無事にルーシーゴーストを討伐してから数日が経過。
ギルドの受付嬢に餌付けされてしまったこめっこだったが、俺たちの活躍を(誇張して大げさに)話してやると「兄ちゃんたちすげー!!」とお褒めいただき、より一層やる気になってしまったのだ。
ちなみにこの後、めんこすぎて飴ちゃんやった。
そんなこんなで数日後――
どういうわけか俺は安楽王女の討伐を引き受けてしまった。
ただでさえ「あのルーシーゴーストを討伐した鬼畜冒険者のカズマ!」だの「プリーストでもない最弱職の冒険者なのに無傷で討伐に成功した真の鬼畜!」だの言われてるのにどうして……
「そりゃあこめっこにかっこいいところ見せてやるって啖呵切ったのは……」
「はい、カズマです……あああああ! 本当にどうしてこんなことに!」
案の定俺の敵じゃなかった安楽王女。
俺の除草剤パワーによって顔色を悪くし、命の危機を感じたのか死に際に雑草魂と言わんばかりに精神攻撃を仕掛けてきやがった。
が、俺たちは精神攻撃を受ける前にティンダーで討伐に成功するに至った。
……その後の消火活動で、焦るがあまりクリエイトウォーターで環境破壊したのはご愛敬である。
とまあこの件もあり、俺は否定し続けていた鬼畜冒険者の頂点に座してしまうことになってしまった。
昨日の今日でどうしてここまで出会う冒険者たちに「よっ、環境破壊コンビ! 環境破壊はほどほどにな」とか「動けないお姉さんに炎を放ったのよ、目を合わせたら燃やされるわ!」とか、言われるまでに……
クソッ、仮面の人の策略にはめられたとでも言うのか!
「何俺を睨み付けてるんだよ、自分の意志で鬼畜の座を奪還したご愁傷様な男よ。今回の安楽王女の件はマジでなんも関わってないぞ」
「いや、事の発端『ルーシーゴースト討伐』はお前が仕掛けた罠だろ。何自分は無実ですって面してんだよ」
「すまないとは思っている。だがこれもお前たちを思ってのことだ。ほらよく言うだろ、可愛い子には旅をさせよとか、獅子は我が子を千尋の谷に落とすとか。……それだ」
なるほど、俺たちの成長を促すためにわざとそういうことをしたのか……
いや、鬼畜の称号を得て成長することって何だよ!
「とにもかくにも、初心者の街とは名ばかりの好敵手にあふれているこの土地に根付いていた魔物の女王を無事仕留めたようで何よりだ。よっ、さすが!」
「そんな雑な煽て方されても……………………なあ、聞きそびれてたが、どうしてお前ここにいるんだよ、いつも神出鬼没なのに」
「ふふふ、言わなくてもわかってるだろう?」
「嫌だ、わかりたくない」
「いつも俺がいるときに厄介ごとに巻き込まれてる自覚がある冒険者よ、まだ最後に一枚塩漬けクエストが残っているだろう? あっコラ、耳を塞いで聞くまいとするな!」
大丈夫、大丈夫だ落ち着け。
まだ俺の自由は、厄介ごとを押しつけられるまでの猶予は残っているはずだ。
懸命に頭を回してどうにかしてこの事態を切り抜けるため――
「悪い、今日はこめっこにジャイアントトードの唐揚げとハンバーグを大量に作ってやる約束をする予定があるんだ。な、こめっこ」
「はぐはぐ! もちろん、にーちゃんの料理はてんかいっぴん。ぜひお姉ちゃんともどもやしなってください。じゅるり」
「こ、こめっこ!? 実の姉のことをダシに自分まで養ってもらおうとする奇想天外な発想には驚きですが、流石に……」
「もちろんだ! 俺の妹としてしっかり甘やかしてやる」
「わーい!」
「カズマぁあぁ!?!? それって実質的にプロ、プロポーズじゃ!?」
「というわけでこれから仕込みが俺を待っている。それじゃあ――」
俺はとっさに予定を作って家に帰るようにした。
めぐみんが何か顔を赤くして口をパクパクさせているが耳を塞いだ俺には何も聞こえない。
というか今はそれどころじゃない、死亡フラグ臭プンプンのこの状況から脱せねば!
急いで立ち上がり離脱しようとしたその瞬間だった。
「『バインド』」
「――あ、足がっ!?」
「地べたを這いずる芋虫男に、残念ながら伝えないといけないことがある」
「よ、よせっ!」
「……グリフォンとマンティコア2体の討伐クエストは無効にはならない。なぜなら――」
「やめろぉぉぉおおおっっ!!」
俺は叫んだ。
こめっこに悪魔が近づいたのを見て、一体何をしようとしているのか、どんな残虐無慈悲な所行をしようとしているのかを理解してしまったからだ。
それでも叫びは空しく、こめっこの耳にこの悪魔が囁いた。
「すべての塩漬けクエストが終わった暁にはギルドの職員さんたちに盛大な宴会を催してもらうことが決まっているからだ。なあ、こめっこ? 宴会は食べ放題なんだぞ?」
「にいちゃん、ねえちゃん。おいしい料理、きたいしている」
「う、うわああぁあぁあああっ!!」
俺の抵抗むなしく、すべては魔性の妹の仰せのままに始まってしまった。
グリフォンとマンティコア。
アクセルの街に似つかわしくない、そんな大物がこの近くに住み着いたのは今から2年ほど前。
自然に発生することはない創造魔法で生み出された魔法生物マンティコア、その後を追うようにこの山岳地帯でグリフォンの姿が目撃されたのだ。
この2体は毎日のように争い続け、近隣にまで被害を及ぼすようになったという。
そんな2体を討伐すべく、俺を含むアクセルの冒険者はその山岳地帯へ足を進めていた……のだが、ふと一つ思い出す。
「なぁ、仮面の人」
「なんだ、大戦を目前にチビリかけの冒険者。向こうに絶好の花摘みスポットがあるが……」
「別にトイレ行きたいわけじゃないわ! そうじゃなくて、この前言ってただろ、『グリフォンとマンティコア2体の討伐クエスト』って。さっきギルドのお姉さんから聞いたクエストの説明だとマンティコアは一体のはずなんだが……」
まさか仮面の人に限ってそんな間違いを起こしてしまったのだろうか?
俺をおちょくろうとするがあまりこんなミスをしてしまったのなら一度マジで本気でしばいてやろう。
もちろんそう思ったのは情報の重要性を知っているからであって、断じて最近俺に対する仕打ちがひどくなってきたことに対する仕返しではない。
そんなことを思って仮面の人を見ると。
「ああそうか、みんな知らないんだった。最近このクエストを受けるやつらがいないだろ?」
「それはそうだ、初心者の街らしからぬグリフォンとマンティコアの同時討伐だなんて……誰も受けたがらないだろ」
「そうだ。そもそもギルドの職員さんたちが初心者冒険者が受けないようにしょっぱい報酬にしてたんだよ。塩漬けクエストだけに」
「……ああ、なるほど。このクエストを誰も受けたがらなくなったせいで新しい情報が更新されてないってわけか」
「その通り。てなわけで、最新の情報を俺から話させてもらうが、最近マンティコアのオスがつがいを見つけてな。あの山岳地帯に生息してるマンティコアは合計2体になったわけだ」
なんてこった。
ただの1体でさえ強敵、そんなのが3体揃えばもはやクエスト達成は至難だろう。
3体同時討伐とか、なんて無理ゲーだ。
そんなことを思っていると仮面の人が。
「なーに討伐を中止しようみたいな顔をしてるんだ。大丈夫大丈夫、どうせめぐみんの爆裂魔法で一撃だ」
「それ、3発分必要なんだが?」
「3発分の火力はあるだろ、めぐみんと、お前と、それから俺」
「確かに。なんかそう聞くと大丈夫そうに思えてきたな。よくよく考えれば3体同時じゃなくてもいいよな。1体ずつ確実に仕留めていけば……」
「そのためには瞬殺していかないとな? 戦いの音を聞きつけた奴らはすぐに集まってくる。まあそれを利用して、上手い具合に1箇所に集めてやればめぐみんの爆裂魔法だけで3体同時に討伐だってできるはずだ」
……むしろ広範囲高火力だから他の冒険者が巻き添えにならないか心配だが。
そんな俺の心配を察してか、仮面の人は今回の討伐の注意事項を続けて話す。
「まあ、爆裂魔法級の魔法となると巻き添えが心配だろうが、そこはうまくやっていくしかないよな。つーわけで、そこら辺の指示とか作戦はよろしく頼んだ」
「人任せかい! いややるけどやるけども!」
「一番心配なのは敵に接近を許して、それで魔法が放つに放てなくなることだ。それと、マンティコアは俺たちの言語を理解する程頭がいい。強力な魔法を放とうとするとデコイスキルなんか無視して術者の方に襲いかかってくるからそこも注意だ」
グリフォンより力が弱いと思ったらなんて面倒な。
知恵が働くっていうのはどんだけ戦闘で厄介か思い知らされた。
だがこうして敵の情報を事前に知れたのは良かった。
ある作戦を思いつき、顔を上げて仮面の人を見ると……
「……なんだその悪役さながらの笑みは」
「なんだとは失礼な。お前の方がそういう顔してるぞ? なんかいい作戦を思いついたって感じの顔だ」
「まあ、その通りだ。俺とダクネスで敵を引き付けて、その間にめぐみんが離れた位置で爆裂魔法の準備。どうせ仮面の人のことだ、千里眼スキル持ってるだろ?」
「どうせとは何だどうせとは……まあ持ってるけど」
「やっぱりな。なんとかしてそいつら3体を一箇所に集めるから、仮面の人の判断でめぐみんに爆裂魔法の指示をしてくれ」
「……なるほどな。確かにそれなら比較的簡単に爆裂魔法を当てることができるかもしれない。いいと思うぜ、俺は。まあお前たちが引き付けミスったらか弱い俺たちの方に2体の強敵が向かってくるっていうリスクはあるが……」
「だからこその仮面の人だ。マンティコアは最短距離で近づこうとするはずだ。その場合はめぐみんと2人で爆裂魔法をぶちかましてくれ。グリフォンの方は俺たちで何とかする!」
マンティコアの知能を逆手にとった、我ながら悪知恵の働く作戦だ。
ライオンよりホモサピエンスの方が大脳がでかいことを思い知らせてやらぁ!
「ひぃぃぃいいぃいっっ! 助けてくださいごめんなさい!」
「オゥオゥ、にィちゃん。アやまってもオまわりさンは来なイぜ? その強力な魔力、魔法使イだろ? なら筋肉が少なくて柔らかくてンまインだ。一発で昇天させてやるからヨ!」
「誰でもいいから助けてくれ! でないと色々な意味で俺の大事なものが奪われる!」
俺は早速分からされていた。
そんな俺の悲鳴を聞きつけ、グリフォンとの戦いの途中だったダクネスがマンティコアにタックルを仕掛け俺からマンティコアを引き剥がす。
やっぱり筋力は全てを解決する、分かってんだね。
「私の男に手を出すな!」
「オウ、にィちゃん。もしかしてこイつとつがイか?」
「いや違います」
「んなぁ!? 即、断、だと……!? さすがにもう少し悩んでくれても……」
助けてもらったことには感謝している。
でも俺にはめぐみんという恋人がいるんで……
漢あふれてて惚れそうになったが、さすがに俺でもそこら辺の区切りはしっかりつけないといけないと思って。
その、ごめんな?
そんなこと思いつつダクネスの陰に隠れていると、どこからともなくもう一体のマンティコアがが加勢に来た。
その様子を見てしめしめと思っていると。
「オウ、にィちゃん。さすがに鬼畜が過ぎやしねェかワレィ」
「そうだぞカズマ! さ、さすがに私のことを勝手に振っておいて、そのくせ陰に隠れるなど……もしかしてこれはそういうハードなプレイなのか! 好きだったやつが実は寝取られていて、それを見せつけられるパターンなのか!」
「さすがに予想外ダワ。ドン引きダワ」
マンティコアにドン引かれつつ、グリフォンと攻撃を一身に受け、ボロボロになりながらもハァハァしているうちのヤバいクルセイダーは放置。
むしろ頭が回るマンティコアの動きをドMというだけで止めてしまったのは非常に嬉しい誤算。
俺は2体を加勢しに来た1体の方へ吹き飛ばすために風魔法の準備を始める。
と言ってもものの数秒だ。
ハッと正気に戻ったマンティコアだがもう遅い!
「『ウィンドブレス』――ッ!!」
いつぞや蟻地獄のようなモンスターを退治した時のように、仮面の人が俺とダクネスに対して使ったように風を吹かせる。
違った点は、仮面の人は俺達に手加減して放ってくれたが、俺の場合一切の手加減をしないチート魔法の威力をそのままにぶっ放したことだ。
遥か彼方まで飛んで行くんじゃないかと思うほどの暴風。
その荒れ狂う風が運んだ先は、さらに荒々しい熱風の中心。
空で花火が如く爆ぜたその一撃は、俺の風と合わさり酸素を激しく燃やす。
うちの大魔法使いがあげた勝利の祝砲を見届けた俺は魔力が欠乏してふらつき、ダクネスの背中にもたれかかった。
次回、12巻です。