あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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12.暗闇に浮かぶ月~仮面は笑う~

「というわけで、やってきましたゼーレシルト伯爵の屋敷~!」

「いやどういうわけだよー!? 俺たち、税金から逃げるためにお前の提案に乗っかっただけなのにどうして行き先が貴族の屋敷なんだ!?」

「だから言っただろ、最後まで人の話は聞けって。それを無視したのはどこのどいつだったか……」

「いや、あの……サーセン」

 

勝てない。

いや普段だったら全然口論してやるんだよ?

でも今日はなんだかよくわからないが、今回に限ってはいつもにまして圧がすごい。

しかしその有無を言わせない雰囲気は俺がポツリとこぼした謝罪で霧散した。

 

「わかればよろしい。ではでは、今回のターゲットこと、ゼーレシルト伯爵の情報について!」

「おい、今ターゲットっつったか!? いやあのマジすいませんでした。本当に、人の話これからよく聞くことにするんで何卒ご説明を……」

「今回のお仕事は簡単! 伯爵の屋敷に潜ってとあるものを強奪! 以上!」

「テンションの落差すごいなぁー。つまりは盗賊団の仕事ってことか。具体的に何を盗むんで?」

「詳細はもう1人の団員が揃ってから話すが、ざっくり言うと今回は今後必要になってくる特効薬の素材を既得の屋敷からちょこちょこっと……」

 

特効薬?

魔法がある異世界なんだからそんな薬がなくったって、ゼスタのおっさんとかに万事解決だろうに、どうしてそんなことを……

まあ仮面の人のことだ、何か考えがあるに違いない。

そう思ってとりあえずもう一人の団員(クリスのことだろうが)を待とうとしているから、いきなりダクネスが、

 

「おい! まさか善政を敷いているというあのゼーレシルト伯爵のところに襲撃をかけるというのではあるまいな!? そんなこと私は断固認めん、認めんぞ! そもそもの話、貴様たちが義賊として悪徳貴族の屋敷に潜入することですらかろうじて黙認できるレベルなのだ! 悪徳だけではなく良識のある貴族にそのような行いをするような活動は王家の懐刀として断固認めん!」

「シャラップ!! 何も知らないあまちゃんが知ったかぶりして俺たちの活動にいちゃもんつけんじゃねえ! そもそも自分の仲間を前科者にしようとしたやつが言えることかぁ、ああんっ!」

「そ、そそそれとこれは別問題であろう!? そもそも貴族としての私はなかなかに評判が良い方だ。それこそ政治面に関してもなかなか顔がきく。機密情報のいくつかだって知って……」

「世界の闇を何も知らないお嬢様が口を出すことではない……なーんてな!」

 

一瞬だけ仮面の人の雰囲気が真剣なものへと変わって、その重圧が重くのしかかる。

思わずビクッと震え口を結んでしまった。

しかしその圧はすぐに明るい口調と共に溶けてなくなる。

 

「まあ結局何が言いたいって、だがこれだけは理解して欲しい。俺は世界平和のために戦っているんだ」

 

すごいキラキラした目で(仮面越しで見えないが)訴えかけてくる仮面の人。

何だろう、すごい本当っぽい言葉なのに仮面の胡散臭さが拭いきれない。

確かに今までの魔王軍討伐とか大物の賞金首の討伐実績を考えるに、この人がそういう良い行い以外で力を振るうようなやつじゃないのは知ってるが、だとしても胡散臭すぎる。

嘘をつくとちんちんなる魔道具を持ってきたいぐらいには。

そんなと思っているとダクネスが仮面の人に。

 

「う、うん、確かにそうだな、仮面の人のことだ世界の平和のために戦ってるに違いない! うん、きっとそうに違いない!」

「おい、俺の目を合わせてもう1回その言葉を言うんだ。そうすればその言葉を信じてもいいが、さっきはどうして目をそらせながら言ったんだね?」

「あぁ……あの、本当に勘弁してください……」

 

俺と同じことを思っていたのだろう、先ほどまであんなに激昂していたダクネスは顔を覆いながらそんなことを言っていた。

かわいそうに。

仮面の人の口撃はアクセル随一の鬼畜の称号通り人一人撃沈させること容易いことこの上ないのだ。

そんなことを考えていると少し遠くから、俺たちの方に手を振りながら寄ってくるどこか見覚えのある盗賊の姿が。

 

「ようやく、本日の主戦力がおいでなすったようだ」

「主戦力ってクリスのことか? どちらかっていうと仮面の人の方が戦力ありそうなんだが……」

「いやいや、実際のところ俺はそんなに強いわけじゃあない。いやほんとマジで」

 

謙遜がすぎると嫌味になるのをこの人は分かっていないのかもしれない。

社会に出るとそういうことを教えてくれる人はいなくなるから、代わりに俺がそういったことを教えてやった方がいいのだろうか……

それにクリスもある程度レベルが高い盗賊ではあるものの、戦士や魔法使いのようなバリバリ攻撃に特化した職業ではないし、強いかどうかと言われれば疑問なところである。

そんな盗賊団のお頭が小走りしてきて。

 

「ごめんごめん、待った?」

「うん待った」

「ええっ!? そ、それは本当にごめんだけど、だけどこういう時は嘘でも『今来たところ』っていうところじゃ……!?」

「別に恋人でもないのにそういうことを言い出すとは……残念なことにこの二人はすでにやんごのっぴきならない関係。なので余り物同士仲良くやっていこうではないか、ふははは!」

「えーっ!? のっぴきならない……ッ!?」

「ちょっと待て仮面の人!? そうやってクリスをからかうのはやめてもらおう! 大丈夫だクリス! まだ私はこの男と何もしていない!」

「ま、まっままんままだぁあぁああ――ッ!?」

「ちち、ちがーっ! これは言葉のあやというもので……! 女神エリス様に誓ってそういう事はしてな――」

「お前らさっきまで手錠プレイなんて高等なプレイを街中でしてただろうに」

「や、やっっやややぱりそういうことなの!?」

「そういうことだ。なんなら今夜、手錠プレイのままこの男のファーストキスは奪われることになる。しかも軽くないやつ」

「ファ!? ファーストキスぅ!? お、大人だぁ! 私の無垢で何も知らないたまにおっちょこちょいの可愛い親友がいつの間にか私を追い越して大人になってたの!?」

「ちょっと落ち着けクリス! 仮面の人の戯れ言だ! 何もしてないって言ってるだろうに!」

「でもでもダクネス! この仮面の人が言うことだよ!? 不気味なまでに説得力あるよ!? ねえ助手君!」

「ちょっとお頭は黙っててください! そんなことより!」

「そんなこと!?」

「俺がそんな特殊条件下でファーストキスをする羽目になる経由をもっと詳しく! もしかして俺はダクネスにそうやって強引にキスを奪われちゃうの!?」

 

『君………もうめぐみんとキスはしたのかい? まだだよなァ 初めての相手はめぐみんではないッ! このララティーナだッ!』されちゃうの!?

『ズキュウウウン!!』されちゃうの!?

さらに『さすがララティーナ! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ』『そこにシビれる!あこがれるゥ!』されちゃうの!?

 

「たわけ、そんなことするか! というかもう手錠は外れているのに何を言ってるんだ!」

「いや、もしかして嫉妬に狂ったダクネスが、俺とめぐみんの恋仲を引き裂くのに躍起になってるのかと思って」

「私としてはお前たちがそういう仲になってるのが初耳なんだが!? ちょっとそこを詳しく!」

「あわわわ! 本当に手錠プレイとかいうのしてたんだ……! カズマくんってめぐみんとそういう関係なのにダクネスと一線超えちゃってるの! 私はそんな爛れた関係の第1目撃者として裁判にお呼ばれしないといけないの!? 私が子供だから、何言っているかがわからないの!?」

「うむ、そういうことなのである。大人の階段をまだ知らないいたいけな少女よ。そして今夜この仕事が終わったら、何か良い感じの雰囲気に流されて、自慢の攻撃で男の腕を押さえながら口でズボンを下げる変態令嬢の姿が見える見える……そしてその後めぐみんに見つかって正座させられる2人も見える見える……」

「ちょっと待て、期待させるだけ期待させておいてもしかしてお預けなのか!? そして何で俺も土下座するはめになってるのか、そこんとこ詳しく!?」

 

俺たち3人に詰め寄られる仮面の人。

分かった分かったからと俺たちをなだめ、1つ深呼吸をする。

 

「…………さーて、これからの予定について話すぞー。みんな話聞けー」

「「「聞けるかっ!!」」」

 

場を乱すだけ乱して、何食わぬ顔で元の話に戻ろうとする仮面の人に向かって俺たち3人の声が重なった。

 

 

 

 

 

「はい、というわけでやってきましたゼーレシルト伯爵の邸宅!」

 

なんか始まった……

 

「盗む品物は高位悪魔の爪! というわけで本日は悪魔スレイヤーを生業にしている専門家こと、敬虔なる女神エリス様の信徒(笑)であらせられます盗賊団団長クリスさんをお招きしております!」

「どうも、ご紹介にあずかりましたクリスでーす! 悪魔は死ねばいいと思いまーす!」

 

もう帰っていいだろうか。

 

「ご帰宅されるのはまだ早いぞ、ダクネスとめぐみんとどちらとイベントを進めればいいか迷ってソワソワしている男よ」

「しっしてねーし! そんなことよりなんかの特効薬に使うのを盗ってくるんじゃなかったのか? どうして悪魔の爪とか言うむしろ病気になっちゃいそうな代物を盗もうとしてんだ?」

「そうなの? 私は悪魔がいるからついて来てって言われたんだけど……というか特効薬って言うともしかしてコロリン病かな?」

「ご明察である。さすが専門家。そもそも病気、特に感染症についてはそういう呪いの品が必須なのである。病原体をぶち殺すためにな」

「……南○先生のペニシリンみたいなもんか? 確かにあれもカビとか使ってたし、カビなんて食べたら体弱りそうなもんだが……」

「全てのものは服用量次第で毒となり、それすなわち薬とは毒である。どこかの偉大な人がそう言っていた気がする。つまりそういうことだ」

 

なるほど、毒を以て毒を制す……てことか。

そして今回のコロリン病の特効薬について、確か江戸で流行った病もコロリとか言ってた気がするし、似たような名前だがそれと同じ類なのだろうか。

 

「もしかしてお前の未来視でそういう流行り病が来るって予知したのか?」

「当たらずとも遠からずというところだ。勘がいい小僧は嫌いじゃない」

「……流行るのか」

「流行るというより、最近アクセルの街に越してきた一人の少女を中心として子供たちが毒素にやられるという事態が発生しうる、というべきか。まあ、その他の材料は全てアクセルで揃うし、この薬を調合できる頭のおかしい紅魔族もいる。懸念すべき高位悪魔の爪以外はどうとでもなるので、こうしてその懸念事項を事前に何とかしておこうという算段だ。正直仮面の悪魔の助言に頼ってもいいのだが、それではいかんせん遅すぎる」

 

遅すぎるという言葉に何が起こるかを想像してしまい胸がずきりと痛む。

しかし今はそれを回避しようとしているのであって、今俺がすべきは未来の可能性に胸を痛めることじゃない。

俺たちはその悪魔の爪を持っているという貴族様のお屋敷へ突入し――

 

 

「私は税金は納めたぞ! 無礼者!」

「ひかえひかえぃ! このペンギンを誰と心得る! この死ぬほどかわいらしい皮を被ったこれの正体こそ、この土地の領主にして、残虐公と悪名高い貴族の悪魔、ゼーレシルト様だ!」

「いや、なんで怪しげな仮面をかぶった部外者が私の紹介をして……って貴様らは王都で騒ぎを起こしたという盗賊だnいっったああぁぁあああっっ!?!?」

 

 

初っぱなから悪魔を殺しにかかるクリス。

目からハイライトが消失したそのデーモンスレイヤーと俺たちの激戦。

ダクネスが悪魔と相性がよすぎて気絶。

悪魔絶対殺すウーマン・エリス様降臨。

「匿う代わりに生爪剥がさせろ」ニコリと悪魔を脅す仮面の人。

……

いろいろあったが、とりあえずめぐみんのおかげでシルフィーナたちが全員助かった。

めでたしめでたし!

 

あと、仮面の人の悪魔に対する悪魔の所業は俺が街中に広めた。

かくして、俺はナンバー2の鬼畜に戻ったのだった。

めでたしめでたし?




戦闘描写は泣く泣く割愛です。
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