1つ目の試練はダクネスがゆんゆんの相棒を務め、2つ目の試練では仮面の人が務めた。
今回試練への参加が禁止になってるめぐみんを除けば俺以外の全員が試練に参加したってことになる。
そして3つ目の試練……最後の大取りを務めるはリーダーのたる俺。
「不束者ですがよろしくお願いします」
「こっここ、こちらこそよろしくお願いします……」
「おい、新婚の夫婦のような初々しい挨拶をするのは止めてもらおうか!」
「いやいや、何を勘違いしてるかわからないが……めぐみん、これは俺がゆんゆんとパートナーになって共同作業していくだけなんだ」
「わざとですか! この男、他の女に取られるような演出して、心配と嫉妬を欲しくてわざとそんなこと言ってるのですか!」
もちろん。
まあ、俺と違ってゆんゆんは天然だと思うが。
そんなことより嫉妬に駆られためぐみんを押さえつけようとしているダクネスの名勝負が始まろうとしている。
「めぐみん! 魔法使いなら魔法使いらしく非力であってほしい! 傷つけないよう手加減してるとはいえ、どうして私とタメを張れるのだ!?」
「心配だからですよ! 筋力が足りないカズマは試練をしてる最中倒れて大変なことになるんじゃないかと……」
「爆裂魔法ぶっ放して倒れる馬鹿に言われても……というかゆんゆんに取られるんじゃないかって嫉妬じゃなくて?」
「それも心配しますとも! でもそれ以上に純潔どころか命まで取られるんじゃないかと心配ですよ! 頼りない二人だけで、しかも片方は最弱職……あの森を耐え抜くなんて! しかも爆殺魔人もぐにんにんまで出たら生存確率はほとんどゼロです!」
「なんだそのもぐにんって……馬鹿にしてんのか」
「ち、ちがわい! もぐにんにんは危険なんですよ! 黒髪黒目の、カズマみたいな冒険者を手当たり次第爆殺していくのです!」
「へー」
「何ですかその反応は! いいですか! カズマはアークウィザードの私より身体能力のステータスが低くて――」
名前も性能もめぐみんの亜種みたいなやつのことは置いておいて。
確かにめぐみんの言うとおり、普通の冒険者なら耐えられないかもしれない。
冒険者たる俺は防御力もなければ力もない。
だが、何か忘れちゃいないか?
俺は心配しているめぐみんの唇にそっと指を押し当て。
「俺のこと弱い弱いって言ってるけどな、普段は裏方に徹してるだけで弱いわけじゃあないんだぜ? ……
いつもの見慣れた空間。
目の前には青い髪の女神様。
用事があると言ってた銀髪の女神様はいない。
そんな状況で俺はどうしているのかと言うと――
「カズマさんカズマさん」
「はい、カズマです」
「余裕綽々みたいな雰囲気醸し出してたのに、目を離した隙にいつのまにかやられちゃったカズマさん。ご機嫌いかがかしら? うるわしゅうございますか?」
「ご機嫌麗しゅうございません。足がジンジンしてて」
「そんなご機嫌斜めなカズマさんに質問です。どうしてあなたは私に正座させられているでしょうか」
というわけで、どういうわけか俺はアクアに圧をかけられ膝を折っている状況……
いや、本当にどういうことだ!?
そもそも俺のやるべきこと……つまりはお前の代わりはこなしてきただろ!
なのにどうしてまたこういうことになってんだ!?
そんな心の声を見透かしたようになぜか圧を放つアクアは。
「あらあら、どうしたのかしらカズマさん? そんなだんまりしてちゃあ分からないわよ?」
「俺はお前の言動がわからないよ? 今回俺に落ち度なかっただろ……」
「本当に? 本当にそう思ってるんだったら私、あなたに天罰は与えなきゃならないの。……私たちが大事に思っていた仲間を忘れるだなんて、あってはならないことなのよ」
わずかに怒りを孕んだその声。
……そんな、俺が忘れてる仲間なんていたっけか?
確かにもう1、2年くらいこの世界で活動してるから記憶が怪しいところはあるが、さすがに大事な仲間だったら忘れる訳ないだろ。
ましてや俺より知力のステータスが低いアクアが覚えてて俺が覚えてないだなんて……
明らかな異常事態。
俺は頭をひねって……一つの説を思いつく。
俺がこの平行世界でハチャメチャしたせいで世界の歴史が変わったんじゃないか、と。
「あ、アクア! どうしよう! 俺、異世界転生系の鈍感系主人公になるつもりはないが、もしかして本当になんかやっちゃいました!?」
「『セイクリッド・ハイネスヒール』」
「……今どうして回復魔法を?」
「自覚のない主人公になりたい気持ちもわかるけど、私が真剣な話ししてるのにそんなボケた話をするからいよいよ頭がパーになっちゃったんじゃないかって思って」
「ボケてないわ! だって俺思い出せないぞ!? お前が言ってるその大事な仲間のこと覚えてないんだが!? もうこれは世界が俺に干渉してきて元の記憶とこの世界の記憶をすり替えようとしてるんじゃないかって……」
「……ごめんなさいカズマ。つらかったのね、あなたが頑張っているのは見ていたつもりだけど、こんな、自分の記憶を改ざんしてしまうほど精神的に追い詰められていたなんて……」
そう言ってアクアは自分の膝に俺の頭を乗せ、優しく赤子をあやすように優しく頭を撫でる。
…………いや、別に俺精神的に追い詰められてるわけじゃないんだが?
いつだったろう、俺にはモテ期があったはずだ。
あの女の子にモテモテで最高だと見せかけて、最低で最悪なあの日――
オークに追いかけられ、グロウキメラに取り込まれ、ゼスタのおっさんの視線にさらされ
――俺が精神的に最も追い詰められたのはあの日だと今でも思う。
あの時、今と同じようにアクアは俺のことをあやしてくれてたなぁ。
「回復魔法は……心までは癒せないの…………せめて私を頼りにしてちょうだい? しばらくここで休んで、それからだって遅くはないの。大丈夫、大丈夫よ……」
「……なあ、もう離してくれても大丈夫なんだが?」
「無理をしなくていいの。ニートにしてはカズマは頑張ったわ、ええ、このアクシズ教の女神が太鼓判を押してあげるくらいね。だから今は甘えてもいいの。楽な方へ流されなさい。水のように流されなさい。自分を抑えず、本能のおもむくままに…………」
「アクア……」
「…………ちなみにだけど、そろそろ私の足がしびれてピリピリしてきたの。延長料金の代わりにアクシズ教に入信してくれればちょっとひと休憩挟んだ後もう1回やってあげなくもないわよ?」
うん、別に休憩はいいんだよ休憩は。
でも後の追加料金とか入信とか…………さっきまでわりかし母性を感じてたのに台無しだわ。
俺はジト目で改めてアクアの顔を見つめる。
足がしびれてるせいで集中できていないのか、俺の表情の意味をいまいち理解しきれてないアクアはニコニコと笑みを絶やさないまま首を傾げる。
「あ、の? カズマさんカズマさん」
「カズマさんです」
「私、ちょっともう足の感覚がなくなってきたんですけど、そろそろ休憩を……」
「……さっきまでお前、リセットされた理由もわからない俺に圧かけて正座させてたろ。そのせいで俺の足のしびれもまだ取れてないんだ」
「えっ」
「今動かれたら足が刺激されて悶絶することになる。俺もお前も。だからお前が俺のことを退けようと動いたら……その瞬間に足に北斗百烈拳を叩き込むしかなくなる」
「…………ほ、本気かしら」
「マジだぞ。俺を揺さぶろうとした瞬間に俺と同じ目に遭わせてやる」
「!?!?」
「こんなにも残酷無慈悲な人間見たことがないわ!」みたいな驚愕な表情をしているところ悪いが、そもそもこうなったのは一体誰のせいだと思っているのか。
「お前が俺のこと正座させてなきゃこんなことにはならなかったんだぞ。と言うか、マジでなんで俺のこと正座させたんだよ」
「ううっ……だってだってぇ……あんなにも私が可愛がってたあの子を忘れるだなんてぇ!」
「あの子って?」
「デッドスクリーム・ブラッティマリーよ! 安楽少女の! 私が愛情を込めて育てたあの子をどうしてカズマはスッパリさっぱり忘れてるのかしら!」
「ああ、思い出した! あの森に捨てようとした!」
「人聞きの悪いことは言わないで!」
「じゃあ、森に埋めようとした!」
「間違ってはないのよ、ええ。でも人聞きがもっと悪くなってる気がするの。せめて可愛い子に旅をさせたって言ってちょうだいな」
結局のところあいつはめぐみんの家の庭でこめっこの非常食として育てられることになったはずだ……
ってちょっと待ってよ、もしかして俺が正座させられた理由って……
「どうして私があんなに大事に育てたのに! どうしてあなたはそんなに冷酷なのかしら! どうして一緒に育てたのに我が子を忘れるのかしら!」
「うぉいちょっと待って!? その言い方だとお前が母親で俺が父親みたいな感じになるんだが!? 俺、さすがにお前を人生の伴侶に選んだ記憶なんて一つのかけらもないんだが!?」
「馬鹿言わないで! 私がお母さんなのはわかるけどどうしてカズマがお父さんなの! どちらかというとお父さんはめぐみんでしょ! カズマは屋敷の全員が面倒見れないときの非常要員で、どちらかって言うとそう、カズマはベビーシッターよ!」
「お前が我が子をって言ったんだろ」
きれいさっぱり忘れてた。
そう言えばこいつはペット二匹飼ってたわ。
安楽少女にゼル帝……
植物と鳥類……どちらも記憶力のきの字もなさそうだが、そう、鳶が鷹を生むがごとく、是非ともこんな親を反面教師にしてすくすくと健やかに成長して欲しい。
しみしみとそんなことを思う……間もなく、アクアの癇癪のせいで俺の頭は揺さぶられ、その刺激が足へと伝わり……
「おい! 確かに俺が忘れてたのは悪かったけど揺らすなよ! 足がジンジンする!」
「私だってね、カズマと同じよ! なんならカズマよりものすごくジンジンしてる自信があるわ!」
「じゃあやめろよ! やめないとお前の足をどうするか分かってんだろうな!」
「でもこの怒りを、どうしようもない怒りはどうすればいいのよ! 今が絶好のチャンスなの! これ以上待っちゃったらカズマの足のしびれは消えちゃうし、私ももう限界だし! もう死なば諸共よ!」
「み、道連れを決行する気か!? よ、よしわかった! お前の怒りはよくわかった! だから一回その手をどけ、どけろよコラァっ!」
「私たち、仲間でしょ? 仲間なら苦楽を分かち合うものだあああああああっ! たしゅけて! 足が! 足がぬぅぉおおあああああっ!」
狙った獲物は絶対確実に逃さない俺の百烈拳をお見舞いした。
俺から逃げようと必死に地面を這うも、そんなノロい動きでこの攻撃から逃れられるわけもなく。
「お前はもう死んでいる」
「ヒィ…………ヒゥッ…………ッッ!」
叫びすぎてもう声も出せまい。
そんな屍を乗り越えて俺は生きてゆく。
お前のことはたぶん忘れない。
そんなこんなで静かになった天界より、今回の失敗の原因を調査して……
原因がわかった、もぐにんだ。
あのもぐにんが第3の試練をしてる最中のこっちの俺を爆殺したんだ……ゆんゆん諸共。
うん、いろいろ突っ込みたいところはあるが、まず一番突っ込まなきゃいけないところ……
「どうしてゆんゆんと一緒に第3の試練受けてんだよ俺!?」
思わず叫んでしまうほど俺にしては俺らしくない行動だ。
もし俺が爆殺魔人もぐにんにんなんて言う意味わかんないモンスターが俺を襲ってくるなんて聞いたら絶対関わり合わないと心に誓うだろう。
というか、俺が実際に体験したときはそうだった。
……酒に飲まれてしまってテンションが高くなり、めぐみんと一緒に森の中へ突き進んだなんてバカなことをしたのは状態異常のせいだ。
あくまで正常なときの話で。
確かにあいつらに関わった時……第2の試練の前後、何か違和感があったんだ。
何と言うか、話がすれ違ってるような。
でもあの時の俺はアクアがいなかったせいで変わってしまいそうな部分に介入して満足してたら……
「どうしてこんなことに……。いや、分かってる。分かってはいるんだ。認めたくはない。認めたくはないが……お前の言い分が正しかったなんて、ぜっっっっったい認めたくはないが……ッ!」
どうして俺が試練に参加してしまったか。
巻き戻していると、安楽少女に付随して蘇ってきた記憶を中心に、今回のゆんゆんたちの行動を見てみると、どうもゆんゆんたちは森の中に行かなかったらしい。
森に植えに行かないってことはめぐみんがもぐにんを見つけないってことで、もぐにんを確認してないってことは俺は試練に行くし、もぐにんの名前に突っ込んでる間に爆殺されてしまうこと必至だ。
さらに遡ってみてみるとそもそも安楽少女の種を買っていなかった……そう言えばあの種はアクアが買い付けてきたものだ。
つまり、安楽少女の苗を紅魔の里の森に埋めに行こうしなかったせいでもぐにんにんの存在を知らず試練を受けてしまったということだろう。
「でもなぁ……ゆんゆん諸共って……もぐにんは紅魔族を襲わないはずだろ? 少なくともゆんゆんが近くにいたあの状況では爆殺されないはずなのに……いくらセレナの傀儡の力が作用してたとしてもありゃおかしいだろ!」
「……ゆんゆんは目が赤いところ以外は普通だから日本から転生してきたチート持ちと間違われちゃったのね」
そんなわけ!
……あるんだろうなぁ。
爆殺魔人もぐにんにんを作ったのはきっとデストロイヤーを作った転生者と同じだ。
紅魔族を識別する基準が「黒髪、赤目、中二病」の三点セットで、中二病に当てはまらないゆんゆんは紅魔族じゃない判定されたとか普通にあり得そうだ。
だって頭がおかしい紅魔族を作ったやつだもん、頭がおかしいに決まってる。
デストロイヤーだって適当に作ってるし、きっとこの辺の基準も適当だろ、クソッタレ!
思わず机をバンと叩くと、それを見たアクアがにんまりと人を小馬鹿にしたような笑みを向けて。
「ぷーくすくす! これで私が正しくて、カズマがボケボケしてたってことが証明されたわね! ねえ、今どんな気持ち? ねえ今どんな気持ち?」
「第2ラウンド行ってやろうか! バカにボケって言われ煽られて……ここまでツッコミ担当の俺のことをコケにして黙ってられるか!」
「へぇ、私の方に向かってくるのね?」
「近づかないとぶちのめせないんでな!」
第2ラウンド終了後。
俺は原因の根本を潰すべく――
「すいません、その種1つ譲ってくれませんかね?」
「お、おう…………どうしたんだあんちゃん、めちゃくちゃボロボロじゃねえか」
アクアを騙して安楽少女の種を売りつけた詐欺商人のもとへ足を運んだのだ。
……なんで俺がボロボロになってるのか、それはさっきの戦いが苛烈なものだったからだ。
あえて勝者がどちらかとは言わない。
あれは両方健闘して、讃え合い、勝ち負けなどなかったんだ。
……勝ち負けなどなかったんだ!!
そんな俺のことをまじまじと眉を顰めて見ていた商人だったが、何かに気づいたのかはっと声を上げ。
「って、あんたは鬼畜の――」
「仮面の人です」
「えっ、でも街中で聞いた噂じゃ仮面をかぶった鬼――」
「俺は仮面の人です。多分鬼畜とかなんたらっていうのは別の人のことだと思うんだ。具体的に言うと魔王軍幹部を討伐してきたパーティーの男だったり、魔道具店でアルバイトをしている仮面のやつだったり」
「そ、そうか…………ま、まあこの種は処分しようと思ってたんだ。安くしとくぜ?」
「なあ、その袋の中の種って魔物のだろ?」
「は、はて、何のことか。私はまっとうな商売をしてる商人で……」
「お天道様と同じで、俺には嘘は通用しないんだぜ? お前のことはすでに調査済みだ。……その種のことも、だ。ただで渡さないって言うんだったらダスティネスの人に言いつけんぞ?」
「……ふっ、それが正解だ。俺はこの種を未来ある冒険者の人に譲りたかったんだ。それを見極めるために試させてもらったぜ?」
詐欺師のおっさんはそう言って俺の手に袋をポンと置き、背を向け歩きながら手を振る。
まるで自分の役目は終わったと言わんばかりに。
……何かっこつけてるんだこの詐欺師。
ともかく!
あとは……こいつをアイツらに渡せば完璧だな!
バニマ「というわけで紅魔の森かどっかに植樹してやってくれ、じゃ!」
カズマ「どういう訳で!? って、ちょ、おい!」