あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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前回のバニマ
湖からなんとか神器を見つけ出し、エリス様やカズマに「湖から消えた」と言い、原作の流れを作る。ついでに死にかけていたカズマを助ける。


11.幽霊の教会~誰の記憶にも残らない~

ドネリー家の悪行がダクネスによって晒されてしばらくたったある日。

ザリガニ料理にはまるお嬢様を見て、何とも言えない気持ちになっていた時のこと。

 

王城に居たときに子供達がくれたファンレターを読んで、それで冒険をしようと改まった気持ちになっていただろうに、 一体どうして冒険に行かないのかとダクネスに小言を言われながらも、この前盗賊としての仕事をしたばかりだからと惰眠を貪る毎日。

そもそも、ファンレターが実はダクネスによって仕込まれたものだと知ってしまい、どうしても仕事の意欲が出ない。

純粋な俺の気持ちを返してほしい。

そんなやり取りをしている時にうちの玄関の扉をコンコンと叩く音が聞こえてきた。

 

「まぐ……め、めぐみんさんはいらっしゃいますか?」

 

そこにはめぐみんの妹の手を引いた、どこか見覚えのある二人の紅魔族の少女がたっていた。

……影が薄くて名前を忘れたので、 仮に「ツインテールの方の紅魔族」と「ツインテールじゃない方の紅魔族」としよう。

 

「めぐみーん、お前んところの妹が誘拐されてるぞー」

「ちょっと、何ふざけたこと言ってんの! めぐみんに殺されちゃうわ!」

「何ですって! まさか以前仮面の人が言っていた魔王軍幹部である魔王の娘の仕業なのでしょうか! こうしてはいられません、今すぐ紅魔の里へ、今すぐ紅魔の里へ向かいましょう! そして誘拐した犯人を爆裂魔法の餌食にするのです!」

「ほら見たことか、あなたのせいで尊い1人の紅魔族の命が犠牲となるのよ、およよ」

 

めぐみんの爆裂魔法の生贄になってしまうであろう紅魔族(ふにふら)

全く悲しみのない泣き真似をしたツインテールじゃない方の紅魔族(どどんこ)

そんな2人のやり取りを何も気にすることなくバリバリムシャムシャと俺の与えたせんべいを貪る紅魔族(こめっこ)

お礼をきちんと言える子は好きだが、それはそれとしてほとんど他人である俺がくれた せんべいを何の疑いもなく口に入れて……

どこの誰とも知らない奴に与えられた餌でホイホイついていかないか、君の将来が不安だよ、お義兄ちゃんは。

そんなことを思っていると、ツインテールの方の紅魔族がまさかの裏切りに驚愕の表情を浮かべ。

 

「あっ、どどんこ!? まさか私を売って自分は無罪を主張するつもり!? そうはさせな――」

「ほほう、ふにくらにどろんこではないですか。 まさかあなた方が魔王軍と繋がっていて、人類に仇なす存在 だったとは非常に残念です。 もしや、こめっこは人質のつもりで連れてきたのですか? わざわざご苦労なことですが我が妹は逞しいので、その程度のことでは私の悪を滅ぼすという意志は揺らぎませんよ! 我が爆裂魔法の前には何人たりとも立っていることは叶わない。そのことを念頭にとどめ心してかかってくるがいい!」

「分かってるのよね!?  本当は私たちがこめっこちゃんを誘拐したとかじゃないってことは分かってるのよね!? だとしても鬼畜よ! ここに 我が妹のことを何とも思っていない鬼畜がいるわ! 姉妹思い仲間として少しは認めてたんだけどね、そんなことを言うようになった輩には容赦しないわ! いけ、どどんこ! 貴女を生贄に捧げて!」

 

残酷にも友達にポケモ○か何かのように相手にけしかけられたどどんこは、げんなりしたような表情をしていた。

そんな何ともいえない表情だったが、ふと何か思い出したのか、こんなことを言い出した。

 

「……もしかしてアクセルって噂通り鬼畜が蔓延している街? ええ、きっとそうに違いないわ。ふにふらもめぐみんもゆんゆんも、そしてこの街の人たちも、全員が鬼畜菌(仮)に感染して……」

「なんだその碌でもない噂は! 感染してねえし、なんならそんなバイオ兵器存在してないわ! ちょっとその噂流してるやついたら教えてくれ、ちょっとシバいてやる」

「やっぱり紅魔族に広がっている都市伝説『鬼畜の街アクセル』は本当だったんだ……この屋敷の住人もすでに感染してるのね」

「おい、どうして俺の顔を見てそんなこというんだ。俺は鬼畜じゃないぞ。あくまで仮面の人が鬼畜なんであって、元はといえば全て仮面の人が! とにかく、俺は鬼畜じゃない。優しい優しい年上のお兄さんだ。な、こめっこ?」

「ハグハグっ! うん、にーちゃんは子どもにやさしい良い大人」

「こ、こめっこちゃん!? どういうことなのこめっこちゃん! 目を覚ましてこめっこちゃん!」

「だいじょーぶ。まだねむくない。なぜなら食べたらねる、それが子どものたしなみ」

「よしよし、健康な生活を送るいい子だ。今度はおかきをあげよう」

「わーい!」

「え、餌付けされないでぇえ!」

 

どどんこが2対1の現状に危機感を持ち、そんな叫び声を上げた。

が、空しく屋敷に響き渡るだけだった。

 

 

 

 

「家がボンってなってなくなった」

 

こめっこの端的な言い回しを補足するように紅魔族二人が補足を入れる。

どうやら仮面の人の予言通り紅魔の里が燃やされたようだ。

しかし、古代文明の産物である改造人間たちが住まう里、「紅魔族は滅びぬ。何度でもよみがえるさ!」と魔王軍へゲリラ戦を仕掛けたりで忙しいようだ。

その間、紅魔の里の大人たち全員は戦地へ赴くため、想像以上に大変忙しく子供の面倒を見ている暇がない、子供の安全を保証できないということで、俺たちのもとにこめっこが預けられたのだ。

 

こめっこが預けられて数日。

今やこめっこはめぐみんに勝るとも劣らない魔性ぷりを見せつけこの街の中心的存在である。

 

「お嬢ちゃん、こっちにおいで? そのヒヨコは将来ドラゴンになるらしいから、でかくなるまで我慢してとっておこうか。ほら、あのお姉さんからザリガニの天ぷらでももらっておいで」

「うん! わかった!」

 

なんて微笑ましいのだろうか。

ダクネスには申し訳ないが、今食べているのはザリガニなのだと、小型のロブスターではないのだと、残念な真実を伝えに行かなければならない。

ここで大切なポイントは、俺もさっき知ったばっかりなんだということだ。

アイリスになんてものを食べさせたんだとキレるダクネスのことは全てめぐみんに任せよう。

 

そんな生活をまったりのんびりした雰囲気がギルドにも伝染し、今や鬼畜とは無縁の街になった頃。

今日も今日とてこめっこは、ただ飯をくれるいい大人たちにたかろうと、大人しくギルドの席に着いて目をキラキラさせる。

そんな魔性の妹の保護者ご一行――つまり、俺とめぐみんとダクネスは近くの席に座った。

 

「なんということでしょうか、我が妹ながら末恐ろしいですね。将来男を駄目にする悪女にならないか心配です……」

「いや、なるに決まってるだろ。そもそも姉のお前が男をダメにするタイプの悪女だもん。いつもいいところでお預けするしいたたたっ!」

「お、おい! 今とんでもない話が聞こえてきたんだが!? 人に淫乱だの何だのといっておいて自分こそ一体カズマにどんなプレイを……」

「おや、ついにあのときの睡眠薬プレイについて白状する気になりましたか」

 

こめっこに聞こえたら教育上最悪なのだろうが、こいつら二人、静に騒ぐという器用な真似をしやがって……

余計なことを言ってしまったが故にめぐみんに抓られた脇を優しくさすっていると、受付のお姉さんがニコニコしながらアイスクリームが乗せられた皿を手にしながらこめっこに近づいているのが見える。

まさか受付のお姉さんまでもがこめっこの魅力にやられたのかと思ったが、どうやら様子がおかしい。

リスのように頬を膨らませ、無言で飯をがっつくこめっこの後ろに立つ受付のお姉さん。

……いやな予感がする。

 

「すいません、ちょっといいですか?」

「良くないです」

「実はこちらを見て欲しいんですが……」

「ルーシーゴーストの討伐依頼? あれ? 確かこれって……」

「そう、塩漬けクエストです。めぐみんさんたち率いる魔王軍幹部を退けたこの街の冒険者であれば簡単にスパッと解決してくれるのよ、こめっこちゃん?」

「おお~! 姉ちゃんたちすげー!」

 

俺が良くないっつってんのに問答無用で見せてくる1枚の紙――モンスター討伐の依頼書。

誰も受けたがらなかった依頼が解決できそうでご機嫌ニコニコなお姉さんの顔。

こめっこからキラキラとした羨望のまなざし。

 

罠だ、これはギルドの職員が仕込んだ巧妙な罠だ!

厄介ごとを押し付けられる嫌な予感が現実になってしまった瞬間だった。

俺は作戦コマンド「にげる」を実行しようと、潜伏スキルで存在を気取られないようにすっと空気と同化しようとして……

 

「どこへ行こうというのかね、この街を率いる冒険者パーティーのリーダーさんや」

「ふっ、どこって……自由を探しに遠くへさ。だからその手を離してくれ仮面の人」

 

厄介な人に捕まった。

俺の肩を掴む仮面の人の顔を見ると、いつも通り胡散臭そうな貼り付けられた笑み。

 

「まあ聞くがいい、この街随一の鬼畜と名高い冒険者よ」

「それはお前のことだ」

「……俺は誰かと組んで力を発揮するタイプ。ナンバー1よりナンバー2。これが俺の人生哲学。対してお前は一人でも十二分に力を発揮できるタイプとみた。というわけで一番はおまえに譲るぜ。喜べよ?」

「嬉しくねー……」

「照れんな照れんな。……ってそんな話をしにお前に待ったかけた訳じゃあないんだぜ」

 

別に照れてませんけど!?

ただ単純に本当に全く嬉しくないだけなんだが!

そんな俺の突っ込みが続く前に仮面の人は素早く俺の耳に顔を寄せ……

 

「このルーシーゴースト討伐依頼、実は一番簡単なんだぜ?」

「……一番?」

「そうだ。ジャイアントトードより危険がないかもしれない。が、お前さんたちのパーティーにしかできない依頼だなこりゃ」

 

そう意味深なことをつぶやいてきた。

 

ルーシーゴースト。

アクセルの街近くの山の麓に廃墟と化したマイナーな神の教会が建っている。

そこにいるのがルーシー――その神様の最後の信者だったそうだ。

 

この世界の神様というものは信者の信仰心を力としている。

それはつまりこのように自分の信者が一人もいなくなれば力を失い消えてしまうということ。

 

今思えば砦での一戦。

ウォルバクと戦った時に、お姉さんが半分透明で透けていた理由は……

めぐみんの爆裂魔法によって、お姉さんを信仰していた信者――つまり魔王軍の部下たちがやられ、 信仰心とともに自らの力も減っていたからだったのではないだろうか。

 

そんな話はさておき、敬虔な信徒であったルーシーは、自ら崇める神を絶やすまいと、死してなおこの世にとどまっているのだ。

そんなゴーストに成り下がってなお祈り続ける信仰心に、真面目で徳の高い聖職者ほどルーシーを祓うことを嫌がる。

加えて、ルーシーはゴーストながらに神聖魔法に対する強い耐性も持っている。

 

 

つまり何が言いたかったかって、非常に力が強く鬼畜でなければルーシーを払うことができないってことだ。

 

仮面の人が言うには簡単なクエストらしいが……

俺たちのパーティーにはプリーストがいない……強いていえば俺がそのポジション。

……仮に、仮にだ。

俺たちがこの依頼を引き受けたとして、そして依頼達成したとして。

それが意味することはつまり、俺がルーシーゴースト討伐し、より一層この街に「カズマってやつは鬼畜の極みだ」という噂が広まる。

 

うん、そんな仕事引き受けるわけな――

 

「この街の冒険者を率いて魔王軍幹部を討伐したこともあるこのカズマが、ルーシーゴースト討伐依頼引き受けよう!」

「……は?」

「流石カズマさん! この街で一番大物賞金首を討伐してきたパーティーのリーダーであるあなたならきっとこの依頼を完遂してくれると信じていますよ!」

「……えっ」

「やっぱにいちゃんすげー!」

「………………ふっ、任せて、おけぇ……」

 

――今、俺の声で依頼を引き受けた仮面の人、いつか呪ってやる!




復讐と傀儡の女神様の信徒は、めぐみんの話を聞いて成仏しましたとさ。
(※ふにくらとどろんこは誤字ではありません。めぐみんの名前を間違えかけたので仕返しでわざと間違えて名前を呼んでいるという)

次回、グリフォン・マンティコア討伐編
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