」

「詳しくはウィズ魔道具店のアルバイターにでも聞いてくれ。作戦名はガンガンいこうぜ!」

「本当に待ってくれ! 一回話を整理するから!」

 

えっと、あれだろ?

こいつがいろいろやって、俺たちだけでクーロンズヒュドラを討伐しなきゃならないことになった。

そして、クーロンズヒュドラを俺たちで討伐できなきゃダクネスが政略結婚エンド。

 

「……なあ、もしかしてからかってるのか? 手の込んだドッキリなのか?」

「あたりをキョロキョロしても魔道カメラはないぞー。まあ信じられないのもむりはないか。でも全部事実なんだよ」

「根拠は。理由は。どうしてクーロンズヒュドラを討伐したらダクネスが政略結婚しないで済むんだ。わかんなきゃ判断できないぞ」

「根拠、理由、ねぇ…………。俺が言ってもうさんくさいだけだからな。すべてを見通す大悪魔か、政略結婚させられそうになっているクルセイダーにでも聞けばいい」

「……胡散臭い自覚あったんだな」

「だって俺正体隠してるし、信用ならないだろ? ……自分で言ってて悲しくなるけど。……とにかく、本質を見失うな。ダクネスを助けたいんだろ?」

「……はぁー、わーったよ。明日、事実確認をとってからだ」

 

俺は言葉を絞り出す。

別に仮面の人が嘘言ってるわけじゃないのはわかるんだ。

前も、その前もそうだったし、経験でわかる。

それで、俺はダクネスを政略結婚なんてやつでパーティーを抜けてほしくない。

 

「魔法使い二人パーティーだと壁役なしじゃあきついだろうしな」

「……そう言ってくれると思った。やっぱり(カズマ)(カズマ)だからな」

「そうですね、カズマはカズマですね」

「俺の気のせいだといいんだが、今俺の名前を不名誉な何かを示す言葉として使ってなかったか?」

「私はそんなことないですよ? やっぱり何だかんだ言って仲間思いな、私の好きな人って意味です」

 

 

翌日。

突然玄関のドアが開けられたと思ったら、ダクネスが帰ってきて……

 

「カズマ! 賞金首モンスターを狩ろう!!」

「…………はぁ。……しょうがねーなぁ」

 

俺は面倒くさいことに巻き込まれてるんだろうなぁと思いながらもそう答えた。

だってこれからも仲間と一歩一歩歩いて行きたいから……

 

「……出不精なカズマが即快諾? まさか偽物か!?」

「ぶん殴るぞ」




アクアがいないことで起こる影響とは……
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