あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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9巻 ウォルバク
9.繰り返し~嫌いになって泣いてても~


「待って。二人で話がしたいの」

「3分間待ってやる。俺にボコられないようにせいぜい言い訳してみろ。腑に落ちなかったら強めにいくぞ?」

「この見た目麗しい女神にドロップキックしたあげくさらに非道な仕打ちをし、己の罪を増やすようなことはやめてください」

 

ここは天界。

ミス女神エリスコンテストにて急に登場してきたこの駄女神は、俺のドロップキックテレポートにより強制送還。

その際に顔面ダイブをかました女神(笑)の鼻とデコは赤い。

にもかかわらず、女神としての対応を崩さない然とした態度でアクアは。

 

「いいですかカズマさん。あなたの頑張りは私も天界から見ていました。よく頑張りましたね」

「その頑張りを誰かさんのせいで壊されかけたんだが? ……よし、遺言はそれでいい感じだな。一発で終わらせるから歯ぁ食いしばっとけや」

「ま、まって! まだ話は終わってないのです……だからその高らかに掲げた拳をおさめてくださらないかしら? じゃんけんで私をボロボロに負かすにはまだ早いと思うの」

 

何を勘違いしてるのか、俺の拳は人を正すためにあるのだ。

じゃんけんにて必勝の一撃を繰り出すためにあるのではない。

俺の変わらぬ意思と拳に怖じ気づいたのか、女神口調を崩して必死になって俺の説得を始めるアホ。

 

「あの、前にお祭りがあったときはエリスがいて、それで私もいたじゃない? エリスだけの状況……それはつまりエリス教だけが栄えて……アクシズ教は一体どうなるっていうのよ! いくらうちの子たちが魔王軍に引けをとらないくらい逞しいからって私がいないことで活気がなくなったら世界が危ないと思ったの! それに共同開催なら両方降臨しないとバランスが釣り合わないじゃない! バランスをとらなくっちゃ!」

「……世界の均衡を調節するためってか? エリス様の入れ知恵か?」

「私をなんだと思ってるのよ! 紛うことなき女神ですからね! 世界の均衡を調節するバランサーなんですけど!」

「直接介入して乱しまくろうとした酒乱女神のくせに」

「誰が酒乱ですって! ここ数ヶ月、天界でシュワシュワの代わりに固唾をのんで見守ってるこっちの気も知らないで! 本当にカズマさんの邪魔をするつもりはなかったのよ! だってカズマには早くコッチに帰ってきてほしいし……私だけじゃないわ、めぐみんにダクネスも同じよ。だから、私が邪魔しようとだなんて……そんなことしようとするわけ、ないじゃない……カズマは大事な仲間なのに!」

 

シュワシュワを飲んでない?

大事な仲間?

……驚いた、まさかあの常日頃ゴロゴロ飲んだくれてるアイツからそんな言葉を聞くことになるだなんて。

 

最初に押し寄せたのは純粋に嬉しいって気持ち。

俺の帰りを心配して待っていてくれる仲間がいる。

久しぶりに仲間から直接そんなこと言われて胸が熱くなるのを感じる。

俺は熱が冷めた拳を下げ。

 

「アクア、お前…………そんな風に俺の帰りを待っててくれてただなんて、なんか、その、ありがとな。普段は情に流されないカズマさんだが今回はさっきのドロップキックで勘弁してやるよ」

「いいのよ。私に悪意があった訳じゃないってのがわかってくれたのなら。というかいつもそうだったでしょ? 私がよかれとしたことが何故か悉く駄目で、カズマがそれを何とかしてくれるの」

「そういやそうだったな。酒屋の店主にツケ払えって言われて、他力本願で俺のところに泣きついてきたり」

「なつかしいわね。私の代わりに借金取りの二人組に請求書突き出されたときのカズマさんの顔は今でも覚えてるわ」

「お前が返済能力なしって判断されて保護者代わりの俺のところに借金取りが何度来たことか。あのときはお前が俺のことを借金返済装置だとか問題を起こしたときに責任とってくれる親かなにかと思ってるんだと思って一発絞めようかと思ってたが……今となっちゃなつかしいなぁ」

「そうね、今はそんなこと半分は考えてないけど絞められなくってよかったわ」

「……今なんて? 半分は考えてるって?」

「何のこと? それより……」

 

アクアがこてんと首をかしげる。

お、俺の聞き違いか?

俺のことを借金返済装置だとか問題を起こしたときに責任とってくれる親かなにかと思ってるって言ってた気がしたんだが……

後ですべてが終わったら嘘つくとチンチン鳴る魔道具で確かめてやろう。

そんな疑問をするりと流してアクアは。

 

「今回の私の行動は結果プラスに働いたみたいでよかったわ」

「そうなのか? プラスに働いたっていうか、どちらかっていうと0寄りのマイナスな気がするが……」

「そんなことないわ、女神の力は偉大なのよ? 女神の恩恵……というか、私の姿を見たアクシズ教の子たちは元気になって……後はわかるわね?」

「やっぱマイナスじゃねーか」

「そんなことないわよ! うちの子たちは魔王軍に対抗するのにとーっても重要な存在なんですからね!」

「それを加味してマイナスだわ!」

 

きっとアクシズ教が活発になってエリス教会の窓ガラスが割れに割れまくる。

それによって宗教戦争とまではいかずとも、人類間で争いが絶えない状況になる。

どう考えてもプラマイマイナス、デメリットしかないだろ!

 

「というかよくよく考えなくても今回のお前の行動は危険すぎて、結果がどうであれマイナスだったわ! 『この世界にアクアが2人いる』ってエリス様の言葉通りなら俺はお前を……」

「私が……何よ、私、何も危ないことしてないでしょ? ……何でそんな悲しい顔をしてるのよ? 確かにカズマが私に暴力行為を働いたのは如何なものかと思うけれどそんな悲しい顔をする必要はないじゃない、わ、私も悪かったんだし……」

 

消しかけた。

それの重大性に気づいていないんだろう。

ゼル帝の卵を盗み出したって言ったときに危機意識の欠如に気づけばよかった。

アクアは何が悪いのかはっきりわかっていないながら顔をのぞき込むようにして謝ってくる。

 

「お前、何が悪かったかわかってんの? 消滅ってのは本当になんにもなくなるってことなんだ……エリス様が言うにはこの世界に同じ存在がいるのがバレた瞬間に消えてなくなって、生き返れないんだぞ! お前が消えたら……わかるだろ」

 

俺が元の世界に戻って、そんときに馬鹿やらかして死んだときに生き返れなくなる。

()()()なんて異名は()()()()()()()()()なのに、厄介で中二な業を背負って生きなきゃいけなくなる。

めぐみんとダクネスになんて言えばいいのか。

俺に「おかえり」っていってくれるヤツが、勝手にいなくなるとか……

 

「ちょっと何言ってるかわからない」

「なんでわかんないんだよ! だ・か・ら! 世界に同じ存在がいるのがバレた瞬間に消えてなくな……るん…………。……なあ、なんでお前消えてないの?」

「ひどい! さっきまで私のことを求めてたのに、これが噂に聞くカエル化なのかしら!?」

「違うよ? いや、純粋になんでお前存在維持できてるんだよ。俺の持ってた仮面なんてスゥーッと消えたんだが? なんでお前が無事で仮面は消えたんだよ! 俺、お前のこと『うわっ、俺の方の疫病女神が堕天してきた!?』って思ったはずなのに何で消滅しないんだよ!」

「馬鹿ねカズマ。本当に人のことを散々麗しき駄女神とか可憐な疫病女神とか言ってるのに」

「言ってない」

「どうしてこんな簡単なことにすら気づけないのかしら。バカズマさんは私のことを今までやいのやいの言ってたの謝って! 謝ってったら謝って! そうしたら答えを教えてあげるわ!」

 

か、簡単なこと!?

アクア(バカ)に馬鹿にされた!?

しかも謝るなんて屈辱的な……

 

この屈辱、晴らさねば……!

なんで俺もアクアも消滅しなかったか……考えろ、考えるんだサトウカズマ!

 

……はっ!

閃き、圧倒的閃きが突如、俺の脳内を稲妻が駆け巡った。

俺は水を得た魚のごとくアクアに話す。

 

「そうか……そういうことだったのか! 俺が、俺自身が二人いるってわかってるのに存在が消されない! そして俺もお前もザ・イレギュラーな存在! ……ってことは、異物()異物(お前)のことを二人いるって認識しても抹消されないってことだ! 異常な存在が異常な存在を認識しても、それは存在が抹消される要因には含まれない! はいQED! 俺のことを馬鹿扱いするなんて495年早いわ!」

「違うわ」

「悔しかったら『ぴぇええん、かじゅま様は幸運値だけじゃなくて知力も高いこと忘れてましたぁ。そんな基本的なことも忘れてた私はおばかです!』って言ってみぃ今なんて?」

「違うって言ったの。……なぁにぃ、カズマさぁん、そんなに顔を赤くして小刻みにプルプル震えっちゃってぇ! ぷーくすくす!」

「じゃ、じゃあ何だっていいうんだよっ! ぉ、ぅ俺のかかかっ完璧な推理が、は、外れだっていうんだったら! さっさと! 早く! その答え、を……」

 

恥ずかしさのあまり消え入りたい気持ちを叫んでいると、アクアがチッチッチと指を振る。

そして、その指を俺に向けて、こう言った。

 

「ねぇーえカズマさぁん?」

「な、なんだよ! 早く答えを……」

「それが人に教えを請うときの態度ですか? 違うんじゃぁないかしら?」

「…………」

「んー? なぁんていったのかしらぁ、まぁったくぜーんぜん、これっぽちも聞こえないわ。しっかり声高らかに言ってごらんなさいな?」

「…………ごめんなさいアクア様。馬鹿なのは俺の方でした。そんな馬鹿な俺に教えてください……!」

 

チクショウ、屈辱だッ!

深々と下げた頭をあげたらきっとアクアのにやついた顔が見えることだろう。

今すぐにでもこのロケット頭突きできる体勢からアクアの顎に頭突きを食らわせてかち割ってやりたいところだが……

ここで理性を崩そうものならどうして俺たちが無事なのか、今後も重要になってきそうなヒントが得られなくなる。

……しょうがないので頭突きを食らわすのはアクアの答えを聞いた後の楽しみにとっておくとして、俺はアクアの言葉を逃すまいと耳を立てる。

 

「ぷーくすくす! いいわ、この女神アクア様が教えてあげる! 聞いて驚きなさいな! 今回、どうして私が消滅しなかった理由……それは」

「それは……?」

「私がスーパートップオブ女神だからよ!」

「……一応聞いておく。俺が消滅しなかった理由は?」

「それは私がカズマが二人いることを失念してたからね。もし私があのときカズマが二人いるって気づいてたら危なかったわね……まあ、結果オーライよ!」

「そっか……ふっ。俺はやっぱり馬鹿だったみたいだ」

「ようやく自覚したカズマさんにもわかるように私が消滅しなかった理由を詳しくもわかりやすく教えてあげるわ! ……私は女神の中でも多くの信仰心を獲得している女神アクアその人。つまり、信者たちの強い願いが私の消滅を阻止し」

「ふんぬっっ……!!」

「非常に痛い!!」

 

俺は意味わかんないことを言ってる自称女神に憤怒の一撃を食らわせた。

もうこいつのことを一瞬でも信用した俺が馬鹿だった。

いや、ある意味信用してたんだ、こんなこったろうって。

だが、腐りきってもこいつは女神。

万が一、億が一、兆が一にも重要な情報を言ってくれるんだったら恥を忍んで知る必要がある……そう思ってたが杞憂だったな。

 

「よし、1発目。あと残り2発で勘弁してやるからファイト」

「待って! カズマさんのことを笑ったのは悪かったわ! でも」

「待たん! 俺は魔王に待てと言われても躊躇なく道連れにした男、カズマさんだぞ。ここに待てと言われて待つやつがどこにいる。……じゃあこれからお前が泣いても折檻をやめないが……最後の言葉は何かあるかね、天界規定破り常習犯のアクアさんや」

「……規則はどうしてあるのか。山があれば登る。高い壁が、高いハードルがあれば、それに挑みたくなる……規則を破るのはそれと同義よ。自由を縛るものに私は囚われない。翼をはためかせる鳥のような、解放された生き方で……私は在りたい」

 

いや、天界規定破ったら始末書とか書かなきゃいけないのエリス様なんだが?

今までお前の分をめちゃくちゃ頑張ってエリス様が処理してたんだが?

というわけでこの後、アクアにはめちゃくちゃ反省文書かせた。

 

 

 

 

「えぐっ……ひぐっ……ひどい、女神の私にこんな仕打ち、ひどいわよぉ……ずびっ」

「……あのぉ、カズマさん? 先輩に何を?」

「始末書を書かせただけだ」

「紙で……ですか? その、非常に言いにくいんですが……今の時代、天界でもペーパーレス化が進んでいまして、報告書も皆が見やすく、読みやすく、そして情報を共有できるように改革が進んでまして」

「私が2年くらいカズマたちと冒険してる間に何があったの? 和紙とかそういう手書きに魂は宿るものじゃ……」

「今時、お賽銭とかいろいろ電子化が進んでますよ先輩。というわけで大変申し訳ないのですが……その」

「やったなアクア! もう一回遊べるドン!」

「ふ、ふざけないで! 私はエリスより前にこの職場にいた大先輩よ! こんな仕打ち認められるはずが……ぁ……」

「何を勘違いしてるのかわからないが……アクア、お前の前にいるのは、お前が2年近く休んでいた間にすべての仕事をしててくれた大恩人だ」

「ぁ……ぁぁ……」

「というわけでこれに書き直しだな。アクア、自主残業しろ」

「いやああぁぁああぁあっ!!」




何でアクアが消滅しなかったか、わかっただろうか。
  「世界が同一存在を確認すると、異物側を摂理によって排除する」
それを理解したとき、汝は世界の深淵の一部を垣間見るだろう。
  「地獄界に悪魔の本体。天界に女神の本体。人界に仮初めの肉体」
深淵を覗くとき、深淵もこちらを覗いているのだ。
   何を以て同一か。どこまでが1つの世界か。
それにより世界を俯瞰する視点は一変する……かもしれない。
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