あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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15巻 セレナ
14.謎の美人冒険者~神は見放した~


紅魔の試練が無事、前俺が通った筋書き通りに終わった。

正直言ってまさかあの安楽少女の苗を何とかしただけでこうも未来が変わるなんて思いもせず……

前にエリス様が言ってた「運命の強制力」とやらは一体どこに行ってしまったんだろうか。

 

「本当に強制力が働くって言うんだったらあんなちょっとの事、ちょちょいと何とかしてくれればいいのに……」

 

あの苗がここまでの影響力を持ってるなんて考えられない……

でも現にこうなってるって事はアクアの行動の中で予想外に重要なポイントだったのだろう。

そんなこと思いながら俺はゆんゆんのテレポートの魔法陣の中へ。

 

「……いや、何勝手に平然とした顔で紛れ込んでんだよ」

「そんなこれから冒険者ギルドに行ってファンを自称する美人冒険者と早く話をしたい一心で顔をしかめないでくれよ」

「し、しかめてねえし! ただ俺はゆんゆんの消費魔力というか負担を考えてだな……」

「おや、もしかしてこの魔法陣は4名様限定だったか? 次期族長の扱うテレポートの定員はまだまだ空きがあると思うんだが? もしやこれが俗に言う仲間はずれというやつか?」

「な、仲間はずれは駄目よ! 私、それだけは耐えられない……あぁ……ぁ」

「ちょっと仮面の人! 我がライバルの古傷を抉るのはやめてあげてください! ぼっちに『仲間はずれ』という言葉は刺さります!」

 

ぼっちなら現在進行形じゃ?

試練を受けて次期族長となり、紅魔族の人気者となったゆんゆんだが、友達は……

かなしいかな。

ぼっちちゃんの傷口に塩を塗ってしまったみたいだ。

 

「落ち着いてくれゆんゆん。俺とお前はずっともだろ? 仲間はずれもなにもないじゃないか」

「そ、そうですよ! そうですよね! 私と仮面の人はずっとも……えへ、えへへ……」

「ずっともならテレポートに同伴させてくれるくらい――」

「はい、問題ないです!」

 

勝った。

俺は帰り道のタダ切符を手に入れたのだ!

またあの魔剣の人と一緒になることはない!

ひゃっほい!

そんなことを思っているとこっちの俺が。

 

「ゆんゆん、大丈夫そうか? 俺は別にいいんだが……魔力とか無理してないよな? やっぱり本人が嫌だったら断っても……」

「何も問題ありません、この仮面の人は得体もしれないけど私のお友達だからそう睨まなくてもいいんじゃないかなって……」

「ゆんゆん、帰ったら私と話をしましょうか。具体的には得体もしれない人を友人と呼ぶのはどうかってことについて。他の良からぬ輩に誑かされてはたまったものではありませんから」

「め、めぐみんだって人のこと言えないじゃない! 仮面がかっこいいとかミステリアスで素晴らしいだとか言ってたのは誰だったかしら?」

「何事にも例外というものはあるのです。それに仮面の人とは友人ではありませんよ」

 

これがめぐゆんというやつなのだろう。

紅魔族随一のガチ百合ことねりまきにも言ってやったが、俺は魔王軍による対抗勢力の縮小化作戦――通称「少子化作戦」に最後まで争って、しっかりめぐみんも魔王軍も攻略してみせる。

そう、心の中で誓ったのだった。

 

 

 

そんなこんなでゆんゆんのテレポートの詠唱が終わり、無事にアクセルの街に転移することができた。

お礼を言う暇もなく「じゃ」と背中越しに一言よこし、忙しい様子の3人組パーティーは自宅ではなく冒険者ギルドの方へ足早に去って行くのをこっそり尾行しつつ、今から起こることを思い出していく。

 

「確か……『分かりました! サトウさんにお会いしたがっていたファンを自称する美人冒険者さんにはそう伝えておきますね!』ってギルドのお姉さんに言われてそれで向こうに行ったんだっけか。んで、その美人冒険者とやらの正体は実は魔王軍幹部が一人セレスディナ……別に今んところはまだ問題はなさそうか」

 

この前デュークに「この街は魔王軍に……」うんちゃら言われたあげく、もはや悪評しかないまである俺たちのパーティーに進んで加入しようとする変人なんてスパイかなんかじゃないかと疑ってしかるべき――

そんな俺と同じ考えをこの世界線の俺も抱くはずだ。

だからパーティーの加入は断るはずだし、アクアがいない分プリーストの枠は余っているものの信用第一の冒険者家業、しばらくの間は様子を見るはずだ。

そしてその様子を見ている間にきっとウィズやバニルがセレナの正体を明かしてくれる。

 

アクアがしたことと言えば、アクセルの街での自分の地位を脅かそうとするセレナにちょっかいかけてただけだ。

そんでそのたんびに言い負かされてただけだ。

そんなアクアはセレナのパーティー加入に否定的な原因の一つもになってるだろうが……うん、別にいてもいなくてもセレナを加入させないはずだ。

加入させたとしても完璧に信用しきってはいないだろうし、しばらく待っていればバニルたちが正体をばらしてくれるだろうし。

うん、何も問題ないじゃないか。

問題になるとしたらその後……

 

「やあお姉さん、大物狩りの佐藤和真だけど」

「あっ、サトウさん! 今日は一体どうなされましたか?」

 

現在、冒険者ギルドに到着。

めぐみんのカードと自分のカードを自慢げに見せつけている俺を尻目に、とある方を見てやる。

視線の先には落ち着いた大人の雰囲気を醸し出す、特徴のある泣きぼくろの綺麗な女性。

ダクネスには及ばないものの肉付きの良い体。

黒い髪を肩口で切り揃え、随分と色気のある黒い瞳。

ゆったりとした白い神官服みたいなロープをまとい、腰にはメイスを下げていた。

 

「さて、どうやって無力化させようか……」

 

そう、視線の先には厄介な敵さん、魔王軍幹部セレスディナだ。

見通す悪魔風に言えば「ふははは! 貧乏店主がすべてを暴露し、その苦労の甲斐なく正体を明かされ、頭脳担当を自称する汝は取引を持ちかけるも、最終的になんやかんやあって裏目に出て自滅するヤクザプリーストよ、さっさと我が輩のことを楽しませてくれ」と言ったところか。

だが、さっき思ったように問題がいくつかある。

 

特に目先の話で言えば取引の件。

セレナには魔王や部下に俺には手出ししないように手配させる一方、代わりに俺はセレナの正体をばらさないこと、手出ししないこと、ウィズたちにチクらないっていう交換条件での取引だ。

魔王に目をつけられなくなって平和な生活を送れるなんてどれだけ魅力的な提案だったことか。

 

「またやっちゃいましたよお姉さん。やれやれ……俺たちがこのペースで狩り続けたら、世の賞金首はあっという間に全滅しちゃいますね。これじゃあ同業者の商売上がったりだ」

「あ、あはははは……。爆殺魔人もぐにんにんを討伐されましたか。おめでとうございます。すぐに賞金を用意しますね」

「ふっ、つれないお姉さんだ。俺たちの冒険譚は聞かなくてもいいのかな?」

「ま、まあ、これからさらに素晴らしい賞金首を討伐してくれることを期待してますのでそのときまでは……」

「あっはっは、そうかそうか……じゃあ、次は魔王討伐にでも? ……なんてな!」

 

口だけかっこつけて何か言ってらぁ、嘘っぱちめ。

お姉さんも痛々しい俺のことを止めてやってくださいよ、「こう言っておけば冒険者として働いてくれるでしょう」とか企んでる顔してないでさ!

そんな中、セレスディナが俺たちの会話を聞きつけて立ち上がり近づく。

 

「あの……。あなたが、サトウカズマ様ですか……?」

「あ、ああ、俺がカズマだ……」

「お噂はかねがね……数多の強敵を打ち倒し、若くして財を成した偉大な冒険者だと、貴方様のご高名は伺っております。わたくしはプリーストのセレナと申します。……突然ですが、どうか貴方様のパーティーに入れていただくわけには参りませんでしょうか?」

 

艶やかな瞳で流し目を送り。

取り繕いすぎて口調が気持ち悪いわ……正直になれよ。

俺が代わりに翻訳してやると「てめぇ、どこ中だコラッ? まさかアクセルで悪名響かせてるっていうグループはテメェらか? あたしはセレナっつーんだが……カチコミ来てやったぜ、感謝しなオラァッ!」だ。

猫かぶりやがってからに……

 

「サトウカズマ様。どうか、このわたくしを貴方様の従者の一人として傍に置いていただくわけには参りませんか? わたくしは、あなた様の足を引っ張るようなこともいたしません」

 

胡散臭いこいつが街中を能力で傀儡化していったんだ。

そのせいで、アクアがどんどんアクセルの街の中でいらない子扱いされていって……

何だろうな、普段の俺らしくもない。

でもあの時はアクアのシュンとした顔が嫌に瞳にこびりついて……

 

うちの駄女神様をいじめてくれたプリースト。

こっちの俺にはそんな思いをさせる駄女神様はいない。

ったく、俺の気苦労も知らないでよ……

きっとこのまま放置しとけば俺はたった一歩決意をするきっかけが足りないせいで戦わない。

そうすればこの街の傀儡化は進み、支配され、魔王軍の拠点となってしまう。

 

だが、踏ん切りさえついたら……

セレナの能力の攻略はどうとでもなるはずだ。

だからこそ俺がすべきは、そう、魔王軍がこのアクセルを潰しにかかっていることを伝えてセレナの無力化を手伝ってもらうことだ。

 

 

セレナの瞳をのぞき込むこの世界の俺。

何か言おうとしている怪訝な表情。

やっぱり俺は俺だ。

疑うべき相手は誰か、ちゃんとわかってるじゃないか。

そんなお前は次に「あんた、魔王軍の手下かなんかだろ」……と言う!

 

「あんた、プリーストかなんかかだろ? アクセルじゃ回復職は希少なんだ……というかうちのパーティーが鬼畜だの爆裂だのドMだの言われてるせいで募集かけても寄ってこないのもあるんだが」

「今何かいいましたか?」

「何も。……今までは俺が一応回復担当してたが本職がやってくれるっていうんだったら願ったり叶ったりだ! パーティーに入りたいんだよなよろしく頼むよ!」

 

…………はっ!?

 

「ふふふ、我がパーティーも豪華になりましたね!」

「ああ、これで私ももっと前に突っ込んで気持ちい……じゃなくて皆を守れるな! これからよろしく頼む」

「はい、みなさまよろしくお願いします」

 

どうやら、運命の女神様は俺を見放したらしい。

ああ、女神様…………俺のことをどうか、どうか見守っていてくださいよ……

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