でも、かっこいいカズマを書きたくなってしまったんです。
断言する……人間は脆い。
それは生存に特化した生物の体の構造にあらず。
あまりにも弱すぎた。
緻密な策略を練るための脳は堅牢な頭蓋に囲われている?
心臓や肝臓は分厚い筋肉に、脂肪に、肋骨に覆われている?
否。
堅牢とはほど遠い、驚異的な膂力を内包する魔物の一撃で、その生命活動の要は石を投げつけられたガラスと同じように破壊し尽くされる。
脳は生存戦略として「考える」という技能を手に入れる方向へ進化し、その重大な責任のため、大きく発達し……つまり、その弱点は大きく進化してしまった。
二足歩行というアドバンテージ――脳の発達、投擲技術、武器操作。
そして二足歩行がもたらすデメリット――腰・首・脊髄……肝心で致命的な弱体化。
この世界において、そのアドバンテージは人類の特権ではない。
敵は化け物だ。
同等の知能を有しつつもその弱体化を克服し、肉体能力は人間の追いつけない遙かにある。
そして元来モンスターというものは、夜行性の生物の方が強力だったりするらしい。
人類の特権は剥奪され、脅威が蔓延る世界にて、果たして人類は化け物に対抗することができるのだろうか――
だからこそ、一部人類は進化を選択した。
過酷な世界に適合するがごとく、驚異的なスピードで肉体を変化させ始めた。
そして、俺もその一人だ。
人間という生き物は夜に目がきく猫やフクロウのような生物でもなければ、超音波で周囲の状況がわかるコウモリみたいな……そんな夜に適応した生物ではない。
そんな中、俺は昼行性という枠組みから逸脱したのだった。
その進化を遂げた者の名を、人々はこう呼んだ……
「ニート」
「ちがわい! 確かにニートは夜行性かもしれない…………だが、ニートというだけで本当に夜に適合したといえるだろうか否!! 俺のように闇を克服しなければならない!」
「かっこいいですが一体何の話をしてるのですか!? ぶっころりーがそけっとのことをストーカーしてるだけではなく、我が妹に変な言葉を教えに日々実家に足を運んでいるという話をしてたのですが!? いきなり変な否定をしたあげく支離滅裂な……もしかしなくても酔ってますよね!?」
「酔ってない」
「酔っ払いは総じてそう言うものですよ」
突然割り込み突っ込みをかまして、適当なことを言っているめぐみんを鋭い猛禽類のような目つきで見る。
決して睨んでいるわけではない。
今の俺を生物で例えるとするならば梟。
夜の森の中を音なく羽ばたき、獲物を背後から仕留める生粋のハンター。
千里眼スキルのおかげで今の俺の鋭い目は闇の中を見通すと言っても過言ではない。
そして、野生のハンターというものは強いやつとの戦闘を心待ちにし旅に出るというものだ。
「なあ、めぐみん。これからちょっくら俺たちより強い奴に会いに行かないか?」
「……カズマはもしかして戦闘民族である紅魔の血を引いているのかもしれませんね」
「それでどうなんだ? めぐみんは行くのか?」
「……いいでしょう。今日は日課をしておらず、モヤモヤしていたところです、ともに参りましょう!」
というわけで、強いモンスターが生息する紅魔の里の周辺の森の中。
俺たちは、熊さんに、出会あった。
「花咲くも~り~の~み~ち~~、クマさんにで~あ~あ~った~♪」
「呑気ですか! 酒に呑まれて何大声で……! ただでさえ追いかけられてるのにさらに魔物を引き寄せるようなまねはよしてください!!」
「まあまあまあまあ、俺の歌に酔いしれたヤツらがもう2……4体か、来てるが大丈夫! 俺たちのラブラブっぷりをしっかりクマ公に見せつけてやろうぜ!」
「やっぱり飲んでますね! 一体どれだけ飲んだんですか! いつものカズマなら一撃熊が出た時点でビビって里の方に引き返すでしょうし、なんなら見せつけようだなんて言わないはずです! 吐いてください! 私の見えないところで一体どれだけお酒を飲んだのか、その口から吐いて見せてみるがいいです!」
「おっと、もしやめぐみんさん、それは照れ隠しってやつか? もしかしなくても俺と夜のデートドキドキしてる?」
「ドキドキしますよ! ええ、かつてないぐらいドキドキしてます! お願いですから黙っててください!」
俺にゲロってほしいのか、それとも黙っててほしいのかはっきりしてほしい。
ただわかることといえば、今のめぐみんの目は暗闇に映えるほど赤く赫いていた。
熱を帯びたその瞳を見るに、それほどドキドキしているのだろう。
「夜のデートはここからだぜ? 今夜は寝かせないぜ?」
「寝ようにも寝れませんよこんな状況! というかもういいですよね! 撃っちゃってもいいですよね撃っちゃいますよ!」
「おいおい、一体何を言ってるんだ? こいつにお前はもったいない。俺の初級魔法で十分だぜ。……『クリエイト・アース』アンド『ウインドブレス』!!」
火力をコントロールして初級魔法と同じにすれば目潰しだが……今回はちょっぴり魔力を上乗せしている。
それだけで俺の魔法は上級魔法へ早変わりする。
砂塵というより石の飛礫、風は暴風や烈風を超え颶風へ。
俺たちを襲うんだったら、逆に襲われる覚悟もするべきだったな。
俺の魔力量を見て侮ったのか、不用心に突っ込んできた1頭が魔法に当たると頭が打ち砕かれ風穴があく。
後ろに続く残る4頭はぎょっと目を見開いたようだったがもう遅い。
魔法はすでに放たれている。
礫が飛来する速さはそのこわばった体では捌けまい。
木々の近くにいた1頭を除く一撃熊は体に鋭利な形状をした塊がつき刺さり、さらに鈍い弾は肉にめり込んで細胞を破壊する。
そして残る1頭も……
「隠れたって無駄なんだぞ? 俺の弾丸の軌道は、風のエネルギーを受け取って…………彎曲する!!」
「ガ……ッ」
弾丸の軌道を変化させる風が熊のこめかみへと導く。
質量と速さが掛け合わさり、その威力はさながら銃弾か。
たった一発だがそれで十分だ。
着弾した音とともに幹をズルズルとずり落ちるようにして陰から倒れた最後の1頭。
「ほらな。だからお前のそいつはまだ取っておけよ」
「本当に今日のカズマは一体どうしてしまったのですか!? でもちょっとかっこいいのが悔しいです!」
「一応言っておくが、お前らとパーティーとして安定して戦うために裏方してることが多いだけなんだからな? 能ある鷹は爪を隠す……つまりはそういうことだ」
「か、かっこいい!」
楽しそうでなによりだ!
お酒が回ってきたせいか、俺もなんだか楽しくなってきた!
わずかに息を整えながら、前方に視線を向け……
「ふっ、俺の敵感知スキルが騒がしいな……新たな刺客、か」
「あっ、あの闇に輝く青い瞳! 孤高の狼にして森の覇者、フェンリルですよ!」
「おいでなすったなぁ。さあ、お前は俺のことを楽しませてくれるのかな?」
「ば、馬鹿なこといってないで逃げますよ!」
俺たちの前に現れた巨大な狼。
白く輝く息を吐きながらこちらへとはようによる銀色の毛皮は、俺たちのことを警戒する様子もない。
普段なら小遣い稼ぎに狩ってやるところだが……さっきの群れて弱いと思ったやつをいじめるような畜生とは違うみたいだ。
「気が変わった、お前のことは見逃してやるよ」
「ベテラン冒険者でも全滅しかねない大物ですよ! さっきの魔法を! 油断している隙にさっきの魔法であのフェンリルを! もしその気がないなら私が……!」
「グルルルル……ッ」
めぐみんの魔力に当てられたせいで格下と思っていた相手が自分の脅威だと気づいたのだろう。
フェンリルは不機嫌なように鼻を鳴らし、強い冷気を放ちながらこちらへ歩み寄ってきた。
地面の草木に霜が生え、パキリパキリと凍りつく様子を見ながら俺は。
「なるほどな、お前は氷を操るのか。奇遇だな、俺も水や氷を操れるんだ。さっきのクマ野郎は礼儀も何もなっちゃないやつだったから手加減しなかったが……どっちが上か比べてみるか?」
「カズマ! フェンリルは氷に耐性を持っているのです! 弱点属性の炎を使ってください! 調子に乗っているといくら今のイケイケなカズマでもやられちゃいますよ! やっぱり私が爆裂魔法を……」
「大丈夫だ、問題ない。ここはまだお前の出番じゃない。さあ、ワン公、お前が森の覇者と呼ばれていようと関係ない。手加減してやるから本気でかかってきな!」
俺の挑発的な発言に怒りを覚えたのか、理性なき獣のように俺の方に飛びかかってきた。
なるほど、先ほどの戦いを見て俺に準備させちゃダメなことは分かっているようだ。
冷静さを欠いているようでなかなかどうして頭が回る。
――だが、俺の方が上手だったみたいだな。
次の瞬間、俺は素早く後方に跳びつつ片手で風の魔法を発動させる。
予想外の身体能力――まるで身体強化の補助魔法でも使ったかのような跳躍力にわずかにフェンリルの行動が遅れる。
一瞬の停滞の後、空中に体を放り出された俺を見て、それを好機と見たのだろう。
フェンリルは足で地を蹴り、剥き出しにした牙で俺を捕らえようとする。
空中へ投げ出され、鳥類のような存在だったらともかく翼のない人間は、着地するその瞬間まで死に体だ。
だがしかし、それがフェンリルにとっては致命的だ。
誘い込まれたとも知らず、直線的にかかってくるのだから。
己の力を過信した獣を見て、俺は思わず顔をにやりと歪め……
「『クリエイト・ウォーター』『バインド』、そして『フリーズ』!!」
「グルワッッ!?」
予備動作も準備時間もいらない、俺が女神様から授かった能力。
俺と同じく空中へ飛び出したフェンリルは方向転換をすることもできず、俺の術中に嵌まり、放った巨大な水の塊へ自ら突っ込んでいく。
そしてその水を縄のように見立て、バインドで相手の体に纏わり付かせる。
仕上げの氷結魔法をかけてしまえば……分厚い氷が体に纏わり付き、身動きを封じる。
これだけ分厚い氷を破壊するのに勢いをつけずに破壊することは難しいはずだ。
一撃熊のように素早さを犠牲に筋力をつけたらわからないが、自分の武器である速さを出すために筋肉を最低限まで削ぎ落としたお前に、この氷の結界を破ることはできまい。
「お前の敗因は簡単だ。……お前は俺を侮ってくれた。俺がここから反撃するとは思わなかったろ?」
「ガルルルル……ッ!」
「そして……利口だったんだ、ちょっとばかしな。頭が回るってことは、俺の行動を予測して、好機を窺ってくれてたんだろ? 闇雲じゃない無駄のないスマートな戦いだ。だが、だからこそ、好機を見逃せるわけなかったんだ」
氷の重さだけでなく、地面に根付いた氷樹の根がフェンリルの動きをさらに固定する。
それでもこの呪縛から逃げだそうと、逆転を狙っている闘志の炎を宿したその瞳。
その諦めない姿勢に心から敬意を表するよ、大したやつだ……。
「だが、もう決着がついた。……そのままお前が好きな氷の中で凍てつき、永久に眠るがいい」
「ぁ……あぁ……あのフェンリルをまさかこうも容易く拘束してしまうなんて……! どういうことですか! 今日のカズマはカズマらしからぬかっこよさです! おかしいですよ! もしかして私がおかしいのですか!? 怖くなってきたんでちょっと帰りません!?」
「なーに言ってんだ。まだお前の日課が終わってないだろ? ……向こうに強敵の気配を感じる。そいつを仕留めてから帰ろうぜ」
「いつもこうならば毎日ワクワクする冒険ができたで――」
何かを言いかけためぐみんの口に手を当てる。
潜伏スキルを発動させているのに俺たちの気配に感づいたのか、その気配はこちらの方に迫ってくる。
そして現れたのは……
「なるほど、お前が噂の爆殺魔人、か……」
《タイプ・チートハーレム型リア充日本人とカクニン。改造被験体紅魔族が離れ次第爆殺処理をジッコウします》
そう機械音声を発したのは2足歩行の忍者風のロボットゴーレム。
隠密に特化してそうで、機敏そうで……
赤く輝くモノアイが俺のことを解析するように不気味に照らし出す。
「……なあ、めぐみん」
「はい、めぐみんです」
「さっきあいつ、紅魔族が離れ次第爆発処理うんちゃらって言ってたよな? ……つまり俺のことを確実に殺しに来てるってわけだな?」
「そうですね。なので私のそばから離れちゃいけませんよ? 私の爆裂魔法の詠唱はもうじき終わります。そうしたら爆殺魔人もぐにんにんを、一時は紅魔族の守護者と呼ばれたあのゴーレムを爆殺し、爆殺魔人の称号は我がものとなるのです」
先ほどフェンリルと戦ったせいか、夜も深くなりなんとなく体が冷えてきた。
そしてそれはつまり頭も冷めるということで――
アルコールが分解されたのか俺の頭に1つ冷静な考えが思い浮かぶ。
(どうしよう、緊張と恐怖で吐き気と尿意が……)
お酒を飲んだら飲んだ分だけ出るのは自然の摂理だ。
それが上からも下からも出ようとしているのだ、せっかくのめぐみんの見せ場でリバース&リバースしたら、それはもう台無しだ。
冷汗と脂汗が毛穴という毛穴から吹き出す現状。
耐えろ……耐えろ……ッ!
せめて、めぐみんが全てを言い終わるまでは……!
「何と言いますか、紅魔族を守護するように作られたあなたです。あなたが私を傷つけうることはないのに……本当ならば、本来の力を出して戦うあなたと戦いたかったのですが」
お願い、お願いしますめぐみんさん、早く爆裂魔法を!
じゃないと俺の膀胱が先に爆裂しちゃいます!
もう前置きとか何でもいいんで早く出すもん出しちゃってください!
そしたら俺もちょっとそこの木陰に行って出すもん出してくるんで!
「……いえ、そうも言ってられませんね、あなたは私の仲間を傷つけようとした。『エクスプロ――」
何がとは言わない。
何がとは言わないが……汚い花火だった。
結局カズマたちはこうじゃなくっちゃ……何がとはいいませんが。
カズマ:チートをうまく活用すれば魔王討伐可能レベル。