そんで前回のシリアスな展開を冒頭ぶち壊していくスタイルでお送りします。
俺は……
いや、俺たちは、クーロンズヒュドラの討伐に成功した。
街の冒険者全員を巻き込んでの総力戦の果て、一切の犠牲者を出さずして……
いや、そう言えばいたな、犠牲者。
金髪のチンピラが食われたんだ……
『ヒャッハー! 俺の剣の錆になりやがれーっ! ……あっ』
『ダストさぁァァあんッッ! 死なないでキエェェぇえェええエッッ!』
クーロンズヒュドラの口の中に特攻した気高き冒険者。
しかし間一髪、胃袋にラストダイブする直前、勇猛果敢筋肉モリモリマッチョマンの変態鉄仮面アクシズ教貴族が奇声を発してクーロンズヒュドラを怯ませ、愛の筋力でクーロンズヒュドラの口をこじ開け、ダストを救出した。
正直命は助かったがくさいしベタベタだし、とても無事とはいえない状況である。
……ここまで説明してなんだが、正直俺も何を言ってるんだかわからないが言語化するとそうなるんだよなぁ。
まあ、そんなことがあって討伐を終え、涎まみれのダストは異臭を放ちながらも報酬をもらうためにギルドへ。
『ちょ、ダストくっさ!? その状態で報酬受け取りに行く気!? こんな不潔なのが仲間だって思われたくないんだけど……』
『うっせーぞリーン! そんなこと言って俺を風呂に行かせて、その間に俺の金を自分の懐に入れる算段だろっ! この頭脳明晰なダスト様はお前の浅はかな計画をお見通しだぜ!』
『いや、当たり前でしょ。それはあんたにお金の管理任せられないから。どーせお金渡したら借金返済もせず一気に散財するでしょうに』
『ったりまえじゃねーか! この俺を見くびってもらっちゃあ困るぜ!』
『……見くびってはないわよ。見限ってるだけで』
『おいー!?』
『今更そんな驚くことでもないでしょ? だってアンタ、底辺を争わせたらナンバーワンよ?』
そう言ってダストから離れるリーン……なかなか熱い仲間同士の信頼関係が垣間見えた。
が、正直ジャイアントトードに捕食された俺らもあんな感じの目で見られてたのかと思うとかなりつらい。
……そんなことを思っていたときだった、ダストは例の貴族と再会……してしまったのだ。
『ベトベトのヌメヌメで服が透けて……! な、なんて扇情的なダストさんだ! 私はもう天国にいるのでしょうか!? ダストさん、生きてますよね!』
『俺を勝手に殺すな! って、頭おかしいやべーやつ探知機に引っかかりやがると思ったら俺とおんなじ単身でヒュドラに突っ込んでいったおっさんじゃねーか! 俺のこと引っ張り出してくれたって聞いたぜ。助かった、一応礼だけ言っておくぜ』
『とっととと……ごほん。とんでもございません。私の愛する人……ではなく、貴族として人を助けるのは当たり前ですので』
命の恩人というフィルターのせいでダストの元々濁っていた瞳はもう何も事実を捉えられていないようだった。
恋は盲目とはいうが……ああ、かわいそうなダスト。
ここで逃げていればなんとかなったかもしれないのに……
『貴族なのかテメェ!? そんな見た目して!? ……ララティーナといいお前といい、こっちの国に来てから貴族がなんなのか……まあ、後ろででっぷり肥えたおっさんよりアンタみたいなやつの方がよっぽど好感持てるけどな』
『今、なんて? 私のことが好き好き大好きとおっしゃいました?』
『言ってない』
『ああっ! 女神アクア様! 私は今日、この告白の瞬間のために生きていたのですね! 嗚呼、私に仮面の使者様を使わしていただき、クーロンズヒュドラの討伐で助けると関係が深まると助言まで! 誠に、誠にありがどうございまず! さあダストさん! 私とこれから愛を育みましょう!』
『だああああああ!! どうしてこの国の貴族はこんなド変態ばっかなんだぁあああ!!』
うちの自称高潔な精神を持つド変態貴族が「わ、私はエリス様に仕える身であって頭のおかしいアクシズ教と同一視されるのは甚だ遺憾なのだが!」とわめき散らすが、どこに出しても恥ずかしいド変態が何を今更。
鼻で笑ってやった俺はダクネスに肩を揺さぶられ頸椎骨折しかけるという窮地に立たされていた。
しかし、その一方でこの世界で一番の危機に陥っていたといっても過言じゃないだろう人物も肩を貴族に捕まれていた。
『どこへ行こうというのかね?』
『ちょ、ちょっと便所に……ああっ、テメェ何おっ立ててんだ! ……ま、まさか便所でことに及ぼうと!? ちょ、いったん落ち着け? どうして先に個室に入るんだよ……お、俺に触るな近寄るなぁあ!! 話せばわかる! まずは落ち着いて話をしよう、トイレの外で! な? だから放せよ……まじではなっ、カ、カズマ助けてくアァーーッッ』
パタリとトイレのドアが閉じた。
その後、ダストの姿を見た者はいない。
おかしな人を亡くした。
そんなでヒュドラ討伐は終了した。
全部仮面の人を信じて言うとおりに行動した。
なのに……
「よう、兄弟!」
「ダ、ダスト!? お前死んだんじゃ!?」
「残念ながらご生存だわこの野郎! てか俺のことを見捨てやがって、ここ出たら覚悟しておきやがれ!」
「いやいやあのときは俺も肩捕まれてて助けられない状況だったから勘弁してくれよ!」
「……しょーがねぇな、例の店のチケット1枚で許してやる。シャバに出たときの楽しみがまた一つ増えたぜ!」
というわけで、ただいまサトウカズマ、絶賛投獄中でございます。
……どうして俺は投獄されてるのだろうか。
事の発端はダクネスが家出したとき。
「すまないが借金返済には遠く届かなくてな……それに、元々アルダープのことは悪くないと思っていたのだ。これからどのようにあの持て余した性欲をぶつけられるかと思うと……興奮してきた!」
などと言い残し、実家へと走り出したダクネス。
もちろん言葉を聞いて俺は納得できないというか、腑に落ちないというか、何か違和感を覚えて、すぐに後を追いかけた。
めぐみんも同じ思いなのか、一緒に、うちの面倒くさいクルセイダーの見えない背中を追いかける。
ダスティネス邸に到着した時にはもう門が閉まっており、門番さんに中に入らせてくれと言っても『お嬢様が追い返せとのことで』の一点張り。
なんとか話をしようと門前で叫んで呼びかけたり、挑発してみたり、根も葉もないわけじゃない噂を流してみたりしたが効果はなし。
ついには迷惑だとお巡りを呼ばれ、絶賛投獄中って訳だ。
「……なあ、ダスト」
「よう、どうしたよ兄弟? 獄中の飯はシケてるってか? それには同感だが慣れてくれば大した問題じゃねぇ」
「んなこと言ってねぇよ。てか慣れんなよ」
「まあまあ、でもよぉ住めば都、ここは借金地獄の果てにあるオアシスパラダイスだぜ兄弟! 上等な宿泊施設といっても過言じゃねぇ。なんせ雨風は防げるわ防犯対策ばっちしで借金取りとかアクシズ教のおっかない連中に怯えずに済むわ……俺、ここに住むわ」
「住むな住むな! リーンが毎度お前引き取りにきてるからもはや警察の人に問題児の保護者扱いされてつらいって嘆いてたぞ! ていうか、なんでお前ここにいんの? ヒュドラの討伐で借金返済して、それでも金が余って潤ってんじゃ……」
「馬鹿言え兄弟! そんなはした金で俺様の借金が返済できる訳ねぇだろうが! 大金が舞い込んできたらすることは決まってる。一発逆転を信じてギャンブルで全賭け! これっきゃねぇ!」
悲しいかな、仲間の信頼を裏切らなかった男の末路がこれだ。
俺は仲間をパーティーメンバーに引き戻すためにこんなところで遊んでる場合じゃないってのに……
そんなときだった、俺たちの方にコツコツと足音が向かってくる。
千里眼スキルを使うと一人ではなく、二人、暗闇からやってきたのがわかる。
めぐみんかリーンが俺たちのどちらかを迎えに来たのかと思っていたが……
「やあやあやあ、別の選択肢を選ばせたのに一周目と同じ目に遭ってる愉快な冒険者は元気にやってたかな?」
「仮面の人!?」
「元気そうで何よりだね。よし、さっさと脱獄してダクネスん家に行ってみよう!」
「お頭!? えっ? 何この状況? 何で仮面の人片手にダイナマイトらしき何かを持ってんの?」
「『ティンダー』」
「……なあ、なんで質問に答えずに導火線に火つけてんの? もしかして正規の手続きしないで俺を牢屋の外に出させようとしてる?」
「まあまあ、そんな細かいところはどうだっていいじゃない。大事なのはダクネスが結婚する前になんとかするってことでしょ?」
「ちっとも細かいところじゃないんだが!? ここで脱獄したらおれ脱獄犯d」
けたたましい音とともに牢屋が破壊された。
同時にやってくる警備の人たち。
本当にこの二人は何やってくれてんの!?
ここで俺が脱獄したことがばれたら俺は軽犯罪どころじゃない、本当に前科持ちになっちまう……
将来のことを見据えている俺はちょっと躊躇いながらもこう叫んだ。
「た、たすけてぇぇえええぇえ!! 盗賊団に誘拐されるぅぅううぅうっ!!」
「ちょっ、助手君! そんな大声出したら私たちが潜入したことばれるから!」
「おい、ダスト様のことは忘れてねぇだろうな! 俺もムラムラしてきたしシャバの空気を吸いてぇんだ、その爆裂魔法の道具を使って俺のことも誘拐しやがれ!」
「ねえ、このチンピラの人誘拐を強要してくるんだけど! お願いをする立場なのにすごい高圧的だし、そもそも誘拐を強要するって何!? 一体何ハラスメントなの!?」
「……なあ、本当に忍び込むのか?」
「もちろんだ。何のためにお前を脱獄させたと思ってるんだ。これからお前はダクネスとお喋りしてこい。その間に俺らは親父さんと話してくるから」
「わかってる…………が、脱獄については後でしっかり話し合おうじゃないか。なんとか機転を利かせて俺が攫われたっていう状況に見せたからよかったものの……お尋ね者になっちまったらどうしてくれるんだよ!」
「まあまあ、それは最終的に貴族の失踪騒動とかでうやむやになると思うから安心しろって!」
「失踪騒動って何!? 安心できるかーっ!」
「静かに騒げるって本当に君たち器用だね……」
俺たち3人はダクネスの家に忍び込むために潜伏スキルを発動しつつ、屋敷のそばでそんなやりとりをしていた。
これから侵入するのにあまり緊張はない。
王都で既に実践済みだからか?
いや、全然記憶にございませんのだが。
「俺との爛れた関係はどうなるんだよ!」
「た、爛れ!?」
「あれか、貴族様は貴族のお相手ができたから? 平民の俺のことは直ぐさまポイですか? 俺のことを養ってくれるって言って将来を約束した仲だったじゃないか!」
「言ってない! そんなことを言った記憶は……あるが、別に私たちは付き合ってなどいなかっただろうに!」
「せめて逆側室くらいの対応をとってもらってそれ相応の誠意とやらを見せてほしいですねお嬢様! 『潜伏』!」
「ちょ、言いたいことだけ言って潜伏スキルを!?」
ダクネスが借金をしていて、親父さんが体調を崩していて、そのせいで結婚することになったということがわかった。
つまり、借金を完済するか、親父さんの体調を回復させるかする必要がある。
正直、ダクネスに借金の額がどれくらいか聞いても桁が何桁か間違ってるんじゃないかってくらいだったし、親父さんは体調が悪い状態だ。
俺一人でなんとかできる額じゃないだろうし、病はヒールじゃ治せない。
後方から「カズマー! 出てこーい! 屋敷はもう包囲されているー! 大人しく出てきたら半殺しで済ましてやる!」という恐ろしい言葉が。
万策尽きたかと思っていたのだが、ある扉から仮面の人の声が聞こえる。
「なあクリス。呪いだと思うんだが……エリス様なら解けるんじゃないか?」
「何で私のことを呼んだの? もしかしなくても気づいてる?」
「そんなことよりどうなんだ。今は敬虔なエリス様であらせられるクリスが女神様に祈りを捧げたらなんとかなるんじゃないかって思ったってことでいいから」
「…………うーん、どうだろうね……私じゃちょっと判別できないけど」
こそこそと静かにそんなやりとりをしている二人。
潜伏スキルを使っているのか親父さんには気づかれていない。
俺は大事な話を邪魔しないようにこっそりと扉に耳を押しつけて話を聞く。
「でも、悪魔臭さ感じないか?」
「悪魔臭さ? ……言われてみれば? よく気づいたね、いい鼻を持ってるじゃない仮面の人」
「……ハイライト消すのやめてもらっていいですか? ……それでどうなんだ、呪いはわかったか?」
「悪魔が絡んでくるってことは……呪いの可能性があるってことだろうけど。うーん……どうでしょうか、五行の中でも水を司っているアクア先輩ならこの程度軽く捻り潰せそうですが……ってアタシに何言わせるの!」
「勝手に喋ったんじゃないか」
クリスが大きな声を出す。
思わずびくりと震えたが、幸いなことにダクネスたちの耳には届かなかったみたいだ。
しっかし、悪魔臭いとか言い出した二人。
呪い、呪いねぇ……
もし本当に悪魔が呪いをかけてるとしたら……
そう考えたとき、クリスの声で目覚めたのか、親父さんが目を覚ます。
「君は……いえ、あなた様は…………もう私のことを迎えに来られたのですか、エリス様?」
「わ、私は…………いえ、ダスティネス・フォード・イグニスさん。もうしばらくこちら側に来るのはお待ちくださいね? これは夢だと思って、またお眠りなさい」
「……ああ、まだお迎えは別の日ということですね。娘の晴れ舞台を見ていないというのに逝けませんから。本当に私の自慢の娘だ。……本当ならカズマ君に任せたかったんだがね。一先ずは安心し……まし……」
「……ふーっ、仮面の人ナイス! スリープかけてくれてありがと!」
「いえいえ、どういたしましてエリス様」
「だ、だから違うって!」
「ええ、ええ。俺は知っておりますとも」
クリスをエリス様扱いか……
確かに雰囲気はとっても素晴らしかったが、エリス様はもっと胸が大きいはずだ!
クリスは……何も言うまい。
そんな大きな違いがあるのに冗談じゃなくて本気でそう見えた親父さんは結構弱ってるんだろうな……
けど解決策は見つかった!
病気なら治せないが呪いなら……
そう思って俺は急いで準備しようとして……
「どこへ行こうというのかね?」
「……が……あっ……助け……クリ……」
いつの間にかあの二人の姿は消えていた。
仲間にトカゲの尻尾切りされた俺はダクネスに見つかり窓から捨てられた。
侵入してから数日がたったある日。
俺はゼスタを連れて再び潜入……
ではなく、しっかりプリーストの関係者として変装して屋敷の中にお邪魔させてもらった。
しかし、親父さんの様子を見て俺は焦りを覚える。
たった数日。
それなのに呼吸は弱々しく息苦しそうで、顔色が青白く冷や汗が止まらず、目の窪み、頬はこけ、意識ははっきりとせず死相が浮かんでいる。
そんな親父さんに対面して動揺している俺だったが、ゼスタが静かに診察して魔法で何かを解析している様子を見て固唾を呑んだ。
しばらくして診察が終わったのかゼスタがふーっと息を吐きながら立ち上がる。
「ゼスタのおっさん。どうだ、親父さんの状態は」
「うーむ……これは呪い……なのでしょうか? 私もこの道の専門家として長年研鑽してきましたが、呪いの痕跡もわかりません。王都のへっぽこエリスプリーストどもに代わって見てみましょうと啖呵をきったはいいものの……呪い特有の邪気が放つ不自然さが欠片もないですね」
「仮面の人は強力な呪いだって言ってたんだが、その、解呪は……」
「ふむ……申し訳ありませんが無理でしょうな。そもそも呪いかどうか判別できませんので、ブレイクスペルの魔法を使用したところでなんとも……私の力不足を嘆くしかありません」
「な、なら、何かほかに方法とかは無いのか!? アーティファクトでも神器でも……アクア様ならなんとかしてくれるって言ってたんだよ! 神様の力を借りることは……!」
俺の叫びも空しく、ゼスタはただ首を横に振るだけ。
曲がりなりにも世界トップクラスのプリーストが駄目だって言うんだ。
それこそわずかな可能性にすがり、ダンジョンを探索したり……
いや、やめておこう、こんな現実味のない方法は。
いくら俺の幸運値が高いからっていきなりそんな物が目の前に現れるはずがない。
「気休めにはなりますがアクア様のご加護を……『ハイネスヒール』
それから……
『ブレッシング』
「それでは誓いのキスを――」
教会の鐘――祝福の音色が残酷に耳にこびりつく。
一回目の絶望がフラッシュバックする。
俺はうまくやったはずだ。
こっちの俺も、ダストも、誰も死なずに立ち回れただろ?
借金は全部返済したはずだろ?
なのにどうして……
そんな過去の記憶。
でも今回こそは……
だって俺には女神様がついている。
「こうして会うのは2回目だな。いや、この時空だと初めましてか」
「ヒュー……ヒュー……僕らはどこかであったことがあるのかな? 懐かしい感じがする」
「俺のことなんて覚えがないだろうが……けりをつけようか、マクスウェル」
ブレッシングより後半は仮面の人視点でお送りしました。
もしわからないところとかあったら教えてください。