あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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15.いつもの~回り道こそ王道じゃないか~

今朝方、俺たちの元へ一通の手紙が届いた。

朝早かったもんで、レジーナ教になっていた副作用か、遅寝早起きが習慣化している俺はいつものように大きな口を開けながら、手紙を開封したダクネスとそれを覗き込むようにしているめぐみんのそばに近寄ろうとして――

 

「おいカズマ! 一体これは何なのだ!」

「はいカズマ! 心当たりがないんですけど!?」

「心当たりがないだと!? そんなよくもぬけぬけと……アイリス様からの手紙にお前のことが書いてあったぞ! 一体何を書いて出したんだ!」

 

突如俺の肩を揺さぶってくるダクネスに困惑しながらも、本当に心当たりも何もないのでなだめることしかできない。

というか久しぶりにアイリスからの手紙が来たんだな。我が妹ははるか遠い王都で元気にしているだろうか……

そんな我が妹のことを心配に思う兄である俺は手紙の内容を確認すべくダクネスにスティールを放ち手紙を取り上げると――

 

 

『拝啓 落ち葉が舞い落ち、雪精たちがチラチラと顔を覗かせる季節となりました。

こうして突然お手紙を差しあげたのは他でもなく、お兄様からしていただいた今後の魔王軍の動向とその対策についてです。

お兄様たちが無力化した魔王軍幹部セレスディナを王都に連行し、ここ数週間は尋問をしていたようですが、申し訳のないことに未だ重要な情報を聞き出すことはできず、進展がありません。

というのもですが、尋問中のセレスディナは支離滅裂な様子で、特にアクセルの街での出来事などを聞き出そうとすると何かトラウマがあるのか突然泣き始めたり塞ぎ込んでしまったりと、とても調査を続けられるような状態ではなかったとのことでした。

ここだけの話ですが、確かに仮面の人が助言してくださったように、セレスディナから魔王軍、特に魔王の娘が王都に襲撃するという情報を引き出すことはできました。

しかしながら先ほども申しましたとおり、支離滅裂な様子が多々見受けられたせいでその情報が正確なものかどうかまで判断できないというのです。

私の方で王都の兵士たちへ警戒レベルを上げるように動いてはいますが、不確かな情報であるため兵士たちには詳しく情報を話すことができず、また冒険者の方々に呼びかけようにも呼びかけられず、お兄様の今回の成果を役立てることができずにもどかしい気持ちでなりません。

現在、尋問は行われておらず、セレスディナの心身の状態の改善を待っているという状況です。

 

このような状況のため、王都だけではなく、アクセルの街に対して、私やクレアの方から何かしらの情報を発信して警備を強化するということは難しいと思われます。

また、王都に進軍してくる魔王軍の勢力もわからないため、アクセルの街にも魔王軍が攻めてくるという情報が嘘であっても誠であっても、人員を王都から割くことは難しいとのことです。

できるだけ尽力してみるつもりではありますが、どうかお兄様たちの方からも信用できる冒険者方に警戒するようにお伝えください。

どうかご自愛のほどお祈り申し上げます。

私の兄であることを、あなたが誇れるような妹に――

敬具 ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス』

 

 

――うん、何も心当たりがないんだが。

お兄様がおっしゃっていたという魔王軍の今後の動向について? 知らない話だ。

そもそも俺らがセレスディナを倒したんじゃなくて仮面の人なんだが。

というかトラウマって……一体どんなえげつない手を使ったんだよ仮面の人。

アイリスからの手紙を読んで何とも言えない顔をしていると……突如、窓の外から人影が飛び込んできた。

 

「今俺がセレナをなんかしたって思ったろ! 俺言ったよな、俺は何もしてないって言ったよな!」

「ちょわーっ!? 毎度のことながら急にやってくるな! 今回は窓を突き破ってスタイリッシュに登場ですかこの野郎!」

「いや、そこは安心してくれ。ちゃんと窓の鍵は開けておいた。だから割れてはいないはずだ」

「あ、ほんとうだ、窓ガラスは割れてないみたいで良かったー、これ掃除するのめちゃくちゃ面倒くさいんだよ。どこかの誰かさんの魔法のせいでよくこの街は窓ガラスが軒並み破壊されるから慣れてるけどさ」

「おい、その誰かさんの魔法とやらについて話す時にどうして私の方を見るのか聞こうじゃないか。と言いますか、『開けておいた』と言われてどうして反応しないのですか。普通に考えてホラーですよ」

「そりゃ……なぁ? 仮面の人だし」

「いくら何でも便利すぎじゃないですかその言葉」

 

怖いわー、慣れって本っ当怖いわー……

めぐみんに言われてようやく気づく異常性。

いつも思うんだが、違和感を少なくする認識を阻害するみたいな魔道具を持ってるんじゃないかコイツ。

自分が行ってきた鬼畜の所業を冤罪だという仮面の人に白々しさを感じていると、仮面の人が「そんなことより」と言い、

 

「ちょっとその返事見せてくれ、俺がアイリス宛に情報を綴って送ってやったんだが……」

「いや、あんたの仕業か! 道理で心当たりがないと思った!」

「名義を偽ったのか! アイリス様に対してなんて無礼なことを……」

「いや、いきなり俺の肩を揺さぶってきたお前も無礼だろ。仲間としてどうして俺の話を聞こうともしなかったんですかね?」

「い、いや、それは、そのぉ……カズマならやりかねないと思ってモニョモニョ……」

「よし、ちょっと待ってろ。今から一緒に服屋に行ってめちゃくちゃフリフリした服買いにいこうか」

「そ、それはまさかデデデデートとかいうやつなのでは……!? ま、まだ心の準備が!」

「違うが? 首から『私の部屋には可愛らしいぬいぐるみがたくさんあります。普段は堅物ぶってますが可愛いものが大好きなララティーナです。偽っていてごめんなさい』って書いたやつをぶら下げて街中を練り歩かせてやる! それが嫌なら俺に対しての無礼を謝って! ほら早く謝って!」

「ごめんなさい! 私は仲間を変に信用してしまった卑しい変態です! 怒りが収まるまで私を罵ってください!」

「そこまで言えとはいってない。というかお前の趣味だろそれ」

 

というかそこまで来たらお前が大好きなプレイのやつだろ。

心なしか……いや、心なしでもないな、頬を赤く染めて息をハァハァと……

 

「お前、興奮しただろ」

「し、してにゃい! それよりもアイリス様の手紙の方が大事だろう! 仮面の人、一体どういうわけか事情を話してもらおうか!」

「あっ、逃げやがったこいつ!」

「逃げてない! さあ、何か言い訳は…………」

 

俺に指摘されて恥ずかしくなったのか、めぐみんの白い視線に刺されていたたまれなくなったのか、ダクネスは俺たちから顔を背け仮面の人に迫ってゆく。

普段なら、迫ってくる俺たちに対して仮面の人は逃げるように距離を取るが、今回はどういうわけか目が手紙に釘付けで一歩も動こうとしない。

それだけではなく、仮面越しにも関わらず何か困惑や動揺のような感情が漏れ出ているように感じた。

 

「お、おい、どうしたのだ? いつもと様子が違うようだが……何か手紙におかしな部分でも?」

「…………いや、何でもない。ちょっと俺は用事を思い出したからお茶もいただかないで悪いが帰らせてもらう」

「いや、別に客人じゃないしお前に出すお茶なんてないけど……本当に大丈夫か? 今まで見たことないんだがそんな様子……もしなんか困ってるんだったら俺たちに何か……」

 

俺がそんなことを思わず口に出すと、その仮面はゆっくり頭を上げて……

俺たちのことをどこまで知っているのか、不気味に赤く輝く瞳が仮面の奥から覗き込む。

もしかして俺、余計なこと言っちゃったか!?

 

「べ、別に何でもやるとは言ってないぞ! ただ相談くらいには乗れるかなって思っただけで……」

「相談……相談、ねぇ。…………物は試しで言ってみてもいいか?」

「お、おう。どうぞ……」

 

一体どんな無茶なことを、聞いたら後戻りできないようなことを言い出すのか。

仮面の人の不穏な様子に思わず冷や汗を流す。

心の準備も何もできず、仮面の人はこう言葉を投げかけた。

 

「エリス様はおっしゃいました。現在、この世界は危機にさらされている。このままでは魔王軍に人類が滅ぼされる可能性が濃厚となってきた、と。……突拍子もないことを言ってるのは自覚してるが……ダメ元でさらに突拍子もないこと言ってもいいか?」

 

突然そんなことを言われても何を言っているんだか頭にさっぱり入ってこない。

めぐみんもダクネスも顔を見合わせては首を傾げ……俺と同様に理解できていないような様子だ。

しかしそれでも仮面の人は止まらず、喉をゴクリと鳴らしてこう続けたのだ。

 

 

「……魔王討伐とか、興味あったりする?」

 

 

もう、何を言っているのかさっぱりだ。

この世界が危機にさらされているだとか人類が滅びるだとか、魔王討伐なんてこれっぽっちも興味ないし、理解できないし理解したくもないし。

なんでそんな理解できないことを急に話し始めているのか疑問に思っていると……

 

「明日あたり行こうと思ってるんだ」

「…………どこに?」

「魔王城に」

「…………何しに?」

「決まってるだろ」

 

 

 

 


 

 

 

 

セレスディナから情報を聞き出せなかった。

もしかしたらこうなるんじゃないかって、セレスディナを警察署へ連れてってやったあの日、あの普段とは違うセレスディナの様子を見てそんな状況を想像してしまったせいか、それは現実に。

いくら年月が経ったって俺たちが魔王討伐に行く羽目になった理由を、きっかけを忘れた時なんてない。

 

セレスディナが王都で情報を吐いて……

それがあって王都に冒険者や兵士たちが集い、魔王の娘による襲撃を耐え抜こうと。

それがあってアクセルの街の冒険者ギルドにその情報が渡され、アクセルの街に住む高レベルの冒険者たちが力を合わせて乗り切ろうと準備を開始する。

そして俺たちは家出をしたアクアを追いかけようと、まず手始めにウィズたちの力を借りてレベルリセットされた体を酷使してダンジョンへ潜ってスキルポイントとレベルを上げ、そして流れで魔王討伐を……

俺たちが魔王城で戦っている最中、王都でもアクセルでも戦いは始まっている。

実際、エリス様が今いないのも王都で暴れていたという魔王の娘を抑えるためだ。

 

つまり、つまりだ。

もしセレスディナが情報を吐いてくれないと、その情報を使って襲撃に備えないと……

 

今の俺がいた世界以上の犠牲者が出るのは確実だ。

なんなら、魔王の娘が王都を、魔王軍がアクセルを陥落させることだってありえる。

だからこそ俺はそうなる前に、そんな悲劇が引き起こされる前に……

 

 

「ねえ、鬼畜すぎて誰も一緒に魔王討伐してくれるって言ってもついてきてくれなかった人望なしのカズマさん」

「違うんです。それはどっちかっていうと危機感のなさときっかけがなかったからだと思……」

「違いません。だって今まで長年一緒に旅してきた私だけれど、流石にドン引きなんですけど。あっちの世界の私たちの気持ちもわかるわー……あ、パーティーメンバーに私はいないけれど」

「違うんですッ!!」

「何が違うのかしらねぇ、聞いてあげましょうか鬼畜仮面さん?」

 

俺は誠に遺憾なことにゴミ虫を見るような視線にさらされている。

その視線の先を辿るとアイリスからの手紙をスクショしたタブレットを見せつけるアクア。

いやさ、マジで違うんだって。

俺だってこんなことやりたくてやったわけじゃないんだ……ただ、ただもう1回だけお前らと楽しく過ごしたかっただけで……

 

「これは事故……そう、これは不幸な事故だったんだ! 元々の予定じゃあっちの世界の俺が俺と同じ風に行動するように誘導するつもりだったんだ! そうしたら…………誰だって想像できないじゃないか! お前だって想像できなかっただろ、まさかセレナが勝手に自爆するだなんて! まさかパーティーメンバーに入れるだけならいざ知らず、俺だけじゃなくめぐみんやダクネスまで傀儡化するだなんて誰が想像できたか! できたか!」

「……私だって想像できなかったわよ、まさかアンタがここまで落ちぶれるだなんて。いくら敵になったからって言ってもう少し人道的な方法でやっつけられなかったのかしら? 敵に容赦なしとは言うけれど、さすがに過剰攻撃すぎて法律で裁けない悪って感じなんですけど……だから今苦しんでるカズマさんをみると、その、因果応報? みたいな気がしてならないんですけど」

「どこでそんな因果応報なんていう難しそうな言葉覚えてきた!? 本当に勘弁してくれ!」

 

本当にわかんなかったよ、どれだけセレナが追い詰められてたかなんて、鈍感系じゃなくてもわからなかったよ……

というより、俺がウィズの魔道具店を見張ってる最中に、一体どうしてこんな悲惨な事件が起きてしまったんだ。

俺が後一歩だけ早くセレナのことに気づいてたら……

 

「……本当にどうして…………もっと早く行けたら……俺のせいで……っ!!」

「…………よしよし、あなたも、本当はつらかったのね。ごめんなさい、私もあなたの心に気づいてあげられなかったわ。そうよね、数えられないくらい不名誉な異名を持ってるカズマさんでも、さすがに人の心は持ってるわよね」

 

後悔で床に拳を打ち付ける俺の頭を、人を慈しむような、そんな柔らかな手つきで撫でられる。

ちょっといくつか聞き捨てならないことを――不名誉な異名だとか人の心を持っていないみたいなことを言ったのに関しては覚えといて、後々追求するとして、今はひとまず頭をなでられておく。

やっぱり苦楽を共有できる仲間っていうのはいいもんだ。

そんなことをしみじみと思いながら涙を拭っていると。

 

「それにしてもまさかあのセレナとかいう魔王の幹部がカズマの攻撃でメンタルブレイクしちゃうなんて」

「……一応言っておくけどな、ぐすん、俺がしたことと言えばあっちの世界の俺をレジーナ教にしたことくらいで……め、めぐみんもレジーナ教になるだなんて予想外すぎだろ!」

「まあ、それが原因でセレナはああなっちゃったんだから、実質カズマが黒幕ってことで間違いないわね」

「黒幕て……」

「ああ、別に精神的に参ってるカズマさんのことをいじめようとしてるわけじゃなくてね? ただ客観的に見てみると怪しい仮面の男が邪神を崇める宗教に勧誘してるっていう……どう見ても黒幕なんですけど」

「それは否定しない。……けどさ、そういうのは思ってても言わない方がいいと思うんだ、うん。具体的にはこれ以上何か俺のことを言おうもんなら俺の必殺技が炸裂することになる」

「ごめんなさいパンツだけは許してください」

 

何か勘違いして口を噤んでいるようだが、俺は別にアクアのパンツには興味ない。

というかお前はノーパン疑惑があることだし、どちらかというとお前のその羽衣――確か神器だった気がするしそっちの方をもらいたいななんて思っていたんだが、アクアは余計なことを言わなくなったので俺からも余計なことは言うまい。

というか黒幕とかいってたが、バニルがそもそも諸悪の元凶だと思うんだ。(責任転嫁)

だってこの仮面くれたのもバニルだし、いくら身バレ防止のためとはいえバニルに引っ張られるのはしょうがないと思うんだ。

脳裏で「ふはははは! 残念女神め! 汝が目をかけていた小僧は別の神に寝取られたぞ! いや、実際は神ではなく我が輩であるか、ふわ、ふわはははは!」なんて爆笑してる仮面の悪魔を追っ払い、そろそろ気持ちも落ち着いてきたところで今回のリセットの原因について考えようと思考を巡らす。

唸りながら今回の敗因を考えていると、その様子を見ていたアクアがビクビクとおびえた様子で。

 

「あの、女神のパンツに価値はつけられないと思うんですけど。だからどこで売ろうとか考えるそぶりしないでほしいんですけど……」

「そりゃないものに価値はつけられないわな。無形遺産ってかって話になっちゃうだろ」

「…………もしかしなくても、私ってパンツはいてないと思われてたり……? 私、ダクネスとは違ってそういう変態な趣味はないんですけど」

 

特に意味はないのだが、俺は思わずアクアから目をそらす。

洗濯物の中にアクアのらしきパンツを確認したことが一度もないこと、俺がスティールしても一度もパンツを引き当てなかったこと……

それを考えて、一度一息おいて俺は視線を戻し、フォローするように。

 

「そうだな。どちらにせよ、お前のパンツをほしがる物好きなんているわけないしな」

「えっ!?」

「そんなことより次はどういう行動すればいいかって話なんだが……」

「そんなこと!? ね、ねえカズマさん? 強がっちゃってるのよね? 私と一緒に馬小屋で寝泊まりしてるときに私の髪をスンスンしてきたカズマさんだもの、神聖な私をそういう目で見て汚さないようにって目を背けてるだけなのよね? ……ねえ、ねえったら! 何で『ふっ、若気の至りだ……』みたいな達観した表情してるのよ! そ、そもそもパンツはいてますから!」

「お、おう! 俺は信じてる、ぜ? そしてたぶんめぐみんとダクネスも……うん、たぶん。いや、きっと……」

「ねえ、どうして尻すぼみしてくのカズマさん? そういう大事なことは目と目を合わせていうべきだと思うの。ほら、麗しい私と目を合わせるのが恥ずかしいなんていうわけないわよねカズマだもの。さあ、こっち向いて! そしてちゃんと断言して! ねえ、ねえってば! 何で目を合わせてくれないのよかじゅまさぁああん!」

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