カズマさんが欲しがりそうな転生特典を考えた結果ですが……
「ああ、奇想天外かつ可哀想な死に方をしたサトウさん。貴方のご活躍を期待しております……」
「女神様……。俺、異世界に行ったら本気だすよ!」
美しい女神様の手厚いサービスを受けた俺は、程なくして転生を果たした。
周囲を見渡せば石造りの街並み。
そこを行き来する馬車。
「……異世界だ。……おいおい、え、本当に? 本当に俺ってこれからこの世界で魔法使って冒険しちゃったりすんのか?」
今俺は異世界の地面に足をつけて立っている。
エルフ耳、長い耳に美形の顔立ち、エルフは実在した!
犬耳猫耳、多種多様な獣耳生やした娘も普通にいる!
素晴らしい異世界生活!
俺が憧れ焦がれていた胸熱展開!
俺は今日から脱引きこもりするんだ!
そんな思いを胸に抱き、この街で一番大きな建物――冒険者ギルドであろう場所を目指す。
近づいてみると看板に異世界語で冒険者ギルドと書いてあるのがわかる。
ビンゴだ!
俺は喜びの感情のままに、その扉を勢いよく開け放った。
「あ、いらっしゃいませー。お仕事のご案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いているお席へ!」
出迎えてくれたのはウェイトレスのお姉さん。
初心者をいびる荒くれた冒険者じゃなくてよかったとほっと息をつき、指示通りカウンターの方へ歩を進め、列へと並ぶ。
やがて俺の番がやってきて……
「はい、本日はどうされましたか?」
「えっと、冒険者になりたいんですが、田舎から出てきたばかりなので何もわからなくて……」
「そうですか。では冒険者カードの発行手数料として、千エリス頂戴しますね」
「テス・ウ=リョウ?」
どうしよう、前途多難だ。
甘くない現実、カラのポッケに手を突っ込んでひっくり返すもお金なんてある訳もない。
「と……とりあえず、今からできる日雇いのバイトとか、ありませんかね……」
俺は異世界に来て早々に日雇いのバイトに励むのだった。
こんな異世界なんてやだー!
「おーしお疲れさん! 今日はもう上がっていいぞー! ほら、今日の日当だ」
「どうもおつかれっしたー! お先失礼しまーす!」
「おう新入り、また金に困ったらこいよー! どっかのチンピラ冒険者みたいに落ちこぼれたくなかったらな、がはは!」
俺は土木工事の親方に挨拶する。
時給750エリスの日雇いバイトを急遽4時間だった。
異世界に来て早々にすることがどうしてバイトなんだろうか。
日もだんだん暮れてきた。
そして激しい運動なんてここ最近した記憶さえもない俺の体はボドボドだぁ。
でもよくやった俺!
頑張った俺!
酷使して息絶え絶えな体で冒険者ギルドまで足を運び、先ほどのカウンターへドンっと今日の給金の3分の1を叩きつけた。
「えっと……」
「ハァ……ハァ……これで、これで足りますよね。冒険者登録」
「え、ええ。では登録手数料の千エリス頂きますね」
受付のお姉さんから冒険者とは何か、レベルアップとは何か、職業選択とは何か、様々な情報を聞かされる。
ゲームみたいな話を聞きながら、俺はアンケート用紙に必要事項を淡々と記入していく。
そして。
「説明は以上ですね。では、えっと、サトウカズマさんですね。こちらのカードに触れてください。それで現在のステータスがわかりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んでくださいね。経験を積むことでスキルポイントが貯まり、様々な専門スキルを習得できるようになりますので、その辺も踏まえて職業を選んでください」
これで……ようやく始まる。
ついにだ!
あっと驚くステータスが叫ばれて、華々しい俺TUEEE生活が始まるんだ!
周りの冒険者に「何だ何だヤバいぞアイツ!」とか「期待の新星だー!」とか「俺は今、魔王を討伐する第一歩を目の当たりにしてるのかもしれねぇな」とか言われるんだ!
さらば引きこもりの俺!
こんにちは異世界!
世界が俺を待っている!
「ええっと、サトウカズマさんのステータスは……筋力、生命力、魔力、器用度、敏捷性……どれも普通ですね」
「そうですか、俺のステータスは普通……何だって?」
「ええっと、平凡ですね。知力がそこそこ高いの以外は……あれ? 幸運値が突出してますね。まあ、冒険者にはあんまり必要ない数値なんですが」
女神様のあほーっ、どうじでだよぉ゛!
俺の転生特典的に魔力くらい上がってくれよ!
「どうしましょう、これだと基本職の冒険者しか……。ま、まあレベルを上げてステータスが上昇すれば転職が可能ですし!」
やめてくださいお姉さん。
その優しさがつらいっす。
惨めな気分になるんでやめてください死んじゃいます。
「そ、それにこの冒険者という職業はありとあらゆる職業のスキルを取得できますので、その……初期の職業だからって悪いことはないですよ?」
「うん? ありとあらゆる職業のスキル?」
「は、はいそうです。スキルを使える人に教えてもらわないといけないことや、器用貧乏になりがちなので善し悪しがあるなどのデメリットはありますが……」
なるほど……
そうか、そう言うことだったのか。
ごめんなさい女神様、俺が馬鹿だったんだ。
俺が選んだ転生特典はどの職業にも入らない魔法……つまり他の職業を選択した場合その魔法は使えないってことだ。
(そんなことないわよー。カズマさんが貧弱ステータスなだけだからー)
ふふふ、完全に理解した。
俺は普段は嘗められる弱い冒険者だが、真の実力を解放するとヤバい冒険者ムーブができるってことですよね。
何か中二病が再発してきたー!
「今日はもう夜になりますし、クエストを受注されるなら明日の日中がいいですよ? 夜は視界が悪くてモンスターも凶暴化してますので、初心者ならなおさらです」
「そうですか……ちなみに、あ、興味本位なんですけど、初心者の力試しに最適なモンスターっていますかね?」
「一応ジャイアントトードという巨大なカエルが年中張り出されていて手頃ですが……冒険者は基本的にパーティーを組んで行動します。ですのでソロでの受注は……」
転生特典を試さずに誰かに見られたら大変だからな、うんしょうがない。
受付のお姉さんの言いつけを破るのは心苦しいが、自分の実力を測らないといけないんじゃないだろうか、うんそうに違いない。
「大丈夫ですよ、夜は危険って言ってたじゃないですか。今日は宿屋見つけて寝ますから安心してください」
「そうですか……ついでにどうです、今日のうちにパーティー募集の張り紙でもしてみては? 用紙をお渡ししておくのでもし書き終わったら掲示板に貼っておいてください」
仲間、か。
確かに俺は仲間との冒険とか、ハーレム的なあれこれに憧れてる。
この駆け出し冒険者の街に俺に見合う冒険者がいれば、その時には一緒に旅してもいいかもしれない。
そんなことを思いながらギルドを後にしてこっそりと防壁の外へと出る。
さあ、冒険の始まりだ!
ギルドから外に駆け出す俺を発見した。
日中あれだけバイトしてたっていうのに元気だな……
近づきすぎるとバレる可能性があるって言われたからギルドの中で何があったかはわからないが、こっそりと後をつける。
門から外に出て暗闇をキョロキョロしている。
暗視スキルを持っている俺からすればくっきりわかるが、何にもスキルがなければ何も見えるわけがない。
何もできるわけないのに一体何をするのだろうか。
そんなことを思いながら万が一に備えて弓の準備をしていると、急に視界が明るくなった。
一体何だろうと思い明るい方を見ると、そこには手のひらサイズくらいの火球を出現させて辺りを照らしている俺が。
あれは中級魔法くらいはありそうな気がするが、あれが転生特典なのだろうか。
「おおっ、何かめっちゃ足音がする! 普通獣とかって炎を嫌うものなんじゃないのかよ」
この世界のモンスターは一部、光に集まり、人を襲う。
そのため光源の元へジャイアントトード以外にもいろんな奴らが集まってきた。
その数およそ30体。
(カズマ! 何やってんだ俺ッッ!)
しかしそんな状況に動じてない平行世界の俺。
余程転生特典に自信ありみたいで、新たな火球を生成して元気に応戦していた。
ちなみに俺は死んでは元も子もないため岩陰に潜伏している。
もちろんびびってるわけじゃない。
蛙やコウモリの断末魔が聞こえてくる。
火球が当たると小爆発するような音が聞こえてくる。
そして一分もたつとその音はなくなった。
「ま、まさかやったのか……」
信じられない。
この世界の俺、ちゃんとチート転生者してる……だと!?
嫉妬心が揺さぶられ思わず「何だあんなもん! 俺んとこの有能駄女神と交換しろ!」なんて心の中で呟きながら岩陰から顔をのぞかせると……
そこにはたった独りの勝利者が天を仰いでいた。
その勝利を収めて大きく横に開いた口には一本の足が飛び出ていた。
「く、食われてんじゃねぇぇええーーッ!!」
魔力切れになったのだろう、めぐみんと同じようにピクリとも動かなくなったこの世界の俺を救うため、俺は剣を振りかぶり突撃した。
有能そうに見せかけて役に立たない転生特典選びやがって!
あれじゃ結界破ったり回復したり無から借金創造したりできないだろ!
やっぱ俺んとこの有能駄女神と交換しろ!
別に借金の女神を押し付けたいわけじゃない。
ただ、この世界でもアクアがいないと始まらないな、なんて思っただけだ。
というわけで、普段は慎重派ですが転生特典で調子に乗って痛い目見たカズマさんでした。
まあ、時間経過とともに魔力が回復するんで、完璧に消化される前に脱出できた可能性は否めないんですがね。
何とか時間内に書けましたので投稿いたしました。