あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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前回の続き

「おーいゼスタのおっさん! また火傷しやがったドエムクルセイダーのことは任せた! 念入りに駄目ネスの肌を労ってやってくれ」
「また無茶をなされたのですね? よろしい、愛の伝道師ことこの私が懇切丁寧に説法とともに癒やしを提供しましょう! あ、今アクシズ教に入信すると治療費が3割負担ですが……」
「アクシズ教の世話になるなど……くっ、ころせーっ!」

という展開があったりなかったり。


8.億千万の花嫁~終わらない賛美を~

お父様。

最近体調が芳しくなく、お父様の心配を除くためにも、不肖な娘から卒業しようと思います。

今までこんなじゃじゃ馬な娘を大切に育てていただいて、誠にありがとうございました。

私、ダスティネス・フォード・ララティーナはこの度……

 

 

「…………おい、今なんて」

「ようやく結婚できる…………そう言ったのだ。……お、おい! 何言ってるんだこいつという嫌らしい目つきで私を見るなぁ!」

 

こちらは至って真面目な話をしているのに、そんな年がら年中発情している男の視線にさらされたら……興奮してくるじゃないか!

私が身もだえているとカズマがぽんと手を叩き、ニヤニヤしだした。

正直ここ最近遭遇した気持ち悪さの中でダントツだ。素晴らしい。

そして、ビシっと私の方に指を指し。

 

「はっはーん、さてはお前、俺に惚れちったかー……」

「いや違うが?」

「ま、まっまままさかあの奥手なダクネスが真っ向切って告白ですか!? もともとくずな男が好きとは知っていましたがカズマにお付き合いの申し出ではなくいきなり結婚とか!」

「いやちがっ……」

「照れんな照れんな。お前の気持ちはわかった……が、俺は最初は甘酸っぱい恋人時代を経てから結婚へステップアップしたい男児だ。まずは手を繋ぐところから始めよう」

 

そう言ってカズマが私の手を優しくニギニギしてくる。

どうしようこのパーティーメンバー、私の話を一切聞かない系だ!

というか別に私はカズマに惚れてなんか……惚れてなんか?

ま、まあそこそこ顔立ちも悪くないし、クズだからな、ストライクゾーンには入っているかもしれない。

だが、私の話したいことはそういうことではなく……

 

「は、話を聞いてく……」

「どうして普段から私のことをおんぶして胸の感触を感じようとしているのにそう真摯な対応をしてるんですか!」

「しっしししてねーし! 俺の男心を弄んでばかりの魔性のめぐみんはなんでダクネスに負けたか明日までに考えておいてください!」

「お、おーい? 喧嘩はやめて私の方に……」

「ああっ、逃げましたよこの男! 大体貴方から押してくれれば…………あ、肝心なところでヘタレるカズマには無理な話でしたね。ごめんなさい」

「よし、まずはお前と決着をつけよう。それでもっと押せばどうなってたか白状させてやる! ……ちょっと待ってろダクネス、今からこの恋敵を蹴散らして、それから婿入りがいつになるかとかは相談しよう」

「あっ、もう私のことはお構いなくー……」

「さあ、待たせたな暴虐の魔獣! 数多のスキルを操りし俺を倒せるかな?」

「キシャーッ!!」

 

目の前に現れた獰猛な獣。

完全に中二病になってしまったカズマ。

私は考えるのをやめた。

 

 

……

 

 

しばらくして。

床に寝そべっている敗北者にとどめを刺した勝者の高笑いが部屋に響く。

 

「まさか、この俺が……筋力勝負で、魔法使いに……負、ける、なんて……」ガクッ

「ククク……クハハッ……はーっはっはっはっはっは!! これがレベルに傲っていた者の末路! そして思い知りましたかアークウィザードの腕力を! これでまた一人、邪悪なカズマの手から救えたのだった……完!」

 

基本に忠実な笑いの三段活用……さすがは紅魔族だ。

しかしながら邪悪なのはめぐみんの方だと思う。悪役令嬢も顔真っ青な高笑いが響き渡る現在のシチュエーション的に。

くだらないことこの上ないやりとりを見ていると、カズマが涙をこらえながら。

 

「くっ……俺が弱いばっかりに! ごめん……ごめんなダクネス……俺、もっと強くなるから!」

「いや、別にお構いなく」

「なっ、俺との結婚はどうでもいいってことかよ! お前も俺の純情を弄ぶ小悪魔系女子か!」

「いや、そういうことではないのだが……。そもそも結婚できると私が言ったことに対してカズマが勝手に私と結ばれる未来を幻想したというか……私の可憐な言動で淡い恋心を抱いてしまった少年の心を打ち砕くのは非常に心苦しいがカズマと結婚する気はないんだ。その、期待させてごめんな?」

 

カズマが今にも泣きそうな顔で私の方を見てくる。

こ、これは私が悪いのか!?

私は本当にカズマと結婚するつもりなどなく、ただ単に政略結婚ではなく恋愛結婚ができるようになったという話をしていただけなのに、勘違いしたカズマが悪いのではないか!?

流石に本気の泣きかけの顔は予想外だ。

カズマの様子に驚き、あわあわしているとめぐみんがカズマをよしよしと慰めて。

 

「よーしよし。カズマはすごい子ですよ。私は意外にあなたがすごい人だって知ってますから泣かないでください?」

「ずびっ……ないてねーし」

「ダクネス、さすがに告白したのに秒でふるのは酷いですよ……これが噂に聞くジャイアントトード化現象なのかはわかりませんが謝ってくださいね? カズマの報復は洒落になりませんから」

「あ、ああ。その、すまなかったなカズマ。私は別にお前のことが嫌いとかそういうわけではないのだ。どちらかと言えば好のましいと思っているが、クズな男と結婚したいなーと思っていて、お前はそこまでクズじゃないしヘタレだし……。その、変な勘違いをさせてすまなかった。これからも仲間としてよろしく頼む」

「……なんだろう、コクってもないのにフラれて……クズな男と結婚したいって聞いた瞬間、悔しさの全てが無に帰したんだが」

「とにもかくにも、カズマは泣き止み、これにて一件落着ですね! これからも三人パーティーで頑張っていきましょう!」

 

……三人、か。

めぐみんの言葉にカズマもしょうがねーなぁといつも通り面倒さそうに声を発する。

私もこの二人とこれからも旅を続けた……

あれ、どうしてこのパーティーが好きなのに、抜けなければならないと……

 

「どうしましたかダクネス? そんなしみじみと思い出を振り返るような顔をして。我らが覇道を記す冒険の旅はここからですよ! 黎明の光の兆し。新たなる時代は我らが切り開くのです!」

「いや、そこまではしたくないよ。ただただお前らと面白おかしく過ごしたいってだけだから。そんな俺に新たなる時代を切り開けと? ムリムリ」

「無理なものですか! 私の火力とカズマの機転、そしてダクネスの防御があれば向かうところ敵なしでしょう!」

 

めぐみんの言葉にうれしさを感じる。

それでも、仲間の期待を裏切る言葉を言わなければならないんだ。

 

 

「カズマ。めぐみん。すまない。

私をパーティーから抜けさせてはもらえないだろうか」

「「……はい?」」

 

 

お父様の体調が崩れ、今にも灯火が消えそうな毎晩。

以前、プリーストに頼ってみたが、病だそうだ。

病は寿命と同じで治癒魔法では効果がない。

どうにかしてお父様を助けようと思ったが、借金がある状態では誰にも助けを請えない。

借金をある程度返済できたが、今後、ダスティネス家の行く末は不安定。

 

このままではお父様が……

肉親を亡くした悲しみ、最愛の者と引き裂かれる苦痛。

そんな最中、私はダスティネス家の者として次の領主に就任することになっただろう。

 

……だが、そうはならなかった。

 

 

「「ああ、アルダープと恋愛結婚!?!?」」

「そ、その、言うのが遅くなって悪かったと思っているが……」

「ええー……アイツと結婚すんのお前? 借金なくなったのに?」

 

本当は結婚はまだしたくなかった。

だがアルダープは私を助けてくれた。

まだ冒険していたかった。

結婚の延期を願いたいが、恩人にそんなことを言えるはずもない。

いっそのことすべてを話してしまいたいが仲間に迷惑をかけるのは我慢ならない。

だから私は、二人を巻き込まないように、遠ざけるように……

 

「実はだが、貴族社会では18が最後の婚期と言われていてな。それ以上は行き遅れなどと言われ、独り身の率が高くなる」

「だからってなんでアルダープだよ。あいつはかなりやばいって噂だぞ?」

「前にも話したが、私はあのような人を人と思ってないようなやつのことが好、き……で?」

 

……おかしい。

私はなぜあのような男を好きになったのだろうか。

あくまで今回だけ、私の最愛の家族を病治癒のポーションで救うと約束してくれただけだ。

感謝はするも、今までの悪行が帳消しになるはずもない。

貴族として義務を果たさず民を虐げるようなあの男をどうしてそれ以前から好きだったのだろう。

それとも私は私情に流され、過去の記憶も美化してしまうこんなにもチョロい女だったのか?

 

……いや、違う。そうだ、そうだった。

私のことをなめ回すように見て、何かあれば私に八つ当たりしてきそうなあの性格を見て、素晴らしい生活ができると……じゃなくて、ストレスを私が一身に集めることで民が虐げられずに済むと思ったからだ。

 

「とにかく! 私とアルダープ殿は相思相愛でな。政略結婚でもよかったのだが、カズマの言うとおり、借金を払えずに結婚する羽目になったなど思われるだろう? それは本意ではない。しっかり借金を返済してから結婚に踏み切る方が都合がよかった」

「はぁ……何を言うかと思えば、よりによってあの悪徳領主と結婚ですか! まさかとは思いますがこの前の盗賊団に憧れて結婚を偽装し、悪事を暴くために自分がアルダープに好かれているという事実を利用して潜入調査を一人静かに行うと? 正義感が強く、一般民衆諸君を食い物にする悪徳領主から守ってやろうというその高潔な精神は認めましょう……ですがやめなさい! 貴方はあの豚のようなハゲ男に躾けられ終いです!」

「盗賊団に憧れてもないし、悪事も暴かないし、潜入調査もしない! 一体めぐみんはどの方向に考えを巡らせて……ただの結婚だからな!」

 

私の考えとは違うが……民を守るために、か。

半分正解といったところだろう。

すさまじい考察力に恐れ戦きつつも、何でこの紅魔族は爆裂魔法が絡まないと優秀なんだろうかと視線を向ける。

普段からこれくらいしっかりしてればいいのに。

 

「ただの結婚、ねぇ? アルダープに躾けられるってのは否定されないんだなお嬢様?」

「不服そうだな? なに、私が悪徳領主に求めるもの、それは調教だからな! 心配するな」

「そこは一切心配してない。…………なあ」

「何だカズマ?」

「……俺じゃ駄目か」

 

長い沈黙。

何て言ったかこの男。

俺じゃ駄目か……?

そう言われて悪い気はしない……

だが、それでは父の命は助からない。

 

病治癒のポーション。

紅魔の里から取り寄せて使ったが、一切効き目がなかったのだ。

曰く、ただの病ではなく、特効薬が必要な死病なのだろう。

 

「さっきも言っただろう? 私は生粋の駄目男好き。私を惚れさせたらそれは自らがいかに駄目なやつか証明することになるぞ?」

「ふっ、この元自宅警備員をなめるんじゃねーぞ? 金さえあれば自宅で1ヶ月は余裕でぐーたらできる」

「……勘違いがまだ解けてなかったみたいだな。私はそういうだらしない系の駄目男ではなく、卑猥さが限界突破している感じの男が好みだ。ごめんな」

「スティールでひん剥いてやろうか!」

「いいぞ、その調子だ!」

 

カズマの手が卑猥な感じでウネウネウとスティールを繰り出そうとする。

もっとねちっこくやればもしかしたら私のような鋼の肉体、不屈の精神を持ち合わせていても堕ちてしまうかもしれ……

って、いかんいかん、これ以上いたら決意が鈍りそうだ。

 

「どうだ? これがほしいんだろう? ほほほぅれ……ほぅれ!」

「き、貴様! 結婚を直前に控えた私になんてことを……や、やめろー。私は……私は一体どうなってしまうのだろうか!」

「全裸になるだけじゃね?」

「そうか……何だろう、期待外れだ。もっとアルダープ殿は激しいプレイすると思うのだが」

「おまえの脳内アルダープ像なんて知らねーよ! というかお前の脳内で領主のおっさんはどんだけヤバいことをしでかしてるんだよ!?」

「……ああっ、想像したら辛抱たまらん! 私が帰ってこなかったときはパーティー脱退の扱いで頼む! ではいってくりゅ!」

「あっ、オイッ! ダクネス!!」

 

 

私の決意が変わってしまう前に……

いつの間にか私は屋敷の外を走っていた。

いくら鎧を着けていようと全力疾走の私に二人は追いつけない。

 

……今、私は一体どんな顔をしているのだろう。

領主の卑猥さを想像して、人には見せられないほど顔を歪ませているのか。

それとも楽しかった冒険の日々を振り返って、まだ冒険したかったと物惜しそうな表情か。

 

気づけば我がダスティネス邸の門が目の前。

門番の一人が私を見ぎょっとしている。

それも仕方ないか。

未だかつてない激しい汗が頬を伝っているのだから。

化粧も崩れて大層酷い顔をだろうな……

 

仲間に後ろめたい隠し事をしてしまった。

二人は私のことを仲間だと言ってくれたのに、私はそれに応えることができない。

その思いが滝のように流れ出てしまったのだ。

決めたはずなのに……仲間がいなくなるとこんなにも弱いのか、私は。

 

空気が肺に入らなくなって、脳みそに血が行き届かない。

いつにも増してぼーっとしてきた。

きっと、未だかつてない感情の濁流に酔ってしまったのだろう。

眠ればよくなる。

そう思って私はふわふわと纏まらない思考を夢の世界へと飛ばした。

 

 

 

 

新郎アレクセイ・バーネス・アルダープ

あなたはダスティネス・フォード・ララティーナを妻とし

健やかなる時も 病める時も

喜びの時も 悲しみの時も

富める時も 貧しい時も

これを愛し 敬い 慰め合い 共に助け合い

その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?

 

 

これは夢だろうか。

それとも未来の私を映しているのか。

辺りを見てもお父様の姿が見えないが、病気はよくなったのだろうか……

 

 

新婦ダスティネス・フォード・ララティーナ

あなたはアレクセイ・バーネス・アルダープを夫とし

健やかなる時も 病める時も

喜びの時も 悲しみの時も

富める時も 貧しい時も

これを愛し 敬い 慰め合い 共に助け合い

その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?

「……誓います」

 

カズマとめぐみんには突然に告げて去るなど、悪いことをしたな。

でもあの中の良さそうな二人ならきっと私がいなくても元気にやってくれるだろう。

ああ、女神エリス様。

この様な素晴らしい仲間と巡り合わせてくださり、感謝申し上げます。

 

「それでは誓いのキスを」

 

本当に……

   ありがとう

       みんな……

          さようなら

 

何かが私に触れた感触が夢から  へ私を引きずり込んだ。




分岐その1
 1.クーロンズヒュドラを街の冒険者たちと倒す
→2.クーロンズヒュドラをパーティーメンバーで倒す

分岐その2
 1.親父さんの病を諦めダクネスが領主になる。
→2.アルダープに親父さんの病を治して貰うことを対価に結婚。

分岐その3
 1.ダクネス結婚でパーティー脱退→リセット
 2.花嫁誘拐で指名手配→リセット
 3.マクスウェル
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