あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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12巻 ゼーレシルト
11.逃れられない運命~優しい夢を~


つい先日のこと。

俺たちは冒険者ギルドにたまっていた塩漬けクエストを全てこなし、なんやかんやって最後にグリフォンとマンティコアを討伐し、アクセルの街にたまっていた様々な問題を片付けた。

そして、めぐみんが活動を過剰に報告したせいで、俺たちに大変な冒険者像を抱いていたこめっこの期待にも応え今度こそ平穏な日常を取り戻した……はずだったのだが。

 

「お前また新しい属性つけやがって。さすがにこの属性はシャレにならないだろう……」

「本当ですよ。まさか権力でバツネスを脱却したと思えば、まさかカズマと子をなしているなんて……とんだ痴女ネスですよ」

「ちちちっち違ーっ!」

 

自分そっくりな女の子を連れてきて、未だ往生際の悪いダクネス。

何でも話を聞けばこの子はダクネスのお袋さんの妹の子――つまりはいとこ。

名をダスティネス・フォード・シルフィーナ、病弱であるがゆえに喧騒とした場所では体調を崩してしまうということで、この街に越してきたという。

ダクネスのことをママと呼んでいたのは、この子は幼い頃に母を亡くし何かと世話を焼いていたダクネスのことを母親のように慕っているそうな。

 

「なるほど、なかなかよくできた設定じゃないか」

「確かに今のところ無理のない設定ですね」

「設定ではない! そもそもこの子の背丈を考えろ! 一体私がいくつの頃の子供になるのだ!」

 

ま、まあ俺は元から分かってて、単純にダクネスの反応が面白くて茶化して……う、ううう嘘じゃねーし!

疑うって言うんだったら俺の隣で帽子で目元を隠してそっぽを向こうとしているロリっ娘に言え!

激昂するダクネスのことを何とかなだめてていると、俺たちのやり取りを見て楽しめに笑っていたシルフィーナが突如咳をし出す。

病弱とは聞いていたが、旅の疲れが溜まってしまっていたのだろう。

こめっこのせいで父性を体得してしまった俺はひとまず休ませようと家の中のソファーにつれていき、毛布をかける。

血色の悪い青い顔でどこかに笑みを浮かべるシルフィーナを見て、俺はロリコンじゃないが、この笑顔を守ってやらねばなるまいと思ったのだった。

 

 

 

 

その日の夜にめぐみんが「仲間以上恋人未満になりませんか」と俺の部屋を訪ねてきたり、その翌日に2人でデートに行ったり――様々なイベントがあったが、そんな重大イベントがあったその日の昼。

まさかこんな立て続けにイベントがあるとは思わないじゃないか。

 

「皆さんに緊急のお願いがございます。そう緊急のクエストです。というのも本日で今年度末からちょうど1ヶ月となりました。今日が納税の最終日です」

「やばい嫌な予感がする……」

 

街の外にデートに行った帰り、冒険者ギルドから緊急の呼び出しがかかったので何があったんだと思い行ってみたんだが。

そういえば最近このギルド、こめっこが来てからというものの、冒険者たちのことをいいように使ってばかり。

ギルドの職員さんたちの顔を見て、同じ顔だと思い出し、今回も厄介なことに巻き込まれるに違いないと俺はそっとギルドの扉の方へ向かおうとしたのだが……

 

「この冒険者の中にまだ税金を納めていない人がいます。年収が1000万以上の方は今年度までに得た収入の半額が税金となりますので、どうぞお納めください」

 

そう言って、完全武装のギルド職員――もとい、ハンターが解き放たれたァ。

ハンターは、視界にとらえた冒険者を、見失うまで、追跡。

捕まれば税金を徴収されてしまうゥゥウッ!!

ランORマネー、逃走中。自分の稼ぎを、守り切れ!

 

制限時間は今日という日が終わるまで。

地獄を制したものにこそ免税がある。

こうして、今まさに、冒険者の逃走劇が幕を開け――

 

 

女神は俺に微笑んだようだ。

納税時間が過ぎ、日が沈んだ頃。

日中走り回り、ヘトヘトになった足で家のドアを開ける。

 

「ただまー……」

「昼から夕方までお勤めご苦労様である。詰め所に引きこもることで、犯罪者という肩書きとともに自分の財産を守り切った気高き男よ。まさか風の魔法で自ら警察署へ突っ込み、器物破損の罪で取り調べされるとは、俺の目でも見通せなかった」

「もしかしなくてお前がゲームマスター(黒幕)か! 自分だけこうなることを予知して安全な時間帯になるまで姿を現さなかったお前がよく言うわ。もうこちとら本当に大変だったんだからな!」

「本当に大変だったのだぞ! この男と来たら、公衆の面前で私の服を剥ぎ取ろうと……」

「ふははははは! そんなことを言って実はまんざらではないお二人さんよ、実はこれからの展開が一番楽しみなのであろう? そう思っているのだろう?」

「思ってにゃい!」

 

この後の展開と言うと、俺とダクネスが手錠で繋がれているせいで、どんなことがあろうと離れられず、一緒にお風呂入ったりトイレしたり……そういうことだろう。

絶対楽しみに思ってただろうダクネスのことは放っておき、約6時間ぶりのシャバの空気はうまいと深呼吸をしようと思って……

自然と我が家の生活に溶け込んでいる仮面の人を見て顔を引きつかせる。

 

「どうしてあんたがいんだよ! 普通ここで出迎えてくれるのはめぐみんだろ!」

「あの紅魔の娘には少々調べ物をさせているのでな、申し訳ないが今日は俺の料理だ。実家の料理だと思ってたーんとお食べなさい」

「調べ物? 一体何の調べ物だよ。もしかしなくても今回の税金の徴収をした黒幕を調べ上げるとか、そういうことか?」

「違う。その黒幕なら俺たちの目の前にいることだし直接聞けばいい。そんなことより――」

「そんなことじゃねえよ! えっ、まさかこの騒動の黒幕は……」

 

俺の横につながれているダクネスを見ると、悪事がバレた貴族さながらに悪い笑みを浮かべ。

 

「仕方ない、仕方ないことだったのだ。街の冒険者たちが塩漬けクエストを消化してくれたことはありがたいが、そのせいで冒険者たちは高所得になり、誰もクエストを受けなくなってしまったのだ」

「いいだろたまの休みくらい!」

「たまに程度だったら私だってここまでの暴挙はしない! お前たち、このまま税金の徴収も何もなかったら金が底をつくまで働く気なかっただろうに! ギルドのクエストを誰も受けなくなってしまったらモンスターが未だかつてないほど繁殖し、その結果街が脅かされる。それゆえに仕方がなかったんだ……。さあ、私のことを襲うなり襲うなり好きにしろ!」

「確かに冒険者が活動しないといけないなって珍しくしっかり領主してるお前に感心してたと思ったらこれだよ! 手錠かけられたせいでドM爆発させてんじゃねえエロティーナお嬢様! しかも人の前だぞ、時と場合を……」

「おっと失礼、我が輩はお邪魔のようなので一足先に退散させてもらうとしよう。めぐみんにはそれとなくおいしい飯をおごっておくからしばらくごゆっくり。お前たちのご飯にはラップかけとくから……」

「やめてくれ、お気遣い結構ですから! そうじゃなくてこの俺のことを今にも襲いそうな獣をなんとか!」

 

そんな俺の姿を見て仮面の人はにやりと笑う。

とてつもなく嫌な予感が背筋をゾクゾクと震え上がらせるが、今ここで頼れるやつは仮面の人しかいない。

俺の貞操か、嫌な予感か、どちらを取るかといえばより今確実に迫っている恐怖を取り除く。

 

「でもなぁ、この前『仮面の人が出てくる時、いつも厄介ごとに巻き込まれるんだ!』とか言ってなかったか? 今ここで俺にご帰宅願えば厄介ごとには巻き込まれないかもしれないぞ? 多分」

「多分じゃねえか! やっぱりどっちにしろ巻き込まれるのは確定なんだろ! この前言ったことは悪いと思うが、それでも事実なんだから許してくれ! どうかこの通りだ!」

「いやどの通りだよ! 俺の目に映ってるのは目を遮らせているダクネスに両腕を掴まれ、抵抗する間もなくファーストキスを奪われそうになっている哀れな冒険者しかいないのだが。そんな強引なファーストキスに若干の抵抗を覚えつつもがまんざらでもない冒険者」

「ま、まんざらじゃないし! そんな哀れな冒険者にどうかご慈悲を!」

「たく、しょうがねえなあ。止めてやるからちゃんと俺の指示通り動いてくれよ?」

 

ため息をつきつつも計画通りだと実に胡散臭い笑みで俺を見てくる仮面の人。

俺は一心不乱にコクコク頷くと、仮面の人は――ドレインタッチだろうか、それともフリーズだろうか、ダクネスの首筋に手を当ててダクネスのことを悶絶させ隙を作ると一気に俺たちを引き離し、俺たちを繋いでいた手錠を……

 

「なあ、どうしてお前ってばこの手錠の鍵持ってんだ? ダクネスに聞いたところによるとこの手錠と合う鍵はこのように一つしかないって話なんだが。しかもダクネスは鍵を捨てたって言うんだが」

「そのことか。実は逃走中に夢中な街中の冒険者たちが税金ハンターに追われて走り回ってる中、俺は黙々と屋敷の外にある草むしりしてたんだよ」

「人の家の庭を勝手に手入れすんなよ」

「水臭いこと言うなよ、俺とお前たちの仲だろうが。というか荒れ放題の庭を整備してやったのに非難されるいわれはないぞ」

「いや手入れしてもらったのはありがたいけど、絶対そういう感謝されたいって意図で草むしりやってたわけじゃないだろ! どちらかというと鍵を探すためというか……どうしてここに落ちてたのか知ってるのも甚だ疑問なんだが」

「単純にダクネスが鍵を放り投げている瞬間を見ただけだ」

 

としたらナイスタイミングすぎるだろ。

適当な言い訳のせいで真実は闇の中に葬り去られたが、俺の貞操は守られた。

そして、俺の予感通り……夢だと思いたかったが、悪夢のような現実に巻き込まれることになるのだった。

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