あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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14巻 もぐにんにん
13.行こうよ紅魔の里 ~何か忘れてるような~


「君のことは聞いているよ、アクセル随一の鬼畜だってね!」

「……どうしてこうなった」

 

遡ること数時間前。

無事魔王軍幹部候補のビジュアル系堕天使討伐を達成した仮面の人こと俺はウィズのことを慰める暇もなく、アクアがいないことで起きるだろう問題に対処すべく行動を起こしていた。

というのも次に問題になると思ってるのは紅魔の里で行われる試練。

 

ゆんゆんが試練を受ける際に相棒として誰かをパートナーにしなきゃならないんだが……そのうちの1人である駄女神様がいらっしゃらない。

つまりダクネスしかゆんゆんのパートナーになれない。

しかもダクネスは最初の試練で「紅魔族の試練はもうやだ……。明日はお前が受けてくれ……」とポンコツになっている。

ダクネスがダメネスになっちゃうし、めぐみんは元からダメぐみんだし、残るは俺だけだが爆殺魔人もぐにんにんとかいうふざけた名前のゴーレムのせいで試練への参加はめぐみんに止められている。

 

「いや、正確には一人……というか一鎧いたな。まあ、アイツが参加するのは第3の試練だし、めんどくさがって第2試練は参加しなそうだし論外か」

 

とにかく、第2の試練でゆんゆんの相棒を任せられるやつが誰もいないのが問題ってわけだ。

逆に、それ以外のことで問題になるだろうって思ってることは特にない。

というわけで、この問題を解決するためにはどうすればいいって話だが……

 

簡単な話だ、俺がその試練に出ればいい。

だってそうだろ?

俺はエリス様からもらったこの特別製のスカーフのおかげで思いっきり近づかれない限りは認識が阻害される。

そもそもこのバニルの仮面もあるし、おかげで正体がばれないわけだが……この認識阻害の効果はあの地獄の公爵様であっても通じるらしい逸品だ。

つまり、たかがゴーレムと言っちゃなんだが、ヘンテコな名前のリア充爆殺忍者に見破られる――というか黒髪黒目の日本からやってきたチート持ち転生者だってばれることはないはずなんだ。

 

しかもその第2の試練は日本のテレビ何かでよくある、ハズレを選ぶところのプールになっているやつだったはずだ。

アクアがギャン泣きしながら帰ってきたのを見てなんとなく心がスカッとした感覚があったのでよく覚えている。

幸運値がパーティーの中で一番低いアクアが運試しをしたから泥まみれになって泣きながら帰ってきたわけで……

逆を言えば、幸運値が高い俺が受ければ一発合格間違いなしのサービス試練だ。

というわけで、俺も紅魔の里に行きたいわけだが……

 

「い、いくら友達の頼みでも……その、やめておいた方がいいと思いますよ?」

「えっ?」

 

ゆんゆんに一緒につれてってほしいと頼んでみたらなぜか断られてしまった……

どいうことだ?

アクアがいないし、代わりに一緒に行くくらい、ゆんゆんの負担にもならない気がするんだが……

 

「そんな、後生だ! ゆんゆんしか頼れる人がいないんだよ!」

「えへへ……そ、そっか、私しか……って! ダメなものはダメなんですよ!」

「なんて鋼のように固い意思だ! あの安楽少女が天敵で、ちょろすぎるがあまりひょいひょい悪い大人について行くもその純粋さで撃退してしまうあのゆんゆんが!?」

「もしかして私ってみんなにそう思われてる!? というかちょっとそれどういうことですか!?」

 

先ほどまで俺に頼られてにへらと緩めていた顔だったが、親友にも両親にもチョロいと認められているゆんゆんは思わず口を塞ぐ。

……自覚もなにもなかったらしい。

 

「ま、まさか! 私に一緒に遊びたいんだけどお金がなくってちょっとだけでいいから貸してきてって言ったお兄さんは!? プレゼントを買いたいんだけど何を買えばわかんなくって私と一緒に一緒にお買い物しに行ってくれませんかって言ってきたおじさんは!? あなたは友達が少ないけどこの友達ができるおまじないをかけたブレスレットをただであげるわって涙ぐんでたお姉さんは!?」

「多分全部詐欺だ……かわいそうに。俺はゆんゆんのズッともだからな? 数少ない常識人枠にいてくれる大事な友達だからな?」

「もちろんです!」

 

そういうとこだぞ。

感動のあまり目を爛々と赤く輝かせるぼっち娘に哀れみながらそんなこと思っていたが、そんなことをしてる場合じゃない!

 

「そんな友達にお願いなんだがテレポートを――」

「そ、それはダメなんですって!」

「どうしてそんなに頑な……せめて理由を教えてくれよ」

「えっと、あの……結構前に紅魔の里に来てくれたじゃないですか? ほら、シルビアを討伐した時の話なんですけど……」

 

ああ、そういえばそんなことあったな。

ずいぶんと前の話だ。

あの時はレールガンを使って魔王軍幹部シルビアを魔術師殺しと一緒に討伐したんだったか。

しかし今更それがどうかしたんだろうか。

 

「実は、その、非常に言いにくいんですけど……仮面の人に懸賞金がかかって……」

「ええっ、そんなことあったのか!? 俺って紅魔族に懸賞金かけられてんの!?」

「そ、そうなんですよ。何でもめぐみんが仮面の悪魔と同じ仮面を里中にばらまいてたんですけど、その仮面が紅魔族の中で大流行しちゃって……」

「なんだそれ!? 色々と突っ込みどころ満載なんだが、何であいつが仮面をばらまいて!? そして何で流行しちゃって!?」

「あの仮面のセンスが紅魔族の琴線に激しく触れたみたいで……それで、その、あの仮面の争奪戦が勃発して一時は魔王軍が攻めてきたんじゃないかってくらい荒れてたんですよ」

 

中二病で武闘派な紅魔族……

そんなくだらないことで争ってないでさっさと魔王を討伐しちまえ!

そしたら俺が楽になるから!

 

「いや、うん。話はわかった。話は分かったけどな? 一つ言わせてくれ。どうして俺が指名手配されてんの!?」

「指名手配と言うか、その、仮面の人自体に懸賞金がかかってるわけじゃないんです」

「……まさかコレ、か?」

 

俺が顔の仮面に指さすと、ゆんゆんがこくりと頷く。

 

「なんか『そう言えば仮面の人はこれの色違いをつけていたな』とかなんとかいう話になりまして……なんと言うか、身内の恥をさらすようで申し訳ないんですけど、紅魔族の暗黙の了解でその仮面を見つけた場合は争いをしないために封印を施して神社に奉納するそうなんです」

「ネコミミ神社のご神体に被せるつもりか!? いろいろカオスになるからやめろ!?」

「それはお父さんに言ってください……多分無理ですけど」

「親父さん、殴っていいか?」

「どうぞ」

 

ゆんゆんのどこか達観したような瞳。

さすが、常識的な感性を持ちながら紅魔族の里で十数年過ごしたヤツだ。

後でゆんゆんの親父さんにドロップキックを食らわせるのは確定として……

 

「よしわかった! 俺、ゆんゆんが族長になること応援してるから! だから族長になったらどうか秩序を重んじた族長になってくれ!」

「あ、ありがとうございます、試練頑張ってきます! 私が族長になった暁には仮面をつけていても青い空の下を歩けるようにします! 私としては素顔を見られるのが恥ずかしいって気持ちはよくわかるのでできることならばそのままの方がいいとは思ってるんですけど……今、もし紅魔の里に行くとなると、その仮面はつけない方が……ソレをつけていると通報されたり一部過激派から強奪されてしまう可能性があって――」

「何それ怖い」

 

というわけで俺は引きこもった。

もう、黒髪のやつを見ているだけで敵だとしか思えない。

黒髪黒目が珍しいだけで黒髪のやつなんてどんだけいると思ってんだ!

もうマジで外を気軽に歩くなんてできない体になってしまった……

 

なんて思っていた時期が1時間ほどあった。

 

よくよく考えればこの仮面じゃなくても別の仮面ってよくね?

まあこの仮面はつけてるだけで調子が良くなるものすごい逸品だから外さないが、この上からさらに仮面をかぶればよくね?

ということで仮面の人改めダブル仮面の人になった俺の気分はさながら風都探偵。

 

「さあ、お前の罪を数えろ!」

そんなセリフを言いながらカズマらの屋敷にやってきたわけだが……

「なるほど、な。入れ違いか。逃げ足の早いやつらだぜ……」

 

はい、かっこつけてみたのにドアを開いた先には誰もおらず恥ずかしい思いをしているカズマです。

そりゃそうか、さっき出発直前のゆんゆんに声かけたわけだし……

人の声一つしない屋敷だなぁって思ったんだよ俺は。

不幸中の幸いか、この場に目撃者は誰もいない。

もしかしたら恥ずかしさのあまり、その場で死んでリセットしていたかもしれない。

だが俺の心はもうズタボロだ。

ダブル仮面はやめにして別の方法で仮面の隠蔽は行うとして、だ。

 

頼みの綱だったゆんゆんがおらず、直接紅魔の里に行く手段がなくなってしまったんで、テレポート屋にいき王都行きのテレポートに乗って、そこから紅魔の里行きのテレポートに乗る。

コツコツとお金を貯めていた甲斐があったってもんだ。

それに加えて仮面を隠す特殊工作を行った俺に弱点はない!

これで王都で銀髪盗賊団を探しているやつからも言い逃れできるだろうし、万々歳だ!

財布の軽さに涙を流しつつ紅魔の里行きテレポートを待っていると……突然背後から声がかかった。

 

「おい、そこの君! 何をしているんだ?」

「お前は……」

 

振り返るとそこには俺を睨み付けている、魔剣に手をかけている剣士。

名前を……えっと、カツラ……カツムラ……マツムラ……

 

「魔剣の勇者、ナカムラ!」

「誰だそれは!」

「誰だろ」

「貴様が言ったんだろ! 僕はミツルギ、魔剣の勇者、ミツルギキョウヤだ!」

「ああ、そうそう、ソレだ!」

 

自称ミツルギが何かカルシウム不足なのか声を荒らげて立っていた。

そういえばこいつ、最初に会った時はアクセルにいたが、本拠地はこの魔王軍との最前線である王都だったか。

 

「ミツラギ……そんな大物がどうした。まさか俺に用があるというわけではあるまいな」

「ミツルギだよ! あと用があるから声をかけたんだ」

「うるさいぞ、いくらテレポート出発前だからって騒ぐなよ。乗客の迷惑だぞ?」

「あ、ど、どうもすいませ……いや誰のせいだと思って!?」

 

なかなか鋭いノリツッコミだ。

まあ俺には及ばんが。

 まあ俺には及ばんが!!

 

「そんで、そんなツッコミ芸人のカツラギさんが一体俺に何の用事で?」

「魔剣の勇者のミツルギだ! 用事も何もお前のような不審な人物、声をかけない方がおかしいだろ! ……何をキョロキョロしてるんだ! 目の前の君に言ってるんだ! そんな僕が間違ってるような反応されても困るんだが!?」

「いや、困るのは俺の方なんだが。人のことを見かけで判断しないように教わらなかったのか?」

「いや君のその格好は明らかにおかしい! 街中にペンギンの着ぐるみで出歩くようなやつは絶対おかしい!」

 

……そんなこと言われたって。

これ、悪魔貴族からもらった替えのやつだし。

失礼なことに人のことを指して顔を引きつらせているモロロギに。

 

「ただ俺はウィズ魔道具店特製悪魔装備で身を固めているだけだ、何もおかしいところはない」

「そのなりは誰が見たっておかしいと思う!」

「そんなにおかしいおかしいって言うんだったらこれをおかしいとも何とも思ってない国の上の連中に行ってくれ。連中、俺のことを見ても『ああ、ゼーレシルト殿と同じ防具を手に入れたのか……羨ましい限りだ』とかなんとか言って何も疑問に思わなかったんだぞ」

「羨ましい!?」

「そうだ。だから俺をとやかく言う前に中身を改めるくらいしろってこの国の上層部に掛け合ってくれ。これで話は終わりだ」

 

何かこの国の未来を案じているのか、驚嘆の叫びを響かせる若人を無視し、俺はテレポート屋に受付番号を呼ばれたのでカウンターの方へ向かう。

ヒョッコヒョッコと思わず抱きしめたくなるような愛くるしい音を立てながらそちらの方へ向かおうとすると――

 

「何の真似だ?」

「話は終わってない……流石に目の前にいる不審人物を放置しておく訳にはいかない」

「国が放置してるんだからいいだろ別に。というか受付の人待ってるから……」

「君、紅魔の里に行くんだね。奇遇だ、僕も紅魔の里に用事があってね。高名な占い師に捜し物を見つけてもらおうと思ってるんだ」

「あっそう」

 

たぶんその捜し物って鎧だろ。

そしてその鎧、天才的な名前してる酒場でセクハラ行為したりしてる真っ最中だぞ。

なんて言ったら面倒くさいことになるんで口を縫い合わせていると。

 

「だから僕も同行させてもらおうじゃないか。そして君が不審な行動をしないように僕が監視しておこう」

「遠慮しておきます」

「君は中身を見せる気がないようだし、だったらこうした方がいいだろう?」

「よくないです。中身見せるんで勘弁してください」

 

王都で仮面を見せるのはリスクが高いが、仕方ない。

俺はこっそり背中のチャックを開け、ミツルギだけに見えるように顔を見せた。

するとミルルギは驚いたような顔をして。

 

「き、君は……その仮面!」

「いいか、念のため言っておくが銀髪盗賊団のアイツじゃない。こちとら迷惑してるんだ、色違いの仮面かぶりやがって」

「わかってるとも、君はアクセルの!」

「そうそう」

「鬼畜仮面!」

「ちがわい! ……アクセルの街でちょっとだけ有名かもしれない俺は仮面の人って呼ばれてる、正体不明なミステリアス冒険者だ。鬼畜じゃない」

「いいや、君のことは聞いているよ、アクセル随一の鬼畜だってね!」

「……どうしてこうなった」

 

無事紅魔の里にテレポートできた次の瞬間、俺はミララギに目くらましコンボを食らわすのだった。

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