盗賊団に関わりがあるという疑惑を仮面盗賊団ファン三人娘にかけられてから早一週間。
俺の誕生日から数日かそこら経過したこの日は、めぐみんが俺に誕生日プレゼントとして紅魔族に伝わる魔術的なお守りをくれる記念すべき日である。
しかし、ただそれだけではない。
このプレゼントは最終的に魔王との決着に重要なアイテムだ。
だからしっかり事の顛末を見守るためにこうして足を運んでみたわけだが……
「……なあ、そんな真剣な顔で見つめられると困るんだが」
「いや、そろそろしっかり相談しないといけないと思ってな」
「そんなシリアスムード全開にされましても」
「そんなムードを全開にしないといけないほどこちとら重要なことなんだよ。頼むからさ、教えてほしいんだ」
そんなことをこっちの俺に言われてしまった。
いや、わかる、わかるよ?
この前俺がアクアをドロップキック退場させたこととかについてだろ?
俺がどうしてあんなアクアのことをぞんざいに扱ってるのかとか、どういう関係なんだとか、俺が何者なのかとか、そういうことを聞きたいんだろ?
でもなぁ……流石に全部言うことなんてできないし、どうやってごまかそうか悩んでいると。
「なあ仮面の人」
「ちょちょちょ! 近い! 顔が近いから!」
「いいや、待てないね! いいから正直に質問に答えてくれ」
「そそそ、そんなこと言われてもなぁ……。スゥー……俺は、知らないこと以外は天地万物森羅万象一切合切有象無象すべて知り尽くしているとは言え、流石に全部を教えていてはお前のためにならない。だからお前の疑問に答えるかはわからないが、話すだけただだし、言ってみろよ」
「……じゃあ、まずはなんだが」
実に名案だ。
俺は全部知ってるが、教えられないことだってあるって言っておく。
答えられないことがあれば意味深に「ふっ、それはまだ知るには早すぎる」とか「世界の暗黒面を見たいとは命知らずにもほどがある。やめておけ」とかめぐみんが好きそうな台詞を言っておけば万事解決!
そう思ってこっちの俺の話を軽く受け流そうと思って……
「めぐみんにこの前『今晩私に部屋に来ませんか? そこで大切な話があります』って言われたんだ……」
「それは答えら、れ……な…………今なんて?」
「でもな、そんなこと言われて数日たったってのに今日の今日までそういう話が一切ないんだ」
「……」
「いやでも、たぶん今の俺、絶賛モテ期ってやつなんだわ。紅魔の里に行ったときのモテ期が再来してるんじゃないかって……だってそうだろ? めぐみんには好き好き愛してるって言われるし、盗賊団のファンだって言われるし。ダクネスに至っては結婚式で略奪したんだぞ! 恋愛成就のフラグが最近そこかしこに散りばめられてるこの俺に今度こそちゃんとした恋愛イベントが! 主人公らしい甘酸っぱい恋の予感を覚えているのは勘違いじゃないはず!」
「勘違いだと思うよ」
「いいや、勘違いなわけない! めぐみんは魔性だから好きな男を弄んで楽しんでるんだ! 『今日は疲れましたし、大事な話は明日しますね』とか、ダクネスが余計な邪魔してきたりとかで全然大事な話にたどり着けないだけだ! 手のひらの上で俺が踊らされてる様を見て恋の駆け引きがうまくいってるとか、そうやって俺のことを内心好きに思ってるはずなんだ! ダクネスだって最近は何事もなく平常運転だが、心のどこかでこのパーティーの関係性を崩したくないだとか思ってて一歩踏み出せないだけのはずなんだ!」
重症だ。
ここに重度の恋愛末期患者がいる。
だって口ではめぐみんが俺のことを好きでしょうがなくて弄んでるんだと、まるでめぐみんが小学生男子のように好きな子をいじめることで気を引こうとしてるんだと力説し、強がってるが……
最近の俺は客観的に見たらだらけすぎてるんだ。
確かにダクネスにはそういう一面があって奥手だが、今んところはどちらかっていうと愛想尽かされかけてるんだよ。
「というわけで、今の俺は年下ロリっ子と年上お姉さんに好意を寄せられていてよりどりみどりだと思うんだが、どっちを選ぶべきだと思う?」
「とりあえずぐーたらするのをやめて働けばいいと思う」
「いや、一応これでも不労所得だけで一生過ごせるだけの余裕はあるんだが? 労働とは、生きるための手段であって、人生の大半を労働に注ぐやつらが偉いとか言うやつもいるが、そろそろそういう昔ながらの考え方は改めるべきだと思うんだ」
「それには同意する……同意するけどな、一日の大半を惰眠をむさぼり、声も出さずに終了する生活を繰り返してたら…………二人に愛想尽かされないようにしとけよ?」
「大丈夫だいじょうぶ! 今のカズマさんは恋愛フラグたちまくりの絶好期! 好感度メーターにはまだ余裕があるはずだしもうしばらく冒険者の活動は休みだ。モチベないし。モチべを高める休養期間をしばらく満喫してから復帰してくよ」
……すっかり浮かれきってて、客観的に見ると、こう、つらいもんがあるよ。
これからパーティーメンバーにゴミを見るかのような目で見られることも知らずに悠々と過ごしていてほしくはない。
ならば、そうなる前に何かしら冒険に出たくなるように仕向けてみようか。
「……そうかそうか、それは非常に残念だ」
「何が残念だっていうんだよ」
「いやぁ、初心者殺しの1体でも倒してきてくれればここにあるチケットを譲ろうかと思ってたんだが」
「そ、それは! 男性冒険者の間で話題になってるVIPチケット! 利用回数だけじゃなく様々な条件を満たした者にのみ手にすることを許されるというあの伝説の!」
「非常に残念ながら特殊な事情で使えない俺に代わって使ってもらいたかったんだが……いやぁ、やる気がないのなら残念残念! 今日のところはお暇させてもら……」
使い道がなくずっと懐にしまっていたが、サキュバスのチケットをヒラヒラと見せびらかす。
帰ろうとしてドアに向かおうと足を進めたが、そんな俺の肩をがしっと掴む手。
「……なんだよ」
「言わなくてもわかってるだろ? その男の夢……俺に託してみないか?」
「1年以上温めたプレミア品だ。大事に……使ってくれよ」
「おう、任せておけ! …………なあ、任せておけって。ちょ、手を離せ! お前が持ってても意味ないだろ! どうして涙流しながら抵抗すんだよ、未練と執着がすごすぎて情緒崩壊したか!?」
「俺だって……俺だってな! 本当は使いたいよ!」
何で……何でサキュバスのサービス受けられないんだよぉ!
いや、受けた時点で脳内見られて消滅するのはわかるけど!意図的に誘惑を断ち切らないといけないなんて!
すべてが終わったらアクセルに帰って思う存分ご褒美に使ってやろうと思ってたのにこんなところで天国へのチケットが失われるなんて耐えられない!
「まずはしっかりクエストを完遂してからだ! 俺の手助けなしで完了できたらくれてやるが、それまでは俺が預かっておく!」
「ちょっと散々人を誘惑しておいてそれはないんじゃないか!? 報酬を前払いでくれる気前のいい人だって思ってたのに!」
「お前、報酬を先に渡したら今日のうちにこのチケット使って、それですっきりしてやる気がなくって結局冒険に出ないだろ!」
「できるだけ早く冒険に行こう」
「ただいまもなしにいきなり何を!? ……なあカズマ。もしかして今日の昼に悪いものでも食べたか? 夏場は食べ物が傷みやすいとよく聞くし、外に出るのをめんどくさがって痛んだものを食べてしまったのか?」
「違うわ! 何で俺が冒険に行こうって言っただけでそう思うんだよ!」
「いや、しかしだな、今日までのカズマは『休みは心の充電期間だ』など……正直言ってこのまま駄目人間になってしまうのではないかと思って……ンっ///」
「おい、今何で身震いした? 俺が駄目人間になっていく過程を想像して興奮しただろ」
「してない」
家に帰ってきたダクネスを捕まえてそんな会話をしだしたこっちの俺。
そんなことには目もくれず、俺はダクネスと同時に帰ってきためぐみんの方へ行……くまでもなく、めぐみんの方から俺にものすんごい勢いで近づいてきた。
「仮面の人! 一体どうして先日は私たちから逃げたのですか!」
「鼻息がかかるくらい近い! もう少し淑女扱いされたいんだったら節度を持った距離感を大事にしろよ!」
「話をそらさないでもらおうか! どうしてこの間は逃げ……今日は逃げないのですか?」
「俺にだって事情があるんだよ。それはまだ知るには早すぎる」
めぐみんがキラキラと瞳を輝かせながら俺を凝視する。
やっぱりこんな感じの中二が効いた台詞は紅魔族の連中をやり過ごすのにはうってつけらしい。
「それでは今日のところはその理由は聞かないでおきましょう。……我が力が世界の深淵を覗くに値すると判断したら、その時に聞かせてもらいますよ。それはそれとして仮面にサインをください」
「いや、なんで盗賊団でも何でもない俺にサインを求めるんだよ……。サインはまだ先にしておいたほうがいいぞ? お前と銀髪盗賊団は深い縁で結ばれているし、近いうちに会うことになるだろう。そのときにでも本人たちからもらえばいいさ」
「それはいいことを聞きました! 今後が楽しみです! ……ところで今日はどのような要件で?」
「実は今日はこの髪をお守りに使ってほしいと思って持ってきたんだ」
「……どうして今日私が紅魔族に伝わる魔術的なお守りを作ろうとしていると知ってるんですかね? 本当にここ数日で考えたばかりだったのに……もしかしてあなたもバニルと同じく未来を見通す目を持っていたり、いえ、詮索はやめておきましょう。世界の闇に触れる前に」
「話が早くて助かる。まあ、そういうことで女神二人の髪の毛を持ってきたから一緒に入れ込んでおいてくれ」
「「えええええぇぇぇええええぇっっ!?!?」」
うるさ!?
突然めぐみんとダクネスの叫びが耳をつんざく。
さっきまでこっちの俺と話し込んでただろうに、俺が女神といった瞬間に首を勢いよくこちらに向けた敬虔な信徒は猪突猛進な勢いで俺の方へ突っ込んできて。
「そっそっその髪! 銀髪と青髪!? まさか本当に女神様の……まさか先日の祭りでどさくさに紛れて引っこ抜いたわけじゃあるまいな! そのような不敬なことをして!」
「違うわ! いや、アクアは天界規定破ってきたから反省文書かせたけど、俺のことを暴力を簡単に振るうくず男だと思ってるんだったらはっきりそう言ってもらおうじゃないか!」
「い、今女神アクアを呼び捨てに!? そのような間柄……しかも反省文!? 女神エリスと関わりがあるのは盗賊団の騒動でなんとなく察してはいましたが、まさか……か、仮面の人は神に近い高位の存在!? とすれば仮面で顔を隠してるのは神であると悟られないよう、正体を隠しているのでしょうか……また世界の真実の一端に触れてしまいました!」
「全然違う。俺は普通の人間だわ! というか紅魔族の方がよっぽど高位の存在だろ人造人間だし! とにかく! このエリスとアクアの髪をお前に預ける、ちょっとアンデッドに集られやすくなったりするかもしれないが是非組み込んでカズマの誕生日プレゼントにくれてやってくれ! じゃ!」
「ちょっと待てぃ! 俺の誕生日プレゼントなの!? 神の毛が入ってるとかどんなサプライズ!? それより今ちょっとアンデッドに集られやすくなったりするかもって言っ」
俺は逃げた。
何か俺に向かって話してたが、これは最後の最後で御利益があるいい物なんだ。
今週1週間はできれば毎日投稿したい。(地獄へ自ら追い込むスタイル)