あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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12.すれ違う距離~儚いまま崩れていく~

「カズマ、ちょっとこっちこい」

「何だ、仮面の人?」

「これはウィズ魔道具店においてあった試作品だ。昔おまえが作ろうとしたのを頑張って再現してみたんだとよ。んで、こっちが俺がさらに改良したブツだ。何があってもおかしくない旅だ、万が一に供えることに越したことはない、持っていくといい」

 

そういって手渡したのは避妊具モドキ。

別に、ダクネスといけない関係になれっていってるわけじゃない。

ただ、アクアの代わりにここにいるのだからアクアっぽいことした方が俺が辿った道筋通りになりそうだなって思っただけだ。

そして案の定その避妊具モドキはこっちの俺の手によってペシッと地面にはたき落とされた。

よし、どうやら順調らしい。

そう思いながら俺は孤児院に戻り、子供たちの看病をしながら二人が馬車で出ていく音に耳を澄ませるのだった。

 

 

カズマとダクネスが帰ってくるのはシルフィーナがコロリン病を発症してから3日目の朝。

1日目は馬車に乗り移動、2日目は朝方にゼーレシルト伯爵の屋敷に到着し、その後なんやかんやって合流したクリスとともに生爪を剥がすことに成功、そして3日目の朝には超特急で帰ってくるのだ。

そんな中、仮面の人と呼ばれている俺は何とかしてアクアの代わりを務めようと解毒魔法とドレインタッチを一心不乱に病で臥せった子供たちを解毒しつつ体力を分け与える。

今更ドレインタッチをアクセルの冒険者たち見られたところで問題はない。

だって……

 

冒険者D「えっ、仮面の人が使っている変な技だって? 何だよ今更、あの人は普段から変なやつだし変なのは普通だろ? そんなことよりちょっとそこのパチンコで一発当ててくるから金を貸してくれ。倍にして返すか……イデッ!?」

冒険者R「この馬鹿のことは無視して無視して。でもこいつの言う通り、むしろあの仮面の人がまともだったらおかしいのよ。鬼畜加減で言ったら最近はカズマの方がすごいって噂だけど誤差みたいなもんでしょ」

紅魔族M「クックック、私が見るにあれは闇の者が使う技。闇の道を歩みし者……これほど甘美なる響きを持つ言葉はありましょうかいやない!」

 

以上、俺が独自に行ったインタビュー調査であるが、ちょっと泣いていいだろうか。

俺は変じゃない、普通なんだ。

まあともあれ、ウィズがドレインタッチを使っているのを見られたら少々まずいことになるだろうが、俺が使ってる分には特に疑いもかけられないのである。

何ならダクネスの権力をちらつかせてもみ消すので問題ない。

というわけで――

 

「次の体力自慢は誰だ! 準備しておいてくれ!」

「おい、仮面の先生がHPパサーの準備をしろとよ! 野郎ども、先生と貧乏店主さんが用意してくださった回復ポーションは飲んだか!」

「もちろんだ! せんせぃ、俺の命ギリギリまで吸い取ってくれ、子供のためだと思ってよ!」

 

――街の冒険者たちにとって俺のドレインタッチは「なんかよくわからない仮面の力による不思議なスキル」という認識になっており、冒険者たちからこの能力を「HPパサー」と名付けられ、今も俺は取り調べを受けることなく元気に街の中で闇医者をしております。

気分はさながらブラックジャック。

 

というわけで1日目はなんとかなった。

眠気も疲れもドレインタッチで回復できる。

子供たちの様子も安定してたし、それくらいの余裕はあった。

 

だが2日目はそうはいかなかった。

そりゃそうだ、冒険者たちに協力してもらってドレインタタッチで体力を分けてもらったり、冒険者の体力がなくなったら回復ポーションを死ぬ気でがぶ飲みさせたり、いろいろ最善は尽くしたが、相手に接触しないと発動しないこの技で大勢の子供たちをまんべんなく回復させるなんて……

解毒魔法も本職にはやはり及ばない、本当に気休め程度の治療。

見通しが甘かった、楽観的すぎた、そう言わざるを得ない。

 

毒に蝕まれている子供たちのうち半分ほどがなんとか回復魔法と解毒魔法なしで回復してきたが、特に症状が重く出ている子たちは未だにものすごい勢いで体力を消耗していくし、体力を削る毒素を自己治癒力でなんとかできるレベルまでは程遠い。

特にキャリアであるシルフィーナに手厚くかけているが、回復の兆しは見えず、むしろ……

 

今頃ダクネスが立派な屋敷の地下闘技場でオーク先輩と戦っている頃だろう。

まだ折り返し地点という時にシルフィーナの病状は急変。

悪魔の爪以外の材料はそろっていたのでめぐみんが――

 

「今ならまだ間に合います。私が悪魔召喚の儀式を始めますので街中の冒険者を集めてください。それで爪を剥ぎ取れば」

 

――などと言い出した。

しかし、悪魔召喚は禁術……エリス教が国教の国なら当然だろう。

いくら人を助けるためとはいえ、そんなことを行ったことがばれたら国が動いて指名手配犯の道まっしぐらである。

 

どうする、どうすればいいんだ……

水を飲むことすらままならない子供たちを見て歯を食いしばる。

何とかしてこの場をつなぎとめねばと、徹夜明けの鈍った脳で思考し……

 

 

 

 

俺はできることをやった……が、やっぱり人には向き不向きがあるもんだ。

どうせあの場で俺が奮闘し続けたところでその甲斐なく犠牲が出てしまったことだろう。

それに、あのままあそこにいたらバニルに正体を見破られてたって可能性もなきにしもあらず。

寝ぼけて蓋を開けて飲んだそれが頭をすっきりさせてくれたおかげで、冷静にどうしようもなく実力が不足していたことと危険な状況にいたと改めて考え至る。

できるだけ本筋を壊さないようにするためにも大きく動きたくはないんだが、やっぱりここは俺の得意な方面でコロリン病と戦ってやるしかないか。

そんなことを考えていると肉体の感覚が戻り、目を開けるとそこはいつもの場所が広がっていた。

 

「ただまー……ケホ」

「おかりー。もう死ぬことに対して恥もへったくれもない感じのカズマさん、今回はどんな死に方したの? 寝癖がすごいしもしかして寝てるときにめぐみんにいたずらされたの? 修羅場かしら、ダクネスとめぐみんの三角関係の修羅場かしら!」

「昼ドラにはまってるのが丸代わりだぞ駄女神。あと爆裂魔法で殺害されてないわ! ……ケホ」

「ねえねえ、さっきから気になってたんだけどその口から煙を出す芸を教えなさいな。今ならこのシュワシュワを贈呈するわよ?」

「……女神チェンジで」

 

さっきのさっきまで奮闘をしてたのにこいつときたら……

もっと女神らしく俺の頑張りを見ててくれよ、そして褒めて褒めて甘やかせよ!

見てくれだけはいい青い駄女神様に出迎えられ、そんなことを思っていると。

 

「残念でした、今エリスは地獄は悪魔の爪が取り放題なんとかって言って私たちの方の世界に走って行ってしまったのでした。でした!」

「いや止めろよ! 今頃地獄が阿鼻叫喚して大変なことになってるんじゃないか!?」

「まま、そんなこといいじゃないの。それより私が直々にお出迎えしてあげたのに不服そうな顔をしている理由とどうして死んだのか、その理由を洗いざらい聞こうじゃないかしら」

「そんなことじゃなっ酒臭っ!」

 

この香りがもっとフローラルでフレグランスな感じだったら考え直したかもしれないのに。

鼻をつまんでその顔を見ると目が据わっていて神聖さの欠片もない。

……でも、それでもこいつはこいつで意外とスゲェやつなんだよなぁ。

 

「なあアクア、お前って聖職者としての実力は本当にすごいよな」

「えっ、急にどうしたのカズマさん? 普段私のことを褒めないのにそんなこと言って、熱でもあるのかしら? 特別製のヒールはいかがかしら?」

「本当にお前ってやつは……」

 

コロリン病を回復魔法と解毒魔法で乗り越えてしまったアクアに感心やら、ヒールをかけたところでこのもじゃもじゃ頭は治らないだろと呆れやらが何とも言えない表情を生み出す。

もういっそのこと、次俺が生き返る時にはアクアじゃなくてエリス様を転生特典にして転生し直そうかと真面目に考え始めていると。

 

「カ、カズマさん! お出迎え遅くなりまして申し訳ありません!」

「ああ、お帰りなさいエリス様。別に気にしてませんよ? ってかウィズの店に行ったと聞いたんだが……その後ろで死にかけてるウォルバクさんは一体どういうことだ?」

 

突如現れたエリス様の方を見ると、その後ろには息切れ切れでフルマラソンを走りきったかのような様相のお姉さんが。

ささっと余計なものを見せまいと言わんばかりに俺の視線に立ち塞がるエリス様だったが、ウォルバクさんが。

 

「はぁ……はぁ……っあ、あのね、私、止めてきたわよ……ぜぇ……」

「お、お疲れさん? でも、止めるにしてもどうしてそんなに息絶え絶えに……」

「私、エリスさんの腰にしがみついて止めようとしたわ。でもこの人、私のことをまるでキャリーケースのようにズルズルと引きずって……こんな華奢な見た目なのに一体どこにそんな筋肉がついてるっていうの?」

 

そんな言葉を聞いて俺は思わずエリス様の方を向く。

ビクリと肩が跳ね上がり、わざとらしくはあはあと疲れたような息づかいをするエリス様だったが、その顔は疲れではなく、お転婆な一面を見られたと思って恥ずかしがって赤に染まっていた。

俺がじっと見つめていると、エリス様はコホンと咳払いし。

 

「カズマさん。残念ながら高位の悪魔の爪を持ってこれませんでした。少しくらい力になれればと思っていたのですが、平行世界の時間の流れが速すぎるせいでこっちの世界での捜索もままならず……」

「とかなんとか言って、実は悪魔のことを滅ぼしたいだけ。デーモンスレーヤーの血が騒いだだけでしょ」

「そ、そんなこと……ありません、よ?」

「……そういうことにしておいてあげます」

「あ、ありがとうございま……い、いえ待ってください! 私、本当に血が騒いだとかそういうんじゃないですから!」

「はいはい、わかってますって」

「わかってません! やり直す前にちょっとばかりお話をしましょうか!」

 

目をぐるぐると回し、エリス様は混乱しているようだ。

今更取り繕っても遅い現状なので俺はエリス様の話に適当に相づちを打ちつつ、どうすればアクアなしでコロリン病を封じられるかについて頭を回すのであった。

 

「あの! カズマさん、聞いてますか!? ねえ、カズマさん!」




ということで爆発ポーションで爆死したカズマさんでした。
アンケートに参加してくださった皆さん、ありがとうございました。
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