あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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13.叙事詩の序章~誰も彼もまだ知らずに~

うーん、ウォルバクの時と同じ風にリッチーになったデュークを天界に連れて行った方がいいのか?

それともリッチーになる前にさっさとめぐみんの爆裂魔法で爆死させた方がいいのか?

はたまた俺が出しゃばってバインドとかデッドリーバックスタブで補助しないといけないのだろうか?

 

「どう思います?」

「どういう事なの!?」

 

なれた様子でお菓子をつまむアクアと紅茶をお飲みになるエリス様……とは対照的に未だなれていないのか驚いた様子でいるウォルバクさん。

 

というわけで。

本日はお日柄もよく、絶好の告白日和となっているのにも関わらず俺はリセットしまったのでした。

……いや死んではないんだがリセットされたというか。

 

順を追って説明をしよう。

 

今回俺はアクアの代わりになってゴーストが街中にいることを伝えたり、デュークのことをピンクミュルミュル貝で魅了してみたりしてたんだ。

まああいつの奇想天外な行動だからクソほど役に立たないどうでもいい知識でも意外とよく覚えてるもんで、見事に俺はデュークから言伝をゲットして、ウィズをデュークが待っている場所――街から少し外れたところにある共同墓地へと誘導することができた。

そんでもって、堕天使とリッチーが戦い始めるのを見届け、バニルと遭遇しないように俺はこっそりと撤退したのだった。

だってあの見通す仮面の悪魔のことを当てにしたら、その特殊能力で俺のことを見通されてリセットされる可能性が高いし、特にリセットされるような状況が考えられなきゃ離れておくのが無難だろう。

それになんだかんだ言ってあの悪魔は人から感情を引き出す以外は人間のことを守護してくれる無害な奴だ。

デュークがリッチーになって強化形態になったとしても魔王より強い誰かさんが何とかしてくれると思っていた。

だからことの行く末を見守ろうと遠くから千里眼スキルで見守っていた…………のだが。

 

「さすがにあいつが逃げるなんて誰が思うか! あんなに漢らしかったのにリッチーになって早々に逃げるなんて! 漢なら正々堂々真正面から戦え!! そして散れ!! 逃げるな卑怯者!! 逃げるなァ!!」

「竈門カズマさん、一つ大事な教訓を学びましたね。『神を裏切った者は信用できない。殺すべし。しばくべし。祓うべし』また一人、迷える子羊が解き放たれたこと、喜ばしく思います」

「…………エリス様、それって悪魔とかアンデッドに対しても言ってますよね」

「もちろんです。……あの、今後の銀髪盗賊団の活動なのですが、悪鬼滅殺を掲げませんか?」

「掲げない」

 

おっかない顔しておっかないことを言うエリス様の瞳には光がない。

もうこの人は盗賊なんてやめて悪魔とかアンデッドとかを討伐する専門職に就けばいいのに。

それとも何か、なんでか魔法ではなく短剣で悪魔をぶっ殺すし、もしかしなくてもナイフから伝わる肉を断つ感覚がたまらないという変態的な性癖の持ち主なのだろうか。

サイコパスなエリス様を思い浮かべ背筋が粟立つ感覚に襲われているとアクアが。

 

「ねーね、結局今回のカズマさんの敗因って、あの神の理に逆らいまくった中二病超絶末期患者に逃げられたからってこと? 慢心したカズマさんがウィズたちの手助けに行かなかったのがダメだったってこと?」

「そう。多分そうだ……いや、俺が慢心してたってのは違うけど! だってあそこには俺の正体を見通す可能性があるヤツいるし。特に攻撃手段を持たない俺があんな魔法ドンパチやってる異世界らしい場面に参戦したとして、特に防御手段も何もないから黒こげどころか灰すら残さずに吹き飛ばされるに決まってる。それに、正直空気が読めないお前がいてもいなくてもウィズとめぐみんの爆裂魔法があれば何とかなると思ってたんだよ」

「でもなんとかならなかったのよね? あのデュークって人、2人の魔法を食らってもかろうじてだけど体力残ってるわよ? なんならメタルスライムがごとき素早さで勝てないと分かった瞬間に爆速で逃げてったわよ? ……って今私のこと空気が読めないって言ったかしら?」

「言ってない」

 

エリス様のスマホもどきをのぞき込み、そんなことをいってきたアクア。

俺もそれを見たが、マジに的確な言葉だ。

まあ仕方がない部分もあったかもしれない。

だってリッチーと大悪魔、チート持ち転生者、爆裂魔法使い、そして屈強な変態。

これを見て、俺なら恐れをなして逃げること間違いなし。

だが、俺が漢の中の漢だと認めていた部分があっただけ、あのデュークとかいう堕天使には失望した!

 

「メタスラをあと一歩で仕留められたってのに逃げられて仕留められなかったとき、ああああああぁ゛って声を出したくなる気持ちってわかるか? これ、今の俺」

「わかります、わかりますとも。さすが魔王軍幹部になろうとしてる極悪人、やることなすことがいちいち姑息ですね……殺りますか、殺っちゃいますか! というわけで今回は私も一緒に行きましょうか! 一緒に行ってあの不届きな存在をめった刺しにしましょう!」

「エリス様、もう共感は十分ですから! エリス様がアンデッドとかそういうやつらのことを嫌いなのはもう十分分かりましたからこれ以上はやめろください! その光を失った瞳で見られるの精神衛生上をめちゃくちゃ悪いんで……おいエリス様! なんか俺と一緒にあの世界に行こうとしてないか!?」

「大丈夫ですよ、一応この世界で一番信仰されている女神といえば私ですし、ちょっとやそっとのやんちゃを一回したくらいじゃ厳しく咎められないですから」

「その気持ちが俺のため100%だったら嬉しかったんですけどね! 9割方魔王軍でアンデッドな堕天使をボコしたいから言ってますよね!? ちょっ、まだあっちの世界に行ってからどういう行動するか考えもまとまってないのに転移門開くなください! ほ、本当にやめっ……アクアーっ! マジで助けてくださいアクア様ぁーっ!」

「先輩に助けを求めるなんて大げさですよカズマさん? 別に私がカズマさんのことを殺すなんてしませんし、何なら手助けしようとしてるだけなので……」

 

昔、エリス様に会った時に「第一印象は何の動物ですか?」なんて質問が来たら俺は即座に可愛くも美しい系の動物を思い浮かべていただろうが今は違う。

エリス様は猛獣だ、目の前に生肉という名の好物を吊り下げられたら思わず噛みついてしまう獰猛な獣なのだ。

いや、普段はおしとやかで、でもちょっとお茶目な部分もあっていいんですけどね?

それ故に落差がえげつない。

本当に女神という名の基礎ステータスの差を利用して俺の手を振りほどこうとしないでほしい、マジで!

 

「ウォ、ウォルバク様ぁーっ! 何現実逃避しようとしてるんですかウォルバク様!」

「ふふふっ、みんな元気でいいわねぇ」

「微笑ましそうな顔をして紅茶をすすらないで助けてくれぇっ!」

「……無茶言わないでほしいわ」

 

分かってますよ、神力を失ってる神様は俺以上にか弱いってことは!

分かってますけど猫の手も借りたいというのはこのこと!

ちょむすけに代わってなんとかしていただけませんかね!

 

「そ、そんな雨の中段ボールに捨てられてる子猫のような目をしたって私は……私は……ううっ……!」

「そこを何とか! どうせリセットされるだけですけどあのリセットされる感覚どうにもなれないんですよ! 言うなればジェットコースターを何百倍過激にした浮遊感が気持ち悪いっていうか! できることならあれやりたくないんですよ!」

「そんなこと言われても…………あっ! カズマくん! 今、カズマくんがいた方の世界のこと見てたんだけど、さっき魔王が討伐されたことを知った魔王の娘ちゃんが魔王城に引き返してるわ!」

「ですって! エリス様! ですって!」

 

俺とアクアの力を合わせても、ズリズリズリと引きずっていくエリス様の動きが突如止まる。

そして、思わずと言ったように勢いよくウォルバクの方を振り向く。

その顔は笑っているが……もう嫌だなんかこの人怖い!

美人が怒ると怖いとかそういうレベルの話じゃないよ、怖いのベクトルがモンスターに対するそれだよ!

 

「……すみませんカズマさん。今回はそのような状況のため、ちょっと自分の世界の方の問題を排除して心の平穏を取り戻さないといけないので……本当はデュークが罪を重ねてしまう前になんとか討伐してさしあげたかったのですが……私から言い出したことなのになんだか申し訳ないです」

「どうぞどうぞ! むしろどうぞ! 俺の問題は俺がなんとかするのが道理ってもんですしどうかエリス様はダクネスたちのことを!」

「そうですか? そう言っていただけるとありがたいです」

 

わずかに瞳に光が戻ったような気がするエリス様は頬をかき、俺の方に軽く頭を下げた。

そして――

 

「カズマさん、時間軸の関係上、きっと私がここに帰ってくる頃には魔王討伐まで辿り着いているかもわかりません。……いえ、きっと貴方なら為し得てしまう、そんな気がしています」

「買いかぶりすぎですよエリス様。魔王討伐まで後数ヶ月ってところですが、失敗回数も考えると後半年か1年くらいはかかるんじゃないですかね?」

「ですからそう言ったんですよ?」

「…………もしかして、魔王軍幹部を直々に討伐しきるまで帰れまテンでもやる気ですか?」

「ち、違いますよ? 流石にそこまで世界のルールを無視するようなことはしませんし、あくまで私の仕事は人々を導くことですから……本当ですから! まったく、カズマさんは私のことを一体どんな目で見てるんですか?」

 

もしかして人格がいくつもあるタイプか……なんて思ってる。

むしろさっきの一連の行動を鑑みて、一体どうしてそんな目で見られないと思っているのだろうか。

 

「それはそれ。これはこれなんです」

(まさかこいつ……俺の心を読んで!?)

「心なんて読んでませんよ? というかわざとそういうわかりやすい顔をして……私で遊ぶのはやめてください、女神としての何かプライドみたいなのが破壊されていく音がするんです……」

「大丈夫ですよ、アクアなんてそんな音がする段階はとっくの昔に過ぎ去ってますから」

「……なんか馬鹿にされたような気がするんですけど」

「そ、ソンナコトナイヨ?」

 

それに別に馬鹿にはしてないヨ。

そもそもアクアに異世界に案内されたときだってポテチガサゴソしながら対応するっていう非女神な対応されたし、お金がなきゃ土下座して借りるレベルにはプライドのかけらもないし、もともとお前はアホなだけで馬鹿にしてはいない。

それでも疑り深く俺のことをジッとみてくるので、俺は――

 

「しょうがねえなぁ……ほら、お茶菓子あげっから」

「……いいわ、これで手打ちにしてあげましょう。うん、そうよね、私、みんなに崇められるべき女神だもんね。貢ぎ物はありがたくもらっておくべきだわ、うん!」

「ほら、大丈夫だろ?」

「何も大丈夫じゃない気がします」

 

テーブルに置いてあったお菓子をあげて喜んでいるチョロイ駄女神を見て何らかの危機感を覚え始めているエリス様。

このお菓子が爆裂魔法になったパターンがめぐみん。

そして、悪魔とか魔王軍になったパターンがエリス様。

まあ、これを見て大丈夫じゃないって思えてるんだったらまだセーフ……だと思う、きっと。

そんなことを考えていると微妙な顔をしたエリス様が。

 

「で、ではそろそろ私もダクネスたちの救援に行ってこようかと……も、もちろんクリスとしてですよ?」

「あまり無茶しないでくださいね?」

「カズマさんこそ。きっとカズマさんらしい……その、作戦でなんとか切り抜けていくとは思いますが、本当に気をつけてくださいね。こう何回もこちらに来られるので私も慣れ始めてしまいましたが、なかなかに同じ体験を繰り返すというのは精神的に堪えると思いますので」

「まあ、気を抜いてぼちぼち頑張らせてもらいますよ」

 

……とは言ったものの、正直どう打開していこうか。




今回のリセット原因
空気を読まないアクアの浄化魔法がなく火力不足&シリアスモードが解除されず。
アクアがいなくてもウィズはカズマたちと協力してデュークを追い詰めるも、デュークは不利を悟り逃亡。
魔王軍の間でウィズやバニルが裏切ったこと、カズマたちの存在がバレて原作と乖離していく。

勝利条件
デュークを討伐。

リセット条件
バニマの正体がばれる。
デュークを討伐し損ねる。
他、魔王討伐に支障が出る何かが生じる。
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