あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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11.遠い希望~心捕われていた~

俺とアクセルの冒険者たちは、我々の財産をむしり取ろうとした邪智暴虐の化身ダクネスを正体を曝いてやろうと、ダクネスの後をつけ、この孤児院にたどり着いた。

一時は「ダクネスと子供とのおねショタが始まるのでは!?」と勘違いし、色々な意味でドキドキしたがあの堅物なダクネスがそんなことするわけもなく、冒険者からむしり取った税金を孤児院に寄付して教材の提供をしていただけだった。

ちゃんと領主しているララティーナを見てお父さん感動しちゃった……

 

「誰がお前の父だ、シルフィーナはやらんぞ」

「そういう意味で言ったわけじゃねえよ。『あのお嬢様が立派になられて……爺や感激しました!』と同じ心境だわ」

「貴族としての私のことをほとんど知らないくせに『あのお嬢様』とか言わないで……なんだその目は」

 

普段の生活ぶりからしてだいたいどんなおてんばお嬢様だったか想像できるのでそんな反論されても……という目である。

あえてその事実を伝えない俺に不服な目をするダクネス。

やる気なら相手になってやろうかと思っていると、バタリと何かが倒れる音が聞こえてきた。

何事かと思ってその音がした扉を開けて見ると、そこには先ほどまで元気に遊んでいたシルフィーナ含む子供たちが硬く冷たい床にぐったりと倒れ込んでいたのだ。

 

 

 

 

「ふはははは! わんぱくキッズよ、今日も健やかに励んでいたか? 我が輩が迎えに来てやったぞ! さあ、わが仮面に触らせて欲しいものはちゃんと並び……おや、これは一体どうしたことだ。今まで平和だった孤児院がなぜこんなことに……」

「そんなのこっちが聞きたいわ! どうして…………」

 

孤児院に高笑いとともにやってきた魔道具店の死なないアルバイター。

みんなが倒れてるのもそうだが、どうしてバニルがここにいんだよ。

……と思ってみたが、どうせ悪魔のすることなんかろくでもないに決まっている。

 

「もしかしてこうなることを見通して、わざわざ悪感情を食べにきやがったのか? それとも……」

「我が輩は貴様のように性根は腐っていないので『我が輩が呪いをかけた』という勘ぐりはやめてもらおうか、疑心暗鬼でひねくれた考えを持つ小僧よ。我が輩は日々このアクセルに溶け込むために努力を欠かさない、街の治安を維持するのに一役買っているカラススレイヤーこと勤勉なバニルさんである。確かに将来子供が育ち悪感情を提供してくれることになればwin-winな関係というやつだろうが」

 

そんなカラス殺しとかいう珍妙な通り名を自慢げに話すんじゃない、恥ずかしいから。

でも、バニルの登場でより一層混乱が激しくなるかと思ったら、全然そうじゃない冒険者を見る限り特に不審な人物とは思われていないようだ。

俺が思うにそんな治安維持活動より、ほとんど同じ仮面をしたヤツが魔王軍幹部のデュラハンとか機動要塞デストロイヤーとかの討伐の際にめちゃくちゃ活躍してるのを知ってるから、その同類だと思われてるんじゃ……

 

「我が輩の超絶ハイセンスな仮面とあんな変な仮面のやつと同列に扱われるとは甚だ不本意である」

「……」

「何であるか、その何か言いたげな顔は。今はそんなことしている場合ではなかろう。早急にこの倒れふしているガキンチョを……」

 

……全てに突っ込みたい。

しかしバニルの言う通り、優先すべきは子供たちだ。

突っ込みどころしかないヤツの言うことに従うようで誠に不本意、不本意だが。

そんなことを思っていると、冒険者たちの手によって布団の上に寝かせられた子供たちに、バニルは手を当て。

 

「ふむ、これは厄介な……コロリン病に感染しているとは」

「なんだそのかわいらしい名前……」

「貴様が好いている紅魔の娘と同様におかしな名前をしているコレは、極めて特殊かつなんとも厄介な病だ。キャリアとなったものを媒介にし、しばらくの間はひっそりと潜伏するのだが、やがて時期が来るとこのように、周囲に即効性の毒素をばらまき出す。我が輩が見通したところそこの新参者の娘がキャリアのようだ」

「感染症みたいなもんか」

「そうである。治療方法は、キャリア以外の子供たちについては回復魔法と……」

 

治療方法は回復魔法……なんだ簡単じゃないか。

幸いなことに俺は回復魔法を使える。そりゃ本職とまではいかないが。

俺は子供たちの中で一番ぐったりしているシルフィーナに回復魔法を唱えようとして。

 

「おおっと、解毒魔法は取得済みかな? 回復魔法のみを唱えようとしてる、感染症の類には回復と解毒の魔法の併用が必須であるのも知らない箱入り小僧よ」

「そ、そうなのか!?」

「ふむ、やはり知らなかったか。人間は体調が悪くなったら総じて病だの呪いだのと称するが、この世に病に対する治療魔法は存在しないのである。なぜだか知っているか?」

 

魔法をかけようとした俺の手を取り、どうしてダメかその理由を問う悪魔。

回復魔法って言うからには体力が回復する魔法だろうに、怪我が回復する魔法だろうに、一体どうして病気で損なわれた体力回復には魔法を唱えてはいけないのか。

異世界出身でない俺には見当もつかない。

しかしめぐみんが――

 

「回復魔法の作用は、指定した部位の回復……つまり、もしも回復魔法のみで病の治癒をするとなると病原体を対象から除さなければ、病原体までもが発生してしまい回復するどころか悪化させてしまうのです。まあそんな芸当は不可能なので病治癒ポーションがある――と、紅魔の里ではそう習いました」

「ご名答である。というわけで、治療方法としては回復魔法と解毒魔法をかけ続ける。……のだが」

「コロリン病のキャリアとなっている患者には、特効薬が必要、ですよね。解毒魔法が効果を示すのは病原体が発する毒素のみ。キャリアに回復魔法を使っても病原体自体には無効です……普通は」

「その通りであ…………今なんと言」

 

「ドレインタッチ」

 

そんな声が聞こえてきた。

思わずその声がする方、シルフィーナが横たわっている方を見ると、そこにはドレインタッチをしている仮面の人。

先ほど回復魔法は意味がないと言われたばっかりなのに、今まで話に入ってこなかったこいつは……

そう思って俺は仮面の人に慌ててそれをするのをやめさせるようとしたが、仮面の人が片手で俺を制する。

 

「回復魔法はダメだと聞いてたし、そもそも最初から知ってる。そして、俺が今使っているのはリッチーの固有スキルドレインタッチだ」

「だからどうしたって!? 回復させようとすると病原体まで一緒に回復させて、治療の意味がないって……」

「この治療法の安全性と有効性はめぐみんに調べてもらった。これから解毒魔法も使うので話をするのであればそっちのMVPに頼む。『キュアポイズン』」

 

そう言って仮面の人は俺の方を見向きもせずに解毒魔法と思われるそれを唱える。

さっきより心なしか顔が穏やかになったシルフィーナを見て思わずめぐみんの方を見る。

 

「ふっふっふ……さっき言いましたよね。『回復魔法』では駄目だと。先日カズマとダクネスが脱税するために詰所にわざと捕まったあの日、仮面の人がドレインタッチによる回復はどうか調べて欲しいと私の元を尋ねに来たのです」

「あ、あのときいなかったのは……!」

「ええ。参考となる資料とドレインタッチを使えるウィズと話し、その結果ですが……なんと、ドレインタッチは病原体を活性化させる作用がないという結論になりました。つまり、たった今、この瞬間! 患者の体力を補いつつ、毒素を無効化し、かつ病原体は活性化させないという新たな治療法が実践されているのです! ……それにしてもまさかこの日のためだとは。どこぞの見通す悪魔よりためになりますね!」

「……頭のおかしい里にある頭のおかしい学園で主席だった頭のおかしい爆裂娘よ。どうして頭がおかしいのにどうしてそのような知識を知っているか疑問である」

「おい、私たちのことを頭のおかしいおかしいと連呼するのはやめてもらおうか」

「売られたけんかを買ったまでである。そもそも我が輩だって見通そうとすればそれくらいのことはできる……が、見通せばそれ相応の反動が起きる。代償が馬鹿にならない。考えなしにバンバン撃てば当たる精神で見通そうとする阿呆がいるとは驚きだ。なあ、貴様はその力に一体何を支払ったのだ?」

「……俺の聖なるドレインタッチは悪魔がいるとうまく発動しない。だからどっか行っててくれ。ほら、シッシッ」

「見通すまでもない、適当言うでないわ!」

 

怒り心頭なバニルのことを落ち着かせ、一旦魔道具店に戻りウィズを連れてくるように頼んでいると、今度は別の方からブツブツと文句が。

 

「一応これでも優秀なアークウィザードの出身地なんですよ紅魔の里は。学生時代の私は病治癒ポーションだって作成しましたし、コロリン病の特効薬の調合の仕方だって知って……」

「何っ!? それは本当か! 知っているのか! めぐみん!」

「だ、ダクネス、本当なので肩を揺らすのをやめてください! ぐわんぐわんして気持ちわ……あ、吐く、吐いちゃいます……」

「わ、すまない……」

 

自分の身内が重大な病を患っていると知り、半ば混乱状態のお嬢様。

今にもリバースしそうなめぐみんの顔を見て、慌てて手を離し、背中をさする。

俺は、めぐみんがかぶってるウィッチハットをスムーズに頭から外し、エチケット袋代わりに口元に当てる。

……あ、無言ではたき落とされた

 

「おい、私の帽子でエチケットを守ろうとするのやめてもらおう。もう今は特にぶちまけたい気分ではないので」

「悪い悪い、でも体のものを出すってことはそこに病原体が含まれてる可能性があるってことだし、病院の周りこそ清潔しなきゃだろ?」

「何でしょう。何なんでしょう、この男の言っていることは紛れもなく正しいのに釈然としないこの気分は」

 

きっとまだ気持ち悪いんだろう。

ダクネスの尋常じゃない筋力から繰り出されたあの揺さぶりは、脳を揺らす必殺の一撃。

なぜかこのパーティーの中で一番レベルが高いはずなのに一切ステータスが上がらなくなってきたせいで筋力のステータスが2人より低い俺だったら気持ち悪いどころか首が大変なことになっていたに違いない。

そんな攻撃を受けて平然としている魔法使いはどうかと思うんだ。

 

でもめぐみんがコロリン病の特効薬の作成方法を知ってるとなれば話は早い。

なんでも仮面の人が言うには「必要な材料のうちほとんどはカズマのを拝借して調達した。ついでに回復ポーションもご覧の通り」だそうで、俺にドデカいリュックサックを見せつけてきた。

後から来たウィズがそれを見て「あ、前購入していただいたポーションじゃないですか! おかげさまで先日新たな商品を入荷……バ、バニルさん? どうして無言で近づいてくるんですか? 殺人光線の構えはやめてくださいぃぃ!」と物騒なことを言っていたが、俺としては「何勝手に俺の貯金つかっちゃってんの!?」だ。

まあこの子供たちが助かるためのことなんだろうしいいけどさ、ちょっとくらい言ってくれたって。

 

まあ、そんなことはさておき、後は特効薬の原料を集めてめぐみんに調合してもらうだけだ。

そう思って俺はバニルの言うコロリン病の特効薬の材料がある場所、ゼーレシルト伯爵邸へダクネスとともに行くことにしたのだ。

大丈夫、面倒ごとになったがうまくいく……

……そう思いながらも、馬の尻をピシピシ叩いて速くさせたいと気持ちは焦っていた。




アクアの代わりに時間を稼げれば…………
でもバニルいるし、アクシズ教は勘づくからゼスタのおっさんは頼れない。

……危険だけど、最悪即天界に逃げればいいだろうし……うん、俺がやろう。

次回、カズマ死す。その死因は……

  • 回復ポーションの乱用による中毒
  • 回復ポーションかと思ったら爆発
  • 子供たちを助けることができずに
  • バニルに正体を見破られてしまい
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