あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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13巻 デューク
12.果てしない大空~探しに行こう~


「私は貴様らの母親ではない!!」

 

冒険者ギルドの中でそんな意味不明なことを言うのはみんなのお母さんダクネス。

それもこれもダクネスの娘……ではなく、いとこであるシルフィーナが病に倒れ、その薬の材料を集めに奔走したせいで出てしまった犠牲だ……

 

そう、ダクネスが冒険者の皆々様から「ママーっ」と呼ばれたり、仮面の人が「よっ、鬼畜仮面、今日も鬼畜だねぇ!」と言われたりしているのは、病気の我が子につきっきりで看病する母親のごときママみを感じたり、シルフィーナが回復した祝いに冒険者ギルドでダクネスと並んで宴会に参加したら想像以上に親子すぎたり、病気の治療薬を作成するために悪魔から爪を剥ぎ取った噂が広まったり、仕方のない犠牲者たちなのだ。

 

「ママ! 何で怒るの? お腹すいたよママーっ! おっぱいちょうだいおっぱい!」

「なっ!? あんただけずるい、私だってママティーナのおっぱい欲しい!」

「皆さんやめてください! ママは私のママですよ! 誰にもあげません!」

「し、シルフィーナ!? 私のことをそう慕ってくれるのは嬉しいが冒険者たちのノリに合わせないでくれ!?」

 

生んだ覚えのない息子娘たちの産声に感情を抑えられない育児奔走母親。

こめかみに青筋を立て、そろそろガチで怒るか泣くかしそうな雰囲気を感じた俺は……

 

「お前ら、いい加減にしろよ!」

「か、カズマ! 加勢しに来てくれたのか! ありがたい、こいつらに言ってやれ!」

「ああ、言ってやる! このおっぱいはほぼ娘みたいなシルフィーナのもんだ!」

「そう、だ? い、いや、なんか違うぞ!? さてはお前酔っ払って……」

「あとこのおっぱいは俺んだ!」

「死んでしまえ酔っ払い!」

「ああっ、酷いことしないでぇ! この前奪われた唇は本気じゃなかったってことか!」

 

父親として立派に役目を果たした俺は潜伏スキルで素早く戦線から離脱する。

そんな俺とスイッチするようにダクネスのお子さん(冒険者たち)痴話げんかを聞きつけた新勢力(アクセルの冒険者たち)が新妻ダクネスさんに詰め寄る。

俺が起爆させた筋肉爆弾に好奇心で近づいていってしまった憐れな冒険者たち。

 

「こういうのは私が好きなプレイじゃない! 苛烈なのを所望する!」

そう言ってダクネスは顔を真っ赤にして大声でママと叫んでいた冒険者たちに殴りかかり始めた。

俺の代わりに犠牲になってくれたお前たちの顔は忘れない……

 

そんなことを思いつつも、やっぱ俺的に子供が見ている前で暴力沙汰は教育上良くないと思うんだ、うん。

とにかく、「貴族がここまで舐められるのが我慢ならん、ぶっ殺してやる」と、おしとやかな貴族様らしからぬ言動を見せたため、俺はそっとこの会場にいる子供の目に手を当てて、視界からの情報をシャットアウトした。

 

「……おい、シルフィーナだけではなく、どうして私まで目を覆われているのか聞こうじゃないか」

「そりゃ、『おっぱいおっぱいおっぱいエーリン言いながらたわわな胸にしがみつくむさ苦しい冒険者たち』っていう地獄絵図をお酒も飲めない子供には見せちゃいけない光景だなーって思っただけだ。あと、なんとなくダクネスの胸が揺れまくってる光景を見て不機嫌になってるなーって思ったから機嫌良くなるように……」

「別に機嫌は悪くなかったのですが、たった今あなたの最低な言動で機嫌も最低に降下してますよ。そもそも、私はお酒が飲める年齢なのにダクネスが飲ませてくれないだけですよ酔っ払い」

「俺は酔っ払いじゃないぞ、仮に酔っ払っていたとしても子供のことを一番に考えるこのギルド随一のイケメンだ。どこぞの鬼畜野郎のような残忍な男ではない! わかるだろ!」

「ちょわっ! お酒くさいです離れてくださいっ!」

「あはは、ウケる!」

「ウケねぇよっ! お前、俺のやってきた善行を何て言いやがった!」

 

そう言って、シルフィーナとめぐみんという両手に花な俺に嫉妬したのか、どこかの誰かが突っかかってくる。

声がする方を見ればそこにはよく見るキテレツな仮面が心底疲れ切った様子でいた。

 

「マジウケる!」

「どつきまわしてやろうか! 何だってエリス様なら手放しで喜んでくれるような悪魔に対する残虐無慈悲な所業なのに、一体どうして街中で会う人々に恐れられ鬼畜と呼ばれなきゃならないんだ!」

 

いや、だからだろ。

普通の人間の感性で言えば、残虐無慈悲な所業は誰に対してやったってドン引きものなんですわ。

そんな常識のじの字も知らない非常識的な仮面をかぶった非常識な男はなおも俺に責め立ててくる。

 

「何知らん顔してんだよ! 聞いたぞ! お前、俺の根も葉もな……くはないけども色々と誤解がある伝え方してたそうじゃないか! なんならゴミクズとかいう名前をしてる冒険者に小遣いやったんだってな!? おんまえふざけんなよッ!?」

「ふざけんなはこっちのセリフだわ! えっ、あんのやろう簡単に口割りやがったな!?」

 

俺は思わずダクネスにボコボコにされた哀れな冒険者その一を睨みつける。

しかし、くすんだ金髪に腐った魚の目をした不良冒険者は誤解だと言って。

 

「か、カズマ、許してくれ! 俺は耐えたんだ、俺とお前の友情を守ろうと、最後の最後まで口を固く閉ざしてたんだ……。でもこの鬼畜……うぅっ……」

「なんてやつだ! 男同士の友情を踏みにじるなんて! 嘘発見の魔道具を使われたんだな!?」

「いや、小遣いというか例の店のチケットをやったらあっさりと白状したが?」

「ダストてめぇ!!」

 

確かにサキュバスの店のチケットを目の前でひらひらと見せびらかされたら誰だって我慢できるわけない。

不可抗力……と言っても過言ではないだろう。

だがしかし、世の中には鉄則というものがある。

「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ」とか言ったやつは死ぬし、「きゃあ、遅刻遅刻ぅ!」と言ってパンを口に咥え走るやつは絶対何者かにぶつかるし、なんやかんやってスカートの中を覗いてしまったらビンタされる。

それがたとえ不可抗力だろうと。

というわけで俺はダストに天誅を下しに拳を握り走り出した。

そんな賑やかな様子に健康そうな顔色のシルフィーナが楽しそうにはにかんだ。

 

 

 

 

――と、そんな感じにここ最近は平和が続いていて嬉しい限りだ。

最近の印象的な出来事なんて、昨日のドラゴン肉がまずっくて残念だったってレベルだし、本当に平和だ。

そんな平和と昨日の残り肉をかみしめる朝。

おいしくない口の中をブラッシングし、もう二度とドラゴン肉は貰わない買わない食べないという非ドラゴン肉三原則を打ち立てながらウィズ魔道具店へ足を運ぶ。

ダクネスは後からシルフィーナを連れてくるそうだ。

 

というのも「巷で客人に不味い食事を食わせるという噂が流れているが?」と言いながら我が家に入ってきた仮面の人情報によると「赤字続きの極貧魔道具店が潰れるかどうかの瀬戸際」とのことで、顔なじみのリッチーが経営してる店が潰れるのは見たくないのでなんかしらの商品を購入して助けてやろうかと思い。

あと、バニルが教えてくれたコロリン病の特効薬のお礼も兼ねてウィズ魔道具店の扉を叩き――

 

「「あっ、どうも」」

 

ペンギンが店員してた。

先日、仮面の人に言われて盗みに入った屋敷の主、ゼーレシルト伯爵その人だった。

俺は盗賊団としての黒装束を纏う暇さえ与えられず、顔を把握されているのが運の尽き、互いの素性を知ってる2人は何とも気まずくなってしまったのだ。

そんな気まずい雰囲気を嗅ぎつけてやってきたバニルがふははははと店の奥から。

 

「さてさて、どういうわけかコロリン病を発症していないのにも関わらずこやつの屋敷に潜入し高位の悪魔の爪を剥がしてきた鬼畜と名高い小僧」

「屋敷に潜入したのは仮面の人に言われてだわ! あいつ、どうしてかわからないが高位の悪魔の爪を手に入れるのに協力するのと引き換えに俺の財産を守ってやろうと持ちかけてきたんだ。やっぱりあの人は未来を見通してるんだと思う。……というわけで諸悪の根源みたいな感じで俺の風評被害を増やさないでくれ! 断じてそんな鬼畜の所業の根源は俺じゃあない!」

「では何を気まずくなる必要があろうか。後ろめたい気持ちがないのであれば新人アルバイター兼当店のマスコットであるペンペンを以後どうぞよろしくである」

「お、おう。…………いや、どうしてあんたがここに?」

 

ペンペンを紹介されたがつい先日までこの国の貴族をやっていた高位悪魔がご近所の魔道具店でアルバイトを始めたと言われても困惑しかない。

さも当たり前のようにマスコットをし始めたとか言われても。

そんな俺の思いを察してか、ゼーレシルトはこほんと咳払いをし、

 

「実はあれ以来、女神エリスに屋敷を襲撃されては残機を減らされ……気づけばあと少しで消滅寸前の大惨事だったのだが、バニル様のお知り合いである仮面の人に『良い避難先を知っているので紹介してやろう』と悪魔のささやきをされて、いざ蓋を開けてみればなんと心強いバニル様が経営してる魔道具店であったのだ」

「もしかしてエリス様って結構暇な人なのか?」

「とにかく、今度女神エリスにあったら是非とも言っていただきたい。私は恥辱や屈辱、劣等感が好きなだけの至って善良な悪魔だと」

 

どうやら前に盗みに入って着ぐるみにとどめを刺さなかったのは見逃したのではなく単にダクネスの治療と薬を届けることを優先しただけだったらしい。

ダクネスが痛い目に遭わされたとはいえ、元はといえば俺たちの都合でこいつを襲撃し、その際の反撃を受けたのであって、別に悪さをしていたわけでもない。

にもかかわらずここまで悪魔を執拗に攻撃するのは一体どんな恨みがあるんだろうか。

……俺たちとゴキブリの戦いみたいなもんか?

 

その時だった、店のドアがノックされ、それから一拍おいて店のドアが開けられた。

現れたのはダクネス、それからその腰に甘えるようにしがみついているシルフィーナ。

事情がわからず困惑の表情を浮かべるダグネスの腰から手を離し、シルフィーナが「わあ……」と目を輝かせその着ぐるみに抱きつく。

はたから見れば可愛らしいペンギンと戯れている少女という何とも微笑ましい絵なのだが、このペンギンの中身や先日まで体調が優れなかった少女の姿を知っている俺からすれば何とも言えない気持ちだ。

そんなことを思っていると着ぐるみが。

 

「この子が例の病魔に侵されていたという……元気になったようで何よりだ」

 

何だろう、この悪魔の慈愛に満ち溢れたつぶらな目は。

どういうことだろう、あの恐ろしいエリス様の目と対比になってむしろ悪魔の方が輝いて見えるのは。

そんなことを思っていると、街中に響き渡る緊急クエストのアナウンス。

しかし、デュラハンやデストロイヤーの時のような緊迫感のあるアナウンスではなく、むしろどこか喜色を含んだ声で。

 

 

『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者は、至急冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します! 街の中にいる冒険者は、至急冒険者ギルドに集まってください!  ……………………宝島です!!』

 

 

そのアナウンスを聞きつけたウィズがツルハシとヘルメットを装備した状態で俺たちの前に猛スピードで滑り込み、

「一攫千金です! これで借金を返済して明日から固形の食事をするんです! みなさんもご協力お願いします!」

と同じ装備を俺たちに配り始める。

 

――宝島

それは巨大な亀であり、玄武の俗称であり、10年に一度甲羅を干すために地上に出てくると言われている。

そして玄武は鉱脈の地下に住まい、希少な鉱石類を餌にするのでその甲羅には希少な鉱石が地層のようにくっついている。

つまり何かといえば――一発逆転の無料宝石つかみ取りの時間である。

 

赤字経営で今にも破綻しそうな店、なんとなく透けて見えるウィズの体、モンスターの中でも最強格である悪魔とリッチーが借金返済のためにツルハシを持って肉体労働に参加せねばいけないという世知辛さを感じつつ、俺もツルハシを掲げるのであった。




タイトルはアニメ二期のOPの亀をイメージして。
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