「セレナ! 今日はどこに冒険に行きましょうか! 爆裂魔法が私たちを待っている!」
「ええっと、なんだ、その……今日は上空に向かって撃たなくてもいいのかよ?」
「私の爆裂魔法が待ちきれないようですね? しかし爆裂魔法を心から愛するものとしては毎日それだけではよろしくないと思うのですよ。特に今日は固くて大きくて太くて……爆裂しがいのあるものに向かって撃ちたい気分です!」
熱烈な様子でめぐみんが爆裂魔法についての愛を語り出す。
そんな様子に苦笑いを浮かべているセレナの顔色はどこか白い。
というのもセレナは最近このアクセルで冒険者のためにと働き詰めで……きっと疲れているのだろう。
初めて出会ったときよりだい砕けた口調になったセレナだが、やっぱりどこか俺たちに遠慮がちなようだ。
俺は空気を読めないめぐみんに対して一喝してやることにした。
「おいめぐみん、誰もお前の魔法は待ってないだろ。見てみろセレナを、めちゃくちゃ困ってるぞ」
「なにおう! 私の爆裂魔法の需要がないと言いますか!」
「そうだぞ、何てことを言うんだカズマ! 私は待っているぞ!」
「おおっと、肉欲を持て余した変態ララティーナお嬢様は黙ってろ?」
「……」
ジィーっと俺の方を蔑んだ目で見ているララティーナお嬢様。
一体何だと言うんだ、俺は事実を述べたまで……
それなのに冷たい視線を送ってくるとは、自覚が足りないんじゃないか?
俺は、ダクネスが変態だという事実確認をとるべく、上の方にあるセレナの顔を見て。
「なあ言ってやってくれよ、めぐみんの爆裂魔法に当たりたいやつなんて変態以外の何者でもないだろってな! 何なんだその目はってな! お前以上の変態はここにないぞ!」
「いるわ!」
セレナが珍しくもなく声を荒げる。
よくよくセレナの方を見ても大きな2つの丘によって見えないのでどんな顔をしているかわからないが、先ほどの青白く疲れたような顔ではなく、どことなく赤みがある。
はっはーん、つまりダグネスが変なことを言い出したせいで恥ずかしくなっちゃったんだな?
しかし俺の代わりに突っ込んでくれるのはありがたい。
この調子でどんどん俺たちのパーティーに馴染んでいってくれると嬉しい。
何か俺に向かって言葉を発している様子のセレナだったが、俺の都合のいい耳は必要な情報以外はノイズキャンセリングする超高性能。
目の前にあるマスクドメロンが俺の頭の上で弾むたびに神様に感謝を伝えてしまう。
「ああ、なんて素晴らしい世界なんだ!」
「どこを見て何言ってるんだお前! あの、そろそろどいてくれよ……足がしびれて……ひぎゃぁああ!?」
ダクネスに足を突かれて悶絶しているセレナ。
右手には爆裂魔法を放ちに行きたいとせがむめぐみん、左手には足のしびれがリンクして悶絶している元気なダクネス、そして、真上にはとうとう体勢を崩して俺の顔に柔らかなそれが……
父さん、母さん、俺、異世界に来てハーレム主人公をやってます!
本当に本当に俺、この世界へ来てよかった!
それは遡ること数日前。
先ほど、墓地での騒動が解決し、昼間から酒に溺れる冒険者たちだったが……墓地にはまだ人影が。
「……なあお前ら、傀儡になったのか?」
「「「もちろん」」」
俺が質問すると元気な様子でその三人は返事をする。
元から目が赤い紅魔族に加え、平凡な冒険者とクルセイダーも目を赤くして。
それ以外はほとんど何も変わらない様子で――
「……なんだろう、これが結果オーライってやつなのか?」
「何の話だよバニルの使い魔、あたしの成功を喜んでくれるのかい?」
「いや俺、バニルの使い魔じゃないし……まあ喜んでもいいのかもしれないけど……うーん」
「うそこけ、人の幸福を素直に喜べないその腐りきった性根……仮面はまんま仮面の悪魔だ」
あいつほど性根は腐ってないと思うんだが……
でもまさか、アクアがいなくても――駄女神を傷つけた代償を払わせる、絶対復讐してやるっていう念いがなくても同じ風になるだなんて、俺の決意が関係なくて俺の欲望がそうしてたって風に感じちゃってなんか複雑な気分。
そんなこと思いながらも俺は、目が赤く変化しているパーティーメンバー、それから仁王立ちをして勝ち誇っているセレナを見て何とも言えない気持ちになる。
いや、バニルの使い魔だとか言われたのもあるがそうじゃなくて、俺の想定してた動きと結構違うと言うか……
そんな俺の困ったような顔を見て、機嫌を良くしたのか、セレナは人気のなくなった墓地で高笑いをする。
「魔王にこの変な名前の冒険者を警戒するべきだとか、仲間に加入できないかだとか……正直言ってだるかったんだがこうなってしまえばあたしのもん! しかもレジーナ様に信仰を懸命に捧げていたおかげか、王家の懐刀といわれている貴族と紅魔族まで手に入れられた! こいつらを手土産に帰れば……人類は墜ちたも同然だ!」
「へー、すごいねー」
「だろ? 笑いが止まらないとはこのことだ!」
俺の心にもない賞賛も気にとめず、上機嫌なセレナさんはこいつらに何を命令しようか考えている真っ最中。
正直言って、もともと俺が立てた作戦はこうじゃなかった。
元は、さっきのアンデッドの件――ウィズと一緒に墓地に行って、本物のアンデッドを増やして――セレナが全てのアンデッドを浄化しきれないのを見せて、俺が使う本物の魔法と比較させて、セレナに対する疑心を深めようとしてたんだ。
それで最終的には俺がたどった筋道通りに動いてほしかったんだが……まさか、その筋道に戻すための行動を全てショートカットしてしまうとは。
「ふふ、ふわ、ふはははははは! 俺も笑いが止まらない! まさかまさか、俺がしようとしていた妨害を全てかわして…いやぁ、いっそ清々しいほどに天晴れ! うん、天晴れだ!」
「そ、そうか? なんだかお前に褒められると複雑な気分なんだが……というかまた人の悪感情を食らおうとしてたのか!? この人でなし!」
「いやいや、さすがに俺に人の心はあるぞ? しかし本当に愉快だ! 愉快ついでに素晴らしい提案をしよう。お前が喜ぶような、な?」
「提案……?」
俺の言動に少し疑念を抱いているのか、セレナは少し後ずさり、顎に手を当てて考える様子を見せたのち、その話を聞かせるようにと顎で俺を促す。
「お前もレジーナ教徒にならないか? 見れば分かる、お前らの信仰心のなさ。無神論者だな? そしてお前らのその欲望、練り上げられている、至高の領域に近い。レジーナ教はいいぞ? 自らの胸の奥に燻るその屈辱、理不尽、不当、嘲り……今までクズマカスマロリマゲスマゴミマだのなんだのと! 言われてきたその怒りを! ……ハァ……ハァ……」
「ど、どうしたんだよお前? 別にお前自身のことじゃないんだしそんなにアツくならなくたって……」
セレナがちょいと引き気味に俺の肩を叩く。
いや、実は俺自身のことだから結構憤りというか、そういう感情はあるんだわ。
それを思い出して、思わず俺としたことが取り乱してしまった。
「悪い。だが、これは必要なことだ。人の心を動かす時はいつだって感情が乗っていないとダメなんだ! そうだろめぐみん! お前は街中の冒険者から何度だって言われてきたはずだ! 頭のおかしい爆裂魔法使いだのロリコンホイホイのめぐみんだの! ダクネスもそうだ! バツネスエロネスハイネスララティーナとか言われてきたその恥辱を! 今こそ晴らすべきなんだ! もう我慢することはないんだ、レジーナ教に入れば! 良心を捨てろ、常識を捨てろ、我慢を捨てろ、道徳を捨てろ……そうすればセクハラし放題だし爆裂魔法し放題だし欲望開放したい放題だ!」
「……ドン引きだわー。そんな勧誘見たことも聞いたこともないしアクシズ教団でもしないだろ……誰がそんなんではいるかっ――」
「「入ります!!」」
「えっ!?」
即答したのはこっちの俺とめぐみん。
意味不明な勧誘を受け入れる頭がおかしい二人組にドン引きしているセレナだが、実際にレジーナ教に入信したのを感じ取ったのか、その顔は驚愕、そしてニヤリとした笑みへと変わっていく。
「ま、まさかお前が、人のことをおちょくってばっかりのアンタがあたしにここまでしてくれるだなんて……」
「面白くなってきたしな、これくらいのサービスはさせてもらおう」
「そうか、ならありがたく受け取っておこうか。新たな私の部下として、魔王軍の配下として働いてもらおうか!」
「わ、私もはい、入……る、ぞぉ……!!」
「その、無理しなくてもいいんだぞ? 誰だって自分の信じる神様がいるんだしあいつら二人が即答するのがおかしいだけで……。まあでも傀儡にはなってるんだよな?」
「「「もちろん」」」
「そうなのか? 自我があるなんて今までなかったんだが……うーん」
仲よさそうな4人組を放置して、俺はまた街の中に姿を溶け込ませた。
……数日後が楽しみだ。
ということがあったが数日前。
「――ッ!? どうなってんだこのパーティーは!?」
そんな絶叫がアクセルの街をこだまする。
普通のパーティーなら傀儡化すればあとは自分の言う通りに動かせるだろうし、まさか自分の行動が自滅へと誘うとは思わなんだろう。
俺たちを傀儡化すること、それすなわち――
と言ってみたはいいものの、正直言ってレジーナ教に入信した俺とめぐみんの様子はいつもと変わりない。
こっちの俺はセレナの体をいじくり回す……いつも通り己の欲望に忠実なだけだ。
強いていえば、ほとんど初対面にもかかわらずセレナに対して気の置けない仲間と接するような感覚になっているということくらいか。
基本的に家の外には出ないため、悪評が出回っていないのもプラスポイントだろう。
そしてめぐみんは……まあ爆裂爆裂だ。
頭が爆裂魔法を放つことだけに染められており、こっちも己の欲望に忠実なだけ。
ただし、リミッターが解除されたため、魔力が満タンになり次第ところ構わず上空に爆裂魔法を放つ。
一日一回という制限だったが、実際にはめぐみんの魔力は一日を待たずして全快するため、多い日は一日二回爆裂となり……昼夜関わらず放たれる騒音のおかげで街中の住人から苦情が……
苦情をどうにかするためにセレナは冒険者ギルドに通い、回復魔法と支援魔法を無償提供することで帳消しにしようと日々奔走してるって訳だ。
そして、もちろん入信こそしなかったダクネスだが……
傀儡化が解けかけそうになるたびにセレナのことを殴りつけ快感を得るように俺が吹き込んでおいた。
おかげで不器用さ故の空回り、基本的に言いつけを守れないし達成もできないが、当の本人は完璧だと思っているようで……
例えば掃除をした後、余計散らかっているにも関わらずセレナのことをいじめている。
怒られて喜び、雑用を命じられて喜び……そんなドMの鑑なダクネスさんは今日も元気です。
「セレナセレナ! 今日は黒パンはいてるんっすね! プリーストなのに意外だ! やっぱその口調と関係あったりするのか? スティってもいいっすか?」
「口調とパンツの色は関係ないだろ! スティールは駄目だって何回もいわせんな! ぶっ殺すぞ!」
「あー、傷ついた! 俺の心傷ついてもう傀儡化解けそう! これは乳をおもみして感謝しなければ!」
「やめろぉぉおお!! 私の胸をもみ拉くな! ていうかテメェの彼女らにものすんごい目で見られてっからマジでやめろ! パーティーメンバーとしてどうなんだそれは!」
なんだろう。
客観的に見るとかなりやばいことしてたんだな俺。
いくらアクアを泣かせたやつに復讐するためだとはいえ、セクハラがすごい。
家の窓からのぞき見て、そんなことを思っていると今度はめぐみんが。
「もう覗かれていること自体には抵抗を示さなくなりましたよ……。ちなみに私も黒です。セレナセレナ! お揃いついでにツレ爆、一緒に行きません? 結構ギリギリなので早めだと助かります」
「何のついでだ! そんなの一人で済ましてこい! トイレと同じだろうが!」
「あ、もう漏れ『エクスプロージョン』――ッ!!」
「またお漏らししやがった! 誰が尻拭いしてると思って!」
「感謝してますよ」
「ああああああああああああああ゛ッ!!」
ああ、かわいそうに。
一応爆裂魔法以外は役に立っているめぐみんだが、爆裂魔法に対する我が強すぎるあまり、自分で爆裂魔法を撃ったあげく勝手に感謝するという傀儡化絶対解けないサイクルを形成しているぞ。
精神が壊れてそうなセレナの悲鳴を聞いていると、今度はダクネスがもじもじと恥ずかしそうに。
「わ、私は、その、し、し……ろ……」
「別にパンツの色をいう流れは作ってないからな! 言いたくないなら言わなくていいやぁあああ!?!? ひ、ヒール! ヒール! 何やってんだあんた! どうして私の傀儡なのに平気で主人をぶつんだよ!」
「もっと、もっとだ! 私のことを罵ってくれ! ああ、頭が痛い! いい! 気持ちいい! このまま抵抗し続ければ私は傀儡ではなくなってしまうぞ! さあ、もっと罵ってくれ!」
「いいよ! 別にいいよ解けたってよ! むしろ解けてくれぁああああ!?!? ――ッ!! い、今なんで私の頭に頭突きした! それも禁止だかんな! ムーじゃない! ふてくされんな! 傀儡解けないレベルのギリギリ狙ってくんな!」
ダクネスさんは今日も元気に青あざを刻んでおります。
いや、自分で言った俺も何だが、まさか自分から傀儡化を強くするように動くだなんて思わなかった。
それに、セレナに攻撃しても攻撃されても何されてもドMの力で感謝に変えられるのが厄介すぎる……
それほどまでにこの三人を相手にするのは大変だと思った。
かわいそうにという視線を送っていると、セレナは窓の外の俺に気づいたようだ。
「助けて……っ!」
そんな声が聞こえた気がする。
俺はやれやれと首を振りながらグッドサインを出す。
その瞬間、セレナの顔がぱぁっと明るく輝いた気がする。
すこし、ほんの少しだけ罪悪感がある俺は計画では後2週間くらい様子見しようと思ってたが、仕方ないので1週間ほど短縮してやることにした。
きっとセレナは泣いて喜ぶだろうなぁ。
自分の中にある胸の奥の燻りを感じつつ、俺はその手にある傀儡化解除のポーションを握りしめ、セレナに背を向けた。
……いつになったら俺が帰ってこないってことに気づくか、楽しみだ。
原作では「操られそうになる直前『魔王の幹部に、うちの駄女神を傷つけた代償を払わせる、絶対復讐してやる』と強く願って……」ってなってカズマがセレナの傀儡になっていましたが、結局そんなんなくてもあのパーティーメンバーは己の欲望に忠実になる気がする。
そんでセレナは自分で自分の首絞めてる……そうあってほしい(願望)