宝島の騒動があった翌日。
めぐみんが我が家の土地を開墾しようとせっせと鍬で畑を耕していた。
何でも高レベルの冒険者は獰猛な野菜を栽培してもいいということで、異世界の野菜はかなりの高級食材であるため自家栽培して安く美味しくいただこうという算段らしい。
さすが爆裂魔法以外はつつましい生活をしていた女、家事どころか園芸的な方にも精通しているらしい。
……正直マンドラゴラをフラワーガーデニングというのはいささか違う気もするし却下しておいた。
でもサンマはうまいから許可しておいた。
朝早くからこんな作業をしなきゃいけないとは世界中の農家の皆さんは大変なことだ。
そんなことを思いながら俺はそんな農家なめぐみんを見ながらお茶をすすり、新聞を広げて見ていた。
その記事の内容は『魔王軍に新たな動き。幹部が減ったことで危機感か』とか『カズマたちのパーティーの謎に迫る』……
「おいめぐみん、俺たちのことが新聞に載ってるぞー。『数多の大物賞金首や魔王軍幹部を葬った最強の最弱職サトウカズマ氏の謎に迫る。彼が開発したというオリジナル魔法は魔力を込めさえすれば初級魔法から上級魔法、果てには爆裂魔法級の威力を出せるという。しかしそんな才能をパーティーのため使うサトウ氏は、ありとあらゆる特殊技能・魔法を扱える万能職、冒険者となりクルセイダーとアークウィザードを支援する』だってさ! お前のことも書いてあるぞ『爆裂魔法すら操るアークウィザードの美少女。いざという時になればテレポートすら使えるであろう、紅魔族のアークウィザードが火力を担当する』だってさ! ……なんかちょっと違うところもあった気がしなくもないがよさげな文だ!」
「そうですねそうですね! ようやく私たちの知名度はすでにかなり高いところにあるでしょうが、その名声がさらに上がったことでしょう! 素晴らしい、嗚呼、素晴らしいですね! いやしかし、このような記事が出るのは我らが功績を考えればずいぶんと遅かったと言えましょう。何せ私たちは魔王軍幹部を複数人、大物賞金首の討伐をも成し遂げた最強のパーティーと言っても過言ではないのですから」
「……確かに言われてみればそうだな。これならダクネスの家の権力をちらつかせて新聞社に記事を書くように直訴しに行かなくても良かったかもしれない」
「しかしながらカズマ、新聞社というものは国との結びつきが非常に強い機関です。ぽっと出の私たちがいきなり表舞台に踊り出たらば冒険者間の評判は悪く、取材もしないまま根拠のない記事を書かれる可能性がありました。権力をちらつかせることは必須だったでしょう。後でその記事を見せてください、私たちの部分を切り抜きしときましょう!」
「おっ、それいいな! 読み終わったらめぐみんの部屋に置いとくからなくさないように頼むぞ」
ダクネスにこの会話を聞かれてしまえば「一体私の家の権力を使って何をやっているんだ!」と怒られてしまうだろうが、やっぱり異世界に来たならこういう主人公的なイベントがあってもいいと思うんだ。
俺は再び新聞の俺たちの記事に目を戻し、一通り読んでニヤニヤしたあと、新聞をめぐみんの部屋に置いて再び畑いじりをするめぐみんの様子を観察しに戻ってきた。
ズズッと啜るお茶、肌に当たり暖かい日の光、目の前には恋人(仮)が一生懸命に汗水垂らして働いている。
なんだか幸せだなぁ……そんなこと思っているとめぐみんが手で額を拭い、土をつけながら。
「カズマカズマ、よくも飽きずに私が土いじりしている様子を見てられますね」
「いやー、こう朝早くから頑張っているばあさんを見るとこっちも頑張んなきゃなーって、なんだか元気をもらえるんだよ。なあ、なんか俺だけこうして見てるのもなんだし、何か手伝おうか?」
「なるほど、自堕落な生活を送っているカズマから手伝いの申し出とは。そうですね、ではクリエイトアースで畑に栄養をやってくださいよ。カズマはこの魔法を戦闘中の防御壁に使っているみたいですが、本来の用途は畑の土に混ぜて農作物に適した土を作ることなのです。この魔法があれば生きのいいサンマが収穫できること間違いなしで……今私のことをばあさんと言いましたか?」
「言ってない」
めぐみんが耕した場所に威力を調節したクリエイトアースを放ち、畝を作っていく。
その俺の魔法に続いてめぐみんがクワで形を整形し、指で数センチの穴を開けサンマの種をまいていく。
……今まで突っ込まなかったが、サンマの種って何だ。
サンマは海で取れるものであって畑で収穫されていいものじゃないはずなのに。
でもなんだかんだ言ってこんなおかしなことばかりの世界が嫌いになれないのは、帰るべき場所があるからなんだろうな。
そんなことを思って畑から意識をそらすと、ふと家の玄関の方に人の影が。
その人物はドアの前を行ったり来たりし、ノックしようかしないかを一頻り悩んだ挙句……
「家の前まで来てなぜそこで帰ろうとするのですか!」
「めぐみん、何でそんなところにいるの!?」
「今我が家は絶賛ガーデニングブームの旋風が巻き起こっている最中なのです」
「めぐみんだけだけどな?」
「一緒に土いじりしたくせに一体何を言ってるのですか? ……まあ、カズマのことは置いておいて。何か用事があって来たのでしょう? なぜ帰ろうとするのですかゆんゆん」
「で、でもこの間の突然押しかけたあの日から全然時間も経ってないし、日を置かずにまた訪ねるのもなんだか悪いし、やっぱりもう少し間を空けた方がいいかなと思って……」
別に暇なら毎日だって遊びに来ればいいのに、これがこじらせぼっちの悲しき生態か。
いや、むしろめぐみんや俺の周りのやつらが遠慮という言葉を知らない奴らばっかりなのがいけない。
そんなことを思っているとめぐみんも同じ考えだったのかため息をつきながら。
「別に暇なら毎日だって遊びに来ればいいですよ」
「えっ! 用事もないのに来ていいの? ウザがられない? この前みたいにおいしくないお肉食べさせられない?」
「それはカズマの不手際なので気にしなくてもいい……というか私たちは冒険者なのですよ? そういう遠慮がちな態度では嘗められますのでもっと喧嘩上等オラオラ感を出してください」
めぐみんの場合オラオラしすぎだからもっとお淑やかでもいいと思うんだ。
ゆんゆんも同じことを思ってるのか微妙な顔をしていた。
そんな俺たちの視線を感じ取ってない鈍感系主人公みたいなめぐみんは言葉を続けて、
「それより本当に一体何の用事で? いえ、別に用事がないから家に来るなと言ってるわけではないのですが」
「うん、あのね、実はこの間言ってた族長試練のことなんだけど、その試練を受けるには相方をやってくれる人と組んで2人組で受ける必要があるの。それで……その、カズマさんを――」
「なるほどなるほど! つまりはこういうことですか。この新聞の一面を飾った私を見て、ぼっちなあなたはそもそも私以外に声をかけることもできないですし、わざわざ私をスカウトしに来たのですね! よろしい、ならばともに戦おうではないか! いやなに、ゆんゆんが族長であればそれをサポートした私の立ち位置は側近とか秘書とか裏の番長だとか……何と紅魔族の琴線に触れ、胸躍るポジションに誘ってくれたのでしょうか! あなたのその私を誘うという殊勝な心がけに免じてその試練に参加してあげましょう!」
「ええっ!? どちらかというとカズマさんの方がいいっていうか、あなたについて来られても迷惑なん――」
「ふははははは! 試練が私たちを待っている! いざ行かん我らが故郷、紅魔の里へ!」
めぐみんはゆんゆんの言葉も聞かずにその手を引っ張って連れ去ってしまった。
族長試練の相棒を買って出て、意気揚々と家から出て行ったその背中は自信過剰で、どう見ても失敗して帰ってくるフラグにしか見えなかった。
――ちょっと待て。
めぐみんがいなくなりがらりとしたこの屋敷を見てふと思ったことがある。
快くめぐみんとゆんゆんを送り出したはいいが、よくよく考えれば今この状況って俺とダクネスだけの空間ってことじゃあないか。
俺を取り合うあの二人のうち片方がいなくなったせいでそういう展開もありえ……
「ることはないので安心しろ、鼻の下を伸ばしている男よ」
「……じゃあそうなるようになんか聞かしてくれてもいいんじゃないですかね」
もうここにさも当然のようにいるのかという疑問を抱く段階は当の昔に過ぎた。
人の屋敷に音もなく不法侵入を何のためらいもなく実行してくる平常運転な仮面の男に解決策はないのかと顔を見てやるが、残念ながらと首を横に振る。
……なんか残念な気分だ。
いや別に俺はめぐみんと恋人になりたいし浮気をしたいわけでもない。
だって俺はダクネスのことをきっぱりとこの前断ってめぐみんと付き合う宣言をした男。お付き合いはあくまでも誠実にをモットーに今の今まで年を積み重ねてきた。
ただ冒険者とクルセイダー、どちらが筋力ステータスの上かといえば言うまでもなく、家の中で、いや、人々が住む街の中で攻撃魔法を使おうものなら放火魔と並ぶ重罪人として牢屋にぶち込まれる。
正当防衛と言い張ろうとダクネスの家の権力のせいで俺は娯楽も何もないところで一生を過ごす羽目になるのは容易に想像できる。
つまり、ダクネスが俺に発情して襲いかかってきても俺は抵抗することもできずに哀れかな、初めてを奪われてしまうのである。
「残念ながらそもそも襲われることがないので無用な心配をする必要はなかれ。むしろ自分が例の店に行き、スマートな立ち振る舞いができるよう睡眠を助けるホットミルクを提供してもらうが吉とでた」
「あのダクネスに限ってそんな何も起きないということはないだろうが!」
「仮になったとしても今日中に帰宅するだろうめぐみんにその現場を目撃されること間違いなし。汝、鬼畜の称号をさらなる高みへ持って行きたくなければそういう展開は避けておいた方が無難だぞ」
俺ことサトウカズマ、もしかしたらそういう類の呪いにかかっているのかもしれない。
今度ゼスタのおっさんにお金を払って、厄払いしてもらえないか頼んでみようか。
意外にあの人多忙だからなぁ……やってくれると嬉しいんだが。
そんなことを思っていると、仮面の人が空気を切り替えようとしたのかコホンと一拍おき。
「さて、今回こちらにやってきたのは他でもない。またまたお前の身に厄介ごとの予感を覚えたので告知しに来たんだ」
「そういう非現実的で怪しいお話は結構です」
「実はウィズが――」
「――不景気でようやく店が潰れたか!?」
「それは……万が一そういう状況になれば店主が身売り――もとい、リッチーの髪の毛や爪を売るので問題ない。それよりももっと厄介な問題だ」
先ほどとは打って変わり非常に深刻そうな態度をする仮面の人を見て一体どんな厄介ネタを持ってきてくれたのかと喉をゴクリとならしていると、意を決したように仮面の人の口が開いた。
「――ウィズがストーカーされる」
原作ではアクアが街中に彷徨う野良ゴーストを見てウィズの店に行くことになりますが、アクアがいないため仮面の人が誘導係を務めました。