長年手入れされていない廃れた外観……とあるアクシズ教会だ。
そこの中には俺と一人の残念美人。
先日アルカンレティアから派遣されてきたこのアクシズ教徒は徐に目を閉じ、手を重ね合わせ、唇を動かした。
「本日は、私のことをアクシズ教会アクセル支部長に推薦してくださり、誠に感謝します……女神の使徒さま?」
「シトジャナイヨ」
「あっれれ~? おかしーぞぉ?」
急に見た目は子供、頭脳は大人な迷宮なしの名探偵が犯人を追い詰めるときのBGMが流れ始めた気がしたが、どこにも蝶ネクタイをしてる死神なんていないし気のせいだろう。
それより急に背筋にぞわり感じる、虫が体中に集り、群が這い上るような感触。
セシリーの目を見た瞬間だ。
急にどろりと目の光が潰え、その闇の奥に悍ましい何かを、興味本位で覗いてはいけないナニカを感じたんだ。
「セ、セシリーさん?」
「お兄さん、この前アルカンレティアでゼスタ様と親しげにお話してたでしょ? あれはなにかしら。それともう一つ、ゼスタ様の方が謙ってたわよね? ……一体最高司祭様とどのようなご関係性なのでしょうね?」
「セ、セシリーさん? 一体何言ってるの」
「ただの知り合い……だなんてつまらない回答は期待してないわ。あのアクシズ教の中でも常軌を逸した弩弓の愛の伝道師、もとい変態……アクシズ教の禁忌以外なら何でも愛の対象なのデス! ずばり、貴方は一般人にあらず! ゼスタ様を足蹴にするS×Mのカップリング……!」
「セ、セシリー……!?」
「おやおやぁ、図星でずぅいぶんと驚かれているようデスね。そぉれほど驚いていただけると、ワタシもこうして名探偵を気取ってみた甲斐があるというもの、デス! さあ、貴方も魔女教……じゃなくてアクシズ教に!」
「悍ましいこと抜かすんじゃねぇ狂人め!」
「狂人? そう、ワタシ達はアクシズ教徒は愛に狂っているの! 愛に、畏愛に、遺愛に、慈愛に、恩愛に、渇愛に、恵愛に、敬愛に、眷愛に、至愛に、私愛に、純愛に、鍾愛に、情愛に、親愛に、信愛に、深愛に、仁愛に、性愛に、惜愛に、切愛に、専愛に、憎愛に、忠愛に、寵愛に、貧愛に、偏愛に、盲愛に、友愛に、憐愛に、愛に、愛に、愛に、愛あいあいあいあいあいあいあいいいいいぃぃぃぃっ!!」
やばい……なんかやばい!
セシリーが全身を使ってアクシズ教の愛の深さをこれでもかと表現してきて、後ずさるほどドン引きするレベルでヤバいこともそうだが……もっと深刻な何かがある!
具体的に言うと、これ以上こいつを放置しておいたら著作権的な何かに引っかかって世界が崩壊する気がする!!
「腐腐腐……恥ずかしがらなくていいの。アナタ、勤勉な方のようデスね。わかりマス。わかりマスとも、わかろうというものじゃぁないデスか! 素晴らしい、美しい、なんとも気高い、揺るぎない、アクシズ教向きの精神性がうかがえるのデス! 信じるものが! 貫き通すものが! 確固たるものが己の中に確立されている証デス! いぃ、すごぉっく、いいデス!」
「き、勤勉じゃな……本当に待てセシリー! 間違えてる、間違えてるセシリーっ! いろいろ間違えてるっt」
「勤勉じゃ、ない、のデスかァ? つまり…………アナタ、怠惰デスね? あァ……アアぁあ……脳が、震」
「言わせねーよ! 対狂信者用ドロップキィーーックッッ!!」
対狂信者用ドロップキック。
暴走した駄女神の信徒に対して日頃の鬱憤と怒りを乗せて思いっきりかます、男女平等主義者サトウカズマの必殺技。
相手は死ぬ!!
……ことはないだろう。
思わず今世紀最大の危機を感じてやってしまった。
アクシズ教に天誅を下したことに反省はしてないが、鬼畜との呼び声が今後広がるだろうと後悔の滴が頬を伝う。
とりあえず今度天界にお邪魔して、そこにアクアがいたら問答無用でこの頭のおかしい狂信者と同じ目に遭わせて落とし前つけさせてやろう。
そう心に決めたのだった。
「お姉さんてば、細身の男の子が屈強な変態に食べられる絵を想像したら捗りすぎて……取り乱しちゃったわ」
「ゼスタといいお前といい……アクシズ教はこんなんばっかしかいないのだろうか」
「安心してください、私はゼスタ様のように節操なしじゃありません! ……私はただ、かわいいロリっ子ショタっ子含むいい顔面の持ち主をこよなく愛す、アンタッチャブルにはノータッチャブルな美人プリーストですので」
「成人ならいいってか?」
「そうは言ってないわ。……でも、世の中に性癖を曝け出すのは一抹の恥ずかしさと多大な不安が伴うもの……ですが、アクシズ教はそのすべてを認めるのです。不祥ながらこのセシリー、かつての同僚にソッチの道に詳しい方がいましたので、理解はある方です。安心してください!」
セシリーが含みのある言い方でそっと耳打ちをしてくる。
てかソッチってのは何だ……?
ソッチって、所謂BLとか、薔薇とか、男色とか、衆道とか……ソッチのこと言ってんのか!?
「違ーっ! 想像したくもないことを想像させないでくれ! とりあえずめぐみんに『貞操を守りたいなら今後一切あの危険なアクシズ教徒には関わるな』って勧めておk」
「冗談! 冗談ですから! 後生ですぅ使徒様ぁ、私の妹を奪っちゃらめぇ!」
「わかった、わかったから、お前のさっきの発言は冗談なんだよな! 俺のも半分冗談だから攻撃すんな! あと使徒じゃない!」
「その冗談のもう半分も撤回してくれたらやめてあげましょうか! でなきゃシャイな貴方の仮面の下に隠した甘いマスクをお姉さんに見せることになるわ! ほらほらぁ、恥ずかしがらずにぃ!」
「わかった、わかったから、撤回するからじりじりにじり寄るな!」
俺のことを駄女神の使いだと思っている残念プリーストに思わず突っ込みつつ距離をとる。
どうしてこの頭が残念なプリーストは俺のことをアクアからの使いかなんかだと勘違いしてるんだろうか。
正直、こっちの世界のアクアにばれたら「私の使徒を勝手に名乗って万死に値するわ! もし外に出かけるたびに鳥に糞をかけられる天罰をかけられたくなかったら私のことを崇め奉って甘やかしなさい!」なんて言われかねないし、なんなら正体がばれる可能性も……
なんて考えてみたが、それ以上にアクシズ教徒に崇められるってのも嫌だし、アイツの部下みたいに思われるのはさらに甚だ遺憾である。
「ぶー。別に私にだけ特別に仮面の中身を見せていただいてもいいんですよ?」
「断ーーるっ!」
「あらあら、かたくなでいけずな使徒様ですこと……これがツンデレというやつでしょうかアクア様?」
「使徒でもツンデレでもないわ!」
「ええ、ええ、使徒様は使徒様ではないということはわかっておりますとも」
不安だ……不安でしかない。
この人の話を聞かない系のプリーストは俺のことを何でか使徒だって認識して、俺がそれを隠したいって思ってるに違いない。
どうやって誤解を解こうか考えていると。
「大丈夫です、私め、すべてを理解いたしました! つまりはこういうことでしょう? 『女神の使いって、中二病っぽくて恥ずかしくね!?』ってことなのでしょう? 大丈夫! 私は紅魔族のかわいいロリっ娘の姉を名乗らせてもらっているのであの痛々しい言動にも理解がありますとも! 調子に乗って恥ずか死にそうになったあのかわいそうな青春時代は誰しもが通る道……」
「全然わかってないスカポンタンめ! それだと俺があの頭のおかしい種族と同列視されてるみたいで……いや、もうこの際それでいいからアクアの使いとかじゃないってわかってくれれば……」
「何を言ってるのです? 自らを神の使いと名乗らずとも、その舐め回したくなるほどの神聖な魔力の残り香……嗚呼、これぞアクア様の寵愛を受けた証に他なりません! アクシズ教じゃなきゃ見逃してたわね」バチコーン☆ミ
バチコーン……じゃねーよ!
神聖な魔力って何だよ!
いつの間にアクアのやつ俺にマーキング的なことしてくれたんだ!
……なんて思ってたが、一つ心当たりが。
「……なあ、もしかして、神聖な魔力ってのは……これから漂ってきてたりしないか?」
「これは……羽毛、ですか? 神聖な魔力の発生源……この羽毛が!?」
「これ、実はめぐみんが飼ってるヒヨコの抜け毛で……」
「つまりめぐみんさんが飼っているヒヨコこそが真の使い! そして、その神使を飼育しているめぐみんさんはさながら巫女! 魔女巫女! 新しいジャンルだわ!」
「お、おう、そうだな? とりあえず、そういうわけだから俺がアクアの下っ端じゃないってのはわかってくれたよな?」
「ええ、もちろんわかりましたとも! わかりましたから用済みの貴方は私にかまわないでください! これから私は魔女っ子巫女様に来てもらう衣装を手作りしなくては! 紅魔族受けを狙って赤を組み入れるのは必須ね……脇を出して、下はスカートがいいわn」
「正当防衛ラぁーッシュッッ!!」
正当防衛ラッシュ。
現実に正当防衛と言っていいかわからない際に、とりあえず正当防衛と叫んでおく、俺の必殺技である。
幻想が生み出した素敵な紅白の脇巫女コスチュームが産まれる前に言論弾圧(物理)できたからよかったが……アクシズ教、……やれやれ、なんてヤツらだ。
もしかしなくても世界のために滅んだ方がヘイワになるのかもしれない。
「仮面の人、やっぱり私思うの。ラッシュをたたみかけるときはオラオラァか無駄無駄ァって言うべきだって」
「お前本当にやめろよ……お前をアクセルに呼んで支部長にしてたことに少しくらい感謝してるんだったらちょっとくらい言うこと聞いて、言動に慎みを持ってくれよ」
「ええ、私の妹に会わせてくれる機会を設けてくれたあなたにはとても感謝してます……だが断る! このセシリーが最も好きな事のひとつは、私の自由を奪わんとする、自分で自分のことを強いと思ってるいけ好かな……ああっ、すみませんすみません私が悪かったので頭をぐりぐりするのはらめぇ! 割れちゃう!」
アクシズ教ってやつは本能のままに動きすぎだ。
もう少し、パラレルワールドって言うんだったら謙虚なアクシズ教徒とかがいてもいい気がする。
……意図せずして気持ち悪い存在を考えついてしまった。
そんな慎ましいアクシズ教なんてアクシズ教じゃねぇ!
「お前らをアクセルに呼んだのは、お祭りが好きなアクシズ教に祭りを盛り上げてもらうためだ。アクア祭をエリス祭と共同開催にするように言ってくるから、頼んだぞ?」
「共同開催じゃなくて邪教の祭りはなくしてもらった方が……」
「……頭のおかしい集団と言えば真っ先に選出されるお前らだけで? 笑わせてくれるな」
「キーッ! アクシズ教はやろうと思えばやれる子たちの集団なのよ! それをなんですかそんな風にいってくれて!」
「実際、お前らは苦情があれど賞賛なんてないだろ……。だから、俺がまともな商売で、まともに稼いで、大いに盛り上がってもらうために、お前らにいろいろ教える。苦情が少なくて、エリス教より成績がよかったら……来年からは……まあ、そうなるかもな」
「……!!」
「そんじゃ、あんまり人様に迷惑かけすぎない程度にな~」
そう言って俺はアクシズ教会を出た。
こっちの俺に金儲けだって言ってアクア祭の立案者としてやる気にさせ、ついでにアイギスの様子を見に行かせ、アクシズ教の奴らも乗りに乗らせ、ダクネスにも決定事項を激励の言葉とともに贈り……
平和に時が過ぎるか……に、思えた。
「あ、あなたは仮面のひ……」
「か、確保ぉーーッッ!!」
「銀髪盗賊団の手下め! 神妙にお縄につけーッ!」
「フハハハハハ! 我が輩は盗賊団などという闇の仕事は請け負っていない、超優良な一般市民である! 御免も言わず掛からばどこの下賤な輩め! 自らが主へ劣情を抱く変態淑女と新時代の個性に埋もれ自らの価値を見失いつつある苦労人だということを汝らが主に知られたくなくば……こ、コラ、我が輩が悪感情を引き出そうというタイミングで攻撃を仕掛けるでない!」
我が輩はカズマである。
ギルドに顔を出しに行ったら目の前で俺の妹とその護衛がバニルと戦闘を始めました。
俺の知らない展開にとてつもなく驚いてる。
もしかして、バタフライエフェクトとかいうやつが出始めてるのだろうか。
今後先を見通せない行く末にめっちゃ不安である。
カズマが知らないだけである程度原作通りです……よね?
(第8巻、相談、続・爆焔 参照)