あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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11.ラヴをクラフト~這い寄りますか~

エルロード王国は魔王と繋がっていた。

ベルゼルグと魔王軍、 どちらが勝利するかがわからない状況だからこそ、エルロードは中立を貫いているというのだ。

その気持ちもわからなくはないが、今回は アイリスの兄としてここにいる。

どうやって レヴィ王子を丸め込もうか考えていた時のことだった……

 

「俺ともう一度ギャンブル勝負をしないか?  今度はイカサマ抜きでな。 その上で、 この俺に勝つことができたなら……。俺は、ベルゼルグが魔王を倒す方にベットしよう」

 

俺は王子の意図を汲み取り、毎日やっていた、右手と左手のどちらにコインがあるかという単純な賭け事を――

さあ、 コインはどっちにある?

――そう言って握った拳を突き出した。

 

 

その日の夜のこと。

あの後の勝負の結果はもはや言うまでもないだろう。

結局、 魔王軍と戦うための防衛費の支援はこれまで通り。

さらには、 攻勢を仕掛けるための莫大な支援金ももらえることになった。

その上、 アイリスにドラゴンスレイヤーの称号までついたのだ。

 

上々の結果に満足していると、俺にあてがわれた部屋にめぐみんが「ちょっと話があるのですが、よろしいでしょうか?」と訪ねてきた。

……そこで俺は気がついた。

そう、以前のことを思い出したのだ。

俺が『お前があのお姉さんへの負い目を感じなくなって、純粋にそういうことをしたくなったら、俺はちっとも断る理由なんてないんだけどな』なんて言ったあの日。

俺の言葉に対してめぐみんは『そうですか。それじゃあその時が来たら、また部屋に遊びに来ますね』と返事したことを思い出したのだ。

 

そう思うと変に気が興奮してきた。

いや、そもそもお姉さんに対して、仮面の人がなんかしたらしく全くもって負い目なんて感じない状況ではあったんだが、めぐみんのことだしもっと焦らしてくるかなと思っていたので気持ちの準備ができていなかった。

 

 

 

 

――本当に、声が上擦ったり、正体を見破れなかったのも、気持ちの準備ができていなかったせいだ。

俺はドッペルゲンガーであるラグクラフトの巧妙な策略にはまり、縄で縛られ、クローゼットの中に閉じ込められてしまった。

 

畜生ッ、こんなことだろうと思ってたよ!

でもさ、でもさあ、期待しちゃうじゃんだって俺男の子だもん!

ちょっと気になってる女の子が部屋を訪ねてきただけでコロっとなっちゃうのは俺が清い男だからってわけじゃあないと思うんだ。

クローゼットの中に閉じ込められ、涙ながらにそんなことを思っていると、なんと俺の部屋にダクネスがやってきたのだ。

今は俺に化けたラグクラフトと会話しているが、きっと俺じゃないことを見破って俺のことを助け出してくれるはずだ!

と、希望を持ち、二人の会話に耳を立てていると……

 

「……おい、先ほどから私の胸に視線が向かないのだが、どういうことだ? この状況でその澄んだ瞳…… 貴様、本物のカズマではないな!」

「こうなってしまっては仕方がない、力ずくで押さえつけさせてもらおうか! この部屋はあの男の部屋だが、その姿がないことに気づいているな? 抵抗すればあの男がどうなるか……!」

「な、 貴様、人質を取るとは卑怯だぞ! その手錠とロープで私を一体どのようにするつもりだ! 縛るのか! 手錠をつけた上で縛って、それから大変なことをするつもりなのか! いいだろういいだろう! あえてその手口に乗ってやろう……だが私はクルセイダーを生業としている。体は拘束できたとしても心まで束縛できるとは思うなよ!」

 

これはひどい。

仲間を人質に取られており、そのことが性癖をさらけ出す大義名分となってしまったのだろう、俺がいることも忘れて醜態をずっと晒し続けているダクネス。

その後、俺と同じクローゼットの中に押し込められたダクネス。

今までの醜態を全部聞かれていたのだと悟り、恥ずかしさのあまりポロリと涙がこぼれてしまった。

ああ、 お労しやダクネス。

後で王都に帰ったら噂の一つとして広めてやろう。

そして……

 

「くっ、人質がおらず、ここが屋外なら無詠唱爆裂魔法で一撃で仕留められたのに……! でなくても隙を突いて拳でコテンパンにしようとしてたのに、どうして宰相のくせにそんなに力があるんですか!」

「こ、こらっ! 暴れるな! 私の馬車馬のように力仕事をもこなしてきた30年間にはかなうまい! ちょ、本当にお前の仲間がどうなってもいいのか! 予定は違うが、お前を先に殺してやってもいいのだぞ!」

「ほう、この私を殺すと! この自爆こそがロマンたる紅魔族を殺すというのなら道ずれになることを覚悟するがいい! この国の腐った中枢ごと吹き飛ばしてやりま……ちょ、ひとが喋っているときに口を封じようとモゴゴモ!」

 

どうやら、人質と聞いてめぐみんも大人しく(?)捕まったらしい。

俺たちの方に投げ飛ばされためぐみんをダクネスが体を使って床に落ちないように受け止める。

護衛である俺たち三人が勢揃いしたのを見てラグクラフトは姿を元の宰相のものへと戻し、口元をゆがめる。

 

「さて、 俺が何者なのか。 そして なぜこんなことをするのか教えてやろう。俺の名はラグクラフト。魔王軍情報部隊長、ドッペルゲンガーのラグクラフトだ。いやいや、お前たちには苦労させられたよ」

 

そこから長い長い諜報員としての物語を勝手に語り出した。

 

「――あれは今から30年以上前。この国の内政の募集に何度も何度も募集してようやく採用され、毎日馬車馬のように働いた。カジノに入り浸りろくに仕事もしない同僚。カジノ狂いの王族と貴族。毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日!はあ、はあ……毎日こいつらが散財しまくったおかげで、一体どれだけ苦労をさせられたか……。そんな王国で真面目にコツコツとこなし続け……内政を一任されてからは、この国の実態――とてつもない財政赤字に膨らんだ借金をどうにかしようと尽力したわけだが……ここまできて気づいた。『ここまでやる必要はなかったんじゃないか』と」

 

めぐみんと同等のアホだ!

何もしなかった方が魔王のためになってただろうに財政立て直しちゃった『馬鹿と天才は紙一重』を体現したとびきりのアホがここにおる!

 

「まあ、それはさておき、当初の目的であるこの国を傀儡とし、魔王様への貢ぎ物とする計画を実行に移したのだ。長い年月を費やした俺の行動が実を結ぶときが来たと、達成感が溢れてきたものだが……お前たちが俺の長年の苦労を水泡に帰してくれた」

 

おっと、話の流れが変わってきたぞ?

さっきまで苦労話を散々聞かされてたのに、急に敵意の矛先がこの国の王族貴族から俺たちに変わった。

 

「このような素晴らしいプレゼントをしてくれた貴様たちにどういうお返しを贈ってやろうかと考えてみたのだ。どのようにしたら私の復讐や殺意を形にできるのかと……。そして思いついた、アイリス姫を害すことをな」

 

思わずぎょっとする。

だが、アイリスの目は特別製。

銀髪盗賊団として仮面をかぶった俺の正体を仮面の人じゃないと瞬時に見破った……らしい。

記憶がないからなんとも真実かどうかはわからないが、真実なら瞬時に仲間に化けた存在だと警戒できるはずだ。

冷静な思考によって青ざめた顔が平素へと変わる。

しかし次の言葉で俺たち全員はぎょっとした。

 

「もちろんドラゴンを一撃で屠ったという姫君を真正面から討つなどということはできるとは考えていない。だからこそアイリス姫と親しい仲であるお前たちを人質とし、じわりじわりと嬲り殺してやろう。お前たちの目の前でな。ああ、その顔だ。 その顔が見たかった! 愉悦! 実に愉悦だ!」

 

そう言われたらアイリスも為す術なく俺たちの命を最優先に思って、一切の抵抗もせずに……なんてことがありえる!

やばい、実にやばいことになってしまった。

ダクネスは閉じ込められたクローゼットの中で激しく動き回り、めぐみんもそれに負けじと……

 

「おい! 爆裂魔法の準備しようとすな!」

 

俺の心の声と、クローゼットの外から聞こえる声が共鳴した。

その瞬間、固く閉ざされた扉が開き、ギュウギュウ詰めに押し込められていた俺たちは外へ一気になだれ倒れる。

縛られているため受け身をとることもままならず顔面ダイブをかまして非常に痛いと思いながら顔を上げると……

 

「まさか三人とも魔王の術中に嵌まるとは思わなかったぞ」

「ぷはぁ! 仮面の人! さすが、いつも都合のいいタイミングで現れてくれるな! でももっと早くてもよかったんだぞ?」

「こっちにも事情があるんだ。この後もできるだけ早く戻らないとだし……いや、なんでもない。これからアイリスがここに連れてこられるはずだ。俺は退散させてもらうが、後のことはしっかりやるんだぞ?」

 

非常に素早い動作で俺たち全員の縄を小刀で切り、解放してくれた仮面の人。

何か用事があり、その合間を縫ってきてくれたのか、それが終わるとテレポートを詠唱してすぐさまどこかへ転移してしまった。

 

だが、仮面の人のおかげで俺たちはもう人質じゃない。

俺たちはアイリスの部屋に疾風のごとく走り出し……

 

 

「テメェ! 俺の妹に手ェ出そうとしてんじゃねぇッ!!」

 

 

勢いのままにドアを蹴破り、俺の姿でアイリスに這い寄る悪を成敗したのだった。

……いや、成敗したのはアイリスなんだけどな。

 

 

 

 


おまけ――めぐみんとラグクラフトの一部始終――仮面の人視点でお送りします。

 

「どうしました? こんな夜更けに……もしかして私のことが恋しくなっちゃいましたか? ……なんて」

「ああ、 実はめぐみんのことが恋しくて……。だってそうだろ、最近なんてずっとご無沙汰だったんだ。俺だって人肌恋しい時くらいあるさ」

 

このドッペルゲンガー、俺がアイリスの兄だと聞いて、血縁の兄の方だと思ったらしい。

王子らしく、俺らしからぬ言動に若干さぶいぼが立つ。

しかしめぐみんはまだ違和感程度にしか思っていないらしく。

 

「ほ、本当ですか? ……さすがにずっとアイリスアイリスとうるさかったあなたが、今更 私のことをそう言ってもなかなかどうして説得力がありませんね。まあ、求めてくれるのは嬉しいですが」

「アイリスは妹だって。いくら仲良し兄弟だからってそういうことをする気にはならないだろ?  俺の伴侶にはやっぱりめぐみんが、一番落ち着くしいいと思うんだ」

 

伴侶!

まだ付き合って間もないうら若き二人だと知らない偽物はよりにもよって恋人のステップをすっ飛ばして結婚前提のお付き合いをと言い出した。

実際に俺がこんなこと言ってたらって考えると耐えられない!

偽物だったとしても早急にこの場から立ち去りたいという衝動に襲われていると。

 

「は、伴侶ときましたか!? 今日のカズマは 何だかおかしいですよ! だいたいこの前なんて理想の女性についてロングで巨乳のお姉さんと答えてたじゃないですか!」

「そ、そうだっけ? ……なんて王子らしからぬ言動だったんだ俺は。そもそも、最近気づいたんだ、 やっぱりでかい乳は垂れる。貧乳こそが一番であると。俺はめぐみんしか愛せないんだ!」

「おかしい、今日のカズマは何だかとてつもなく気持ち悪いです! ギャンブルで勝ちすぎてとうとう報酬系がぶっ壊れましたか!」

 

もうめぐみんもその違和感に耐えられなくなったらしい。

まるで死人でも見たかのような恐ろしげな表情をして、急いでラグクラフトから距離をとる。

ここまで拒絶されると思っていなかったのか、ラグクラフトは俺の時と同じように目をつぶらせてそのすきに気絶させるという作戦を諦め、のっぺりとしたドッペルゲンガーの姿を見せつけ……

 

「お前の仲間二人はすでに俺が人質として捕らえた。仲間のためを思うんだったら静かにあああああっっ!」

「その私の仲間とやらは一体どこにいるんですかね! 紅魔族は売られた喧嘩は買いますよ!」

「本当にやっかいな! お前は紅魔族って要素がなかったら本当に完璧なのに! もう少し淑女らしく振る舞ったらどうだ! というかお前は魔法使いなんだろう! どうしてそう力が強いんだ!」

「紅魔族は魔力がつきても足手まといにならないように、かっこいいポーズを決める体幹を鍛えるために肉弾戦の戦闘術も学園で仕込まれているのですよ! 観念して大人しく……」

 

そして、前のシーン「くっ、人質がおらず、ここが屋外なら無詠唱爆裂魔法で一撃で仕留められたのに……! でなくても隙を突いて拳でコテンパンにしようとしてたのに、どうして宰相のくせにそんなに力があるんですか!」に戻る。




瞬時に仮面の人が縄を切りにテレポートし、その後、すぐにテレポートで天界に帰還。
こうして、エルロードの地に平穏はもたらされた……第10巻 完!
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