あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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アンケートは意外にもリセットを望まない人が多かった件。
その方向で書かせていただきます。


9.会わずにいた時間~なんてなかったように~

……ふと思ったことがある。

今回のエリス祭って、アクアがいないせいで何も起こらなくない?

強いて変化を言えばゼル帝がいないことやダクネスの領主の仕事が減るくらいか。

アイギスを盗むとか、花火の時にめぐみんといい感じになったりならなかったりとか、その辺は何も変わらず……

もしかして久しぶりにのんびりタイムを満喫できるのでは!?

 

……そう思っていた俺が馬鹿でした。

 

 

 

 

「カズマさんカズマさん」

「カズマだよ?」

「カズマは忘れてるかもしれないけど、ゼル帝は魔王を討伐するのに必要なリーサルウェポンなの」

「そうだっけ?」

「そう。だから私がしっかり魔力を注ぎながら天界で孵化させたのでした!」

「へー、それはすごい」

「褒めて褒めて甘やかしてくれてもいいわよ!」

「……なあアクア」

「なぁにカズマさぁん? 麗しき女神様って言われる準備はもうバッチリよ?」

 

目の前でふふんと鼻を鳴らし、自慢げに腕を組み胸を反らせる青い神。

ここで褒めたら増長すること間違いなしの駄女神を見て、いくつもある疑問が浮かぶ。

が、絞って一つだけ問うてみた。

 

「…………何でゼル帝いんの?」

 

天界で時間を潰そうかと思って足を運んでみるとアクアが「ちょうどいいところに!」と俺にヒヨコを差し出した。

何が何だかわからず、一先ず心の平穏を保つため、孵化したての柔らかで温かい黄色い羽毛の塊をモフる。

俺になでられるとピヨと小さくなくはかなき命の名はキングスフォード・ゼルトマン(生まれたての姿)。

アクアはドラゴンだの獣の頂点だの言ってるが、魔力がただ高いだけで、まるで戦闘には役立たない、紛う事なきただのヒヨコである。

やっぱり動物ってのは心に平穏をもたらしてくれるなんて思っているとアクアが。

 

「何でって、ゼル帝のことをエリスのスマホで見てたら、あのドラゴンの売人何をしたと思う?」

「売れなくてアクシズ教の教会の窓に投げつけたとか?」

「なっ、なんでそんな、この世のあらゆる非道をかき集めて尊厳を踏みにじるような残酷な非道を思いつくのかしら!」

「そこまで言うか」

「でもあながちそれも間違っていないのが恐ろしいところよ……だって、聞いて! あの商人、ゼル帝が売れ残ったら家に持ち帰って安売りされていた卵パックに入れたのよ!」

「そこが本来あるべき場所だろ」

「確かに収まりがいいのと保温性があるのは認めるわ。ちょっと思ったのはやっぱり親が自ら温める方が愛情があっていいと思うってことくらいかしら? でもその後よ! こともあろうことかフライパンに水を入れて火をつけ、卵に手を出し始めたの!」

 

……何というか、ゆで卵食べたくなってきたなぁ。

アクアが拳を握り力説しているが、特にそこの部分に興味がない俺はアクアの力説を右耳にいれ左耳から流すという作業をすることが忙しいあまり、ふとそんなことを考えてしまっていた。

 

「あの商人はシャギードラゴンだって知らなかったの! 古代種の火炎龍とかならマグマ程度の温度で温めた方がいいって聞いたことがあるけどシャギードラゴンは駄目なの! 幸いにも端っこの方に置かれてたからゼル帝は大丈夫だったけど、あの子の親としてあんな危険な場所にとどめておくことなんてできなかったの!」

「盗んだのか、盗んだんだな?」

「言い方が悪いわ。私はゼル帝を子育てを知らない商人の手から助け出し、天界で愛情と魔力を込めて育てたのよ。それで、孵化したからカズマに託しにきたわけ」

「いや、俺に託されても」

「大丈夫よ、心配しないで? でも親として、将来ドラゴンの頂点として君臨するこの子を甘やかさないようにだけ注意してね? ゼル帝も大人しくいい子にしてるのよ? ……いたっ、寂しいのはわかるけど私のことをついばまないで! 貴方は本当はこっちの世界のヒヨコじゃないの、だから連れて帰ることはできないの。私も寂しいけど元気に過ごすのよ?」

 

3歩歩けば忘れるだろうゼル帝にそんなことを言い聞かせているアクア。

正直言って何を見せられてるんだろうか。

ヒヨコの世話なんて別にしたくないんだが……

 

「なあ、俺、もう帰ってもいいか?」

「だ、だめよ、まだ一つだけ話が残ってるの!」

「……手短に言ってくれ」

「わかったわ! ……こほん。サトウカズマさん、前回はエリス祭とアクア祭が共同開催という形でしたが今度こそはエリスのお祭りを乗っ取るのです。しっかり名誉アクシズ教徒としてなすべき事をなすのです」

「誰が名誉信者だ、勝手に任命したくせに都合よく持ち出すんじゃねぇ!」

「でもでも、今回のお祭りでオーバーツーリズム的な賑わいがないと、きっとエリス祭りだって廃れちゃうと思うの。だからいっそのことアクシズ教の子たちに任せ……いたっ! ちょっとゼル帝! 貴方のことは好きだけど、情けは人のためならずって言葉があってね?」

 

情けは人のためならずもオーバーツーリズムも意味を何だかよくわかっていないのに、新しい覚えたての言葉を使おうとするアホを突いて……よくやったゼル帝!

だが、一理はあるかもしれない……百害だが。

アクアがいないせいで祭りが盛り上がらず、今後の流れに支障が出そうだってのが怖いが……でもなぁ、あのアクシズ教だろ?

正直言って気乗りしない。

そんなことを考えていると、何故かアクアがほろりと涙する。

ゼル帝のことを頬にこすりつけ。

 

「私、やっぱりあなたのことをフライドラゴンにすることしか考えてないカズマさんと旅立たせることなんてできないわ! 何だかんだいったけれど、やっぱり母親としての本能がこの子を引き離してくれないの。というわけで本能のままに生きるアクシズ教の女神として本能に従うことにします。……しばらくの間私たちの面倒見、よろし」

 

本能に従う、ね。

なら俺も本能のままに……

泣かせたいこの笑顔をぶん殴った。

 

 

 

 

「という訳で、アクアからこの魔力が多いだけのただのひ弱なヒヨコをカズマにって。ありがたく受け取るといい」

「ありがたくねぇ……」

 

屋敷を訪ねて、俺はアクアとの一連の流れをこっちの俺に話してやった。

……一応言っておくが説明に嘘は混ぜていない。

アクアを殴ったとか都合が悪いところをカットしただけだし、アクアからカズマに託したっていうのは本当だし……なら、別にどっちの俺でもいいはずだと思って。

 

「……もっと役に立つものをよこしてくれるんだったらわかるが、本当にヒヨコ以上の何でもないこれを俺にどうしろと。てか、エリス様だけじゃなくてアクア様とも知り合いかよ……もう何でもありだなお前」

「そう言うお前だって知ってるだろ……。アクアが言うには育ててほしいらしいが、最悪非常食……煮るなり焼くなり好きにしていい」

「いや、アクア様のペットみたいなもんだろ? 何か恩恵があるかもだし小屋でも作って毎日拝んでおくわ」

 

というわけでこっちの俺に押しつけ中。

ミララギに預けてもいいんだが、わざわざ王都に行くのも面倒くさい。

こっちの俺だったらアクアのものだって言えばある程度丁寧に育ててくれるだろ……たぶん。

 

「そんで、用事ってのはそれだけか?」

「ああ、本題は一応これだけだ。ついでの情報は……これからクリスから聖鎧アイギスをアンダインって貴族から盗みにいこうとか言われるとか?」

「……何で女神様より情報を仕入れるのが早いんだよこの仮面。しかも正確って」

「はてさて、どうしてだろうな? ちなみにアイギスは卑猥が服を着ているような歌って踊れるキチガイ鎧だ、防音の魔道具でも買って使うことを提案しておく」

「まったまった! 卑猥が服を着ているような歌って踊れるキチガイ鎧ってなに!? 神器って話だよな!?」

「うん、そうだよ」

「……そういうことばっかり言ってるから胡散臭いって思われるんだぞ。俺はもう慣れたけど」

「それはよかった」

 

だって俺が印象に残ってる注意事項しか記憶にないんだ。

アイギスの注意点なんて、それこそエリス様が知らなかった喋る猥褻物だって情報くらいだし、それを馬鹿正直に話して疑われてるだけなんだよ。

だから慣れてもらって本当に助かる。

これで俺が素っ頓狂なことを言っても信じてくれる率が高まったってことだしな。

 

「ほかの情報は? なんかあるか?」

「いや、後はクリスから聞けばいいさ。別件にはなるんだが、これから始まるエリス祭で、アクア祭と共同開催するって話をしにいって、俺がアクシズ教の奴らの手伝いをするんだ。それだけは伝えておこうと思って」

「アクア祭? アクシズ教? なんだってそんな厄介そうな……」

「いやいや、俺だって本当はこんなことできればしたくないんだが……もしここで手を抜いたら世界が崩壊するかと思うと……」

「世界が崩壊!? なんだってアクシズ教が祭りを開かないだけでそんなことに!?」

 

おっと、さっき慣れたとかいってたのにいきなり大声を出すんじゃない。

外に出てためぐみんとダクネスが何事かと走ってくるじゃないか。

……多分大丈夫だと思うが、デストロイヤーの件だってうまくいってたと思ったのに結局歯車が狂ったし、バニルの戦いだって、直前のキール倒してなかったせいでやり直しになるとか……

どこに落とし穴があるかわかったもんじゃない。

大きなイベントでアクアがいない分を俺が補完する以外にも、アクアがいなくて生じる些細な差異もできるだけ少なくしておいておいた方がいいだろ。

 

「まあ、俺も人類滅亡とか世界崩壊とか、どうして起こるかわからないところあるが、今回のはあれだろ、アクア祭がないと人の往来が減少することで物価が市民にとって苦しい状態になって、そんな状態で魔王軍と戦って敗北……」

「何それ怖い! たった祭り如きで人類滅亡ルートマジであり得るのかよ!」

「知らんけど」

「いや知らんのかぁああいっ!!」

「でもそれくらいのこと起こりえるんだよ、この世界では。というわけで、俺はこれからゼスタのおっさんとこ行って、セシリー派遣してもらうわ。んじゃ」

 

俺は用事が済んだと屋敷を出ようとして……

危うく勢いよく開かれた扉に弾き飛ばされかけた。

ドアの先にいたのはめぐみんとダクネス。

 

「セシリー! 今、セシリーお姉さんの名前を言いましたか!」

「め、めぐみん! まず聞くことはそれじゃないだろう! 人類滅亡とか、アクア祭とか、もっと最初に聞くべきところが…………カ、カズマ? そのかわいらしい黄色いのは……!」

「……めぐみんもそうだけど、お前こそ一番最初に聞くのがそれかよ」

 

何というか……一気に騒がしくなったな。

とりあえず説明が面倒くさいし、こっちの俺に全部任せて俺はとんずらこいて、アルカンレティアまでウィズにテレポートしてもらうことにした。

 

「とりあえず今日のところはお暇させてもらうぜ! 近々また会おう!」

「あっ、ちょっと待って仮面の人! 俺に全部説明させるつもりかこんの鬼畜! 逃げるな卑怯者! 逃げるなァ!」




*どうでもいい設定*

天界と地上は時間の流れが違う。
天界は竜宮城のようにゆっくり時間が流れているので、それを利用してカズマは目的の時間まで飛ばしたりしてます……が、大体毎日バニマの手助けが必要なのでほとんど死に設定です。
また、キールを成仏させるときに天界へ連れていった後、バニル戦がギリギリの参加になったのはそういう理由が絡んでる……という想定だったり。
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