あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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悪知恵働かせて必死に体張って……
そんな頑張ってるカズマさんが好き。


2.最弱職の勇者~俺は頑張った~

転移先は街の門から少しだけ離れた、遮蔽物も何もない平原……だった場所。

今は爆裂魔法が連日撃ち込まれ、平原と呼んでいいのかわからない荒れた土地。

 

俺がいた世界だと、アクアの超絶技巧で一日もかからずにクレーターの処理が終わっていたはずなのだが……

一つ言えるのは、俺の転生特典は土木工事チートの疑いがあるって事だ。

 

とにもかくにもこの世界のこの場所は遮蔽物満載。

潜伏スキルし放題。

ワンチャン、デッドリーバックスタッブで即死を狙え……はしないか。

悪魔だもんな、急所なんてないだろ。

それでも俺のために用意されたって言っても過言じゃない戦場だ。

……まあ、万が一戦う羽目になったらって話だが。

 

俺の目的はあくまでホーストの足止めだ。

口先八丁でアクセルの街の中に入れないようにするだけでいい。

そうすれば、爆裂魔法の準備が整うまで時間を稼げれば後はめぐみんが決めてくれる。

ここなら誰も爆裂魔法の巻き添えになる心配もいらないから思いっきり撃てるだろ。

 

そんな中、視界に入ったのは例の悪魔。

ホーストとかいったソイツが少し離れた位置で、ここがどこなのか状況を把握するために辺りを見渡していた。

しかし俺が転移したのを察知したのか、悪魔は忌々しげに眉を顰め、先ほど横やりを入れた俺に対して腹立たしげな様子で声を発する。

 

「テレポートでご登場たぁ斬新な登場の仕方だな、仮面の不審者さんよ。俺をこんな、街からちょいと離れた辺鄙なところまで連れてきやがって……一体何する気だ?」

「そんなこと、言わなくてもわかってるだろ?」

「ったく。口に出さないと伝えたいことも伝わらないって知らねえのかよ」

「口に出さない趣ってのもあるだろ? それに、これから地獄にお帰りになる悪魔さんに何言ったってしょうがないからな」

「はあ……俺を倒そうってか? 見た限り魔力も筋力も俺より遙か下、勇者気取りのオマエが?」

「筋力とか魔力とかが低いとか、俺が結構気にしてること言うんじゃねえ!」

「はいはい、悪感情ごちそーさん」

 

本当は意味ありげに話して相手を俺の術中に嵌めて混乱させて話を長引かせたいだけなんだが……

俺、コイツと話したくない!

どうしてコイツ、俺が嫌がること的確に言って……くそ、そう言えばコイツ悪魔だったわ!

なんかめぐみんとの会話を見る限り結構常識枠だって思ってのに、根っこのところの悪魔部分はバニルとかと全然変わんないな!

心の中で喚いていると悪魔は呆れたような感じでため息をつき。

 

「お前みたいな変な野郎に構ってる余裕はねえんだ。ウォルバク様を探しに行かせてもらう……だから退きな」

「あちょっと待て! 正直俺だって退きたいし、面倒ごとに首を突っ込みたくないんだよ! ……でも生憎仲間の信頼とエリス様の期待背負ってんだこちとら。ここで引いたら漢が廃るってもんだ」

「エリス様の期待だって? オイオイ、また頭のおかしい宗教家かよ。俺を見るやいなや襲いかかってきた聖騎士と盗賊みたいなやつらは御免被るぜ……ってかバニル様の仮面に似てるな。そんなレアもの一体誰から貰ったんだ?」

「……俺はバニルとはちょっとした知り合いなんだ。定期的に取引する仲だったな」

「地獄の公爵相手に取引? しかも定期的にだあ? ……嘘の気配も感じ取れねえしホント何もんだよテメエ」

「あいにく、悪魔に名乗る名は持ち合わせてないな」

 

嘘です、本当は名乗るだけで命の危ぶみを感じるんで話せないだけなんです。

それと自分で言っておいてなんだが、悪魔――それも最上位の公爵級と定期的に取引するのって頭が狂ってるヤバいやつがすることだな。

そうしているとホーストは首をかしげ。

 

「いや、せっかく名乗りの機会やったんだから名乗れよ紅魔族なら」

 

おおっと、もしかしなくともこの悪魔、俺のこと紅魔族だって勘違いしているらしい。

確かにさっきの会話は中二くさかったが、紅魔族と間違えるだなんて流石に俺に失礼だ。

 

「何をどう勘違いしてあんな頭のおかしい連中に間違われなきゃならないんだよ!」

「ん? オマエ……紅魔族じゃなかったのか? 普通紅魔族なら名乗るだろ、我が名は……って」

「だから違うわ、どうして俺のことあんな頭のネジはずれてる集団の一員だって思ったんだよ!」

「いやだってよ、オマエ紅魔族特徴満載だろうが。黒い髪、悪魔的センスの仮面、その奥に赤く光ってる瞳、意味もないのにたなびかせてるスカーフ、テレポートを使える魔法使い……シンプルに紅魔族の見本だろ」

「ちゅちゅちゅ、中二病じゃねえしっ! 喧嘩を売ってるなら買おうじゃないか!」

「ほらそれも。紅魔族は売られた喧嘩は買うって流儀らしいし、本当に典型的な紅魔族じゃねえか」

 

俺はもしかしたら紅魔族なのかもしれない。

……いや、俺は紅魔族じゃない、中二病でもない!

この悪魔、俺の心に的確に刺さるブローを仕掛けてきやがって!

強いて言えばめぐみんと一緒に過ごした時間が長すぎて中二病が軽く伝染しただけだわ!

憤りを感じていると悪魔がこう続けた。

 

「そんな身なりしてんだ、どうせ名前もヘンテコなんだろ? あの常識がなってる紅魔の娘みたいに恥ずかしいって思ってんなら無理強いはしねえが」

「ヘンテコちゃうわ! 俺は佐藤……いやいや、何名乗らせようとしてんだよ!」

「サトウだぁ? 懐かしい勇者の名だな。さながら気分は勇者ってか、笑えるぜ無謀もんが。テメエ、過去の偉人にでもなったつもりでいると痛い目に遭うぜ。それとも何か、自分は時を超えてやって来た勇者サトウ本人とでも言って俺のこと笑わせてくれんのかぁ?」

 

悪魔はニンマリと笑って俺の悪感情を貪る。

喋り方相まって人相がメチャクチャ極悪な悪魔さん、痛い目に遭いたくないんで帰ってもいいですか?

目を逸らしたくなる現実から逃げたいと、心の中で決して叶わない本心を叫びつつ、目の前にいる悪魔をもう一目みて、ため息をついた。

 

「お? どうした、観念して退いてくれる気にでもなったか?」

「いんや、エリス様も無茶なお願いするよな……って思っただけだ」

「急に何言ってるんだ? 意味わかんねえこと言ってんじゃねえ。普通神が信者の願い叶えるだろ。……ってなんだぁ? 嘘の香りがしねぇぞ……こりゃ一体どうなってやがるんだ? まさかとは思うが自分のこと使徒か何かだと信じ込んでる狂信者なのか?」

 

そりゃそう言う反応になるのもわかるけど、実際の出来事なんだわな、これが。

本当、最弱職の俺に「上位悪魔を滅ぼしてください」とか、本当に馬鹿げてる。

そんなの俺に出来るわけないだろ、常識的に。

 

だが俺のそんな思いとは裏腹に、エリス様は俺が成功すると信じて疑わない、期待に満ちた目を向けてくるんだ。

 

そんな期待を背負っているのに、どうしてか、俺はやる気に満ちていた。

それは俺の活動時間である夜の帷が下りてきたせいか。

冒険心が奮い立っているのか。

期待に応えたいと俺らしくもなく思っているのか、それとも……

 

 

勝ちを確信したからか。

 

 

結局何が原因で昂っているのかはわからなかったが、俺はやる気のままに、仮面をくれた悪魔のように高笑いをした。

 

 

「フハハハハハハハッ!! 俺に対して無駄に警戒して、滑稽、誠に滑稽なり!」

「ほ、本格的に狂いやがった! あと狂ったからってバニル様みたいな喋り方すんじゃねえ!」

「狂ってないわ、たわけめ! しかしながら、たわけのくせになかなかどうして、言い得て妙なことを言う……勇者サトウか。時を超えてやってきたと言ったり、勇者を名乗ったりした覚えはないが、本当に言い得て妙だ!」

「何言って……ってまたかよ! どうして嘘ついてない感じなんだよ! もしかしてだが、元々狂ってたのが恐怖でより一層狂いやがったのか!? 俺、そんな怖い顔してるつもりないんだが……」

「勘違い甚だしい哀れな木っ端悪魔、汝が運命は定まったのだ。そう、破滅の相がくっきりと浮かんでいる!」

「破滅の相だあ? バニル様と違って人間の占いは不正確なもんだな。俺がお前に殺されるって言いたいなら甚だおかしいだろ。さっきの不意打ちだけで勝てるって踏んだんなら馬鹿なこった。実力差もわかんねえどうしようもない馬鹿じゃあるまいし……」

 

実力差なんてもんは俺が一番よくわかってる。

なんせパーティーメンバーの中で、魔法使いのロリっ子にすら筋力で負けるカズマさんだぞ!

……自分で言ってるのになんだか涙ちょちょぎれるぜ。

 

そんな、もやしっ子な俺だが、それ故に強い気配を漂わせてるヤツに近づかない。

ヤバそうなことに首を突っ込むなんて馬鹿なことはしない。

……どのみちアクアとかめぐみんとかが厄介ごとを背負ってくるが、極力巻き込まれないように、敵感知スキルやらで対策するのが常だった。

弱い奴らほど安楽少女みたいな油断ならないような敵がわんさかいる世界を生き抜くには必要な能力だ。

 

そんな能力を磨き上げた俺だからこそ気配を敏感に感じ取ったりするセンスはパーティー随一。

俺の索敵能力で戦闘を回避できた……なんてことはバカ三のせいでほとんどないが、ジャイアントキリングであっても戦況を有利に回していた。

 

つまり、何が言いたいかって、ホーストは確かに強い。

俺じゃ嫌がらせを延々できるくらいで倒すことはできないほどだ。

だが今回はその強さが裏目に出たみたいだな。

 

俺が気づいていた、遠くで準備していた魔法の気配に気づかなかった。

強すぎるが故に、気にもとめず、傲っていた悪魔には気づけるはずもなかった。

今まで余裕ぶってられたが、お終いだ。

 

「……ッッ!!」

 

ここに来て本格的に気づいたか。

自分が本格的にヤバい状況に置かれていることに。

焦りを隠すこともなく顔を顰める悪魔。

 

「ヤロウ……まさか今の今まで俺に喋りかけてたのは……」

「ただの足止めだ。おかげで楽に倒せそうでよかったぜ」

「コノッ……!」

 

こんなにめぐみんと俺たちの距離があれば、いくら悪魔が速く動けようと爆裂魔法の餌食になるのは確定だ。

悪態をつくホーストが俺に近づいて、死なば諸共だといわんばかりに拳を振り上げる。

最後のあがきってやつだ。

もはや何の考えもなしに放つヤケクソな一撃。

 

回避スキルは使わない。

こんなところで使っても爆裂魔法の一撃が次に待っている。

だから俺は最後の魔力を振り絞り、叫んだ。

 

 

「『テレポート』……ッ!」

「くそったれ……魔剣の勇者、ヘンテコな二人組、紅魔族の二人、そしてお前……。はあ、訂正するぜ、人間の占いもたまには正確だ。……まったく、残機が一つ消えてウォルバク様との契約も解消されちまうじゃねえか……いい職場環境だったのによ」

 

 

転移の際にホーストの声が聞こえた気がしたが、そのすぐ後の爆裂魔法の轟音によって全ての音がかき消される。

あのタイミングで直撃は免れないだろ。

 

すべてが終わったと思うと体の力が抜ける。

実際、テレポートで魔力が底をつき、体力を魔力の代わりに消費した状態だ。

気怠い感覚に身を任せて横になる。

 

体と精神の疲労を自覚したその瞬間、眠気が一気に襲いかかってくる。

そのまま目を瞑って微睡みの中へ俺は落ちていった。

 

だからその時、その俺の頭には優しい手がぽんと置かれた気がしたのだが、それが現実だったか、それとも夢の内容だったのかはわからない。

ただ心地よかった、慈しむ手つきが。

 

 

よく頑張りましたね。

 

 

そんな優しげな言葉と共に伝わる感触が。




ホーストの「本調子なら爆裂魔法1発くらい耐えれる」発言について。
ミツラギの魔剣での一撃、クリスとダクネスの襲撃のおかげで体力はそこそこ削られてるので、すでに本調子ではなさそう。

アクアとホーストについて。
ホーストはあくまで魔王の手下ではなく、ウォルバク様との契約してるというスタンスなので魔王の加護はほとんどないのではと仮定すると、アクアの極悪破魔魔法を食らえばゼーレシルトと同じように一撃で残機が消失するため、ホーストはアクアに攻撃ぶっぱされただけで、攻撃を食らった訳ではなさそう。

つまりこの爆裂魔法でなんとか仕留められるはず。
というわけでこれにてホースト編、終

次回、冒険者募集の張り紙
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