あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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チート能力は対モンスター用。火力調節が絶妙に難しいためあっさり捕縛されたカズマは盗賊団の一員とばれることなくアクセルの街へ強制送還されてしまった……


11.理性がぶっ飛ぶ瞬間~貴方は逃げられない~

気づくと、俺はなぜかアクセルの街の入り口に。

さっきまで城に泊まってたはず何だが、何があったのか思い出せない。

ただ、一つ言えることはクレアに対して何か酷い仕返しをしなければならない、そんな感情があるということだ。

何故アイリスのことを一日中語り合った同志にこんな感情を覚えているのかはわからないが、とりあえず今度顔を合わせたら絶対何かやり返してやろう。

 

まあ、そんな俺の感情はさておき、俺は久しぶりに帰ってきた街中をテクテク歩く。

たった2週間城に泊まってただけなのに懐かしい場所に帰ってきたと感じるのはそれだけこの街に愛着を持っていたということなのだろうか?

そんなことを考えながら家に着いた俺は玄関の戸を開け――

 

「おかえりなさいませ旦那様。ご飯にしますか? それともお風呂にしますか? それともわ・た・く・し?」

「……なにやってんだおっさん」

 

俺の白い視線の先にいるのはゼスタ。

アルカンレティアで働くアクシズ教の最高司祭が本当に何やってんだ。

 

「何とは、私はカズマ殿を待って待って待ちわびて早3週間、このお屋敷の門番をしていたのです」

「ダクネスらが戻ってくる前からいたのか。世間一般ではそれを不法侵入っていうんだぞ?」

「らしいですね。おかげでいい宿泊施設にて一晩無償で泊めていただけることになりました。ここの無償宿泊施設の質は高いですね」

「投獄されただけだろ! 仕事しろ!」

「失敬な、しっかり仕事はしておりましたとも、門番という仕事をしておりましたとも!」

 

……俺が言ってるのはアクシズ教のプリーストとしての仕事なんだが。

責任者としてこの街に住まう迷惑プリーストの集団を統治してきっちり治安を維持してほしいんだが……まあ、アクシズ教の責任者としての仕事しろっつったら何らかの被害をエリス教に与える気がしてならない。

アクシズ教だもの。

むしろうちの門番してただけ被害が少なくてよかったかもしれない。

 

「……ちなみに、どんな仕事してたか聞いても?」

「ええ、構いませんよ。毎朝迫り来る新聞勧誘や高価な壺を売ろうとしてくる業者などに対してはむしろ私の方からアクシズ教になればと宗教の勧誘を行い撃退しました」

「ナイス! それはナイス! …………ナイスなんだが、つまりお前、自分の宗教勧誘の仕方が悪いってわかって……」

「失礼な。私は来る者拒まず去る者追わずの精神なのです。無理矢理はそういうプレイならばむしろお願いしたいところですが、アクシズ教の魅力を伝え、それでも入信していただけないものを無理矢理するつもりはありませんとも」

 

うんうん、正直そういう無理矢理感がない宗教勧誘は好感が持てる。

まあ、勧誘自体マイナス要素だからプラスマイナスゼロだが。

いや、やっぱマイナスだわ、ハアハアしてるせいで全部台無しだ!

清々しいほど潔いおっさんを見てげんなりしていると、玄関の方に向かって走ってくる足音が。

 

「そういうプレイについて詳しく! ……っカズマだ! めぐみん、カズマが帰ってきたぞ! カズマ、怪我は、怪我はないのか!」

「おい、俺のただいまよりプレイに反応する変態お嬢様。どうして俺の体をペタペタ触って……まさか昼間から盛ってんのか? 今の俺はアイリスの神聖なオーラで無の境地に達している。相手できないから離れてほしいんだが」

「誰が変態お嬢様だ! そんなアホなこと言っている場合ではないのだ。本当に大丈夫なんだな!」

「お、おう……」

「そ、そうか! よかった……本当に、よかった……」

 

俺の言葉を聞いて安堵で腰が砕けるダクネス。

えっ、本当になんだこの感じ、思ってたのと違う!

なんでたった一日で行方不明の仲間が見つかったような反応するんだよ!

俺の存在を確かめるかのように強く抱きしめるダクネスを思わず軽く抱きしめていると、めぐみんもドアから出てきてダクネスと同じく俺のことをペタペタと触って確かめる。

 

「な、なあ。本当にみんなしてどうしちまったんだよ? 何でたった一日会わなかっただけでこんな大げさな……もしかして俺のことがそんなに好きだったのか?」

「……カズマ、今『一日』と言いましたか?」

「おう、それがどうかしたか?」

「お、落ち着いて聞いてください……その、カズマ。私とダクネスが帰ってきたのは1週間も前のことで……」

「……はい?」

 

思わずダクネスの方を見ると頷いて肯定の意を示す。

ま、まじで?

こいつらの表情を見る限り嘘でそんなことを言ってるようには見えない。

どうしよ……

これが噂に聞く浦島太郎現象ってやつなのか?

いや、おかしい、何かが引っかかる。

何だろうこのモヤモヤ感は。

そう思っているとダクネスがはっとした表情をして俺に。

 

「……カズマ、お前は城で何をやらかしてきた? 王家でも滅多に使われない禁忌とされている記憶消去のポーションを飲まされたな?」

「き、記憶消去のポーション!? ちょ、ちょっと待ってくれ、一回落ち着こう! 記憶を辿ってみるから……」

 

ええと、まず二人を見送ったことは覚えてる。

そのすぐ後、確かあの後はアイリスの部屋に呼ばれ、そこで……

 

そこからの記憶がない。

なるほど、記憶の消去か。

きっと、俺は持ち前の運の良さで何か重大な国家秘密でも知ってしまったのだろう。

そして、秘密を知ってしまった俺をどうするかでもめたのだ。

本来 国家秘密を知ってしまった冒険者となれば、そんな馬の骨など口封じとして始末してしまえばいいが、秘密を知ってしまったのはこの俺だった。

多大な功績を上げた俺という勇敢な冒険者を口封じするのは国家の損失になるので、妥協案として記憶の消去に至ったわけだ。

うん、きっとそうに違いない。

 

「いや、違うね」

「まだ何も言ってない!」

 

俺の突っ込みに乗ってドアから現れたのは仮面の人。

ゼスタのおっさんも大概だが、仮面の人はいつから家の中でくつろいでたんだよ。

さも平然と人の家に不法侵入するな!

それと人の心を見透かしたような言い方やめい!

 

「ふははは! やはりこの仮面、溢れる悪感情を魔力に変える! 悪感情ごちそうさまだ」

「お粗末様でしたこの野郎! てか、ゼスタといいアンタといい、なんでこの家にいるんだよ。仕事は!?」

「俺は住所不定の無職なんで。おおっと、見くびるなよ? この前エルロードでしっかり生活費を稼がせてもらったから働かなくても食ってける上級貴族みたいなもんだ」

「お、おい! 貴族を侮辱するな! 貴族とは弱き民を守るために……」

「じゃあ両手剣スキルとれよ」

「それは……ちょっと遠慮させてもらおうか」

 

仮面の人に説教しようとしたが、思わぬ正論パンチを受けたダクネス。

そんな彼女はいじけて部屋の隅をつつくのに忙しいようだ。

 

「ダクネスのことは放っておいて。仮面の人はもういい、おっさんは……」

「仕事なら門番を……」

「じゃなくてアルカンレティアのだよ! 仕事たまってるだろ! 早く戻ってやってこい!」

「ああ、そこのあたりは問題ありません。私は美少女盗賊団に囲まれて見守るというという大事な使命があるので、この度、アルカンレティアの仕事はすべて同僚に押しつけてきました」

「教主やめて来ようとしたんだぜコイツ。盗賊団で食っていこうとしてたのを俺が止めなきゃどうなってたことか……」

「どいつもこいつもろくなのがいねぇ!」

 

どうしよう、俺は今からでも警察にこの二人をしょっ引いてもらうように連絡すべきなのか?

そう思っていると仮面の人がゼスタを指さして。

 

「警察に今からでも連絡しようとしている男よ。無駄なあがきはやめるといい、コイツは詰め所でいろいろやらかして、出禁にされたらしいぜ?」

「もう嫌だこの人たち……!」

「ふははは……この程度で肩を落とすようではまだまだだな」

 

仮面の人なりの慰めの言葉なのだろうか。

俺の肩を優しく触る仮面の人を見ると遠い目でどこか遠くを見ていた。

……一体どんな経験をしたらこんな達観した顔つきになるのだろうか。

そんな仮面と視線が交わる。

ふと思い出したように仮面の人は俺の肩から手を外し、

 

「そうだそうだ、話は変わるが今回俺がゼスタを連れてきた理由だが……」

「本題じゃねーか!」

「そう本題。だから端的に言わせてもらうが、お前が飲んだポーションの効果を消してやろうと思ってな、状態異常やらのスペシャリストにお越しいただいたわけである」

「どうも、その道のスペシャリストです」キラン☆ミ

 

立派なひげを蓄えたおっさんには横ピースは似合わない気がするんだ。

俺の嗜好的にはもっと渋い感じを出してほしい。

 

「では早速記憶回復術を始めようと思います。まず手始めにこのポーションをお飲みください」

「お、おう。…………飲んだぞ?」

「では次の準備ですが、そこに横たわってください」

「……はい、寝たぞ?」

「では…………私とキス、していただけませんか」

「断固拒否させてもらう! 何が好きでおっさんとラブしなきゃなんだ! そういうのは否定しないが俺はノーマルだ!」

「大丈夫です、ショック療法というやつですので……さあカズマ殿、私に身を委ねて、濃厚な腐の絡みをそこのお嬢さん方に見せつけましょう」

「あっ……」

 

どういうことだろう、体に力が入らない……

えっ、もしかしてマジで?

マジでこれが最先端の記憶回復療法?

俺の初体験はおっさんに奪われるのか?

くそっ、こんなことになるんだったらめぐみんかダクネスか、最悪アイリスでもいい、愛のあるキスを終わらせてからこの治療をしたかった……

 

「こ、これが噂に聞くNTR……!」

「違います、これは治療です。人工呼吸と同じです」

「くっ、カズマの記憶を戻してあげたい私と寝取られたい私がいて……もうしんぼうたまりゃん!」

 

ダクネスの頭のストッパーは腐れたらしい。

おっさんの厚い唇が俺に迫ってくる。

必死に抵抗しようとするが、どういうわけか体に力が入らない。

ただ迫ってくるそれを見て、何かが目覚めようとしていると本能が訴えかけてくる。

だめだ、これ以上はだめだ、ゼス×カズのウ=ス異本が……

と、そのときだった。

 

「私の男に麻痺のポーション飲ませて何をするかぁああッッ!」

「ヒデブゥウッ! な、ないすスイン……グ……! もっと……ハァハァ……」

「何で叩かれてハアハアしてるんですか、もっとじゃないですよやぶプリースト! 最上位の回復魔法であるセイクリッド・ハイネスヒールをかけてくれる算段だったのでしょう! あれの副次効果にありとあらゆる状態異常から回復させるというものがあったはずです!」

「ですが、流石にあの回復魔法は疲れますし易々と繰り出せるような代物でもないので無償というのもどうかと思いまして……何かしらのご褒美をいただかないと私のモチベーション的に失敗するリスクがあるためこうして儀式を執り行っていたのですが……」

「そ、そうでしたか、すみませんでした私の早とちり……と言うと思いましたか! どのような理由があろうと人の男に白昼堂々キスしようとするとか、詰め所どころかアクセルの街から出禁にしますよ!」

 

めちゃくちゃ男前なめぐみんがゼスタにかみつく(物理)

私たちの界隈ではご褒美ですと嬉しそうなゼスタ。

そんな中、自分の欲望に忠実すぎてめぐみんと一緒にゼスタをシメるか、それともめぐみんを止めてゼスタに加担するか迷ってショートしたダクネス。

それを見て仮面の人は肩をすくめつつ俺に。

 

「というわけで、記憶を取り戻したら自分自身のクズさに嫌気がさしてダイビング土下座を決行するだろう男よ、俺はそろそろお暇させてもらうが強く生きろよ?」

「待て! どうしてそう俺が不安になるような未来を予言すんだよ! 記憶取り戻したくなくなってきたわ!」

「それはそれで後悔するのできちんとセイクリッド・ハイネスヒールをしてもらうが吉。きっとアイリスに関する破壊的で衝撃的な記憶を取り戻し悶絶するだろう」

「流石にアイリスに嫌いとか言われた記憶なら軽く死ねるんだが! でも記憶を取り戻さないと後悔するってことはいい記憶なのか!? とりあえず心構えをしたい! もしかしなくても未来を見通す能力あるんだったら詳細を、詳細を求む!」

「ふはははは! 未来を見通すことはできないがいいことを教えてやろう! これからウスバカゲロウの幼虫もどきに食い殺されかけたり、紅魔の里が魔王の娘によって崩壊させられたり、なんやかんやあってゴーストやら安楽女王やら、グリフォンやらマンティコアと貴様らが戦うことになる…………俺からの優しい忠告だ」

「何で最弱の昆虫に食い殺されかけんの俺!? てか詳細を! マジでどういう状況だってばよ!?」

「ええっ!? 崩壊するんですか私の里!? こめっこは! 妹は無事なのですか!?」

「なんということだ! いいい一体私はどのようにその強敵どもに蹂躙されてしまうのだろうか!」

「規約で細かいことは話せないが悪いようにはならない。ショックを受けている二人と興奮しているドM一人。一応忠告したからな、無茶すんなよ?」

 

それは忠告とは言わない、対策のしようがない脅しだろ!

何だよウスバカゲロウの幼虫もどきに食い殺されかけるってどういう状況!?

なんやかんやあってゴースト等々と戦うことになるのも……そのなんやかんやを教えてくれ!

どういう状況で、どう対処すればいいかくらい未来見通せるんだったらわかるだろ!

そこ詳しく!

 

――そんな俺の願いは無慈悲に打ち砕かれた。

 

「じゃあゼスタ、やっちゃってくれ」

「はぁ、『白馬の王子様、眠り姫に目覚めのキス作戦』は延期ですか……まあ、仕方ありませんね。では参りますよ?」

 

俺が土下座する5秒前である。

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