あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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続・爆焔です。(きっとこの時系列であってるはず……)


11.満月の見える場所~夜になったら~

それは俺たちが隣国エルロードに出向き、その後色々あってからアクセルに帰って、しばらく経ったある日のこと。

俺の下に1通の手紙が届いた。

何でも屋敷周辺を彷徨うモンスターの駆除を依頼したいらしい。

依頼主はカレンという貴族。

ダクネスが「裏があるかもしれないぞ」とか何とか言っていたが、俺は気にせずアクセルの街近くの森の中にポツンと立ったドネリー家の屋敷にやってきた。

そして話し合いの結果、翌日から正式に依頼を引き受けることに――

 

「ええっと、何でしたっけ? 『ああ、重い重い…… 冒険者をやって鍛えてなければ、とてもじゃないが重くて支えられないな』 でしたっけ?  またまた随分と自信満々な顔でしたね?  何ですか、当てつけですか!?  希少価値を持つ私に対しての妬みですか!」

「……僻んでいるのは持たざる者のめぐみんだろうに」

「なにおう!」

「あ、ああー、あそこにモンスターの気配がー!」

 

世の中は……なんて不公平なんだ。

 

昨日勃発した「お嬢様同士の腹黒い居合い合戦」で爆乳マウントをとっていたダクネス。

自分に対して言っていたわけじゃないのに、慎ましやかな胸にコンプレックスを抱いているめぐみんは、ムカつくという一点のみでいじめていた。

いいぞ、もっとやれ!

 

そんな中、正論という名の暴力でめぐみんの逆鱗をぶち抜いてしまったダクネスは、棒読みでそんなことをいい、腰に下げていた剣を引き抜き、逃げるように森の茂みの方へ。

逃げるな卑怯者!

と、そう思っていた時だった。

 

俺の危険感知スキルがかすかな気配を感じ取り、ダクネスのマントを引いたその瞬間、ダクネスの剣がキンッという澄んだ音とともに宙を舞った。

このままダクネスが進んでいれば今頃は自らが剣のいた場所にいたはずだ。

ダクネスは使い物にならなくなった剣を捨て、俺たちと茂みの間に割って入り、かばうように手を広げる。

だが目の前の死神からは何も気配を感じ取れない。

となれば……!

 

「上から来るぞ! 気をつけ……」

「と、 思うよな! ぶっとべッ!! 『ウィンドブレス』!!」

 

俺の言葉に被せるようにそんな言葉が聞こえたと思った次の瞬間、ものすごい強い突風が俺とダクネスを吹き飛ばす。

敵の攻撃かと思い突風が吹き出してきた茂みの方に視線を向けると、地面から蟻地獄のようなモンスターが姿を現し、その大きな顎で俺たちがいた場所を切り裂いた。

ダクネスの剣を切り飛ばした攻撃を実際に目の当たりにし、 思わず背筋が凍る。

が、 正体を表したのが運の尽き。

 

「『フリーズ』――ッ!!」

 

俺は氷結魔法でそのモンスターの動きを鈍らせ――。

 

「ダクネス! そいつが地面に逃げねえように地面に打ち上げちまえ! 『パワード』ッ!」

「力比べか、望むところだ! ……ふんぬっっ!!」

「めぐみん!  すぐに行けるよな!」

「もちろんです! ……逝く罪人が墓の穴。底なしの奈落へ誘わん。血肉を貪る執行者、地獄の主は紅蓮に抱かれ還りたまえ! 『エクスプロージョン』ッ!!」

 

ダクネスの怪力(正直ドン引きである)によって打ち上げられたモンスターが腹を空に向けジタバタともがいているところにめぐみんの魔法が刺さる。

俺とダクネスが退避するまでの絶妙な時間に短縮詠唱で――通常よりは威力が弱いものの、威力上昇にスキルポイントを当てた魔法は、俺が初めて見せてもらったあの時の威力で敵を消し去った(どう見てもオーバーキルなのは通常運転)。

 

「燃え尽きろ、紅蓮の中で……はへぇ……サイコー、デース……」

「そんなこと言ってる場合じゃないぞ、 まだだ、 まだ誰かがいるはずだ……」

 

俺の敵感知スキルには全くと言っていいほどの反応はない。

だが先ほどの俺たちを風魔法で吹き飛ばした存在の正体が不明のまま。

……いや、不明と言いつつその正体に心当たりはあるんだが、不思議なことにいつもその声を忘れてしまっているので100%の確証は持てないのだ。

警戒するに越したことはない。

念のために魔法の準備をしておいて、先ほど声がしてきた茂みの方に視線を向けると、ガサガサと茂みをかき分けて出てくる影。

 

「なあ、俺がいるのわかってんだったら周囲の確認をしないで爆裂魔法をぶっ放すのやめてもらおうか、危うく俺がお陀仏になるところだったぞ」

「よ、よかったー、やっぱアンタか、仮面の人……」

 

特徴的な仮面を見て、ようやく俺の肩に入っていた力が緩む。

俺たちの窮地に飛び込んできてくれるのは仮面の人に違いなかった。

 

「こうなるってわかってたから無理すんなっつったのに……まあ間一髪、ってとこだな」

「まさかここで蟻地獄が出てくるとは思わないだろ!」

「いや、俺の警告を真に受けて屋敷に引きこもるもんかと思ってたんだが。でも頭の先からまたの間まできれいに真っ二つになりかけてた未来を回避できたのは僥倖か」

「何だよそのグロテスクな未来こわっ!? これでも俺は 高レベルの冒険者だぞ、そうやすやすと紙みたいに 切り裂かれてたまるか!」

「あくまで 一般人と比較してだろ、ゴミみたいな防御力のくせに何言ってんだ」

 

いやいやいや、 あのモンスターの攻撃力が強すぎるだけだ!

なんだよ顎の力で剣を切り飛ばすって、初心者殺しもびっくりだわ!

 

「……まあ何がともあれ、助けてくれてサンキューな、仮面の人」

「感謝、今、感謝したな? ならそのお礼の代わりと言っちゃ何だが、カズマ、お前今晩予定空いてるか? ああよかった、最近巨万の富を築き上げてるお前は年がら年中予定空いてるよな」

「おい、 俺何もまだ答えてないんだが、一人で暴走するな! ……まあ言ってることは流石はご明察なんだけども、さも決定事項のように……まるで強制参加みたいだろ」

 

俺は自由をこよなく冒険者サトウカズマ。

ダクネスじゃない俺は強制という言葉にはなんとなく抵抗がある。

そう思っていると仮面の人がズイと顔を近づけ、コソリと。

 

「まあ聞けって。なんでもクリスが神器絡みの件で協力してほしいことがあるそうだ」

「神器って? 新たなやつが見つかったのか?」

「いや、以前封印した品だ。モンスターを召喚するヤツ。湖に封印したんだが、俺が独自に調査して……」

「湖の中になかったって訳か。まあ、あんな濁った湖だし見逃したんじゃ……」

「いいや、絶対だ。誰がなんと言おうと絶対なくなったんだ。ってなわけでクリスにそのことを伝えたら、この家がその神器に関与している線が浮上した。他ならぬ女神様からの頼みだぞ? 行くっきゃないだろ」

「……ちょっと今から暇を持て余すって予定が入って忙しくなるからその予定はキャンセルで。めぐみん、ダクネス。てっしゅー」

「おい、今回の依頼の件はどうなった!? というか今暇を持て余すのに忙しいとかなんとか聞こえた気がしたんだが!?」

 

ダクネスが何か言っているが俺は両耳を塞いで聞かないふりをする。

だって今回の依頼で俺ってば死にかけたんだぞ?

高レベル冒険者であるこの俺が死にかけたんだぞ!?

そこにさらに厄介ごとの予感!

警戒心が極限まで高まっている俺はたとえ神様の頼みだろうとノーと言って断れる男だ!

 

代わりに、明らかに駆け出しの街にあるまじき依頼だし、何ならこんな魔物が異常発生している件について魔物を研究してる専門家とかに調査させたほうがいいんじゃないかと……

仕事へのモチベーションがない仕事したくない俺が建前をつらつらと心の中で述べていると、仮面の人が顎に手を当てて、少し考えたそぶりをしてから。

 

「よし、じゃあ、めぐみんだ」

「はい? 私ですか?」

「そうそう、実は銀髪盗賊団のお頭の手伝いなんだが……」

「承りました! ようやく、 ようやく待望の日が我が元に!」

「回答早っ!? てか何勝手に承ってんだよ!」

「何故と問われましても……あれは忘れもしない、皆で霜降り赤がにを再び食べた日に、皆がカニを頬張る中、私は憧れの銀髪盗賊団との出会いと彼らの生き様をこんこんと語ったはずなのですが」

「そして今や国の最高権力者候補の娘とぼっちとアクシズ教とエリス教を幹部として、千人を超える規模の盗賊団に……だったよな?」

「大体合ってます」

 

俺は数秒間、情報処理でパンクしかけてた頭を再起動させ、情報を整理し、俺と同じ顔をしていたダクネスに「はい、集合」と声をかけ、コソコソと記憶にない内容のすりあわせを始めた。

 

「カズマカズマ」

「カズマです」

「覚えてるか?」

「覚えてないですカズマです」

「今さっき、国の最高権力者候補の娘と言ったな」

「言ったな……アイリスだ。間違いなく」

「もしかしなくても、私たちがめぐみんのことを止めなかったから……」

「そこでコソコソしている怪しげな二人組」

 

急に仮面の人が呼びかけてきた。

めぐみんが盗賊とかいう悪行に手を染めてまでしなければ生きていけないほど中二病を拗らせていたことを知って、二人でどうしようどうしようと思い悩んでいるときに間の悪い。

 

「ってか、怪しげな二人組ってなんだ、この中で一番怪しげなお前にだけは言われたくないわ!」

「まあまあ、安心するといい。ここ最近の活動内容と言えば俺のことを『仮面のお人ー!』と街中を追いかけ回し、俺のことを悪人に仕立て上げようとしてただけだ」

「ちょ、悪人に仕立て上げようと言うのは語弊がありますよ仮面の人! 私はあなたが盗賊団の関係者だと思って、我が盗賊団との架け橋をしてくれないかと……」

「うん、語弊も何もないだろ」

「……実際のところは盗賊団と内通していた訳ですし、とどのつまり何も私は間違ってはなかったのでは?」

 

まあ、仮面の人が俺たち仮面盗賊団の関係者だってのは間違ってはない。

犯罪者に仕立て上げるっていうか指名手配されてないだけで。

とりあえず俺とダクネスは、アイリスが変な活動はしていたものの王国王女にあるまじき活動はしていないと知り、ほっと息をつく。

 

「とりあえず! めぐみん君はそこにいる非協力的な仮面の同志に仮面をつけさせて、夜に屋敷で待ってろ。俺はお頭に迎えに行ってもらうように手配してくるから」

「ラジャー!」

「ダクネスも協力してくれ。ドネリー家の汚職の証拠を押収してくるからさ」

「うむ、心得た。あの成り上がりには痛い目に遭ってもらおう」

 

……もしかして、もしかしなくても、ここに俺の味方は誰一人いない感じですか?

 

 

 

 

その後、夜のことを考えて今日のところは引き上げようということで撤収を開始した。

なお、俺の意見は無視されたものとする。

カレンから「ぷーくすくす! まさか高名な冒険者の皆様がたった1匹で終わりなんて!」と煽りいただき、つっぷんしたダクネスとの一悶着はあったものの、無事、夜になった。

……いや、なってしまったのだ。

 

「はぁ……正直こういうの乗り気じゃないんだけどなぁ」

「何を言ってるんですかカズマ! これから超絶クールな盗賊団のお手伝いですよ! 歌でも歌いたいくらい、素晴らしく最高の気分です、ハイッというやつです!」

「……この仮面、前から思ってたが相当ヤバいやつだろ」

「ええ、相当にヤバいです! 興奮で胸の高鳴りが止まりません!」

 

どうしよう、この紅魔族何も聞いちゃいねぇ。

カレンとかいう貴族と何があったのか、若干ナイーブになっていためぐみんから話は聞いたが、その暗いしんみりした雰囲気を消し飛ばしても有り余る狂気じみた興奮。

人間として、何か大事なものを失ってしまうような気がして、仮面をつけるのをためらってしまう。

 

「どうしたのですか? 早く仮面をつけてくださいよ! そして、私とともに盗賊団の一員として夜を駆けようではないですか!」

「……この仮面つけるとたまに記憶飛ぶから嫌なんだよ、自分が自分じゃなくなるって言うか、なんというか」

「ふふふ、カズマもわかっているじゃないですか、素晴らしい台詞です。そのまま仮面をつけて言うのです! 『俺は人間をやめ――』」

「それ以上はヤメローッ! わーったから! つけるから!」

 

俺はため息をつき、仮面をつける。

その瞬間に気分の高まりを感じ、何か全能感みたいな感覚に支配されていく。

そんな俺が仕上がっていく様子を見てめぐみんは、ようやく目の前にいるやつが誰なのか理解し、わなわなと全身を震わせる。

その様子を見て俺はニヤリと笑い……

 

「さあ、行ってみようか。――仕事の時間だ」




後日、弄ばれるカズマ

「いやぁ、それにしてもあのとき、ええっと、何だったっけ? 『上から来るぞ!』だっけ? いやぁ、敵関知スキルを発動してたのにも関わらず上から来ると思っていたか?  残念、下からでしたっ!」
「……」プルプル
「おおっと、思わず有名なセリフを吐くも反対方向から襲われかけ、恥ずかしすぎて死にたいと思っているんだろうが、前言撤回の有効期限は過ぎている。吐いた唾は飲み込むことができないのだよ、後悔してぷるぷると震えつつ、紅魔族の瞳並に顔を赤くしている男よ」

穴があったらさらに穴を掘って地中深くで越冬したい。
どういうわけか仮面の人も顔を赤くし視点をそらしぷるぷると震えているが、 俺のこと笑ってやがんなこんちくしょう!(実は昔の自分の行動を思い出して自爆してるだけ)



次回、ルーシー編
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